38+1.間章 隠れ里の救出作戦
※本編38~39の合間の間章です。40の続きでは無いので御注意を。
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敵に気付かれていない事を幸いに、可能な限り接近した状態で一時休息を取った義勇軍。霧を晴らす以上人質救出に昼間は都合が悪いと、皆が夜襲で合意した。
そして偵察に《治世の紋章》を飛ばした結果、少々放置するには不味い事態が判明していた。
ていうか忘れてたわ、バードマン傭兵団。実はここの捕虜達、一部義勇軍に合流する方々なんですよ。一応全員指揮官級だからそれなりにつおいの。
後バードマンはここで解放される兵種であり、一応後々機会はあるがぶっちゃけ味方には弱く敵にすると強い典型的な兵種だ。
なので大事なのは種族的な話。ここで人質を解放しないと種族全体を味方に付ける機会は無い。勿論ゲーム的な支障は無いが、イベントは変わる。
そいでね?そいでね?イベント詰め込み過ぎと思うかも知れないけれど、他にもイベント確変ある捕虜が居るの。
そう!奴の名は義賊クレイドール!
中央部で登場するアサシンで〔秘密の符丁〕っていう非売品アイテム持ち!他に入手手段の無いアイテムを持つ総勢二名のうち一人!
普通にプレイしてると密偵職は無くてもクリア出来る、一番死んでも影響出ない雑魚職業だけど、色々な物を逃すから難易度は跳ね上がるぞ!?
でも彼らプレイヤー唯一のハイクラス、アサシンになっても戦闘力は弱いの!
ある意味回避盾は出来るけど、攻撃力ゴミだから事故死率も最高職!
何故なら彼らの本体は、装備アイテムなのだから!
そう、〔秘密の符丁〕は暗殺者専用アイテムを買える!密偵の戦力アップに必須アイテムなのです!
……ま、非売品だから持ってはいるんだけどね?
何でキサマ今此処にいるぅ!そういやあったな義勇軍に内通者いた疑惑!
このゲームが三神具争奪戦って言われる理由!ええ、争奪戦なんだから三神具が奪われるイベントが発生するんです!
事実、義勇軍の動向は正確に掴まれており。考察サイトで最有力とされたのが彼クレイドールだったりするんです!
理由は奴は行方不明の家族を探して義賊をやっていると説明にあるのに、作中で一切家族が登場しない点。家族を捜す描写が一切出ない点。あるイベントで暗黒教団に知り合いがいる描写がある点。等が上げられていた。
あらやだホントに怪しいわね。そしてイベント前倒し疑惑。もしや今なら此処に彼の御家族がいらっしゃる?
ちなみにもう一人騎士が此処にいるけど彼は多分モブ。
だって作中イベントがほぼ無いの。東部騎士タリーマンは暗黒教団の内情をポロボロ漏らすのが役目なの。あ、家族を先に救出しないと仲間入りしないよ?
そしてあ、彼も何故かクレイドールと面識があったわ。
何処でかは明言されてないねそういえば。神様のお陰で作中イベントは全て思い出せるんだよね。という事はマジで内通者は奴?
「という訳で、わたしは人質救出側を指揮させて頂きますわね?
(鈴の鳴る様な美声)」
「「「……何故、女装を?」」」
はっちゃけたいから!じゃないよ?
「放置するとヤバい人質が居たので交渉を持ちかけたくって。そうなると私が直接向かわないとダメなんですよ。
ホラ、この黒ローブ姿なら武装も隠せますし。先行して潜入して、食料を渡す役と入れ替わって来ようかと(囁く様に蠱惑的な声音)。」
今のワタクシ、フード付き黒ローブな長い黒髪美少女に御座いま~す。
両手を重ねて掲げつつ、上目遣いに俯いて、ね?
「「「うっ!」」」
女性陣の男達を見る目が冷たいこと。
「勿論一人で潜入する訳じゃないので、何かあったら杖を使います。
これを合図に突入するのは代わりありません。
……老人よりは油断するじゃろう?(嗄れた渋い声)」
ふははは。刮目せよ、リアルスキル七色の美声!学園祭の司会で女装して全校生の大半の性癖を歪めたと言われた演技力は伊達じゃないぜ!
お陰で彼氏寝取ったとか女好き(笑)と言われた挙げ句、背後の男子に身の危険を感じたのも今では良い思い出……あれ?何か忘れてる様な?
ふはははは、男心の擽り方なら専門家に任せろ~~ぅ!?
