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ジュワユーズの救国王子~転生王子の胃痛奇譚~  作者: 夕霧湖畔
第二部 義兄弟で主導権譲り争い
55/159

41+1-2.間章 悪魔宮殿攻略戦2

※先日からお盆投稿を開始してます。昨日の8/9日金と合わせて間章前後話です。

 次回は12日~16日の5日間投稿となります。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 第四階層に到達すると、様子は一変した。

 というより。


「あ、あー。昔話はこっちに直接繋がってた訳か……。

 じゃあもしかしてこの宮殿って王様が掘り当てた方で、自作した分はこの四階層にあるって事なのかぁ……。」


 そこは大々的な発掘現場の残骸だった。

 広がっているのは広大な枯れた元地底湖、天井は無数の鍾乳石が下がっている。

 その壁一面に、無数の坑道が開けられてそこへ続く階段が削られている。

 一部は木製の階段だったようで、壁に無数の穴が刳り抜いてある。


 どうやらこの壁、階段にも金脈があったのだろう。階段にしては酷く歪な段差で壁を削り、他の坑道へと伸びていた。

 加えてその分岐は無理矢理という他無く、決して歩き易いとは言い難い。


 その全体像は正に金の亡者、金鉱脈に取り憑かれた者達の末路に相応しい。


 見渡す限りの荒れ果てた廃墟に、まるで当時の様子を物語るかの様にアンデッド達が徘徊していた。

 武装していない者は鶴嘴を持ち、まるで見張る様に武装した者達が歩き回る。

 その有様は、今も発掘を続けているかの様に錯覚する。


「さて、先へ進もう。こうなって来ると、逆に昔話の信憑性が増して来た。」


 殆どがアンデッドの一帯は敢えて【退魔陣(エクソシスタ)】を使わずに進む。

 敵が殆ど弱いのしか居ないので、今は調査を優先して魔力を節約すべきだ。若干僧兵バルザムが苦渋の顔をしていたが、必要性は分かっている様だ。


「崩落しているのか。という事はこれは他の出口は無いのかもな。」


「そうか?坑道なら沢山出口がありそうだが。」


「王様が黄金に取り憑かれたんでしょうね。これは恐らく人が塞いだ跡です。

 多分王様が金を勝手に持ち出さないよう、出入口を制限したんですよ。」


 成程、とタリーマンの指摘にスカサハが頷く。アレスの見立てもこれは魔術による破壊跡だと語っている。彼は決して目端の利かぬ騎士では無いのか。


(手綱を握れる者を付ければ、それなりに当てに出来るか?)


「アレスってさ、意外と人を使うの苦手だよね。

 全体像の把握と指示を出すのが得意だから誤解され易いけど。」


 アストリア王子の指摘に、自覚のあるアレスはぐぅと口籠る。元々アレスは自由人の側であり、人の上に立つのは向いてないと思っている。

 常に全力疾走で生きてるタイプなので、手加減も配慮も苦手なのだ。

 だが、出来なくはない。そして優秀だから、頼られる。自覚はある。


「人の上に立つ資質で一番重要なのは、人一倍優秀な事じゃない。

 人の資質を見極め、適切に仕事を任せられる事だ。」


 それはアストリアが一番得意とする資質だ。アレス以上に、人の上に立つための素養を全て持ち合わせ、十全に使いこなしている。

 ダモクレス王は、主人公であるアストリア王子が成るべきだ。


「でも、君の目的には自分が全権を握っていた方が都合が良い。」


「っ?!」


「理由無く打ち明けない訳じゃないってのは分かっているよ。

 私は必ず巻き込まないと不味いんだろう?」


「ッ……!」


「信じているさ。その時が来るまで待ってる。」


 言うが早いが、さっと距離を取って周囲の警戒に向かう。


「……ホンっと、厄介なんだよなぁ……。」


 自分の見えてないところが見える相手を適切に配置するのは、本音が読み切れないだけにやり辛い。

 アレスにとって、アストリアは全く頭の上がらない存在なのだ。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 昔話の王様が作った宮殿は見つかった。だが。


