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ジュワユーズの救国王子~転生王子の胃痛奇譚~  作者: 夕霧湖畔
第二部 義兄弟で主導権譲り争い
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25.第六章 第一王子の召喚

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 マリエル王女はドラゴンライダーである。


 原作ゲームにドラゴンライダーという兵種は無い。騎士クラスが馬を装備すれば騎兵になり、ワイバーンを装備すればライダー部隊である。


 乗騎の交換に必要なのは金銭だけであり、ユニットごとにABCの騎乗ランクが設定されている。ランク以下の乗騎にしか騎乗出来ないが、逆に言えばランク以下の騎乗は馬に限らず全て騎乗出来る。


 その一方で、攻略情報にも「訓練に時間を必要とするのでゲーム中は基本的に成長しません」と明言されており、キャラ固有イベント以外では変化しなかった。


 ランクAの騎乗はワイバーンだけ。つまりAランクは全てワイバーンの騎乗訓練を受けた事のある者を指す。

 ワイバーンの使役には特別な調教が必要なので、使役者にも専用の知識が求められる。才能だけで戦闘が可能になる兵種では無いのだ。


 よって。ゲームでは軍として率いる事が出来たドラゴン部隊は、ハーネル単独で維持出来るのは小隊規模。少な過ぎて緊急の伝令以外は不可能だった。

 元々東部でドラゴンは購入出来ないので、関係無いと言えばその通りだ。


 だがマリエル王女に兄宛の手紙を手渡し間近で飛び立つのを見送ったなら、少しくらい未練が湧いてもしょうがないだろう。

 時間が許すならアレスとてワイバーンに乗りたいのだ。でも知識だけなら足りているので、天馬ペガサスを購入して散々練習した。購入準備は万端である。


「しかし、アストリア王子を前線に出さねばならぬとは……。」


 アレスの護衛騎士を務めるアランとエミールが歯軋りしながら見送った。

 これで全王族が参戦するダモクレスの命運は、名実共に義勇軍次第。祖国滅亡の危険に晒すマリエル王女に、好意的な目を向けられる者は少ない。


 原作では祖国の滅亡を救われ、皆に奇跡の再会と歓喜を持って迎えられた薄幸の美少女が、今は哀れな話である。


「止むを得ないさ。それより今の内に近隣の治安と城内の復興を進めよう。

 こう言っちゃ何だが、今の北部は返事に十日とかからないんだ。」


 見方を変えれば兄アストリアを戦力化する口実が出来たとも言える。

 デメリットばかりに目を向け続けるほど暇ではないのだ。


 無駄に使える時間は無い。負傷兵の治療もまだまだ終わらないのだからと諸侯に自軍の再編成を進めさせたが、正直早めに西境界へ進軍しないと士気に関わる。

 だが大勝の余勢をハーネルに挫かれた形なのだ。軍略の変更は必須だ。


「無い袖は振れない。出来る事を進めて次の動きを迅速にするしかないさ。

 真面目な話、兄君次第で本当にハーネルを滅ぼす必要も出て来る。

 この件において最も憤る権利があるとしたら兄君自身、その事をダモクレスの民であるお前達が忘れるなよ?」


 ハーネル国の位置は東部の最南端。常に背後を突ける位置にある以上、他の諸国を開放しただけでは制圧を完了したとは言えない。

 諸国はハーネル王が未だ帝国と義勇軍を秤にかけている疑惑は抜けていないし、アレス自身も同じ意見だ。


 現状必要なのは、ハーネル王を如何に穏便に退場させるか。

 既にハーネル王を義勇軍に招き入れる事は、事実上不可能だ。


(全く。甘い夢に浸っていられたのは、ただの偶然だって気付いて欲しいね。)


 ハーネルの件さえ片付けば残る東部地方は西北側。中央へ繋がる大交易路とその入り口周辺国家のみ。


 帝国軍は北側を制圧し切れていなかったので、およそ一万全ての戦力がほぼ一国に集結しつつある。少なくとも夏になるまでに此処を落としたい。


 王女出発から数日かけて諸侯達と進軍計画を立てているが、精鋭部隊抜きで落とせるかどうかは微妙な線だ。

 だが出来れば精鋭は後詰にして、今の内に主力全体の戦力向上を図りたい。


 が。一方で兄を参戦させるなら適切な戦場でもある。現ダモクレス軍は精鋭だ、兄を将に据えて敢えて戦場の一端を任せる奇襲作戦を提案するのもアリか?

