41.終章 玉座は押し付け合うもの
※来週からお盆投稿を開始します。最初は8/9日金~/10日土曜投稿。
間章前後話です。
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隠れ里制圧が終わった翌日。里の建物を使って休息を取った義勇軍は撤収の準備と並行して、教団の調査のための駐屯準備も進めていた。
アレス自身としてはダンジョンのある此処に、何としても駐屯地を確保したい。
だがそれはアレスの展望であって、義勇軍全体の意思では無い。
場合によってはダモクレスで確保するのもアリだが、何だかんだとダモクレスだけが領土を広げる様な事態になっては後が困る。
なので代案が必要だ。出来れば義勇軍に協力的な勢力に譲渡し、砦の設営や開発を対価としてのダンジョン使用権の確保が望ましいのだが――。
「そうそう都合良く事が運べば良いんだけど。」
密偵隊は昨日の内に調査班を残し、グレイス宮廷伯共々各地に散開している。
実際密偵隊は自分で管理しなければ物凄く便利だ。調査の類に必須で事務仕事も出来なければ務まらない。役目柄身分も高過ぎない。
他所の権力者の集まりに置き顔を覚えさせるのも、手の届く場所に置くのも無用なトラブルを招く原因になる。無論苦労を掛ける分、小まめな労いは必要だが。
「それで、今後の予定はどうするお積りで?」
会議前にアレスの元にはヴェルーゼを含めた数人が、基本方針を聞くために食事の時間を利用して砦の一室に集っている。
この場の面々だけは特別扱いだと諸侯も理解している反面、表向きは特に文句を言う事も無い。事実上のアレスのブレーンだと承知しているからだ。
因みにここに新しく剣姫レフィーリアも加わった。
本人連れて来られたのが予想外だったらしく、顔色が悪い。連れて来た張本人のスカサハはゲラゲラと遠慮無く笑っている。
「今日に限って言えば調査と手配で終わるだろうな。問題は対帝国戦線だ。」
「ふむ。一度も戻らずに長期調査を始めるのは不可能でしょうね。」
先ず国境際の帝国戦線を片付ける。それが出来て初めて次の方針が立てられる。
だが国境際の戦線を片付けるという事は、義勇軍である以上その先に進む義務が生じるという事だ。準備は良くても停滞は許されない。
「暗黒教団への対応は重要だし、このダンジョン〔悪魔宮殿〕を利用すれば全体の戦力向上が図れる。本音を言えば一ヶ月はここに駐屯したい。
あと港も作っておきたい。そうすれば主力だけを優先する事も出来る。」
「おいおい。町を作りたいくらいの勢いだな。」
スカサハの軽口も実際馬鹿にならないのだ。港を作って収益が上がらないのも、長期的な維持を考えると困る。まあその辺は夏の交易の中継地点として宿を管理する方針で行けばよいと思っているが。
「つくづくダモクレス中心に進めたくなる計画ですね。
他国に任せると利権が面倒過ぎる。利益が出るかも微妙です。」
だがダモクレスが交易船を出すなら解決する問題だ。これ以上ダモクレスが一人勝ちするのは本当に困る。今やダモクレスは点と点が随所で繋がり、経済力だけなら東部の大国にも匹敵しかねない急成長を続けている。
「だが中央帝国軍はハイクラス部隊が中心だ。それも長年戦い続けている分聖王国陥落時より全体LVが上がっているのが報告されているよ。
下手したら騎士団単位がブリジット将軍に匹敵するレベルかもね。」
全員から溜息が出る。アレスがダンジョン攻略で全部隊を鍛え上げたい理由が心から納得出来てしまう。だが中央部への進軍は、義勇軍の結成理由であり悲願。
進める状況下で長々と放置すれば結束が緩む。
「まあこればっかりは実際に他の諸侯の気持ちを確認せずに、方針が立てられないかも知れないな。
明日人質達を輸送する序でに、対帝国戦線の様子を見て来る事になると思う。
俺以外の主力はこっちの調査に残す形を取ると思うから、その心算で宜しく。」
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世の中には、下手な考え休むに似たりという言葉がある。
「やあアレス、朗報だよ。ワイルズ王指揮の元、ワッケイ城を奪還した。
詳細はこの報告書に書かれている。という訳で、皆さんもこちらを。」
わぁい★悩みの一つが問答無用で解決してしまったゾ?