「小さいなぁ……。」


「ホントにねぇ……。」


 しかもこの宮殿と呼ぶのも微妙に憚られる洞窟、その正面玄関。

 ある意味で宮殿と呼べるのは、その神殿の様な玄関部分だけだった。


 上には空が見え、広い屋根が雨風を遮る。脇には水を貯める水路もある。

 だが肝心の居住部分は石を削った二階建て、しかも炊事場は玄関部分の二階にあるので、階段は大分広く一階玄関からも上がれるようになっている。


 その玄関部分から先の洞窟を削った部分。その半分以上は空っぽの倉庫だった。

 寝室と私室と思しき部屋は、殆ど何も残っていない。だが、普通の広さだ。


 古代の王様としては十分広いのかも知れないが、反対側の王家の者しか行けないと思われる倉庫が余りに広過ぎた。黄金を山積みに出来る様に、壁を削って多数の棚まで作って。しかし今は何もない。

 いや、黄金が置かれたにしては棚の強度が足りそうにない。ひょっとしたらこの棚は殆どが使われなかったのではなかろうか。


「これは酷い。」「酷いね。」「酷過ぎるな。」


 見るべきものは何も無いかと思ったのだが、不意に義賊クレイドールが壁を確かめ始めると、押した。

 壁が動き、隠し扉が現れる。


「「「…………。」」」


 全員嫌な予感がしつつ、中に入っていく。


 そこは武器庫だった。殆どが朽ちて、触れば崩れる程に錆びている。


「セーフ!セーフだよな?!」


 安堵して声を上げたのはレギル王子だ。だがアレスは沈痛な表情で首を振る。


「アウトです。そちらをご覧下さい。」


 朽ちてない武器が二つ。低確率でダメージが自分に返る《自滅の斧》だ。

 斧は寝台と思しき長方形の石の上に置かれていた。


「ご安心を、どちらも呪われております。」


 何があったんだろうね~?


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 第五階層への階段は無かったので、再び最初の整備されていた区画に戻る。

 こうなると一つ一つの坑道を確かめるのは後で良いだろう。何なら次の調査班に任せても良い。


 問題は昔話の宮殿側で、〔リビングドール〕が出現しなかった点だ。

 アレスはリビングドールが暗黒教団の産み出した秘術だと思っていたが、もしや違うのだろうか。もしかしてリビングドールは、此処で発見された秘術なのか。


 術式付きの宮殿側は、三階層よりも狭くなっている。ゲームでは五階層八マップになっていたが、ゲームに無い部分はあっても間違っていた事は無い。

 それは〔白蛇の大洞窟〕でも確認出来た事だ。


 であれば。この墓所が最深部である筈は無い。

 何故ならここは、あくまで第四階層の中心部でしかないのだから。


「そうか、ここのリビングドール達って要はミイラか。」


 種に気付いてしまえば簡単だ。ここに埋葬された人々は全て、生前の姿を可能な限り留めておいた上で透明な樹脂に似た固体で、棺の中に固められている。

 そしてリビングドールというのは、ここの死者達の複製がアンデッド化したものだったのだ。


「ちょ、待ってくれアレス王子!

 じゃあ何でコイツらは他のアンデッドと違ってその場で復活するんだ?!」


 辻褄が合わないとレギル王子は、今さっき倒したリビングドールを指差して抗議の声を上げる。


「ここに本体があるからさ。実際この場所は不自然なくらい魔力が濃いだろう?

 多分肉体を破壊したくらいじゃ、複製と本体との繋がりは切れて無いんだ。

 だから魔術的に繋がりを断つまでは本体を通して魔力が流れ続ける。そして魔力が一定以上溜まると本体の情報が送り出され、無傷の姿を上書きされるんだ。


 暗黒教団が用いたリビングドールはここから持ち出せるように、本体を直接アンデッド化させて【死霊魔法(ネクロマンシー)】で操っているんじゃないかな。」


 室内に溢れ返る異様な魔力濃度に、魔法への抵抗力が未熟な魔法使い達は幾人も不調を訴えている。墓所を出れば問題無いので、今の所帰還させるまでは至っていないが、これ以上濃くなる様なら帰らせるべきか。


