48.第十二章 仕切り直して、聖王国首脳陣と初会合
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「まあ〔南部〕が動けないのは止むを得ないでしょう。
ある意味帝国の主力がこれ以上増員出来ないよう、足止めして貰ってると言っても差し支えありません。」
(((しれっと仕切り直しおったぞコイツ。)))
先程の口論を即座に無かった様に会議に戻ったアレスに、奇しくも聖王国と義勇軍諸侯の感想が一致する。
勿論その中にはリシャール第二聖王子とヴェルーゼ第三皇女も含まれる。
「クラウゼン王家の方々は一旦落ち延びましたが、国内諸侯の裏切りによって捕縛の憂き目に遭い逃走中です。
こちらには我が兄アストリア第一王子が捜索兼救出に向かいました。」
アレスは挫けず、此方が把握している事前情報を公開する。
「何と……。姉上方の一先ずの無事を喜ぶべきか、続く苦境を嘆くべきか。」
現クラウゼン王妃メルレシアは元ジュワユーズ第一王女、即ちリシャール殿下の実姉だ。摂政には最適でも、純粋なクラウゼン王族とも言い難い。
クラウゼンの嫡子はレオナルド王子とチャイルド王子の二人。流石にチャイルド王子は幼過ぎるが、傀儡の価値はある。支持層は確実に存在しているのだ。
正式にレオナルド王子が即位するまで、国内を一つにまとめるためにメルレシア王妃が実権を手放す訳には行かないだろう。
そういう意味で、ジルロックがチャイルド王子を救助したのは大金星だった。
「となれば今後の方針としては、如何に帝国本隊が到着する前に我々がクラウゼンを脱出するか、でしょうな。」
「待て待て、それは大恩あるクラウゼン王族を見捨てるという事か!?」
「何を言うか、そちらは義勇軍にお任せするしかあるまい。
義勇軍の戦力で何処までやれるかを我々で検討する心算か?」
「今捜索中なら、そちらとの合流を優先してからでも良いのでは?」
「そもそも我々が無事に脱出出来る保証は未だ無いのだぞ。」
指針が示された事で聖王国諸侯が意見を出し始めるが、義勇軍側から意見が出される事は意外にも無かった。リシャール殿下もしばし様子見をしていたが。
若干議論が白熱し始めたところで手を上げて制止する。
「アレス殿、帝国軍の動きについては何か情報は入っていないか?」
うん。実はそれ敢えて後回しにしてたんですよ。ヴェルーゼ皇女を始めとして、数名は気付いて口を出さなかった様だが、気付かずに口を噤んだ諸侯もいた。
「そうですね。どうもクラウゼン城を落とした漆黒騎士団はどうやら別の命令系統で動いていた様で、城の攻略後は早々に元々の攻略部隊に任せて聖王国経由で帰国したのを確認しています。」
「「「何?!」」」
ふむ。この段階から既に情報が届かなくなったのか。
「どうもダンタリオン第一皇子との連携は取れていないようですね。
元々遊撃隊として存在していた部隊二万を先行させつつ、本隊の何割かを此方に合流させる方針だと思われ、此方に向かっているのは先行二万のみです。
連携が取れていたのなら、先行部隊の合流までは漆黒騎士団も残っていた筈。
先行部隊は後二~三日中、本隊は半月以内といった所でしょうか。」
本隊に対してはも早まる可能性もあるが、ダンタリオン皇子は速度に欠ける。
恐らく後の統治を睨んだ動きをするだろうから、全部隊を動かしたり半数分けの様な占領重視の方針は出さないだろう。
「では、義勇軍の諸侯方はどの様に考えておられる?」
水を向けられた諸侯は何故か揃ってアレスに視線を集める。え、今?
ぶっちゃけるとアレス自身も義勇軍諸侯の反応を見たかったのだが。
アレスの疑問を察したか、イスカリア王がでは私からと手を上げる。
「正直、二万に対し正面対決は難しいでしょう。
ですがこの様に詳細な地図もあり、敵に地の利は無い様に感じます。
アレス王子は別動隊と、何処で合流するお積りですかな?
