42.序章 ハウレス王国奪還戦
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レジスタ大陸〔中央部〕は五つの王国で構成されている。
一つは言わずと知れた聖王国ジュワユーズ。中央部最大の大国で、文字通り世界最大の穀物地帯でもあった神剣の守護者。
その南。国土面積だけなら二番手ながら、国土の大半が灼熱の不毛地帯で占められた交易国家にして砂漠の王国シャラーム。別名、魔術国家。
北西に一国家、央西クラウゼン城塞王国。
国土の半分は既に帝国の占領下にあるが、反面王都は大陸一番の堅牢さを誇り、聖王国第二王子リシャールが亡命中。両者一丸となって帝国に対抗している。
北東に二国家。央北ハウレス王国、央東ドールドーラ王国。
ドールドーラ王国。天馬王ラムロック自ら率いる天馬騎士団による、神出鬼没の奇襲戦術が功を奏し、現在進行形で帝国に抵抗し続けている。
ハウレス王国。大陸東部と繋がる要衝であり、鉱山が中心の中堅国。帝国の支配下にあるものの国王が潜伏しており、反抗組織は今も健在だ。
これが中央部初夏、最新の大陸情勢だ。
現在ハウレス王国を占拠する帝国軍は、現地徴収兵を合わせて約一万三千。
大陸〔東部〕が全て義勇軍に奪還された今。
東部唯一の陸路が続くハウレス王国の要衝ゲットクラン城塞には、全隊の三割を上回る五千の兵が駐屯して守護をしていた。
唯一の進軍路は殆ど陸橋に制限され、大型船は入れず小舟でしか渡れない、浅く複雑な河川で遮られた断崖絶壁の渓谷に守られる要衝。
義勇軍は如何なる策を以ってこの、圧倒的に不利な地形にある城塞を陥落させるのか。今、世界中の注目がこの要衝に集まっていた。
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「で、では義勇軍はゲットクラン城塞を無視すると言うのか?!」
ハウレス山里の小砦、雨音で外の音が紛れる中。淡く輝くランプの下で驚きの声を上げたのは、王城を脱出して行方不明になっている筈のハウレス王その人だ。
帝国軍はハウレス王国の主要都市四城を制圧こそしたが、未だ反抗貴族が抵抗を続けている中で全ての町村を監視出来るほどの兵数は無い。
よって都市部に兵を集中させた上で各地から治安維持や徴税と言った形で兵隊を巡回させる事で対応していた。
それ故地方の砦に反抗勢力が隠れ潜む余地があり、ハウレス王達は帝国軍の目を避けつつ、各地の未使用砦を移動し続ける事で難を逃れていた。
だがそれは同時に、単独では既に帝国軍に抵抗し切れない事も意味していた。
「それはどういう事だ商人殿!その情報は確かなのか?!」
「無視では無く後回しですよ。ゲットクラン城塞の守りが堅牢なのはあくまで陸橋側に対してです。迂回出来るなら敵の警戒の薄い都市を狙った方が良い。
義勇軍はあくまで戦略目標はハウレス王城奪還と定めています。城塞を奪還出来てもそこで進軍が止まったら意味が無い。違いますか?」
慌てて詰め寄ろうとするハウレス王の間に割って入ったのは、若い青年だった。
落ち着き払ったフード姿の彼は、馴染みの行商人であり義勇軍と繋がりのある協力者の男が連れて来た初対面の者で、今回の接触は彼を王に引き合わせるためだと聞かされた。
であれば義勇軍はいよいよゲットクラン城塞奪還に乗り出してくれるのかと期待を口に出した王への返答が、否であった。
そして居並ぶ騎士達が制止しなかったのも、思いは皆同じであったからに他ならない。王が中央に居ただけで、他の騎士達も共に詰め寄っている。
だが、確かに王にとっても本命は王都奪還だ。自分が思っていた以上に焦り動揺していた事を思い知り、彼の紹介も半ばであった事を思い出し我に返る。
「失礼した、どうやら思っていた以上に気が急いた様だな。
貴殿の名乗りも未だであったというのに。」
如何に王とて、相手が他国貴族であれば相応に礼を尽くさねばならない。
特に今回の様に協力者であるならば迂闊な無礼は己の首を絞める。だが必要以上に下手に出ては奪還後の治世にも影響を与える。
気を引き締め直した王に告げられたのは、更なる衝撃の事実だった。
「いえ、こちらこそ。私の名はアレス。アレス・ダモクレス第二王子です。
今は義勇軍の総大将を務めさせて頂いております。」
「「「なぁっ!!」」」
フードを上げて覗かせた顔は、金髪碧眼に噂に違わぬ美貌を携えた優男であり、凛々しくも穏やかな笑みを浮かべる紳士的な青年だった。
それは正しく噂に聞かされた、誇張とすら思えた現実の相貌であり――。
「で、ではこの者、いやこの方が!太陽の眼差しの王子ッ!!」
とけらっぷッ!