 墓所に必要以上の魔力を溢れさせる意味は無いので、恐らくは墓所側にとって現状は想定外の筈。

 昔は〔魔力溜り〕を都市の守りに用いていたという話がアレスの脳裏で、今更ながらに思い出される。


「いやぁ。こうなると最深部に何があるか、段々見当が付いて来たなぁ。」


 因みに墓所の一部は露骨に棺が運び出された跡があり、暗黒教団はここまで到達していた事は確かの様だ。

 尤もゲームには無かったマップなので、アレスも下に降りる階段の場所までは知らないのだが。


「どういう意味です?私にはここが最深部に見えますが?」


「よっと。やぁ~っぱりココにあったか。」


 ヴェルーゼの問いに、アレスは論より証拠と見当をつけた場所を調べる。

 中心の大きな墓に見える石板の下が回転し、隠し扉とその中の階段が顔を出す。

 嫌な感じに推理が補強され、溜息が出る。


「アレス王子、分かっているのならもう少し詳細を教えてくれないか?」


「確信は流石に無いよ?単に今迄一番ありそうなものが無かっただけさ。

 そしてソレが何処にあるかを考えると、この下だろうなって話になるんだ。」


 メタ知識で五階層あるから、では無い。恐らくここが墓地の最深部なのは間違い無いだろうし、だからこそ此処が五階層である事にも納得してしまった。


「何かが足りない、というお話ですか?一体あなたは何を知っているので?」


 階段に罠が無い事を確認しながら、アレスは敢えて先頭を進む。万一に備えるのなら、この先を予想出来ている自分が一番対処出来るだろう。

 首を捻るヴェルーゼ等は、恐らく一度は必ず驚き反応が遅れるだろうから。


「ここまで来るともう、知っている事は皆と大差無いさ。

 ただ説明には大分困っているかな。そうだなぁ………………。」


 ここでふと、疑問を一つ投げかけて見たくなる。


「なあ、皆は悪魔と聞いて何を思い浮かべる?

 俺は今の今迄この世界に、悪魔なる生き物が居るとは聞いた事が無い。

 もし本当に悪魔が実在するとしたら。

 一体どんな代物だと思う?」


 扉が左右に開き、視界が光で埋め尽くされる。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 〔悪魔宮殿最深部・大心房〕。