「それでは、後は予定通りにお願いします。」
「あ、ああ。その、無事に帰って来いよ?」
早々に霧の中に消えたアレス改めアマリリスちゃんを見送り、一同は怖々と代理指揮官を頼まれたヴェルーゼ皇女に視線が集まる。
「何か?」
「「「いえいえ何も?」」」
◇◆◇◆◇◆◇◆
霧の中で『伏兵』技能は想像以上にハマっていた。里の中には既に密偵達が潜伏しているので、外堀は見張りの居ないタイミングを図るだけで登攀出来た。
内堀も建物の中に入らなければ同様の手口で行ける。
問題は建物の中にどうやって入るかだが。
「闇司祭アマリリスよ。人質の事で確認したい事があるわ。
急ぎ案内しなさい。」
「は?し、しかし御来訪の予定は聞いておりませんが……。」
突然現れた女を前に、隠れ里の見張り達は姿勢を正す。何故ならアレスこと闇司祭アマリリスが突き付けたのは、闇司祭ゴンブリから奪い取った《闇の錫杖》。
物語の進行度から見るに、恐らくは未だ暗黒教団トップの暗黒教皇アルハザードか帝国皇帝ルシフェル以外には創造出来ない代物の筈。
つまり《闇の錫杖》を持つという事は、どちらかと面識があると言う意味だ。
「身分証明にコレ以上の物が必要かしら?
急いでいると言った筈よ、早く開けなさい。」
「は、はい只今!」
一人が扉を開け、こちらを振り向いた瞬間。密偵達とグレイス宮廷伯がアレスの影から中へ忍び込む。当然もう一人からは死角になる位置だ。
そして彼らが違和感を抱く前にアマリリスは爆弾を投下。
「それとこの件は口外禁止よ。ゴンブリとドドロアには黙ってなさい。」
「「え?!そ、それでは、しかし。」」
「あたしが来る羽目になったのも、彼らの報告に不備が発覚したからよ。
二人の他に司祭以上の権限持ちは来訪しているかしら?」
「い、いえ。自分達は聞いておりませんが……。」
軽く緊張感を緩めるための溜息を一つ。密偵達は首尾良く廊下の先へと消えた。
「ま、あなた達に伝える必要も無いわよね。行きなさい。一人は見張り続行。」
「「は、はい!」」
アレスは堂々と見張り番を急かし、煉瓦作りの建物へ踏み込む。
建物自体は小さな窓しかない代わり、霧に囲まれた寒冷地にも関わらずそれなりに快適な気温が保たれ、建物全体に淡い魔力が宿っていた。
灯りは魔導具だが安価な物で火種には出来ない。部屋も多いので長い目で見れば松明よりもお得だろう。
(《城塞術式》か。それも砦に使われる簡易版じゃない、それこそ大国が用いる様な行為の術式だ。牢屋を兼ねているだけあって、かなり厳重だな。)
比較対象を出すならイストリア城の城門は同じ高位術式だが、最も破壊しやすい箇所だ。開閉部は個別に術式を施しており、それでも中位魔法級の威力を複数必要とした。そして此処は、その開口部が快適さを犠牲にして小さく作られている。
よって壁を破壊して逃走するのは流石に現実的では無い。
だがその程度は大した問題ではない。
何せ今必要なのは、事前に《治世の紋章》で確認した捕虜達の救出法を確認し、裏事情を問い質す事だ。
闇司祭という立場を振りかざせるのだから、尋問の場に見張りを部屋の外に出すのも尋問の体を取り弱みに付け込むのも容易い。
「ではあなたの存命中の家族は此処にいる、二人の弟妹だけなのね?
両親の死は間違いなくあなたが確認している、と。」
「ああそうだ。弟妹には秘密にしているが、流行病で十年くらい前の筈だ。」
義賊青年クレイドールは歯軋りしながら答えてくれました。約束が違うとの言葉には私の方が高位であり、担当が違うから確認して証言と食い違った相手は人質といえど自由に処分出来る権限があると言えば、割と素直に。
あ。不和の種として、疑われているのが約束した方々だと告げさせて頂いたゾ。
ふむふむ。今までは東部諸侯の機密を盗む仕事をしていて、近々中央部へ移る話になっていた、と。弟妹達も近々会わせる約束で、次回は中央部に移送された後の対面予定か。成る程ホロホロ、本編時には移送済みだった訳ですね?