「あの常勝不敗にして連戦連勝!負け知らずの天才軍略家!?」
ごふ。あ、祖国のへーかが首掻っ切ってる幻影が見える。
「あの猛虎将軍ブリジット将軍を一騎討ちで討ち果たし、たった一人で東部帝国軍の名立たる名将達を切り伏せ続けた史上最強の騎士ッ!!」
わは、あの人そんな有名人だったザマス?
「「「「「あの、無敗の英雄アレス・ダモクレス王子なのですか?!」」」」」
(へけけトテモ否定したいと背後霊が泣き叫んでゴザイMa~su★)
「さて、噂を全て知っている訳ではありませんが。
義勇軍のアレス・ダモクレスであるなら私以外にはおりません。」
悲しいね。憧れの輝きがボクの良心を槍衾となって刺し続けるの。
ホラ、ホロリと皺と白髪のオジサンが感極まって涙を流すの。
大の大人が挙って抱き合って勝利を確信されると、本ッ当~~に胃が軋むなァ。
オイラ、プレッシャー君といつも殴り合ってるよぅぷ。
「お立ち下さい。未だ何も終わっていません。
それにこの戦いはあなたのものでもある。あなたに立ち上がって貰わねば。」
心の神父様、ワタクシの頭を割らないで。ワタクシ胡散臭くしか出来ないの。
詐欺師臭くしか出来ないの。だからホラ、もうちょっと冷静に。
有難うを繰り返さないで涙を拭いて、立ち上がって?
「済まない、見苦しいところを見せたな。
しかしだとすると義勇軍はどうやって中央部に来るのかね?
ゲットクラン城塞がある限り、東部からハウレスに進軍する道は無い筈だ。その前提条件が変わらない限り、問題は解決しないのでは?」
王達は再び最初の立ち位置、地図の開かれた机の前に戻る。
アレスと王が丁度机を挟んで対峙し、配下を従えて語らう構図だ。
因みに先程の商人殿は、勿論本土調査を担当するダモクレス密偵隊の一人だ。
「発想の転換です。ドールドーラ王国なら大型船が到達出来る。
ドールドーラの協力を得て帝国軍が近場に居ない事を確認し、闇夜に紛れて陸路を強行軍で北上しました。
全員ハイクラスのみで構成された精鋭部隊、凡そ五千。既にハウレス国内に到達済みです。我々はその先触れと打ち合わせに参りました。
「お、……ぉお!!何と、既にこの国に?!
それで、我々は何をすれば。」
おずおずと、しかし興奮冷めやらぬままに彼らは強く拳を握る。
「では順番に。このハウレス王国で帝国軍と全面対決は出来ません。
何故なら帝国軍本隊は凡そ十万、ハウレスの四都市に万を超す軍隊の攻撃に耐え得る要害は何処にも存在していないからです。」
「なっ!で、では先程の王城奪還は出来ないと申すのか?!」
んんっ!騎士さんの皆良い反応。ちょっと調子戻って来たぞ。
やはりこういう計略は驚いて貰えた方が自信が付くというものですとも。
「いえ、奪還はします。ですが守りはしない。
我々義勇軍は帝国本隊が到着する前、最短五日間で四都市全てを奪還します!」
「「「んなぁ!?」」」
「ハウレス王国で帝国本隊と戦えないのなら、ハウレスを戦場にしなければ良い!
故に短期決戦!我々は最初の奇襲で南の城塞を落し!
翌日森を迂回して一直線に王都奪還!しかる後に救援を出すであろう残存都市の帝国兵を平原で討ち!