 確かそれが最終マップの名前だった。封印の間じゃないのかとか、ココで悪魔を量産している等と、当時は随分思わせ振りな名前だと思ったのを覚えている。


 けれど今は違う。思わせ振りなのでは無く本当に心臓部であり、宮殿を維持するための中核が此処だったのでは無いか。

 本来此処には、誰も入り込んではいけなかったのではないかと、今は思う。



「敵か!」


 扉を開けた直後の視界に広がったのは今迄で一番広い部屋であり、無数の支柱が並んだ重厚な石造りの大広間。

 それも地面は凹凸だらけで、下は膝程の陥没が随所にある。よく見ればその形状が、城塞術式の一種であり、巨大な魔法陣だと分かるだろう。

 まるで道の様な凸部分は、要石の様な金属塊を中心に形作られていた。


 巨大な塊を玉座の様に寝そべる、異形の怪物がこちらを向いて大笑いする。


 部屋の中には見世物の様に凹みに蹴落とされる服も朽ちたアンデッド達と、鎧を付けて武器で蹴落とすアンデッド達。

 そして護衛するかの様に武器を構えた十数体のリビングドール。


【ウムダブルトゥ、LV30。嵐の悪魔。『不死身の紋章1』。

 『反撃、魔障壁、鉄人、ストームブレイク、風耐性、土弱点、連段』。】


 鷲の頭と翼に獅子の体、胸板から生えた様な人の胴体の一部と長さと種族の違う継ぎ接ぎの四本腕。それぞれの手に傷口を抉る残酷な武器を握る。

 人型に成り切れなかった悪魔が居た。


「な、何だあの化け物は。アレス王子はあいつの正体を知っているんですか?」


 余りに化け物染みた外見に怯み必死で奮い立たせるカルヴァン王子に、アレスは落ち着く様にと告げて前列に進み出る。


「いいや、皆知っているさ。

 アレの名はウムダブルトゥ、嵐の悪魔。」


 金という巨万の富にしがみ付き続けた王様は、墓所を見て何を思っただろう。

 己が必死で掻き集めた黄金を全て費やして尚も届かない、荘厳な墓の数々を。

 生前の姿のままに眠る、死者達を前に。


「墓所の人間が死した自分達を呼び覚ます筈が無い。墓所は安息を求める場所で、死後の幸福のためにある。

 墓所を維持する術式は、魔力溜りを無駄無く計画的に使った筈だ。

 暗黒教団はここに気付いてない。何故ならここは墓所の中枢、管理区画。整備の者以外は訪れない床下部分に相当する。

 ホラ、墓所の術式に干渉し、暴走させるとしたら。」


 醜く老いた老王は、どれ程の渇望を抱いただろう。


「黄金に溺れた、王の末路だ。」


 王は新たな生贄に歓喜し、嘲笑する。

 墓所の中核に溶け込み縛られ、部屋から出られなくなった己の。

 無聊を慰める者達の来訪に。


 舌舐めずりをして、嘲笑を止める。


「来るぞ!物理攻撃と風属性に耐性持ち、『魔障壁』があるが、土弱点!

 ボス以外は【退魔陣(エクソシスタ)】が効くが、魔力は節約しろ!」


「「「承知!」」」

 キェエエエエッッッッ!!!!!!


