41+1-1.間章 悪魔宮殿攻略戦
※本日からお盆投稿を開始します。最初は8/9日金~/10日土曜投稿。
間章前後話です。
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東部第二ダンジョン〔悪魔宮殿〕。
昔々、貧乏ながら長閑な小王国が近くの山で金鉱を発見されると、俄かに大金を手に入れて生活を一変させる者達が急増。
多くの者が田畑を捨て、一攫千金に鎬を削る様になった。
黄金熱は国中を包み。中でも王様は国家事業として発掘に乗り出し、遂には古い小さな王宮を捨てて最も大きな金脈の採掘跡を宮殿に変えて移住し、一年中採掘し続ける程の熱中振りだった。
やがて金鉱が枯れてもその熱は容易に収まらず、王様は民を力尽くで発掘に駆り出して強引に採掘を続けた。
捨てられた田畑は荒れ、民が飢え始めても採掘は続けられ、やがて国を捨てる者すら現れても王様は発掘を止めなかった。
そして遂に地の底を掘り当てた王国は、地中に閉じ込められた悪魔を掘り当ててこれぞ財宝かと即座に封印を抉じ開けた。
解き放たれた悪魔は積年の恨みを彼らの身で晴らし、国中の住民を手当たり次第に八つ裂きにしてしまう。
こうして黄金に取り憑かれた王国は滅び、宮殿は悪魔の住処となり。
やがて人々にこう呼ばれる様になる。〔悪魔宮殿〕――と。
「とまあこれが各地に伝わる〔悪魔宮殿〕の昔話な訳だ。」
ゲームではもっと省略されていたが、東部では有名な昔話として伝わっていた。
欲を掻き過ぎると碌な事が無いという教訓話なので大人達が忘れているのも別におかしくは無いが、目の色を変えるとは思わなかった。
「何を言われるアレス王子!これは考古学的に貴重な発見ですよ!
失われた歴史の真実が今、我々の目の前にある!
皆がこれに心を躍らせるのは当然でしょう!」
ダモクレスへの亡命騎士タリーマンが、回廊中に声を響かせて喜びを体現する。
彼は受勲直後の休暇で宮殿の位置を推定して調査に赴いて、そのまま暗黒教団に囚われた典型的なダメ学者の様な男だ。
本来であれば身元を引き受ける義理も無いのだが、根は真面目なのは間違いなく何より彼の家族は優秀な騎士一族だという。
流石に不憫なので、彼らの為に情状酌量の余地を残したいと元主君カラード東南候に頼まれ、人手不足なのは事実なダモクレスで引き取る事になった。
「言っとくけど今回の調査が終わったら、君は当分書類整理だからな?
重要案件を任せるには流石に信用が足りないから。」
そんなと悲鳴を上げるが、正直初回の調査に同行させなかった場合、独断で遺跡に侵入される事を警戒したからだ。その場合問答無用で処罰するしかない。
適材適所というのは義務を果たした者に使うべき台詞だ。
出世しないと遺跡に入る許可が下りないからと、特権を手に入れた途端責任を投げ捨てる奴は只の自己中だ。そしてヤツは、既に前科がある。
騎士受勲は所謂頭金、騎士の数と行いは国の威信に関わる一大事。勝手な行動の罪科は他の身分より重くなる。これに同意した者だけが騎士になれる。
職責を果たすためにクラスチェンジが認められるのだ。クラスチェンジした途端失踪するのは契約金の持ち逃げに等しい。
後騎士は基本武力の象徴なので、捕縛されたのも割とアウト。
この辺を念入りに言い聞かせた上で、今回の同行を許可したのだが。
「……弱くは無いんだな、コイツ。」
「ああ、だから厄介なんだろうな。」
ハイクラスに昇格するにはステータスも重要だ。分かってはいたが、正直微妙に納得がいかない。ダンジョン内の実態が分からないので、この場にはウォルリック王討伐の時以上の少数精鋭で構成した。
彼らと比べると流石に見劣りするが、一流の騎士なのは間違いなかった。
「出たぞ、アンデッドだ!