その位置次第で戦略が変わって来るのと思うのだが……。」
(……あ。そっか《治世》知らないと見つかり次第こっちを見つけて合流って発想が出て来ないのか。)
伝令か狼煙か。狼煙であれば敵に発見される恐れもある。
こういうところはアレスが分離を強行した作戦なのだし、開示されていない連絡手段が有ってもおかしくない。
……というかだ。
「ぶっちゃけ、今だけ限定で取れる戦略があるのですが……。
……クラウゼン城塞、奪還しちゃいますか?」
「「「「「…………え?」」」」」
「今この地に居るのはクラウゼン攻略軍だけで、彼らは義勇軍を想定してません。
ですので全兵力を城に集結させず、殿下や王家の捜索に軍を裂いてます。
実際既に我々は一部の部隊を突破した上で此処に到着した訳で。
今だけなら、クラウゼン城塞の守兵は攻略軍の一部だけの交戦で済むんです。」
そう。今だけなら、城塞の守りも兵力も最小の状態で挑めるのだ。
先行部隊が到着しても、城塞を奪還すれば背後を気にする必要も無い。
むしろ義勇軍側が各個撃破する流れに出来る。
つまりクラウゼン陥落による戦略の破綻は、今限定で修正出来る。
「正直、戦略的には一番犠牲の少ない手段です。
聖王国の皆さんも、我々と一緒に行動して奪還に加わって頂ける前提ですが。」
「「「「「…………。」」」」」
斜め上の作戦が出た。
聖王国も、義勇軍も。
如何に今回の被害を最小に済ませられるかで考えていたのだが。
奪還、出来そうだと思ってしまった。
出来れば苦労しないではなく。それが一番効率的だと。
(((ああ、これがアレス王子なのか……。)))
リシャールを始めとした聖王国諸侯が思わず納得してしまう。
視点が違うのだと。格が違うのだと。
こうやって、帝国東部方面軍を攻略して来たのだと。
義勇軍諸侯も口を閉じてしまう。いや無理だわ。思い浮かばないって。
救出作戦の為に必死になってた筈なのに、ここで奪還作戦とか。
義勇軍諸侯の視線が自然とヴェルーゼ皇女に集まる。
「……行けると思います。
帝国攻略軍は第三皇子率いる漆黒騎士団に手柄を奪われた形であり、第一王子派閥は焦っている筈です。
殿下やクラウゼン王族の捜索に兵を割いたのも、城塞攻略に匹敵する手柄を逃す訳には行かなかったからでしょう。
義勇軍が来たからと言って、殻に籠るよりは単独でも義勇軍殲滅に乗り出したいのが彼らの心境かと。」
「では……。」
「そうですな。そうすべきかと。」
「休息は今晩で十分でしょう。少なくとも我々は慣れております。」
(……成程。彼の姫君は信用の段階等では無く、重用の域にあったのか。)
アレスが提案し、ヴェルーゼが確認する。諾が出れば諸侯が精査する。
「そういえば大義名分として今、チャイルド王子がいらっしゃいますな。」
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「どういう状況だこれは?!」
クラウゼン城塞守護将軍ワルドックは、軍師として同行した闇司祭ワルゴスに声を荒げていた。
「どうもこうもあるまい!義勇軍はリシャール王子との合流を果たしたのだ!
さもなくばこうも急な方向転換など有り得まい!」
貴様の部下達がだらしないのだと詰り返すワルゴスに、自分も既に当たり散らした身としては否定も出来ない。
早朝山下りをして一直線にこちらに向かって来た義勇軍の足止めに、捜索に回っていた部隊を一部差し向けて時間を稼がせる。
クラウゼン王族に逃げられた事が、今は悔やまれる。
「こちらに寝返った連中も義勇軍に向かわせろ!