 空気を震わせる雄叫びと同時に敵味方が走り出し、アンデッド達以外の戦士階級は後方で様子を見ている。

 『霊体』スキル持ちのゴースト達は魔法を使うが、部隊に配備された〔銀武器〕の間合いには入って来ない。


 流石に弓兵部隊に〔銀の矢筒〕を安定支給出来る程の持ち合わせは無い。

 アンデッドに知性は無いに等しいので、ある程度集まったところで【退魔陣(エクソシスタ)】を使って一掃する。


「鎧を着ている連中はやっぱりリビングドールなのか?」


「ああ。まあ普通に強いが、目立つほど特別なのは居ない。

 スカサハはそっちの掃討に回ってくれ。俺とレフィーリアが切り込むから、ヴェルーゼ皇女には援護の方を。」


 『鉄人』スキルは物理ダメージを半減する。スカサハならそれでも削り切れなくは無いだろうが、【封神剣】による防御無視攻撃の方が有効だ。


「アンデッド達が半壊しているのに、後ろの連中は近寄って来ませんね。

 一体どういう心算なんでしょうか?」


 身体能力任せなら既に歴戦の義勇兵は、問題無く対処出来る。

 このまま何もしなければ順当に完勝出来そうだ。


「何、そう難しく考える必要は無いさ。

 連中はあくまで死霊、人の知性を残している訳じゃない。」


 だろう?と一旦交代したレギル王子に、でしょうねとヴェルーゼが肯定する。

 二人の王子達はバルザム共々、リビングドールの方を受け持ってくれるらしい。

 バルザムはともかく二人が挑むなら相手を譲っても良かったのだが。


「焦る必要は無いさ。ここはダンジョンなんだ、それなりの強敵なら当分困らないだろう?」


「そりゃそーだ。」


 肩を竦めて後衛に合図を送る。一斉に魔術が放たれ、死霊達が弾け飛ぶ。

 開けた道を突っ切り中心へと走り出せば、アレス達を遮ろうとした死霊騎士達にバルザムと両王子が先手を打って足を止めさせる。


「【中位竜巻刃(ディストルネド)】ッ!!」


「え?」

 ウムダブルトゥが呪文を唱えると同時にヴェルーゼが脇を走り抜け、『魔障壁』を叩きつけて竜巻を真っ向から弾き飛ばす。


「足を止めずに!」

「ああっ!」


 流石にたたらを踏む程度に弾かれてはいるが、作ってくれた隙を無駄に出来ないと剣に【魔力剣】を宿らせての刺突を伸ばす。

 ウムダブルトゥも武器を叩きつけて弾こうとしたが、形状が残忍な分一撃の重みは体重を載せたアレスより遥かに軽い。脇腹を抉られて痛みに悶える。


「流石に重いか!」


 巨人程では無くとも比べるなら獅子にも熊にも引けを取らない巨躯の獣、大男と言うには異形過ぎる体躯。突き飛ばすには至らず反撃を躱して眼前で構え。

 レフィーリアの【奥義・封神剣】が下腹を切り裂く。


「普通の魔物ならこれで終わるんだけどね!」


 金切声の様な衝撃波が距離を詰めようとしたアレスへを放たれる。


(『ストームブレイク』か!思ったより出が早い!)


 風属性の魔力塊が渦を巻いて飛び退いたアレスの脇を掠める。

 もう少し遅ければ【魔王斬り】で断ち切りそのまま切り込めたのだが、既に二人はウムダブルトゥの間合い内。同時に振り下ろされた刃は軽いが早い。


 軽い反撃は容易いが、二人で囲んですら向こうの手数は多い。何より三日月形の刃やら抉る形の刺突剣やら、武器としては軽い分受け難い形の物しかない。

 守りに徹すれば凌げるが、反撃をするには手数も多い。


「【下位石礫(クラッシュ)】ッ……【下位石礫(クラッシュ)】!」


 二人が弾かれた間隙に合わせ、ヴェールーゼの石礫が続け様に射出される。

 下位魔術だろうと弱点属性の『連撃』は流石に堪えたのか、ウムダブルトゥの巨体がぐらりと傾き、その隙にアレスはレフィーリアと頷き合って揃って飛び退き。


「「【中位砂嵐鑢(ディスディザルド)】ッ!!!」」


 左右から砂嵐の渦が挟み込んで異形の全身を逆回転で削り続ける。

 動きを封じられた体躯が大きく曲がり、次の瞬間渦を突き破って飛び跳ねる。

 それは唯一の純粋魔術師であるヴェルーゼの方角だった。


「なっ!く、鎖?!」


 ウムダブルトゥの跳躍は届く事無く、首輪に引きずられる様に要石へと引き戻されていく。それが彼の悪魔の意に添わない事は抵抗する様から明らかだ。


「これなら敢えて近付かず、魔法だけで済ませた方が良さそうかしら?」


 流石に『ストームブレイク』の射程が魔法より短い事は無いだろうが、複数人で応じればどうとでもなる。

 だがアレスは、それより先に走り出して担ぐ様に構えた剣に魔力を収束させる。


「いや、その必要は……無い!」


 地属性の魔力によって質量を疑似的に増幅された剣で、一時的に音が消失する程の集中力を発揮しながら斬撃で弧を描く。


(魔剣技はスキルと両立出来る。なら【破壊剣】と【奥義・封神剣】の同時使用も理論上は可能だと思ったが……。)


 深々と下腹が血飛沫を散らし、止まらぬ流血と共に巨体が倒れる。

 破壊剣は土属性の物理斬撃、防御貫通と合わせれば既に大分ダメージの蓄積した相手なら倒せると踏んだのだが。


(成程、奥義スキルと魔剣技の併用は単純に肉体的な負荷が大きいのか……。)


 全身に痺れる様な衝撃が伝わっており、倒せたから良かったものの今はスキルを狙って発動させる事すら難しい。


「ああ、そりゃそうか。流石にあれだけ喰らって掠り傷な筈も無いわね……?」


 不意に漂う謎の気配と共に、要石の上に人影が現れる。

 人影は両手を天に掲げて、半裸に近い装いで胡坐を組んでいる。


「なっ!一体あれは?!」


『最も貴き血を捧げよ。さすればこの嵐は収まるであろう。』


 脳裏に直接語り掛ける様な声が響き、要石の後方の隠し扉と思しき壁が開く。

 扉の奥から百を超すゴースト達が、何故か様々な農具を持って現れた。


「ッアレス王子!」


 悪魔に止めを刺したアレスは誰よりもゴーストに近く、誰かの声で我に返るも既に近過ぎると武器を構え。

 ゴーストはまるで武器が見えて無いかの様に一斉に迫り。


 武器にぶつかった挙句、邪魔そうに睨みながらアレスを()()押し退けた。


「あ、ゴメン?」


 理解が追い付く前にゴースト達は一斉に農具を振り上げ、次々とウムダブルトゥへ叩きつける。痛みに悲鳴が上がるが誰も辞めようともしない。


『げぼら!ぎゃあ!何をする貴様ら!ワシを誰だと思っている!