【退魔陣】ッ!!」
ぶっちゃけ〔悪魔宮殿〕はハイクラスの神官隊を連れていれば基本苦戦しない。
出現する敵は基本アンデッドか主無きリビングドールであり、稀にゴーレム擬きや魔獣が出現するだけだ。
ゲームでは盗賊も出たが、流石に現実では出て来ない。
「あ!教団の残党だ!逃がすな!」
勿論今みたいな例外はあるが。
「しかしこれなら主力総出で来る必要は無かったかもな。」
割とする事の無いスカサハがタリーマンが記載している地図を覗き込みながら、詰まらなそうに肩を解す。
因みにアレスが見ているのは暗黒教団で保管されていた地図だ。移動方向はこれを参考にしながら決めている。お陰で殆ど迷いそうにない楽な仕事だ。
「問題はウォルリック王みたいな〔リビングドール〕が居た場合だからな。
油断して全滅しました、じゃあ何の情報も入らんし。暗黒教団はダンジョン全てを制覇した訳じゃない様だしな。」
「長年ここを拠点としていたんだろう?」
「暗黒教団が力を持ったのは帝国が建国されてからだ。
王家と違って血が濃過ぎると《紋章》の継承すら一苦労だからな。ハイクラスに昇格出来るのも一握りだったみたいだな。」
ここが隠れ里という事もあり、教団の歴史を綴った本は意外な程沢山あった。
彼らはここで子供を育て教育を施していた様で、まあはっきり言って洗脳教育の見本という内容だった。更に彼らは、各地から孤児を拾い集めて教育していた。
酷い目に遭った子供なら、恨み辛みを世間に向けやすいという事だろう。
今の話も世の中の無常を如何にも教団の教えが廃れてからの話の様に、散々脚色された子供向けの歴史書にも記されていた内容だ。
地味に苦労話が多いのは、教団の本音というか愚痴が混じっている所為か。
大人向けの歴史書にはもう少し詳しく、各地での暗躍振りも含めて色々と記載されていた。この辺は諸侯達と共有する予定だ。
近代の話は機密として扱われているので、下手に後で漏洩して脅迫に使われるよりマシだろう。ここには彼らにとって、隠す程でも無い事実しか載ってない。
「まあだから教団の本拠地も帝国のある〔西部〕地方で間違いないだろう。
少なくとも一般幹部の認識ではそうなっているな。」
只の里山だった事もあり、隠されている情報は少ない。ここで手に入った数々の資料は、教団の実態解明という意味ではかなり役に立つだろう。
「アレス、この里には子供も暮らしていたんだろう?彼らはどうなったんだ?」
義兄アストリア第一王子が、隠し通路や罠を探るアレスに声をかける。
推奨LVにはギリギリ足りないが、今の立場で兄弟が揃う機会は貴重だ。パワーレベリングを兼ねて同行して貰った。
「まあ親と逃げるのは見逃しているからね。里を捨てた連中は落ち延びた筈さ。
機密の確保は元々【転移魔法】があるから完全には無理さ。」
最初に制圧して確保したのは人質達を捕らえた建物だけだ。最初から森に逃げた連中は放置しているので、壊滅したのは文字通り教団の戦力だけだ。
「じゃあこれは結構残っていた方なのか。
女子供に老人達は逃げて貰った方が都合が良かった訳だ。」
正直言うと、思った以上に殺意高くて抵抗が激しかった。
教団の性質上、逃亡を優先すると思ったので人質を最優先に最短で重要人物の確保を目指したのだが、その辺は当てが外れた形だ。
「……意外と罠の類は残っているな。」
アレスの疑問にタリーマンは頷きを返し、復元したんでしょうと答える。
「ダンジョン内の罠の位置は毎回若干ズレるんですよ。空間が歪んでいるので。
ダンジョンは階層自体は短期間で大きく変化はしませんが、長年放置していると歪みが広がって徐々に巨大化するんです。
そう言う意味ではこのダンジョンは、適度に間引きされた状態だったと言えるでしょうね。階層の多いダンジョン程敵は強くなります。」
帝国にはダンジョンがあり、研究もそれなりに進んでいる。
ヴェルーゼが失われた回復魔法を見つけたのも、そうした研究済みダンジョンの一つだったと聞いている。
「ダンジョンは何で出来るんだ?」
「〔魔力溜り〕と呼ばれる自然の魔力が蓄積する場所があり、空間が歪む程に魔力が蓄積された場所をダンジョンと呼んでいる、というのが正解です。
ダンジョンの違いは歪んだ場所と、蓄積している魔力の性質に影響されます。
出来た後の共通点はありますが、原因は様々です。」
それこそ古代の魔法研究の失敗だったり、偶然の産物だったりと色々な理由があるので、一概に断言出来る原因は無いらしい。
「じゃあ何で古代遺跡に多いんだ?」
「それは昔は〔城塞術式〕に魔力溜りが用いられたからです!