待てマテ、その前に先ずは冷静に状況を分析しようじゃあないか。
現れたのはダモクレスの第一王子アストリア。今は対盗賊戦線部隊を引き連れた新兵中心部隊の総指揮官としての報告だ。
どうやらアカンドリ制圧前後で帝国戦線と合流して協力し、そのまま本隊と合流するためにここまで来たらしい。
「取り敢えず義勇軍別働隊としてはここで一旦解散って事で良いかな?
多分輜重隊側に回る部隊もいるだろうし。」
「ああ、皆さんもそれで問題ないですか?」
「ちょ、ちょっと待った!先にハーネルの件を詳しく報告して貰いたい!」
アレスの問いに我に返ったコラルド王の叫びに、諸侯達が揃って頷いた。
「と言われましても。我々としては新兵として盗賊退治を終えた後に、改めて第一王子としての立場をハーネルに表明しただけですよ?
元々ダモクレスはハーネルの王権介入を認めていません。それをマリエル女王の同意の上で先代ハーネル王にも宣言いたしました。」
「いやいや!じゃあこの先代ハーネル王の転落死ってなんだ!」
その言葉に、新兵隊諸侯の視線が揃って四方に飛ぶ。
「「「……転落死は、転落死としか……。」」」
「報告を読む限りでは謀略の気配しかしないのだが?!」
「いやあ、本当に何であのタイミングで落ちるんでしょうね?
せめてマリエル王女が論破するまで待ってくれれば話が楽だったのに。
……っておい。アレス君?その手はどういう意味かな?」
「分かるよ、その気持ち☆」
「ははは、生憎次期ダモクレス王の心労には適いませんとも。
そろそろ一旦故郷に顔を出して、即位式でも上げてくれない?」
「はははご冗談を。何でもそつなく過不足無くこなす優れた長兄がいるというのに何故瑕疵も無いまま蹴落とさねばならんのです?
いい加減諦めて即位して頂けませんか第一王子殿下?」
黒い笑顔で額を突き合わせ笑い合う義理の兄弟を前に、諸侯達は事前の想像とはかけ離れた態度に動揺を隠せない。
「二人ともそこまで。先程から待たせている客人が居るのを忘れていませんか?」
「おっとこれは失礼。身内話ではありますが、先程の件は今後の展望に関わるものでして。お待たせした事を先ずお詫びさせて頂きます、ネルガル殿。」
ヴェルーゼに促され、慌ててアレスは対面に座るバードマンの若長に向き直る。
実際対帝国戦線には彼らの参戦を依頼して、劇的な参戦を演出しての友好関係をアピールして貰う計画もあった。だからこそ最新の情報を優先したのだが。
「いや、問題ない。ある程度そちらの人と成りも知れたしな。
改めて自己紹介させて頂くが、翼人族の若長ネルガルだ。バードマン傭兵団の長も務めている。」
「は!戦場のハゲワシ共が何を抜かすか。
ここは金さえ貰えればどんな悪事でも働く貴様らの来るところでは無い!」
「ッ!」
「あ、その問題は解決しました。元凶が正にココなので。」
「「「…………。」」」
ぶっちゃけ敢えて空気を読まなかったぜ!一種即発、差別意識モロの集団で感情的じゃない対話なんて出来る訳無いよね!
「いや、あのな?アレス王子は北部ゆえ知らんかもしれんが……。」
「私が下調べ本当にしていないと思います?」
「い、いや。そこまで言わんが。」
「種族分けするとアカンドリと暗黒教団も参考資料ですけど大丈夫?」
「……酷くない?」
拳の振り上げ所を失い諸侯と一緒に、若長ネルガルも顔を見合わせて嘆息する。
実際問題バードマンは元々数が多くないため、近隣国と敵対したらそれだけで苦しい。なので傭兵として周辺国に雇われる事で、政治的な後ろ盾を増やしていたという裏事情がある。
しかも空を飛ぶ種族なので対策を用意していないと結果が一方的になる事も多くあり、外見的にも目立つため他より恨みを買い易い。
真面目な話戦場以外で略奪を働く程、彼らには戦力的な余裕が無いのだ。
「いや実際調べた限り、傭兵団としての活動は大分行儀が良いくらいですよ?
元々空飛べるバードマンなら、戦場よりも偵察部隊として雇いたい。」
「運用計画が本気過ぎんかね?」
途中からつい本音に言葉が釣られてしまったアレスに、カラード候が突っ込みを入れる。というかちょっと目元が据わってたので軽く解す。
「というかぶっちゃけ提案なんですが、ここって僻地ですよね?
