39.第十章 職人達を助け出せ
※海の日の追加投稿。次回は7/20日土曜投稿予定です。
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敵に気付かれていない事を幸いに、可能な限り接近した状態で一時休息を取った義勇軍。霧を晴らす以上人質救出に昼間は都合が悪いと、皆が夜襲で合意した。
だが同時に、人質を救出する際に霧が都合が良いのも事実。突入は霧の中で行われて、首尾良く原作に居たネームド数名とその人質の救出に成功した。
その中には、翼ある者達バードマンの若長、ネルガルの姿もあった。
「それでは手筈通りに。」
「任された。」
彼らバードマンは彼とその妹を人質にされ、隠れ里の護衛をやっていたらしい。
里に近付く者は発見次第襲撃するのが彼らの役目だったが、そちらの説得は若長であるネルガルがやってくれる事になった。
そして彼らの説得が終われば、再び彼らはこっちに戻って人質達の避難と護衛に当たって貰う予定だ。
「連中の襲撃だけは先ず気付かれずには済まない。何せ数が多いからな。」
バードマン達は別棟だったお陰で未だ気付かれていない。だがこの一帯は壁で中に霧が入り込まない様に工夫され、周囲が広々と見渡せる。
脱走者を見張るためもあるので、より一層厳重な警戒となっていた。
「ここの建物は強度と結界の都合って奴で構造自体は単純なんだ。あそこの扉から行けば最短距離で制圧出来る。
連中は人質の脱走は警戒しているが、物量での制圧は想定して無いのさ。」
案内役を引き受けているのは先程家族を助け出した義賊、クレイドールだ。
彼の家族は密偵達の護衛付きで既に里を脱出させている。当初の予定では家族に付き添って貰えば良いと思っていたが、借りは返したいと協力を申し出た。
「放て!」
合図代わりの狙撃と同時に密偵隊が走り出し、建物への突入を開始する。
『錠破り』はアレスにも出来るが、流石に本職のクレイドールの方が早い。ので素直に〔霧払いの杖〕を使い、本隊への合図を優先させて貰った。
先行したクレイドールを先頭に中の兵士と斬り合うが、〔仕込み武器〕を織り交ぜた彼の『縛り首』は中々に強力だ。そこはハイクラス、アサシンの面目躍如か。
この場ではアレスも人質の救出より敵の殲滅を優先する。目当てが人質だと気付かれたら盾にされるという恐れがある。だが幸いにも気取られる事無く、職人達の人質区画に攻め込む事が出来た。
「しかし職人さん達が素直に話を聞いてくれる自信はあるのかい?
連中コイツらに逆らい続けただけあって中々に頑固だぜ?」
「説得は人質解放の後だ。成否は関係無い。
我々は義勇軍であって、誘拐犯でも侵略者でも無いからな。」
そうかいと嬉しそうに嘯くクレイドールの情報によると、誘拐された職人や錬金術師達の内、暗黒教団に従っているのは精々が半々に過ぎないらしい。
特に名工と呼ばれる者ほどそういう傾向が強く、主に拘りがあるという。
「わしらは安全な所で家族と一緒に暮らせればそれで良いのですじゃ。
ダモクレスに亡命する事でそれが叶うのなら、願っても無い。」
取り合えず先ずは人質と家族を対面させながら、その半数だけでも承諾を得る。
これで最低限の目的は果たしているのだから、後は無事に脱出させる事を優先すればいいと言うのがアレスの基本方針だ。
だがそれで納得する者ばかりでは無かった。
「ふん。どうせ田舎には設備も何も揃って無いじゃろ。
鉄も満足に揃わんような場所で出来る事など何も無いわい。」
「ここにある機材は持ち出せる物全部、後で運び出しますよ?
それに我がダモクレスにも鉱山はあります。発掘する人を集められなかっただけなので、今は銀山の開発も始めてます。」
「「「マジで?!」」」
「いや、待て待て!ここの設備を持ち出すって時間無いじゃろ?」
「いえ。だってこの里は占領しますから、全然出来ますよ?
皆さんを逃がすのは安全のためで、里の制圧後は多分ここで一晩くらい休んだ後の帰郷になると思います。港が作れるようだったらここは開拓しますよ?」
そもそも我々、軍隊ですし。ダンジョンあるのに奪わない理由が無い。出ていくのはあくまで教団側ですとも。
今迄誰にも知られて無かったとはいえ、一応東部だから奪還扱い?
元敵地で誰の所有権も無い土地、使って良いなら貰うよなぁ?港さえあれば孤立しないしなぁ?