結界術式の魔力に土地の魔力を使うより、魔力溜りの魔力を使った方がより強大で優れた防御術式を用意出来ます。
更に魔法研究のために、魔力溜りの魔力を使えるというのも大きい!
但し常に一定量の魔力を消費する必要がありますので、加減や調査を間違えたりすると大惨事になり、費用が足りなかったからと後でケチる事も出来ません。
加えて長年の戦火や浪費で魔力溜りの数も減っており、経済も昔より強い。
昔ほど魔力溜りを使った都市建設は、今の世では好まれなくなったのです。」
嬉々として話に割り込んで来たタリーマンの言葉を、視線でヴェルーゼに確認を取る。どうやら知識面では本当に優秀らしい。
本当に性格だけが残念な様だ。後は金銭欲がどの程度かによるが、思ったよりもダモクレスと相性は良いのかも知れないと、アレスはひっそりと安堵した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「おっと。ここに多分隠し通路があるな。
皆ちょっと警戒してくれ、今から解錠を試みる。」
「アレス王子、ここは俺に任せてくれ。」
「ヤダ、開けたい。」
「ヤダってアンタ……。」
呆れた声で下がったのは義賊クレイドールだ。正直相手がグレイス宮廷伯だったら素直に譲っただろうが、ここは暗黒教団の潜伏地。大丈夫だとは思っているが無条件で信用する訳には行かない。
ゲームとは違い人質は解放されたとはいえ、彼は恐らく暗黒教団に情報を流した張本人だ。一人とは限らないが、今信用するのは早過ぎる。
少なくともこの場で貴重品の管理を任せる心算は無い。
「ひょー!ふはははは!これで終わりだ!
我が前に正体を現すがよい!」
「楽しそうだなアレス……。」
おっと、ちょっとはっちゃけ過ぎたぜい。
開いた扉の先には、数十体の魔物達の影がある。ここはゲームにもあった隠し部屋だ、皆に合図をして先陣を切って貰い、真ん中辺りで後に続く。
流石に自分が真っ先に入らない程度には自重してる。
「おいコイツさっきも見たぞ?
リビングドールって言うのはゴーレムの一種なのか?」
「まさか!これがダンジョンで魔物が尽きない理由だよ!
っと。ダンジョンでは中で死んだ者の肉体が複製される事があるんだ。
その期間は死者が長く放置される場所ほど確率が高まる。後は、元々魔力が高い魔物も複製され易い。
最初に攻略した時にしか出ない魔物が居るのは、元々複製され難い生き物か複製される程長くいなかったからさ。」
全てを【退魔陣】で消滅させると敵の強さが分からない。似た様な雑魚敵以外なら、初回調査の時には可能な限り戦っておいた方が良い。
現れたリビングドールを切り伏せると、死体は砕けずに〔銀武器〕を落とした。
「敵が財宝を落すのも、その複製って仕組みのせいか?」
「今の例は希少ですね。多くの場合は元々現地に残っている物です。
ですから初回以降は殆どの場合、財宝を落さなくなります。
逆に何度も財宝が手に入るダンジョンは要注意ですよ?少なくとも浅い階層では強い魔力を持った存在は複製されません。」
「ま、こっちの財宝は普通に初回物で間違いないだろ。
〔魔導書〕の類は本来、複雑過ぎて複製されないものの一つだ。」
室内には砦の様に台座が柱で囲まれており、中心の台座に置かれた宝箱から中身を取り出すのも一苦労だ。宝箱には当然の様に罠があったが、アレスは《シーカーリング》という探索技能を使える様になる非売品装備を持っている。
解体は然程手間取る事無く、中の魔導書【財宝発見】を手に入れる事が出来た。
「おっしゃ。これならすぐ使えるな。」
「ちょ、そんな見つけた魔導書を直ぐ使うなんて!」
「ふははは、これはどんな物か知ってたからな。
でなきゃ直ぐに契約なんて出来ないって。」
魔導書の中の魔法陣に手を添えて魔力を送り込むと、術式が起動して魔法陣の形状を魔術師の体内に複製する。
これが〔契約〕であり、魔法を習得するために必要な手順だ。全ての魔法は体内に術式を写し取って初めて使える様になる。
実は術式が何処に刻まれているかは厳密には分かっていない。単に脳裏に詳細を思い起こせる様になるだけで、実は暗示の類だという学者魔術師もいる。
どのみち確かなのは、術式を理解出来ない魔法使いには魔法を習得出来ない。
後クラス条件も必須なので、クラスチェンジが魔法を覚えるための前提条件だという者もいる。その程度には詳細が不明なのだ。
