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ジュワユーズの救国王子~転生王子の胃痛奇譚~  作者: 夕霧湖畔
第三部 聖都奪還前婚約闘争
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51+1-2.間章 クラウゼンの魔法技師2

※三連休連続投稿三日目。間章後半です。

 兄アストリア王子視点、別動隊編成中の物語。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 地上に降り立った一同の前にあったのは、山肌側が蔓植物で覆われた妙に寸胴な外観の石壁家屋だった。周辺こそ平地だが森の木々に紛れより一層分かり辛い。

 煙突は横に枝分かれしており、遠目では煙が伺えぬ様に散らされている。

 まるでこの場所を誰にも悟られたくないのではと疑いたくなる印象だ。


 だが玄関から見れば間違いなく看板があり、確かにここが錬金術師の店なのだと窺い知る事が出来る。


 玄関を開ければ自然と鐘の音が響き渡り、先頭のカーターは意外と狭いながらに普通の店内である事に拍子抜けして奥へ進む。だが声は上げない。


「……ごめん下さ~い。ここは錬金術師の店で合ってるのかしら?」


 もう先頭に行かせた意味が無いとカーターを押し退けたケイトリーの前に、トタトタと駆け寄って来たのは小柄な少女で煤塗れのエプロン姿だった。


「あらお客さんですか?

 合ってますよ、ここは〔錬金術師キメイアの店〕です。」


 〔錬金術師の店〕には幾つか種類、というか傾向がある。

 この店で並んでいるのは装飾品は殆ど無く武骨な魔法の武器、防具。

 後は錬金術師の店定番の回復アイテム各種だった。


 因みに回復アイテムだけを売る錬金術師の店は、敢えて〔道具屋〕と区別される程度には多い。

 わざわざ店の名前に〔錬金術師の店〕と銘打つのは、相応の魔法の品々を揃える一流店ならではだ。所詮一つか二つ魔導具を並べた程度なら、その店の評判は即座に地に落ち距離を取る。それだけ錬金術師という名乗りには重みがあった。


 故に、年端もいかぬ少女が店長という事はあり得ない。特に武骨な商品が壁一面に並んでいるともなれば、猶更だ。

 クラウゼン城塞内に〔名工の店〕は存在していたが、〔錬金術師の店〕との取引は絶えて久しいというのが事前調査で分かっている。


「おいクララ!誰彼構わず接客するんじゃねぇ!

 先ずは〔会員証〕を確認してから案内しやがれ!」


 続いて現れたのは筋骨隆々、明らかに仕事以外は粗忽な中年男。

 決して薬品だけを扱ってる様な優男等ではない。むしろ鍛冶師の様なある程度の彫金技術を始めとする力仕事に慣れた、髭を焦がした職人の姿だった。


「ああお構いなく。ちゃんと我々は〔会員証〕を所持している。

 商品の迷彩もきちんと解けて、正しく見えているよ。」


 アストリアが懐から取り出した〔会員証〕はアレスが各国を回っていた頃に先んじて町でイベントを済ませて手に入れた非売品だ。

 ゲームでは所持者にしか店を見つけられない魔導具で、実際には一流錬金術師は商品を売る相手を選んでいる。


 何故なら彼らは多くの場合、時の権力者に戦争への協力を要求されるからだ。

 穏便に交渉を持ちかけて来るなら未だ分かるが、権力を用いる者は自分達の土地に住まわせてやっていると思っており、それこそ隷属を求める者すらいる。

 故に彼らは、秘密裏に連盟の様な互助組織を作り、自分達を守っているのだ。


「噂には聞いていたが確かに凄いね。

 魔法の防具は装備者の体に合わせて伸縮するって本当かい?」


 全ての棚には幻術がかけられており、現物とは別の段に物が置かれているように見せていた。まさしく本物の錬金術師にしか出来ない防犯対策だった。


「へぇ……。あんた『鑑定眼』持ちかい。」


 世間では知られていないが、『鑑定眼』スキルには隠された側面がある。

 誰も装備していない、非接触状態にあるアイテムの「一般常識的な情報」ならば全ての『鑑定眼』スキルで情報が確認可能だ。

 情報量は多く無いが、贋作であれば一目で判る。


 あまり知られていないのは世間的に『鑑定眼』は対人スキルだからだ。希に試す気になってもアイテムを手に持たずに観察するとは限らない。

 そもそも鑑定眼スキル自体が希少で、全貌を知る者は殆どいない。

 実体験でしか効能を知らない一例が、正に英雄アレスその人だ。

 現存するスキル全てを知っている者など、聖王家にだって居るかどうかだろう。


「さあ何の事かな。それで?