「あ、勿論気が変わったらいつでも言って下さいね?
ダモクレスはいつでも腕利きの人材を募集しています。」
今北部で一番熱い国、ダモクレスです!東部がほぼほぼ制圧された以上、再建の序でに再開発を始めるのは常識です!
ここまで真っ向から帝国と敵対した以上、商業都市兼補給拠点として大々的に、稼いだ資金を派手に投入してますとも!
「あ、うん。ちょっと考えてみるわ……。」
「いたぞ神敵だ!殺せェ!」
おっと雑談し過ぎたご様子。鎌を持った平信者が周囲に呼びかけながらわらわらと集まって来る。とはいえ流石に二桁LVは紛れていない。
なのに随分殺意高いな一般信者。
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霧の森を彷徨う敵兵への空からの奇襲。森に紛れた罠による誘導。
そして闇司祭ゴンブリの呼び出した三体の使役巨人。
軍隊だろうと真っ向から挑める必殺の布陣。
〔霧の隠れ里〕は暗黒教団の中でも虎の子の拠点の一つであり、闇司祭ゴンブリは逆に義勇軍の主力を壊滅させる好機とすら思っていた。
「ば、馬鹿な!バードマン傭兵団が寝返っただと!」
「は!脱走した若長が合流したのが目撃されました。
連中は戦線を離れて他の人質や捕虜達の護衛に回っている様です。」
「くそ!という事はこれは、バードマン共の手引きか!」
と、この時のゴンブリは単純に考えていた。
義勇軍が到着早々に人質の存在を知る術など無いと。別動隊の数も多くは無い筈だと単純に。故に別動隊に関しては伝令で闇司祭ドドロアに対処を任せて。
ゴンブリが従える三体の巨人は並外れて強靭な生命力を誇る。彼らだけであの数を食い止めるのは厳しいが、そこはゴンブリは闇司祭。
闇司祭は邪龍に与しているだけで職種はハイクラスのプリースト。一部闇魔法を使えるだけで、回復魔法を得意とするクラスだ。
物量に蹂躙される事だけは無く、何よりこの場合は闇司祭ドドロアがゴンブリを一切信用しなかった事が幸いした。
「な、何だあれは!死体が、死体の大軍が動いている?!」
それは、千を超すアンデットの群れだった。
各地で起こる戦乱の最中、暗黒教団は研究材料と呪いの源を求めて数多くの死体を保存し、禁呪法によって兵士へと作り変えていた。
とはいえ今回用意されたのは〔アンデッド〕。何度でも復活する様な不死身の存在では無く、物理的に破壊されれば終わる脆い存在だ。
だがそれでも敵の士気を挫き、恐怖を誘うには十分。何より死体の群れは敗北時の自分の未来を予感させる。それは末端の兵士にとっては何よりの悪夢だ。
「下がられよ、各々方。我々は、このような時に備えて来たのだ。」
「「「お、おお!僧兵様!!」」」
後衛として後に続き、騎兵の突撃に追い付いた三百の精鋭達。
筋骨隆々の鍛え抜かれた屈強な戦士達に、皆が頼もしさを覚えながら道を譲る。
それは僧兵バルザムに率いられた、〔デルドラの神官房〕のプリースト部隊。
「さあ、刮目せよ外道共!【退魔陣】ァッ!!」
「【退魔陣】ッ!」「【退魔陣】ッ!」「【退魔陣】ッ!」
聖なる光が地面に魔法陣を描き、先頭の死霊達を消し飛ばす。
バルザムの輝きに続き、一斉に光の魔法陣が列を成して死霊達を消し始める。
「ななな、何だとォッ!!!」
有り得ない。この数の神官達が挙って【退魔陣】を使うなど。何故なら退魔陣はハイクラスにしか許されぬ上位魔法だ。単純な神聖魔法とは性質が違い、補助魔法に分類される攻撃魔法に近い性質を有している。
「【退魔陣】ッ!」「【退魔陣】ッ!」「【退魔陣】ッ!」
一つの輝きが数十の死霊を巻き込み、千の軍勢が瞬く間に過半数を切る。
「馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な!何故この様な集団を用意出来る!?