実際この仕組みを利用して《呪い》をかける事が出来るので、本当なら〔契約〕は慎重に行う必要がある。
「それで一体どんな魔法だったんですか?」
「特殊魔法【財宝発見】。」
聞いていた魔法使い達が一斉に噴き出した。
「ちょ、遺失魔法じゃないの!何でそんなもん知っていたのよ!」
「断片だけは解読されたヤツを聖王国で見せられた事があるんだよ。
そいつから現物がある場所の候補がここだって聞いていたんだ。」
聖王国に潜入していた時に出会った魔術師に〔悪魔宮殿〕の実在を熱く語られた事があったのだ。ゲームでも本当に悪魔宮殿にあると知っていたアレスは、偶然とはいえ彼と親しくなれた幸運に感謝したものだ。
「ほ、本物なんですかそれ!」
「そんなに凄い魔法なんですか?名前はダサい気がしますが。」
あ。魔法使い達に一斉に蹴り飛ばされた。
そもそも遺失魔法というだけでも凄いのだと喧々囂々と抗議されている。
尚。【財宝発見】とは。
同マップ内で入手出来る、未入手財宝の数が分かる特殊魔法だ。
メタ的には敵が落とすアイテムも分かるが、隠しアイテムがある場合や入手し損ねたアイテムにも気付く事が出来るのでプレイヤーにはとても重宝された。
尤も実際にはそこまで広範囲に効果も及ばず、精々ダンジョンでは一階層に限られるという程度だ。多分生物が所持している物はカウントされない。
ちな特殊魔法というのは未分類の魔法という扱いであり、実際には攻撃魔法だったり補助魔法だったりと本当の分類は様々だ。
単純に体系化されていない魔法、と言い換えても良いかも知れない。
【転移魔法】も分類は特殊魔法扱いの補助魔法だ。
実はアレスにとって最大の目的はこの【財宝発見】にあった。これさえあれば他はそこまで困る物は無いので、後はダンジョンボスを倒すだけで良い。
内心の思惑はともかく、既に大分時間が経過したのでそろそろ周りにも休息を提案すると、特に反対意見も出ない。
室内に天幕を設営し始めると、見張り以外には弛緩した空気が流れる。
「しっかしここ、元坑道にしては随分沢山部屋があるよな。」
誰かの呟きにアレスはふと、そう言えば確かにと首を傾げる。
「そう言えば確かに多いですね。坑道は大して見当たらなかったのに。」
同じ天幕内で資料を整理していたヴェルーゼ達にも外の軽口は聞こえたらしい。
調査を主体とした探索は、必然的に各部屋の待機時間が長くなる。雑談も増えるのだが、言われると気になるくらいこのダンジョンは部屋が多かった。
元が鉱山を改装したとは思えない程の数があり、一つの階層が一部屋では無いとはいえ、少々奇妙に感じた。
「まあ単純に坑道部分はもっと下なのでは?
地図によると精々今半分くらいですし。」
「というか、何の用途の部屋だ、ここは。」
「「「ッ?!」」」
そうだ。スカサハの呟きで違和感の正体に気付き、ダンジョンに知識のある者達が顔を見合わせる。ダンジョンで複製される部屋は、元々の建物の形状が変形したものだけだ。形状が歪む事はあっても、存在しない部屋は増えない。
「ちょっとそっちの地図も見せてくれ!」
「は、はい只今!」
煉瓦で出来た壁と、殆ど何もない室内。そして数々の柱。
炭鉱とは思えない程に整えられた通路。脇道の様に続く発掘跡。
「……これはまさか。」
「ああ、間違いない。昔話は、全てを語っている訳じゃない。」
菱形の中に円形の中小部屋。下に進む程狭くなる階層。
これは〔城塞術式〕の一種だ。暗黒教団の地図では隠し部屋が埋まらないから、本当の形状が出て来なかった。
ゲームではダンジョンの大半は簡略化され、省かれている。
少なくともこの形状は、単純な洞窟の補強を目的とした〔城壁術式〕では有り得ない。もっと複雑で、この場の全員が知らない未知の術式だ。
「〔悪魔宮殿〕の名前、別の意味に聞こえてきそうだ。」
どうやらこの宮殿、昔話よりも複雑な裏事情があるらしい。
※本日からお盆投稿を開始します。最初は8/9日金~/10日土曜投稿。
間章前後話です。
ダンジョン編です。完全にダンジョンに潜るだけのお話です。
一歩間違えれば来た見た勝ったになりかねない展開で如何に盛り上げるかに挑戦してみました。その分文字数よりも今回は展開重視となっております。
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