 だ、誰かワシを助けろ!』

 一人が鎖を引っ張ると嵐の悪魔から首輪を付けられた老王が引き摺り出され、鷲と獅子が只の獣の姿で分離する。

 獣達は調教師と思われる者から餌を与えられ、王の脇で寛ぎ始める。


『だ、駄目だ駄目だ!この財宝は儂のだ!絶対にやらんぞ!』

 老王が抱える宝箱を農夫達が無理矢理に奪おうとするが、全身で抱え込んで全力で抵抗する。それこそ年甲斐も無く駄々をこねる様に。


『あ、こら!引き摺るな!黄金と命?黄金に決まっているだろう!

 あ!キサマ!要石に杭を打ち付けるな!うるさい!玉座より金だ!』


 ゴースト達が黄金を奪うのを諦めてる間に杭の固定が終わり、四本腕の人影へと頭を下げてゴースト達が立ち去っていく。

 当然ながらアレス達には目もくれず、邪魔にならなければ気付きもしない。


『くそ!出せ!杭が抜けん!ワシを舐めるなよ!

 ワシとて血で魔法陣を描けば地脈の流れを乱すくらいはッ!?

 待て、お前達、何故ワシを襲う?飼い主が分からんのか?

 ぎ、ぎゃあ!待てマテ!ワシは餌じゃない!餌なんてない!コラ、止めろ!

 ワシから黄金を奪うなぁぁぁぁあああああああああ!!!!』


 叫んでいる間に魔法陣が輝き、光が弾けて膨大な魔力が全てを呑み込む。

 一連の光景が流れ終えた後、転がり落ちた宝箱に噛み付いていた老人の頭が潰れて砂の様に崩れ落ちる。風の渦となって散っていく。


『キサマは黄金への執着を捨てぬ限り、未来永劫財宝を奪われ続けるであろう。』


 声が響くと、人影が消えた。

 後には砂になっても床に模様の様に残っている老人の顔と、宝箱があった。


「「「「「…………。」」」」」


「えっと。【財宝発見(ゴールデンハンマー)】。」


 反応があった。どうやら今回のダンジョンはこれが最後の一つの様だ。

 恐る恐る近付き罠の様子を確認するが、老人の顔が要石に引っ張られていく他は特に異常が無い。中身は〔金銀財宝〕で間違いなかった。


 念の為隠し扉の方も調べたが、反対側から埋められてる事が分かった。


「……考えてみれば、何十年も金が枯れてたら若い世代が従う筈も無かったね?」


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 余談だが。

 如何に〔悪魔宮殿〕で一同を鍛え上げるかという口実を考えていたアレスの苦労は無駄に終わる。初回とはいえ本当に財宝を持ち帰ったからだ。


 結果最低一月の駐屯と各国交代、或いは合同での調練が決定。

 義勇軍は東部の安定と調整に努めつつ進軍計画を整え、その間に隠れ里の調査と開拓に乗り出す事となった。


 尚、宮殿ではウムダブルトゥが出ない限り〔金銀財宝〕は出ないと判明した。

 再復活時は弱体化しており、最後の光景も王様の首以外は省略されていたが毎回微妙に残す台詞が違う辺り、当分反省の目はなさそうだ。

※先日からお盆投稿を開始してます。昨日の8/9日金と合わせて間章前後話です。

 次回は12日~16日の5日間投稿となります。


 黄金って怖いね~。というお話w

 前編の展開でオチまで予想出来た人はまさかおるまいw



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