我々が死霊を使うなど、事前に予想出来た筈も無い!」
アレスに言わせれば暗黒教団が居るから約束通り連れて来ただけだ。ゲームでもアンデッドが出現したが、不死身でも無いので別に彼ら抜きでも問題無い。
でも百人規模の密偵隊を投入し進軍路の罠を全て排除したのは、流石にちょっと非常識。
「あ、有り得ない。アレス王子は、未来でも見えているのか……?」
だが自分達が用意した必殺の秘策が一方的に、悉く何の効果も発揮せず完封され続ければ恐慌に陥るのは当然だ。
補助魔法【退魔陣】は生者には何の意味も無いが、不浄なる不死者達に問答無用の成仏を授ける。それは救いの光であり神の光。
故に抵抗も防御の余地も、一切存在しない。
「「「【退魔陣】ッ!!」」」
三体の使役巨人は、結局精鋭信者達と共に物量の波に呑まれた。
霧の結界は破られ、警報の罠も致死の牙も機能しなかった。
そもそもゴンブリは、自分が治療に時間を費やしたせいで義勇軍に十分な時間を与えた事にすら気付いていないのだ。
偵察する時間も無く、限りなく遭遇戦に近い戦況で始まった筈の戦場。有利な筈の防衛戦での蹂躙劇。それが想定、現状予測。
「闇司祭ゴンブリ、覚悟ぉ!」
「はっ!その程度でワシを殺せるかよ!【下位闇塊】!」
カルヴァン王子が切りかかるまで周囲の者が全滅した事にも気付かず、呆然自失と残り続けてしまったのも。咄嗟に反撃しつつ真っ向から騎士相手に足を止めて身構えてしまったのも失策だ。
「甘い「ぐあぁ!」ッ!」
何故なら後を追う様に走っていたレギル王子に、背を向けてしまったのだから。
「戦場で一人だけを警戒するなど、所詮は司祭か。」
大将首である事しか気付かれず。闇司祭ゴンブリは最後まで一方的に、蹂躙されながら命を落とした。
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捕虜と人質を救出し終えて本隊と合流したアレスは、精鋭部隊を率いて隠しダンジョン〔悪魔宮殿〕の前に到達した。
洞窟の広場で闇司祭ドドロアは、十数名の暗殺者に似た装束のシーカー達を従え百を超すアンデッドを並べて待ち構えていた。
けれど予想を遥かに上回る速さで到達された事もあり、自分達が優位では無いと既に悟っているらしい。軽く歯軋りしながら《闇の錫杖》を構える。
「お見事、よくぞここまで参られた。
流石は義勇軍が誇る英雄アレス王子だ、まさかこの里の存在を嗅ぎ付けられるとは思わなかったよ。」
ほうほう、里の存在を。これは探りかな?時間稼ぎかな?
「おや、何故闇司祭ゴンブリが下手を打ったとは思わないのかな?
その様子だとそちらは、魔力の探知が不得意と見える。」
「ふ。【転移魔法】で移動する者を追跡する等不可能だ。
差し詰め噂に聞く《治世の「【退魔陣】ッ!」》貴様ァ!!」
壁として立ち塞がっていたアンデッド達の半数が消失し、ドドロアが怒りの叫びと共に殺気立つ。
「ふはははは!何故我々が時間稼ぎに付き合わねばならんのかね?
まさか逃げられるとでも思っているのではあるまいな!総員、攻撃開始!」
会話しながら味方の密偵達共々、視界内に『罠発見』を駆使し、遮る者が敵兵のみだと確認を済ませている。因みに号令と共に下がらせた密偵隊の中で、アサシンに昇格出来ている者は概ね半々だろうか?
どちらにせよ密偵隊だけでも戦力的には五分以上、スカサハ含めた主力達相手に勝てる戦力は皆無。護衛にアンデッドとアサシン未満だけは有り得ない。
敵の準備した罠は十中八九、兵を潜ませているで間違いないと見た。
「く、くそ!已むを得んか!
いでよ古の戦士達を解き放て、《カースデットオーブ》!」
闇司祭ドドロアが高らかに赤い水晶を掲げて、周囲に幾筋もの赤い光の柱の中に人影が揺らめいて実体を描く。その数凡そ十数名。
「お、おお……。あれはまさか、〔リビングドール〕?!
古の戦士達を蘇らせたというのか?!」
学者肌の元東部騎士、タリーマンが驚きの声を上げる。
〔リビングドール〕。それは生前と同様の力を振う不死身の死者達。
禁呪法で死者の魂を用いて産み出された影の魔物だ。厳密には死者の体を人造の魔物、魔法生物が操っているのに近いが、最大の特徴はその不滅性にある。
銀か魔法、魔力の宿った武器で倒さない限り、何度でも復活するのだ。
尚、彼がここに囚われていた理由は遺跡調査を趣味としていて、うっかり隠れ里を発見してしまったからだ。首になった理由も趣味で職務を疎かにした所為だ。
キレたカラード東南候がつい先程、正式に国外追放を言い渡した。
閑話休題。
「ふはははは!この者達は今迄のアンデッド等とは比べ物にならんぞ!