 本人が居なくても良いなら、今幾つか買って帰りたいんだけど。」


 目を細めた店長キメイアに対し、アストリアは防具から目を離さずに飄々と対応する。逆に他の面々は妙な緊張感に口を挟めないでいた。


「……多少の補正は効くが、限度はある。

 『鑑定眼』なら体格値に応じた物を買えば良いんだがな。そうじゃないならここで数値を図る必要がある。

 最近は特に不景気でね。そこに並んでいる以上の商品は用意が無いんだ。」


 そこでアストリアはああ、と誤解に気付いた。


「『鑑定眼』なら状態値が判るっていうのはデマだよ。

 魔法都市ガンダーラでは生活魔法【スペック】が開発されたのは、『鑑定眼』で観測出来ない状態値を測るためだって言う説があるらしいね。」


 生活魔法は戦闘の役に立たないといわれる魔法全般だ。例えば【ライト】の魔法はしばらく辺りを照らし物にかければ持ち運べるかなり便利な魔術だ。

 が、目眩ましに使おうとすると光量が全然足らな過ぎる。


 先程の【スペック】も自分にしか使えない上「クラス、LV、HP、MP、状態値」しか確認出来ない。いや、一応毒や麻痺状態とかも確認出来たか。


 なので大体消費MPも微々たるもので、魔法使い以外で修得している者がちょくちょくいるのだ。『鑑定眼』を魔法だと勘違いしている輩なども。


「そうかい、だが転売は駄目だ。後払いもな。

 物を買うなら前払い前提で返却不可。居るんだよ、理由を付けて金を払おうとしなかったり、後で因縁付けて逆に金を取ろうとしたりな。

 〔会員証〕は個人を登録する役には立つが、絶対じゃねぇ。」


「だから山奥に引っ越したのかい?」


「……帝国兵が旅行者に紛れて略奪に来た店もあったんでね。

 実際遂に城塞が陥落したそうじゃないか。もうこの国に限らず碌な治安もあったもんじゃないのさ。」


「それは!」


 思わず声を荒げたマリエル女王を制し、アストリアが任せてと視線で語る。


「情報が遅いねぇ。クラウゼン城塞は既に義勇軍が奪還したよ。

 今は治安回復のために、合同で帝国軍討伐を始めているところさ。

 取り敢えず、このサイズの分は全部売ってくれないかな?」


 錬金術師同士は互助組織であるが故に、個人が独断で高値を付けて売る事が許されていない。他の錬金術師の不利益になるからだ。

 元々錬金術は魔法の技術で性能が劇的に変わらない。造れるかどうかが変わるだけなので相場以上の品というのは殆ど存在しないのだ。


「あんたら義勇軍なのか?……いや、もうどうでもいいか。

 どうせ今後も夜盗崩れは駆逐されやしないさ。何せ大本のダーチャの海賊共まで討伐される事は無いんだからな。廃業には丁度良い頃合いだ。」


「そちらは武器屋以外で生計を立てたくない口なのかな?」


「ああ。俺は冒険者の花形、竜退治の英雄が使うような武器を作りたくて武器錬金術師になったんだよ。

 それがどうだ?世の中の連中は竜と聞けば逃げて当然、〔竜素材〕なんざ何処を探しても見つからない。凄い武器は敵から奪えばいい。

 戦争の役に立たんロマン武器なんざ、誰も要らないのさ。」


 竜と人族の関係は、言うなれば相容れない敵同士だ。


 竜にとっては弱い癖に数で自分達を殺しに来る面倒な敗北者。希にいる英雄なら認めても良いが、それ以外は戯れに殺して見せしめが必要な集団だ。


 人にとっては一度現れれば村や町が簡単に滅ぶ天敵。かといって放置していてもその内どんどん縄張りを広げる略奪者。数が増えれば国も滅ぶ。


 だから人族は竜退治を推奨し、竜を倒せる者を英雄と讃えていた。

 それは竜の多くが山奥で暮らし存在が珍しくなった今でも変わらない。


「でも、どう足掻いてもその悩みは後数年で終わるよ?」


「あん?どういう意味だ。」


「義勇軍が〔中央部〕に辿り着いたんだ。

 もう世界の流れは二択しかない。すなわち、帝国が勝つか。

 聖王国が勝つかだ。」


「……それで何が変わる?」


「帝国が勝てば、帝国に所属しない武器屋は全て廃業さ。

 場合によっては技術者は強制的に武器造りをさせられるかも知れないけど、今迄の様に自分達が望む武器を造れる環境は無くなる。

 今の帝国領の様にね。」


「っ!?だがそれは!」


「聖王国が勝った場合、世界中から戦争自体が無くなっていく。

 義勇軍が世界を利害で繋いだからね。交易で決着するルールが広がりつつある。

 数百年後まで続くとは言わないが、百年くらいは大きな争いは無くなっても何らおかしくはないよ。そうすれば武器だけを作って生計は立てられない。」


「ちょ!ちょっとしっかりしてよ!お父さん!」


 思わず腰を上げたキメイアが、力を失って椅子に崩れ落ちる。

 慌てて商品の会計を済ませたクララが父親を支える。

 まさか平和になっても腕利きの仕事が無くなるとは思わなかったのだろう。

 名品造りだけを誇りにしていた職人に未来はない。

 まるで死刑宣告を受けたような顔色でキメイアは絶句し続ける。


「ところで、君が本気で今も自分の腕に誇りを持っているなら頼みたい仕事があるんだけど。売りたい物があるんで見てくれないかな?