クラウゼン城塞が義勇軍の手に落ちれば、次に討伐されるのは貴様らだとな!」
「む、そうか。そうだな。
出陣済みの部隊は捜索隊以外、全て義勇軍に当たらせろ!
田舎相手にまぐれ勝ちした程度で、帝国本隊に勝てる等と、思い上がりも甚だしいと教えてやれ!」
意気高らかに命令したワルドック将軍は、昼を待たず膝を折る事になる。
「な……!敗走しただと?!馬鹿な、向かわせた兵は一万はいた筈だ!!
全ての部隊が壊滅したとでも言うのか?!」
前線の指揮を取らせていた将の戦死と共に、伝令が報告を伝えて来た。
それによると当初一直線に城に向かっていた義勇軍は突如聖王国軍を殿に据えるかの様に南下し、北上して来た反逆クラウゼン諸侯軍と衝突した。
短期的に見れば兵力差で義勇軍が勝り、諸侯軍の指揮官が討ち取られると返す刀で北上して帝国軍の背後を強襲。
後方に退く様な動きで速度を緩めて接触間近だった聖王国軍と、挟撃される形で壊滅したという。
他にも数部隊、進軍部隊との合流を目指していた騎士団も居たが、此方も攻略軍の敗走を見て城塞に進路を変更するも、追い付かれて背後を突かれ敗走。
結果として討伐に向かった全部隊が義勇軍に敗れた事になる。
「く、くそ!こうなればこの城塞に立て籠もり、ダンタリオン殿下の援軍が来るまで持ち応えるしかあるまい!
ワルゴス司祭、貴殿は正門の守護に当たれ!」
「ふん、そちらこそしくじるなよ!」
クラウゼン城塞の麓に到着した義勇連合軍だったが、全ての部隊が同時に登山し始める事は出来なかった。
元々此処は要害として適した土地であり、如何に魔狼部隊と言えども断崖絶壁を垂直に駆け昇れる訳では無い。攻め手の数も進軍路も、必然的に制限された。
「ねぇねぇアレス、この【遠望雷嵐】って魔法使って良い?」
「え?いや無理だろ?昨日俺も試したし。」
ジルロックが持ち出してきたのは、先日暗黒教団の闇司祭シャパリュが持っていた魔導書だ。ゲームでは敵専用魔法だったし、アレスも魔導書が手に入ったのならと期待して使用して見たのだが、見事に不発だった。
「それさ、この魔導具を使った?
この魔法、魔法だけで完結してないよ?コレ魔導具で狙いを定めるのが前提の魔法になってる。試しに城門を狙ってみたいんだけど。」
(何々?〔雷の結晶眼〕、か。
えぇと。成程、確かにこの魔導具の設計図に見えるな。)
この世界でアイテムの鑑定なんて便利な手段は無い。
アレスの『鑑定眼』は特別製の様だが、一般に広く普及している品々やゲームに登場した物は説明書きも出るが、未登場アイテムは名前だけだ。
アレスが把握した情報が正しければ概要が表示される様になるが、詳細を知りたければやはり研究資料やらを確認して調べるしか無かった。
なので魔法絡みの物は全部安全性の調査を兼ねてジルロックに任せたのだが。
ぶっつけ本番で試すのもどうかと思いつつも、気兼ねなく使える対象を用意しろと言われても困るのは確かだ。ので。
「【遠望雷嵐】ッ!!」
遠くで悲鳴が木魂する。
「やった!当たったぞ!!
