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ジュワユーズの救国王子~転生王子の胃痛奇譚~  作者: 夕霧湖畔
第三部 聖都奪還前婚約闘争
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47.第十二章 合流、聖王国首脳陣と初会合

※本日敬老の日投稿します。次回は通常通りの土曜投稿予定。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 屋上の戦利品を拾い集めたところ、凡そ五十頭のキャスパリーグが制御不能なままに解放されたらしいという事が、闇司祭シャパリュの研究日誌から判明した。

 資料の乱雑さに彼らの悲壮感が目に浮かぶ。


 正直チビるかと思った数だが、少なくとも四十頭近くはリシャール殿下捜索隊の手で既に討ち取られている事が判明した。

 まあアレスも2LV上がったので当然と言えば当然か。何と遂に31LVだ。

……正直少ない気もするが、数が多いだけで一応ギリ多分格下ではある。


 流石に明日に回して隠し砦が壊滅してたら目も当てられないので、塔の捜索は後から到着したグレイス宮廷伯の部隊に任せた。

 アレスは疲れ切った体に鞭打ち出陣し、障害無く隠し砦に到達。


 幸いにもこちらにキャスパリーグ達は到達しておらず、一同は聖王国の騎士達に歓声を以って迎えられた。これで一番の憂いは晴れた事になる。


「久しぶりだな、アレス王子。よくぞ我々の元へ駆け付けてくれた。」


「こちらこそ。ようやく本来の身分で対面が叶いました事、喜ばしく思います。

 御無事で何よりです、リシャール殿下。」


 魔狼から降り立ちアレスと固い握手を交わす長い銀髪の優男風な青年は、体格的にはアレスに見劣りするが、その実特殊クラスのパラディンに昇格した文武両道の聖騎士だ。LVも未だアレスより高く、聖王国ではカリスマ的な存在だ。


 本来であれば既に戦死している存在であり、騎士としては優秀でも戦略眼は無く義勇軍に指揮を譲り渡すしか無かった弟パトリック第三王子中心の体制より、今の聖王国軍は余程高い戦力を保持していた。

 それだけにこの場で、彼の救出に成功したのは大きい。


「ふ、固いなアレス王子。

 君は聖王国にとって救世主に等しいんだ、もっと気を楽にしてくれ。」

「なっ!き、貴様は帝国の聖女、第三皇女ヴェルーゼ・ヨルムンガントっ!?

 何故帝国の姫が義勇軍に同行している?!」


 ざわ、と聖王国軍の騎士達に緊張が走る。それもその筈、相手は降将とはいえ敵国随一の有名人であり、この場に居るのは長年帝国軍に苦しめられた者達。

 そんな警戒心を顕わにする聖王国側に対し、ヴェルーゼは――。



「あぁ……。そう言えばそうですよね、当初私も気にしていた筈なんですが。

 今更ですけど私、何で義勇軍で警戒されなかったんでしょう?」


「「「……?」」」

 現状に納得するヴェルーゼを前に、奇妙な動揺が聖王国側に広がった。



(ていうかホントだ、俺も皇女殿下が警戒されるとこ見た覚えないわ。)


 ちょっと内心の疑問はさて置き、一旦は収拾付けねばなるまいと軽くリシャール殿下に頭を下げて現場に向かう。

 一見すると遠巻きに聖王国騎士達に囲まれている様に見えるが、一緒に囲まれている数名の諸侯達も、何が変なんだろうという顔をしていた。


(て、おい。オマエ等本気で分からんのかい。)

 色々突っ込みたいがやはり収拾の方が先だ。ここは矢面に立たねばなるまい。


「どうした諸君、この騒ぎは何事かな?」


「な、何事も何も!どういう事だアレス王子!?

 何故諸君の軍に、帝国の聖女が同行している?!事と次第によっ「ア~レスぅ!

 久しぶりじゃないかぁ!まさか君とこんなところで会えるとは思わなかったぜ!

 何だい何だい、君本当に義勇軍のトップだったんだねぇ?!」……ぐふ。」


 騎士団長の一人らしき髭面の男が弾き飛ばされて崩れ落ちたが、突然両手を握り上下に振られるアレスはそれどころではない。

 いきなり全身をシェイクされて状況の把握が追い付かない。


「って、お前ジルロックか?!