序でに弟妹には【闇呪縛】がかけられている、と。
ふははは、知ってる?それ唯一解けるスキルの名前、『浄化』っていうの。
いや術者なら当然解けるんだけどね?それと格上の【闇呪縛】。
「俺が使われている理由は義賊をやっていたからだ。たまたま忍び込んだ貴族の家にドドロア様がいた。
殺すには惜しい腕だと、一旦は【闇呪縛】で操られて弟妹のところまで案内させられた。
……あの方は自分を殺しても上の者が二人を殺すと言っていた。」
探りかな?探りだね?でも最新の任務以外は報告通りだと伝えたら信じた様子。
ではちゃきちゃき次行ってみよう。ふふふ、人質の所まで案内させちゃる。
尋問にかけてる時間はそろそろ無いので、バードマン側は省きます。捕らわれているのが若長と妹、族長の子供全てだって知っているからね。
彼らの事情は本人達の愚痴から把握してます。《紋章》とゲームで情報も一致。
各区画ごとに見張りはいるけど、建物に潜伏した部下達は十数名。実力的には勝てるけど気付かれずに全滅させるのは無理か。人質回りだけに絞りましょう。
うぃ。これで全部の人質は確認出来ましたね。では私アマリリスは彼らを残して外に出て行かせて貰いまぁ~す。
意外に捕虜回りの方に来ないにゃあ。クレイドールの対面は明日だから今日は特に来る用事無いのかな?では彼らに名前を確認して念を押した上で退場!
……う~ん。流石に戻っても動きがないと気になる。突入前に《治世》飛ばそう。
え?ゴンブリ君、もしかして今到着したの?治療は済んでるけど……。
あ、もしかして魔力切れだった?転移して回復して魔力切れて、翌日もう一回転移でこの近くまで来て魔力切れ?
……【転移魔法】の魔力って重いけど結構距離飛べた筈。まさかコヤツ全く歩かずに此処まで来た?だから道中こっちに気付かなかった?
そぉんな怠け者、報告するまで建物案内して貰うしか無いじゃな~い☆
◇◆◇◆◇◆◇◆
闇司祭ゴンブリは帰還を告げて一旦自室に戻って面会要求を出した。
わざわざ余計な手間をかける辺り事のあらましを説明するのにも時間をかけそうだったので、先に人質救出作戦を始める事にした。
霧がある内に救出する事も考えたが、人質が逸れる可能性がある方が問題だ。
襲撃だけは霧がある内に始め、敵に動きが出た時点で霧を晴らそう。
霧の深さまでは安定していないので、安全を取って狙撃部隊に見張りを討ち取らせて突入させた。部隊分けは二つで、一つはアレス達の捕虜開放部隊。
もう一方の主力兵団は無理に近付き過ぎず距離を取り、霧を晴らすと同時に正面突破して貰う。向こうに何かあったら魔法で派手に音を立てる手筈だが、今の所は問題無く推移している。
見張りの死体を扉の中に引き入れて閉ざし、同時に中の密偵隊も見張りを倒す。
ここからは時間との勝負で、敵が警報を出すまでは敢えてこちらから合図を出す心算は無い。出すとしたら、建物内の敵を全て制圧し終わった時だ。
「人質の解放は?!」
「近場の子供達の方は問題無く。ですが大人達の方は未だ。」
流石に警報を上げる余裕は与えなかったものの、それでも全員を即死させる事は出来なかった様だ。だが制圧は時間の問題だろう。
アレスの方は早々にバードマンの若長兄妹の元へ。先に妹さんの扉を開け、君のお兄さんに会わせると言えば、それだけで付いて来てくれた。
見張りは既に倒し終えていたが、扉の鍵は空けている最中だった。ある意味最適のタイミングだったので、扉が開くと同時に妹さんが駆け出し、兄の縄を解く。
「バードマン族の若長ネルガル殿とお見受けする。
私は義勇軍の総大将、ダモクレス王国第二王子アレスだ。
時間が無いから端的に言うが、君達を解放する代わりに我々と戦う恐れのある君の仲間を止め、戦線から離脱させて欲しい。」
立ち膝で頼み込むアレスに対し、当の厳つい青年はこちらを探る眼を向ける。
「お察しの通り、我が若長のネルガルだ。
だが何故だ?君達人族は我々を蛮族と蔑み時に魔物と同じ扱いすらする始末。
この地の者達と同じく、我ら兄妹を人質にして引かせる手もあった筈だ。」
「興味無いからですな。」
「ほう?それを信じろと。」
「に、兄さん!この方達は私を助けてくれたのよ?!」
このやり取りはゲームでも基本同じだ。だがアレスに兄と同じ台詞で説得出来る自身も心算も更々無かった。
「ではこういうのは如何です?この建物には他にも教団に攫われた人質がいます。
彼らを安全なところまで逃がすのに、そちらの部下達を手勢として雇いたい。
救出人数は百人前後。費用は百人に付きこちらを一つ、あなた方の救出と装備は手付金としてお受け取り下さい。」
「え?」
キュピーン!ハイ、現地雇用です!捕虜を救出する手勢を追加確保!誠意が信用されないなら打算で如何?彼らを自分で逃がす手間も省けます!