ゲットクラン城塞を攻略した後に北上して最後の城塞を攻略する!」
拡げられた地図に両幅が膨らんだNの字を描く様な攻略図が描かれる。
「帝国軍がどれほど早く対応しようと、全軍では動きません。
第一報で動けるのは多くて一~二万が限度。これをハウレス到着前に迎え撃つ。
ここの砦は、既に聖王国となる。此処さえ抑え切れれば。」
最後に示されたのは地図の端、Nの縦棒を斜め上から袈裟斬りに走って指揮棒による線が伸びる。
そこにあるのは、聖王国の国境を抜けた先。国境監視用の山頂砦。
「後は、あなた達ハウレス王国の仕事です。あなた達には残存帝国兵を全て国外に叩き出し、今帝国へ運ばれている補給線を完全に絶って頂きたい。
こちらに義勇軍は、一切手を貸す余裕はありません。」
「ま、待て!それでは我々には黙って見ていろと言うのか?!」
「少し違います。現在我々は隠密性を重視し最速で進軍しています。
ここで合流を優先しては、奇襲の利点が失われる。あなた方は未だ城塞攻めが出来る程の軍を用意出来ないでしょう?」
「そ、それは事前に連絡を頂ければっ!」
「帝国軍の動き次第で日程はズレました。それにあなた方に動きが無かったから敵に気付かれなかったという側面は必ずある。
何もするなでは無く、奪還後の街を任せたいと言っているのです。
我々は奪還後即次の城を目指す必要がある。敗残兵が戻って来て城を取り返されてしまえば、その段階で作戦は破綻します。」
正直騎士達が簡単に引けないのは当然だ。自国の奪還を全て他人任せにしては、後日軽く見られる上に後で何を要求されるか判らない。
恩を盾に利権を要求するのはお家乗っ取りの常套手段だ。
だが一方で、他に妙案が無い事は彼ら自身が強く実感している筈。
「もう良い。元より我々だけでは王都の奪還は叶わんのだ。
此度の御恩は、後日の義勇軍への参戦を以って返させて頂こう。」
ぃよし、これで第二関門突破。
今回は何とかなったがゲームでは義勇軍が到着した時、既にハウレス王は人質になっていてハウレス騎士団と義勇軍は正面対決する流れになっていた。
尚ハウレス騎士団の主力はガルム、魔狼騎士団で有名なのだが。初めてガルムが買える様になる土地でもある。
しかもゲームでは小ネタ扱いだったが、王都奪還前に倒した騎士団の数でガルムの購入価格に値崩れが起きるという設定なのだ。
……倒した騎士団の数で、安く。大量に。売り出されるのだ。
より具体的には十ユニット倒すと半額になり、増援含めて全滅させると最低価格装備な〔鉄武器〕よりも安く買える。……コレ、地元の治安壊滅してねェ?
「期待しています。ですが義勇軍としては、参戦に関しては今年一年は国内治安を優先して頂きたいと思っています。無論、来年の参戦は必須ですが。」
「な、何故そこまで言われるか!我々はそれほど頼りにならないと言うのか!?」
流石にキレかけるハウレス騎士達だが、アレスはあくまで苦渋の顔を崩さない。
何せこの世界はリアル経済戦争が通用する。戦場以外でも勝てるのだ。
「いえ、もっと単純に補給線としての価値を期待しているのです。
率直に言って皆様方、聖都奪還が今年中に叶ったとして、冬までに帝国を降伏に追い込めると思っていますか?」
「い、いやそれは……。流石に。補給線?」
「帝国と戦う上では聖王国の力も必要でしょう。無論更なる食糧支援も。
その際……。東部と北部だけで全て支えると言うのは流石に……ね?」
聖都ジュワユーズの人口は数十万都市。あくまで聖都だけで、である★
各地に散っている聖王国残党軍は、今現在数万を保持しておりますよ?
ええ、影で我々食糧支援しているので、最新をそれなりに把握しております。
「い、いや……。でも、しかし。我々の面子も……。」
「そこはホラ、我々からお願いする訳ですし!今初夏ですから、来年の兵糧を沢山確保出来る土地がね?土地の復興も早い方が傷は少ないですし!
ちゃんとこの件は書面に残す準備は万端ですから。ここにちょっとへーかの名前でサインを頂ければ条約として聖都にもご納得頂けると思うので!
お金では買えない、生産力と言う価値があるんですよ!」
……。…………。…………!
ダモクレスが隠れ島で育成しているガルム達を一部、彼らに販売する権利で快く同意して頂けました☆
え、飼育係?何処からの亡命者?そんなの諸々全部、公式に認めて貰ったからに決まっているじゃないですかぁ~☆
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帝国軍が義勇軍の到来を知ったのは、ハウレスの南方都市が纏めて降伏したとの報告と同時だった。
一度に複数拠点が落ちたと聞き、〔ハウレス王都〕にいた帝国の守将マッケイン将軍は朝食中である事を忘れてテーブルに腹を打ち付けた。八つ当たり気味に怒鳴り散らして軍議と偵察を走らせ、昼には概ね真実であると判明し頭を抱えた。
「くそ!まさかドールドーラからの進軍とはッ!