でもダンジョンがあって教団が居た場所なんで空にしたくないんですよ。
出来れば宿代わりになる砦と港を建てて適切に運用したい。諸侯の皆さんで此処を開拓して採算取れる自信のある方居ます?」
「……正直、陸の孤島過ぎる。ダンジョンで採算が取れるなら良いが、ここを攻略するには20LV前後が欲しいとの話で間違いないか?」
「未だ資料による推定ですが、その通りです。」
「では装備費用や人材確保まで考えると、到底採算が取れるとは思わんな。」
大体の諸侯は同じ意見らしい。だがダモクレスにばかり、という顔をした諸侯もやはり居た。
「ならいっそこの辺一帯を正式に、バードマン王国の所領として認めませんか?
彼らならこの地の高低差で陸の孤島にはなりませんし、今迄畑を維持出来る程の平地はそちらに無かったのでしょう?
港はこちらで用意しますので、ダンジョンの使用権を義勇軍に認めるという形で建国承認の対価としたいのですが。」
「な、何だと!それは本気で言っているのか?!」
ネルガルが顔色を変えて身を乗り出す。今迄集落規模だった上に種族全体が蛮族扱いされていた所為で、紋章を有する者がバードマンには居ない。
王国として正式に認められれば、他人に土地の権利を主張される心配が無い。
彼らバードマンにとっては余りに美味し過ぎて裏を疑う話だった。
「ええ、勿論本気です。
聖王国の承認は必須ですが、北部、東部諸侯の連名であれば通るでしょう?
まあその場合、聖王国との盟約に加盟する事になると思うので、取り合えず今は傭兵としての参戦もお願いしたい。」
各国諸侯の反応は……悪くない。というより、無関心?ダンジョンの利益に半信半疑だから、それでも若干不満寄りかな?
まあこの辺は偏見を減らすしか無いだろうと、アレスは内心独り言ちる。
「ところでアレス。
その〔悪魔宮殿〕とやらの名前に、私は聞き覚えがあるんだけど?」
このダンジョンの名前は本当にそれであっているのかと、アストリアは視線で裏付けの有無を問う。だが兄ならある筈が無い事は分かっている筈だ。
「少なくとも暗黒教団はそう思っていた、程度だけどね。間違いない。」
だが一部諸侯が何故か動揺する。
「?アレス王子、その〔悪魔宮殿〕とやらは、一体どの様な……?」
「只の昔話ですよ。皆さんも聞いた事はありませんか?
昔々、とある王国が金鉱を発見して。採掘現場を宮殿に変えてしまう程に欲目に取り憑かれた結果、悪魔を掘り当てて王国は滅んでしまうという。
まあ欲に取り憑かれると碌なk「「「金鉱?!」」」……。
え、ええ。まぁ。」
なんか諸侯の半分くらいが身を乗り出してる。あれ?
「……えっと。多少差異はありますが、悪魔を掘り当てるのは金鉱が枯れてからなのは共通しているので、多分軍を賄えるような量は出ませんよ?
資料によると、殆どがダンジョンに挑んだ者達の武防具だけだとか。」
というかゲームでは換金アイテムとして稀に〔金銀財宝〕が入手出来たが、この〔悪魔宮殿〕での入手確率は僅か3%。公式の攻略本の数値なので間違いない。
そもそも東部は序盤か中盤序章、大金が手に入る筈も無いのだ。
因みに〔金銀財宝〕は装備アイテム扱いだが、装備しても何の意味も無い。同じ換金アイテムとしてなら〔竜の遺骸〕の方が遥かに高額だ。
「ままま、待て。それではまさか、実際に発掘された記録があるのか?」
「?ええ、というかここの金庫にある分で全部だとあります。
日記には採算が取れないと愚痴が書かれてました。」
既に鍵も見つけた部屋付けの金庫を開けて見せ、多少の貴金属が並ぶ中を一同に見せると、更なるどよめきが上がる。
流石に幹部達の部屋は昨晩の内に簡単な調査はしたのだ。『浄化』があれば呪いは解けるし『錠破り』持ちは山程いる。
伏兵を警戒して一通り、隠し通路や隠し部屋だけは検めておいた。
まあこれも価格的には全部売れば〔銀武器〕よりは高いよ、程度か。何度も繰り返し中に入ってこの程度なのだ。
闇司祭ドドロアも量が半端過ぎて悩んだ挙句、もう少し見つかるまで貯めておこうと考えた様だ。実に納得のいく結論だ。
「待て待て、待たれよアレス殿!ならばダンジョンで出た物は全てバードマン達の独占となるのか?!それは流石に認められんぞ!」
「え?いや、ダンジョンで入手した物なら暗黒教団由来の品以外は発見した方々の自己責任で良いんじゃないですか?