 〔竜素材〕が欲しいなら解体出来る場所くらいあるんだろ?

 そこに広げさせて欲しいんだけど。」


「あ、ああ……。こっちだ。」


 力無く地下工房に案内するキメイアの後ろに続くアストリアに、慌てたマリエルがその腕を掴む。


「あ、あの!だ、大丈夫なんですか?」


「ああ。気になるなら君も付いてくる?」

「「「あ、我々は商品を持って外で待ってます。」」」


 気を利かせたつもりなのかも知れないけど、今はその気遣い要らない。

 というか笑顔で送り出されたせいで、気まずい空気の中で残されてしまった。


 慌てて後に続くマリエルの後ろを先程のホクホク顔から機嫌が急降下したクララが後に続く。背筋が非常に寒いのに、先頭の二人はどんどん階段を下りていく。

 あれよあれよと巨大生物の解体が可能そうな大部屋に案内されて。

 近くにある作業机の元へ向かうキメイアから外れ、アストリアはこっちで良いと部屋の中央に進み出て。


「よっと。これが君が待ち望んでいた〔竜素材〕だ。

 この素材を君に売るから、取れる限りの素材で竜退治用の武器を作って欲しい。

 腕に自信は、あるんだろう?」


 《王家の紋章》に収納されていた巨大な火竜の遺体が出現する。

 地面に重さが伝わる振動の後に、絶句していた三人の中でキメイアが一番最初に我に返って驚愕と振るえる手と、徐々に理解が広がる歓喜の表情で竜に近付く。

 素材の検分をしながら、その鮮度の良さに驚きの声を上げる。


「ほ、本当にこれを売ってくれるのか?」


「ああ。ダモクレスは腕の良い、店を開けるくらいの錬金術師を求めている。

 ただし勿論、平和な世でも真剣に向き合える職人である事が条件だ。」


「それは……。」


「一週間あれば竜武器は用意出来るかい?」


「あ、ああ!勿論だ!そのための道具は全て揃えてある!

 ただの鍛冶屋でも錬金術師でも出来ない最高の武器、それが竜装備だ!」


 憧れの素材がここにある。その事実は腐りかけていたキメイアの情熱を再び呼び覚ますには、十分な起爆剤となった。


「なら話は終わりだ。

 今持てる全てをそれに注ぎ込み、職人としての君自信と全力で向き合うと良い。

 一週間後、改めて君の答えを聞きに来よう。」


「ああ分かった!最高の仕事を見せてやるぜ!」




「ま、またのお越しをー。」


 呆然と見送る店長の娘クララを背に、一同を乗せたペガサスが空へ羽ばたく。


 あの様子なら一週間後の答えは聞くまでもないだろう。元より彼は夢への拘りを捨てられなかっただけで、武器に拘っていた訳ではない。

 商品のラインナップを見た時に一目で分かった。並んだ数多くの商品の中で、手を抜いたと思われる品は一つも無かったのだ。


 元々アレスに託され〔竜素材〕を扱える職人を捜してここまで来たアストリアにとって、竜武器を追い求めるキメイアの存在はまさに渡りに舟だった。

 購入した〔名工の防具〕の数々を見ても、彼の腕なら心配もあるまい。


 終わってみれば大成功だったと満足気なアストリアの後ろで、マリエル女王は彼はやはり、アレスとは違う意味での傑物なのだと思い知らされた気分だった。

 世捨て人同然だった職人を、欲しい物を持ち合わせていたとはいえあっさり立ち直らせて見せた姿は、他人事だった筈のマリエルですら心振るわされた。

 カリスマ性とはああいうものを言うのだろう。


 大丈夫ですかと女王に馬を寄せ小声で訪ねるケイトリーに、マリエルは目を逸らせぬまま大丈夫、と心を静める。


「ねえ。アストリア様は、いつもこうなの?」


 それだけで言いたいことが伝わったのか、ケイトリーはくすりと小さく笑う。


「はい。あの方ほど人を励ますのが得意な方を、私は他に知りません。」

※三連休連続投稿三日目。間章後半です。

 兄アストリア王子視点、別動隊編成中の物語。


 ゲームでは装備LVの条件を満たしていれば体格値に関係無く着回す事が出来ましたが、現実化した世界では装備LVは個人の都合であり同体格値の装備までしか補正が効きません。

 体格値5pの防具を体格値7pの者は装備出来ない訳です。

 あと武将以外の防具は全部量産品なので、〔名工〕補正も〔魔法の防具〕補正も全部武将限定です。

 まあモブ達に高級品与えたら最悪移動中に失踪者が大量発生するし……w




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