向こうの連中は何をやっていたのだ!我々に一報すら入れんとはッ!!」
勿論本当に義勇軍が落としたのは一都市だけだ。奇襲とはいえ複数の都市を陥落させる余裕は無いし、何より強行軍の疲れを一日とはいえ癒す必要がある。
王都の帝国軍を釣り出すため、義勇軍は都市奪還後ハウレス軍を引き入れて統治を任せて東側に布陣して兵を休ませていた。
自身は帝国から奪還した物資のみを受け取り、表向き〔ゲットクラン城塞〕の奪還を目指すかの様に装ったのだが。
事態を知った一部帝国将兵達が進路上の都市を捨てて王都に逃げ戻り、自分達の行動を正当化するために敵襲があったと報告し。
帝国軍は義勇軍の総兵力を実際の倍、一万以上と推定してしまった。
「已むを得ん!お前達はゲットクランに進軍する義勇軍の背後を突け!
あそこを落されたら帝国の主力が動く前にハウレスが陥落してしまう!」
反対意見は出なかった。と言うより、皆が同じ危険を訴えた。
帝国の守将マッケイン将軍から見れば、ハウレス王国は帝国軍の兵站を賄う拠点の一つであり、同時に既に制圧済みの地域でもある。
国王こそ処刑しておきたいが、只の反抗貴族などむしろ増税の口実として好都合と見做しており、徴税は徐々に横暴なものとなっていた。
誰もが真剣にハウレスの残党を考慮しておらず、義勇軍だけを脅威と考えていた反面。基礎クラス中心であろう義勇軍を何処かで侮っていた。
「ぎ、義勇軍の襲撃です!将軍、直ぐに起きて指揮をお取り下さい!!」
「な、何だとォ!?たった半日で義勇軍がこの王都に攻め入ったというのか?!
橋の守兵はどうした?!ガルムならともかく軍馬や走り鶏があの急流を突破出来る筈が無い!ハウレス残党軍の見間違いであろう!」
「いいえ!ガルムに乗った、義勇軍です!その数凡そ五千以上!」
「馬鹿なぁ?!ハウレス騎士団ですらガルムは三千以下の筈だ!
まさか義勇軍全てがガルム騎兵に転換したとでも言う心算か?!」
「い、いえ。それが……。どうも物見の報告によると、敵に天馬騎士団が居る様で地上に気を取られている隙に城門が奪われたと……。」
「ば、馬鹿野郎?!何故それを先に報告せん!」
城に守備隊を結集させつつ、王城の軍議室は喧々囂々の有様だった。
襲撃の全貌が見えて来た頃には、既に王城以外の守りは殆ど突破されている。
「まさかドールドーラの天馬騎士団が参戦しているというのか?」
「いや、この旗なら義勇軍?では連中は独自にペガサスとガルムの育成に成功しているというのか?」
「ゲットクランに向かわせた騎兵団を呼び戻せ!間に合わなくてもやるんだ!」
「クソが!ここまで後手に回っては防戦すら侭ならんわ!
この上は城の全軍を以って義勇軍の前線を突破し、ゲットクランで再起を図る!
我々の勝算は最早そこにしかあるまい!」
――無かった。
〔ハウレス王都〕陥落時にマッケイン将軍が討ち取られた後は、アストリア王子が率いる義勇軍天馬騎士団が堂々と東部境界を往来して陸橋の進軍を開始。
その間に義勇軍の背後を突くため戻された帝国騎兵団も敗北しており、残されたゲットクラン防衛軍の士気は最低に等しく。
何より城塞内の住民が決起し、城門を固める事すら出来なかった。
〔ハウレス王国の四泊五日攻略〕。
後の歴史書にアレスの鬼才を讃えるエピソードとして語られる圧勝伝説は、住民達の歓喜の声で埋め尽くされて終わる事が多い。
だが史実の上では――。
「――は?クラウゼン城塞王国が陥落?漆黒騎士団が三日で?
で、ではリシャール殿下は?聖王国の第二王子殿は……行方不明、だと?」
一切宴が催された記録も、住民達の前で勝利宣言した記載も無い。
※本日より通常投稿再開です。結果的に6日間連続投稿になってしまった……w