やっぱり標準を定めてから術を放つまで動かなければ、魔法は発動するんだ!」
何度目かの検証で、城門で指示を出している指揮官を撃ち落とす事が出来た。
思わぬ成果に、アレスも魔導具を借りて試してみる。
闇司祭だったのか何かを召喚した直後に雷が弾け、ものの見事に城門の上から落下して歓声に呑まれ、程無くして城門が開かれる。
「やった!俺にも出来た!やべぇ、コレMP消費結構デカい!」
「倒したのなら号令を出して下さい。
その魔法、味方にも誰が使ったのか分からないんですから。」
「「はぁ~~~い!」」
肩を組んで満面の笑みでアレスは指揮に戻った。
伝令が玉座の間の扉を開き、城門が破られた事を報告した時。
その後ろから義勇軍の一団が突入して来る姿が見えた。
「早く扉を閉じんかぁっっッッ!!!!」
ワルドック将軍魂の叫びも空しく、城内を走る一団から放たれる矢に、城の守兵達が次々と射抜かれる。
玉座の間には時として軍議の間として使われる事がある。
大貴族中心の会議の時など自分達の権威を示すために使うものだが、ワルドック将軍は自分がこの場のトップである事を示すためにこの広間を選んだ。
もしこれが普通の会議室であったならと、この場に居る護衛達に防戦させながら己の慧眼に身震いする。
勿論真に慧眼なら義勇軍の奇襲を許す事も無かったのだが、将軍はそこまで物事を深く考える質では無い。
「密集陣形を取れ!敵が広間に突入したところで一気に押し潰してくれる!」
「魔法隊!私に続いて最大火力を叩き込め!
【中位火炎渦】ッ!!」
「「「【中位火炎渦】ッ!」」」
「「【中位竜巻刃】ッ!」」
「「「【中位砂嵐鑢】ッ!!」」」
扉の前で構えたアストリア王子の呪文に続き、次々と多種多様な中位魔法が叩き込まれる。だが慧眼な帝国軍側は会議場に魔法部隊など殆ど用意していない。
中央に密集した帝国将兵達の悲鳴が、全て爆音や破裂音に掻き消される。
玉座周りに待機したなら兎も角、机を並べ易い中央なら入り口からでも十二分に射程内だった。
「うぉぉおおおおっ!我はワルドック将軍なるぞォっ!
この程度で、討ち取れ、討ち取られるものかぁッ!!!!」
盾を構えて力尽きる部下達を蹴り飛ばし、大槍を構えて走り出す将軍だったが。
「【破壊剣】ッ!」
「おごぉッ!」
真っ直ぐ走るだけで限界だった。
「な、何故だ。何故、城門が破られただけなのに。
お前達は既に、此処にいるのだぁぁぁ…………。」
「それ、今聞く?」
苦笑するアストリア王子に続いて、次々と義勇軍の面々が玉座の間に入り。
「終わりましたか。あなたの言った通りになりましたね、アストリア王子。」
クラウゼン王妃メルレシアがクラウゼン騎士達を従えて玉座に座る。
「我が弟は優秀ですので。
それでは王妃様、号令をお願い致します。」
「ええ。諸君、我々は帰って来た!
今再び、我が城にクラウゼン王家の旗を掲げよっ!!」
後に語られる、クラウゼン城塞の三日天下。
アレス王子はクラウゼン城塞奪還作戦を、凡そ一日で全てを終わらせたという。
その手際は、まるで帝国軍への意趣返しの様であったと人々は語る。
「あ。明日別動隊を山中に伏せます。
帝国軍がクラウゼン奪還を知ったら城から距離を取って夜営すると思うので。
多分この辺りに布陣すると思うので、背後から夜襲を仕掛けて敗走させます。」
「え?いや、動揺している内に叩いた方が良いですよね?
我々の総兵力より敵の方がまだ多いですし。」
先鋒帝国軍は、夜の内に堰を切った様に撤退していったと伝わっている。
※次回秋分の日振替投稿、23日月曜に投稿予定です。
しれっと会議再開。そしてクラウゼン城塞攻略戦開始。
何故お兄様が城内に突入出来たかといえば、クラウゼン王族達を救出していたからです。奪還して即兵を散らした帝国軍が、隠された裏口まで調査する時間なんて無かったよね、というオチ。
そもそも住民も掌握する前から義勇軍来ちゃってるし……w
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