くはははは、どう出るかな若長殿?
「ふ、ふははははははは!面白い!気に入ったぞ義勇軍のアレス王子!
その商談受けた!早々に我が同胞達を説き伏せ、この地で教団に従わされている者達全てで協力させて頂こうとも!」
「商談成立ですな。因みに建物は今制圧中ですが、敵に気付かれずに合流する手段はありますか?
無ければ里の霧を晴らすと同時に動いて頂きますが。」
「え?え?」
力強い握手に、妹さんは状況を理解出来ないご様子。
まあその辺は後々家族でね?
「同胞達は我々を人質にして、半ば強制的に連中の護衛をやらされている。
故に連中も同胞の休息中は見張りを付けていた筈だ。その辺りは時々無事を証明する為に面会が許されていたので間違いない。
我々が行けば説得は容易かろうが、そちらに手段が無いなら厳しいな。」
「では霧を合図に。我々の別動隊がそのタイミングで敵の砦に攻め込む手筈となっています。恐らくそちらに向かう事になるでしょう。」
防具は1LV装備、所謂胴鎧くらいしか翼が邪魔で付けられないらしい。
彼愛用の〔白銀の槍〕も中々に様になっている。鈍らない様に牢屋内でも鍛えていたらしい。
さあ次だ。どんどん行こう、人質は待ってはくれないぞ?
「くっくっく。跪くが良い義賊クレイドールよ。
貴様の弟妹の《呪い》は我が手によって破られたぞ?疑うのなら自分の手でこの者達の体を確かめて見るが良い。」
しわがれた老人の声が、イケメンな素顔から牢内に響き渡る。
「ねぇアレス兄ちゃん、それ必要?」
「必要かどうかじゃない。楽しいかどうかなんだ。」
「人の家族に悪い遊びを教えないでくれないか?」
や。だって未だ気付かれていないんだもの!チキンレース、チキンレースですよ奥様旦那様!これはギリギリを目指すしか無いじゃない!
未だイケる。未だイケるって。ホラ後もうちょっと。
「どうやったのかは分からないが、何故だ?
君に何の利益がある?何か俺にさせたい事でもあるのか?」
「あ。」
そう言えば無いわ。〔秘密の符丁〕ならオレ持ってるもの。
別に彼、雇う必要無い。
裏切る危険ある奴無理に雇う必要、ある?
「「「……え?」」」
「ど、どうしよう?取り合えず君が知ってる暗黒教団の情報を頂戴?」
「……いや。別にそれくらい構わないけど……。
え?マジで用事無いの?」
「ご、ゴメン。良く考えたら別に無視しても良かったわ。」
「殿下?今回の潜入は彼が本命に見えたのですが?」
すぅっと背後に移動するグレイス宮廷伯。
彼は私の王族入りする前の教育係です。
わ、わぁ脂汗が止まらなぁ~い。
「さ、最初の予定は職人達の救出とバードマン達の解放だから!
彼がここにいたのも予想外だから!別に彼、民間人と同じ扱いで十分だから!」
「……いやぁ。流石に家族を助けて貰った分くらいは働くぜ?
その辺は、そっちの旦那と相談した方が良さそうか。」
「そうしようか。だが今回は人質を避難させるのに協力してくれ。」
さ、さぁ次は職人達の解放だ!まだまだ忙しいぞぅ!?
※本編38~39の合間の間章です。本編に入れると話のテンポが悪くなると判断したので間章になりました。
説得時に《錫杖》の件を隠したのは危険度と扱いが不明瞭だったからです。
実際にどの程度の扱いかを確認する意味もありましたが、それを言って説得出来るとは思わないw
結局この話中では霧を晴らす機会は訪れませんでしたw
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