 お前ガンダーラで魔法の研究してたんじゃ無かったのか!」


 あはははと笑う年中目に隈を張り付けたボサボサ銀髪の青年は、魔法学者を自認する原作に登場しなかった魔法使いだ。

 中央部南の魔法都市ガンダーラに存在するレジスタ大陸唯一の大学、魔法大学で研究員を務めていた時に偶然遭遇し、意気投合した青年だ。


「いやぁ勿論ボクも研究を続けてたかったんだけどね?

 帰国命令が出てしまったから止むを得ずクラウゼンに戻って来たのさ。

 そしたらあれよあれよと城塞が陥落して、逃げる途中で拾った彼と一緒にココに逃げて来たのさ。いやぁ~、参ったよ。」


 てとてと現れて抱き着いた少年を肩に担ぎ、ケタケタ笑うジルロック。

 だが少年の来ている服で素性に気付いたアレスは、話の重要さに絶句する。


「お、おまっ!まさかその子供?!」


「あ、うん。クラウゼン王子の弟、チャイルド王子だよ?」


 つまり?直系王位継承者。尚、今他のクラウゼン王族行方不明。


「…………っ!?」


 振り向いて確認を求める相手は、勿論聖王国第二王子リシャール殿下だ。

 彼は形の良い眉を顰め、何から手を付ければ良いか迷いながら。


「ああ、本物だよ。これ以上は場を改めて話すとしよう。

 さもないとそこで青い顔をしている彼が、名誉の戦死を遂げるかもしれない。」


「「「あ。」」」


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 軍議の間。

 場を改めても、一同の空気は決して良いものでは無かった。

 先程の事もあってか食事は後回しだというので、全員の前に軽食を配らせた。


「これはどういう心算かな?」


「人は空腹の状態で話すと怒り易くなるものです。

 なので義勇軍では軍議の前に食事を済ませる様にしているんです。我々だけ先にというのも問題なので、今回は摘まむ程度で済ませる様に手配しました。」


「無駄な兵糧の備蓄など無い!」


 アレスの言葉に激昂する先程の騎士団長だが、その程度で怯む様なか細い神経はしていない。それは義勇軍側の諸侯も同じだ。


「今はあります。特に今回は我々の持ち込みです。

 軽く胃に溜める程度のものですし、遠慮は不要ですよ。」


 先程の騎士団長が歯軋りして反論しようとするが、リシャールが押し止める。

「折角のご厚意だ、有り難く頂くとしよう。」




「「「「「ほぅ……。」」」」」


 アンパンは思った以上に気に入って頂けたらしい。見事に全員の顔が緩んだ。




「…………いや、アレス王子。これ何?」


「ダモクレスで作らせた軍糧用の菓子パンです。

 甘さ控えめにしてありますので、気に入ったならご購入を検討下さい。」


「いや、そういう問題じゃ無いからな?」


 宣伝を兼ねるのは悪い事じゃないよ?流石に前世のアンパン並に柔らかいと鮮度の問題がある。餡サンド、いや最中の方が近いかも知れない。

 この味を再現するために並々ならぬ労力を注いだ傑作だ。日の元の民族として食で手を抜くなど許されない。勿論醤油も味噌も再現済みだ。


「まあ先ずは互いの近況報告からです。

 先にこちらの戦況と推移を説明するので先ずは寛ぎながらお聞き下さい。」


「いやだから待てと。」


 ヴェルーゼ皇女から受け取った東部北部の地図を順に並べただけで、何故か再び待ったが入る。動じたのはやはり全員聖王国側の武将達だった。


「……中央部の地図は後で構わないでしょう?