教団絡みは徹底して貰わねば困りますが、一々事前の持ち込みを確認したり荷物を改めるなんて出来ませんし。多分呪いの品だって出ますよ?」
「あ、ああ。それで構わないと思う。
我々はダンジョン周りを管理するだけで、ダンジョン内に責任を持つ必要は無いのだろう?」
ネルガルも何故諸侯達がこれほど色めきだっているのか分からない様だ。
アレスと一緒に目を白黒させているが、事情が分かっていると思しきヴェルーゼとレフィーリアは額に手を当て、スカサハは他人事と傍観している。
あれれ~~?この流れはなんだろう。こういう時ワシ他人の空気を読むのが苦手でちょっと分からんのよ。兄さんはどうも分かってて仕掛けたっぽいけど。
諸侯同士で議論がなされているが、やはりダンジョン以外の土地が欲しいという話にはなっていない。
「えぇっと。という事は、皆さんもダンジョンの使用権さえ認められれば、バードマン王国の建国に意義は無いと見て宜しいですか?」
「む……。ああ、駐屯用の場所を管理して貰えるのなら、願っても無い、か?」
「初期出費として建物代の一部は皆さんにもお願いします。
ダモクレスだけの負担にしてしまうと、皆さんの体面もあるでしょう?」
流石に教団施設を全部そのまま使うのは無理だ。数も足りてない。
正直アレスとしては、難色を示されるかと思ったのだが。
(ま、まあ全部ダモクレスの支払いだと、後々財宝の権利に意義を唱えられた時に反論しにくくなるしな……。)
(ダンジョン以外は負担したくないし、初期出費だけならまぁ?)
(と、取り合えず財宝がどの程度あるかは入ってみなければ分からん訳だし?)
(ここで異議を唱えて、支払った国だけに優先権を付けられるのは困るな。)
「「「では、それで。」」」
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「では同意書の草案はこんな感じで宜しいですかな?
……良いのであれば賛同してくれる方々はここに署名をお願いします。
……あ、今回は仮のものなので、正式な書類は後日に。こちらはネルガル殿に渡しますので族長へのご説明にお使い下さい。」
「ああ。早々に部族の同意を取りまとめ、直ぐに傭兵団を率いて合流する。」
若長ネルガルが飛び立つのを見送り、室内に戻る。
うん。驚く程トントン拍子に進んだぞ。
序でにダンジョンの調査は最初に主力メンバーで何回かに分けて突入し、交代で奥に進んでいく方向でまとまりました。
一応半月、状況次第だけど一月の駐屯が決定しました。
ま、一旦ワタクシだけは何度もココを往来する羽目になりますけどね?
「さて。それじゃ私は〔白蛇の大洞窟〕でLVを上げて帰国するから後宜しく。」
「ちょちょちょ、ちょっと!駄目だからね?こうなったからには兄さんも義勇軍に参戦して貰うからね?!今更国で待つとか出来ないからね?」
さらっとフェードアウトしようとしたアストリア王子に、アレスは慌てて全力で口を挟む。そもそも本来の主人公はアストリア王子だ、マリエル王女の一件だって兄君が居なかったから起きたと言っても過言ではない。
元より神剣の使い手第一候補なのだから、今更国に引き籠られても凄く困る。
「はっはっは、ダモクレスの王位継承者が全員戦場に立つとか困るだろう?
何より国の戦力が殆ど空じゃないか。」
「ハーネルの一件半分しか片付いてませんけどぉ?!
先王の参戦拒否がある以上、婚約者殿のお目付け役はお兄様しかいらっしゃらないでしょうが!あなたがダモクレス代表、マリエル女王が副官!
それ以外でマリエル女王が戦死したら、謀殺にしか見えませんが?!」
「っ?!」
その手があったかと手を叩いた諸侯には、流石に視線で注意させて頂く。
閑話休題。
「しかし私が女王の婚約者である以上、ダモクレスがハーネルを乗っ取ったと言われかねない。婿入りは必須だと思うよ?」
「それも許されそうなお立場ですけどね?!ハーネルは既に義勇軍の足止めをした以上、相応の手柄を立てずに諸侯と並び立つ事は出来ませんよ?