この墓所が〔悪魔宮殿〕と呼ばれる様になる前の、古の英雄達なのだからな!」
「【【退魔陣】ぁッ!!」
全ての〔リビングドール〕達が、アレスの放った光の輝きの中に埋没する。
「そ、そんな馬鹿なぁッ!!!!」
〔リビングドール〕は不死者分類である。
だが。次に驚かされたのはアレスの方だった。
光の霧と化して消えていく〔リビングドール〕達の中で、三体のリビングドールが自分の周囲に卵の様な球体魔法陣を生じ、【退魔陣】の輝きを吹き飛ばす。
「な、あれは『魔障壁』スキル?!」
「えぇ?!そんな仕様オレ知らねぇ!」
自身も習得しているヴェルーゼ皇女の声に、思わず素の反応を返すアレス。
だが足の力が抜けかけていた周囲の一同にも、あのアレスですら不測の事態だと伝わり途端に緊張感が戻る。
「そもそもアンデッドが『魔障壁』を使う事例を見た者は居ません。
あの術式は形式こそ違いますが『魔障壁』で間違いありません。」
「そ、そうか。まあそれならそれで普通に倒せばいいだけだしな。」
リビングドールは3ターンで復活するが、戦闘不能状態で【退魔陣】をかけても普通に消滅していた。流石に戦闘不能中に『魔障壁』が発動する筈も無い。
ここはゲーム準拠である事を祈るしかない。
「ふ、ふあははは!そ、そうだ!その三体は正真正銘の虎の子だ!
全てがかつての大王、大将軍達よ!さぁ、返り討ちにしてしまえ!」
「【中位火炎渦】ッ!!」
「ぐあぁああああ!!ヒ、【傷回復】ッ!お、おのれ何度もッ!」
ヴェルーゼの放った炎の渦がアンデッドを中心としたシーカー達を巻き込み諸共に焼き払うと、炎に弱いアンデッド達は次々と崩れ落ち遂に全滅する。
巻き込まれたドドロアも一度では完治出来ない火傷を負った様だ。
慌てた見習い暗殺者達が〔投げナイフ〕で彼女を牽制するが、乱戦の中で正確な狙いを定める事は出来ず。しかし立ち直ったドドロアが【下位闇塊】を解き放ち、どうやら魔法使い対決に突入した様だ。
と同時に、最前線に切り込んだ一体のリビングドールに対し、アレスは前衛の騎士達を押し退けて敢えて真っ向から長槍に切り結び、力負けして弾かれる。
周囲が何故と驚く前に否応無く理解させられ、皆が距離を空ける中で他のリビングドールを蹴り飛ばしたスカサハが声をかける。
「三体に付き一人一殺だ、行けるか?」
「いや他の二体は24LV、全部兵達に任せろ!
動ける武将は総員でこの一体を優先して叩くぞ!!」
「「「なっ!?」」」
アレスから距離を取ったリビングドールは、今一今の体の感覚が掴めない様子で両手に一つずつ握る二つの〔白刃の長槍〕を軽く振り回して。
アレスに狙いを定めながら改めて構え直す。
アレスは既に、この場の全ての敵を『鑑定眼』で確認していた。
【双槍王ウォルリック、LV35。リビングドール、魔騎士。
『心眼、神速、連撃、魔障壁』。白刃の長槍×2~。】
「双槍王ウォルリックLV35!魔槍二本持ち!
東部帝国軍総大将、ブリジット伯爵よりも格上だっ!!」
※海の日の追加投稿。次回は7/20日土曜投稿予定です。
暗黒教団マップなら大体アンデッドは出るという、原作ゲーマーには割と常識的な行動。でも要はゴーストバスター軍団な訳でw
しかも原作ゲームでは精々逸れ者止まりが間章16+1の所為で驚きの精鋭軍団化してます。教団視点での対策には予知能力が必須でしょうw
【退魔陣】抜きなら普通に負ける事もあるマップですが、ゲームバランスでは購入済みの前提。近くの村では何故かアンデッドの対抗手段が語られてますw
そして普通に同マップで買える。
尚、本来は東部での最高LVはブリジット伯爵ですw義勇軍の到着が早過ぎたので出荷前に遭遇というバタフライエフェクトが生じております。
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