 今は義勇軍側の説明な訳ですし。」


「そっちもあるのか?!いや、ま、まあ良い。先ずは聞こう。」


 何故かリシャール殿下まで腰を浮かす。とはいえ直ぐに冷静さを取り戻す。

 微妙に何か変だなとは思ったが、取り合えず解説を終えた。


「――という経緯でノルド城を攻略致しました。

 続いて我々は残る東部地方攻略に移った訳ですが――。」


「ちょ、待った!ではアレス王子がヴェルーゼ皇女を義勇軍に引き入れたと?」


「流石に監視の類は人任せに出来ませんでしたから。

 彼女には様子見も兼ねて、魔術師隊を率いて貰いました。」


「……事務経理には最初から加わっております。

 重要な決算や機密は別に扱われておりましたが、書類管理の補助を。」


 そういやそうだったなぁとヴェルーゼが口を挟む間思い出し、はて今の話は重要だっただろうかと首を捻るも軽口の補足かなと思い話を進める。


「――と言うのがこちらの現在の経緯となります。

 続いて今年からで構いませんので、聖王国側の推移をお願いします。」


「ま、待った!ハウレス王国の奪還は本当なのか?!」


「ええ勿論。ですが、ご質問は双方の近況報告が終わってからでお願いします。」

「しかし!」


「こちらは聖都周りの最新情報を正確に把握している訳では無い。あなた方が義勇軍の何を知っていて、何を知らないかもです。

 何より我々は他国同士。共闘する身です。そちらだけが納得する話をして我々は何も考えずに従えなどと、まさか申されますまいな?」


「ぬ……。」


 言いたい事は山とある顔をしているが、感情的な質問や質問に見せかけた文句を聞かされても困るのだ。

 自分の身の上を話すのは案外冷静になる役に立つのだが。


 何故か聖王国側は動揺し切りで、中々説明に手を上げる者が出て来ない。ん?


「……この際だ。私から説明するとしよう。」


 何故か神妙な顔で立ち上がったリシャール殿下に対し、聖王国諸侯はあからさまに安堵の表情を浮かべる。しかも揃って姿勢を正す。何この空気。

 なんか義勇軍側にも分かるよって顔してる奴いる……。




 事前情報通り、中央部の戦況は決して良いものでは無かった。


 聖王国には元々、城塞都市ベンガーナを始めとする数々の大領地がある。

 それこそ一つの街が小国すら凌駕する程の軍勢を有しており、帝国軍の万の軍勢に対しても全軍が集結しない限り個々の抵抗が可能な程だ。


 先の聖都陥落の折に聖王ジュワユーズ十九世を始めとして王妃、第一王子を失う大惨事となったが、最悪の事態は免れている。

 リシャールを始めとした三兄妹が聖都脱出に成功した事で各地の諸侯達は反抗の旗印を得て、一丸となって帝国に抵抗する事が出来た。


 幸いにも皇帝自身は聖都を陥落させた時点で後を第一皇子ダンタリオンに任せ、聖剣を回収して本国へ帰国した。


 聖都の三兄妹捜索に時間を費やした帝国軍は、年を跨いだ事で一旦仕切り直しになったものの、都市単位では流石に帝国本隊と太刀打ち出来る戦力は無い。

 第一皇子ダンタリオンは用心深く、容易に兵を分散させようとはしなかった。


 よって先に帝国に奪われた拠点を奪還したり、何処かを攻めた際に背後を突いたりと一進一退を繰り返してこそいるが、勝てる帝国と違って聖王国軍には勝利を掴める戦力は無いに等しい。


 防戦を続ければ続ける程に疲弊し、やがては降伏したり滅ぼされる土地が徐々に増えて来ており、独力での逆転劇は不可能な戦況にあった。


「〔南部〕地方の古王国シルヴェスタを動かせれば良かったのだが。

 あちらは第二皇子のジークフリードが【神剣アヴァターラ】を振い、此方とほぼ同様の戦力で侵攻されているらしい。

 〔聖戦〕に応じる余地は全く無いと断られている状態だった。

 我々としては先ず、このクラウゼンで勝利を収めて反抗の足掛かりとしたかったのだがな……。」




 因みに一旦時間を置くと冷静になった様で、思ったより質問も反発も無かった。

 強いて言うなら細かいところまで説明を求められたくらいか。


「――とまあ、あの時私が聖都に来たのもまさに大陸全土の地図作りが終わった後に、聖都陥落の一報を受けての事だった訳です。

 正直あの場で何が出来るとは思いませんでしたが、情報の真偽を確かめつつ次に聖戦なりで来た時の為の下準備が出来ればな、と。」


(((そ、そんな頃から準備を始めてたのか……。)))


 お?その表情は引いたな?今何コイツって思ったな?

 理由まで分からなくても顔色くらい分かるぞォ?