借金の踏み倒しを図ってた国が賠償金で補填とか、誰も認めませんからね!」
おのれ、さてはこれを利用してダモクレスの王位も譲るつもりだな?
「後お兄様の手勢は流石に帰国して貰いますから、ダモクレス代表は今後お兄様になられますよ?戦力不足とかありませんから!」
「いやいや、弟が鍛えた精鋭で活躍とか肩身が狭いってもんじゃないから。」
「嫁の紐になろうったってそうはいきませんよぉー?
まさかダモクレスの名誉のために立てた功績を嫁の為に譲るとかも、兄上様のお立場では許されてませんからね~?
最低限必要な手柄をお立てになったらお嫁さんを放置する様なお兄様だとは思いたくないですねぇ~?」
「うっわ、その煽り芸ホントにムカつく。
しかも女王の身の上を盾に取るとかホンット酷い。
人の心が無いのかってくらいほんとぉ~に、ヒドいわ~。」
あぁん?と全力で煽ったが、アストリアはキレるどころか大爆笑する。
ホント毎回思うんだけど、この人の反応って全然読めないんですけど?!
「アラアラ随分他人事ですわねぇ?でも忘れてませんわよお兄様の所業。
つい先日、打ち合わせも無しに人に山ほど仕事ぶん投げましたわよねぇ?
まさにその、女王様関連で。」
忘れてねぇからな逃がさねぇからなと上から額を近付けてねめつける。だが両手で押し止める真似をしつつもその笑顔は一向に崩れない。
「しょうがないなあ、陛下の命令には逆らえないかぁ。」
「義務から逃げないで下さいませ長男様?即位の準備なら直ぐですわよ?」
「「「……あの、アレどういう事……?」」」
目の前で行われる謎の応酬に、理解の追い付かない諸侯達は戸惑い助けを求める事しか出来なかった。いや、それは正しくは無い。
何となく理解が及ぶたびに、自分達の目付きが胡乱なものと化しているのだ。
「何故私に言うのか解かりませんが、アレス王子は日頃からダモクレスの力を自由に差配しており、何かしらの介入を受けた様子はありませんでした。
王権で割れている国とは思えない程、一枚岩でしたよ?」
そう、今迄驚く程に邪魔が入らなかったのだ。
第一王子の意見を碌に確認もせず、まるで当の第一王子が全面的に協力して支援に回っているかの様に。
不満らしい事を言っていたグラットン将軍ですら、最終的にアレスの指示に従う事をいつも当然としてた。
実際ヴェルーゼ自身も当初は何度も疑問に思ったものだ。
それは詰まり、第一王子にとってもその方が都合が良かったとも取れる。
混乱が全く起きない程に、あらかじめ取り決められていたとも。随時頻繁に連絡を取り合い、行き違いが起きない程に。
各地に散らばる密偵網の情報を、全て同程度に共有したり。
「わ、私にはあの二人が、まるで。
その、玉座を押し付け合っている様に聞こえるのですが……。」
「「「あ。」」」
我慢出来なくなったレギル王子が、顔を抱えながら指摘する。
第一王子に相応しくある様にとアレスと競い合っていた彼には聊か以上に刺激が強過ぎる、何というか。信じて来たものが崩れる様な光景だった。
「「「……。」」」
突き付けられた現実に、理想像が崩れ去る様な会話に。
諸侯達は互いに視線を彷徨わせ続け……。
「えっと。まあ、ダモクレスの事はダモクレスの中で解決してくれれば……。」
「そ、そうですな。我々が口を挟むのはいけませんね。」
「そうですとも。我々の口出しで彼の国が割れるのは望ましくありません。」
全員が作り笑いで頷き合い。
「「「それで宜しいでしょうか。」」」
「ですから、何故私に確認を求めるので?」
揃って視線を反らし。
ダモクレスの事は、満場一致で当事者達に任せる事が決まった。
※来週からお盆投稿を開始します。最初は8/9日金~/10日土曜投稿。
間章前後話です。
話のテンポを優先して後回しにしていた間章を挟みましたが、前々回の40話の続きとなります。
繰り返しますが、第二王子即位派筆頭はアストリア第一王子ですw
第一王子派は明確な旗頭はいませんが、アレス含めた大多数ですw
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