「あ。ところで義勇軍諸侯に聞いておきたいんだけど、皆さんがヴェルーゼ皇女を受け入れてる理由って何かあります?

 あるんならこちらの皆さんにも教えてあげて欲しいんですけど。」


 お、動揺したな。当の本人平常心に見えて、どうリアクションして良いのか分からないのが微妙に周囲の顔から眼を反らす仕草で察せられる。

 正直、軽口程度の気持ちで聞いたので今の表情で満足だったが。


「何言ってんですかアレス王子。ヴェルーゼ皇女の恩恵を一番受けている人が何でそこに疑問を持つんですか?ていうか相手他国の姫だって分かってます?」


 あ、あれ?何でそこでワシに冷たい目線?今ワシが責められる流れ?


「そもそもあなたがそれを言いますかアレス王子。

 あなたがあの東部攻略戦の啖呵を承認した側でしょうに。」


「あ、それは分かる。と言うかその為の演説だし。」


「そのためじゃねーですよ?あなた自分が非常識な人間だって自覚あります?

 あなたの非常識を常識に落とし込んでいるの誰だと思ってます?

 ちょっと自分がどれだけフォローされてるか自覚足らないんじゃありません?」


 お?何か予想外の方向でワシ非難されてる?え、ワシそんなにヒドイの?


「自覚が足りませんよアレス王子?あなたが暴走して、皇女殿下がフォローする。

 それがいつもの義勇軍でしょ?御自分が無茶な作戦建ててる自覚あります?

 我々が無茶でしょって思った時、誰が太鼓判を押しているのか分かってます?」


 何故か義勇軍諸侯が一致団結してアレスを攻め立てる流れに、ヴェルーゼ本人ですら戸惑いの表情を浮かべる。

 だがアレスとしても聞き捨てならない。別に感謝してない訳では無く単に義勇軍全体での認識を聞いただけなのだ、ここまで恩知らず扱いされる筋合いはない。

 というより。


「ちょっと待てやキサマら!今アンタら皇女を盾に大分好き勝手言っとらんか?!

 大体アンタらも割と皇女頼みで書類処理してるの知ってるからな?!

 自国の書類管理の人でもっと増やせやゴラァっ!」


「「あ!それ言っちゃう?それアンタが言っちゃう?一番恩恵受けてる人が?」」


「俺は単にアンタら視点での彼女の立場を聞いただけだからな?!

 そっちこそちゃんと皇女殿下の評価を口にしろよ?してみろよ?!」


 あぁん?とばかりに顎を突き上げ指でコイヤと挑発し、顔芸で責め立てる。

 義勇軍裏名物「マナー君は退場しました」の合図だ。


 誰かがこのフィンガーサインをした時、義勇軍事務方は礼儀を捨てて口論による本音バトルを開始する。が。


「いや、だから義勇軍の良心でしょ?他になにがあると?」

「え?癒しじゃね?というか常識?」

「えっと。敢えて口にするなら潤滑油?縁の下の力持ち的な。」


 いや、だから立場上の話……。

 とそこまで考えて改めて観察すると、皆言われてみればと普通に悩んで見える。

 だが不思議と悪印象が無さ過ぎる。帝国の姫である事に誰も異議を唱えていない空気すらある。というか。


……ん?コレ義勇軍のアイドル的な扱いになってね?


 不満以前に今、必要不可欠みたいな扱いしてたよな?

 え、まさかと思うけど。



「「「……義勇軍の頼れるおかん?」」」


 ヴェルーゼ姫が机に頭ぶつける音が響く。


(え?もしかしてコレ俺より大事にされてねぇ?!)



「……なあ。そろそろ我々の存在も思い出してくれないか?」


 そして何故か手を上げるリシャール殿下は、妙に疲れた顔をしていた。

 後腹抱えて笑うなジルロック。

※本日敬老の日投稿します。次回は通常通りの土曜投稿予定。



 義勇軍が大々的に公式発表した以上、表立って反発は出来ません。

 不満を抑え込む中でも状況は二転三転。慣れぬ義勇軍方式の恩恵をうけるため、他国より優位に立つため四苦八苦する中。

 何かと自分達のフォローをしてくれる、意外に面倒見の良いクール美少女の傍にいたおっさん達の心情を述べよw



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