 露骨な贔屓になっても困るので、本当に、本当に匙加減に悩むところだ。




 事態は数日で変化する。努力は積み重ねてなんぼだし、書類仕事は地味で誰でも出来ると思われがちで。そして最も無駄になる機会の多い努力だ。



 さて。何が言いたいのかと言えば、兄が到着した。

 同行部隊、ほぼほぼ()()平均2LV、約二百。


 具体的にはダモクレスに残っていた、戦える若者の大半。まあ過半数()()



「あ、あんたなーーーー!!!何してくれちゃってんの馬鹿~~~~~!!」


 じ、自国の守りが。じこくの守りがぁ!!

 おま、盗賊対策の予備役以外、全部連れて来たように見えるんですけどぉ!!


「はっはっは。随分なご挨拶だね、親愛なる我が弟よ。

 元気そうで何よりだよ。」


 アンタ『鑑定眼』持ってんだろ?何で実戦経験無い奴選んだ?!


 思わず泣きそうな顔で襟首を掴む程取り乱した軍議の場で。

 役立たずを連れて来たアストリア王子を苦々しい目で見ていた諸侯が、初めて見るアレスの醜態に何事かと目を見張る。

 にこやかに笑顔を崩さない兄アストリアだが、流石にこの場に来るマリエル王女はいない。彼女はダモクレスの宿舎で待機して貰っているそうだ。


「何って増援だよ?我が国が出せる最後の戦力。

 ベテランは君が連れ出しているから他に出せる兵無いじゃん。

 折角だから訓練兼ねて実戦に耐え得るまで鍛えないとね?今後の為に。」


「自国に兵が残ってないでしょ?!自国兵は此処に出張ってるでしょ?!」


 アレスの言葉にえ?本気で?と戸惑いと顔を顰め始める諸侯達。

 忘れられている様だがダモクレスは小国である。北部では今ギリギリ最大版図を手に入れているが、東部中堅国より人口は少ない。


……海の無人島に避難民を送り込んで開拓させている事は、ダモクレスでも一部の者しか知らない秘密戦力件隠し兵站だ。


 彼らの護衛戦力は一切動かせないので、正真正銘、ダモクレス本土から全兵力を抽出して来た計算になる。

 城の守備兵で見かけた顔が結構あった。守りの戦力五十も残ってるかな?


「何言ってんの。君が鍛えた精鋭に負んぶに抱っこじゃあ自国の継承問題に口を挟まれた件が解決しないでしょ?最低限は自力で整えないと。

 後増えてる負傷兵を一遍まとめて国に返せば防衛力は減らないって。」


「「「?!?!?!?」」」


 ニコニコにこにこと全く怯まないアストリアに、胃が音を立てずに軋み続ける。

 居並ぶ諸侯達にもアストリアの無茶の内容に理解が及び、冷汗が滲み出す。


「それって今すぐ送らないと自国の危機ですよねぇ!

 送り返すベテランって今後方管理に回って貰っているんですけどぉ!」


「そもそもダモクレスが全文官担当ってところに無理があるって。

 あ。流石に最前線で戦えるとは思わないから、しばらくの間は東部内で治安回復のための野盗退治に回るよ。

 いやぁ~、初陣は道中遭遇戦で済ませたけど大分苦戦したわ~。」


「待って?!ここ東部だよ?幾ら野盗だからってあの戦力で挑む気?

 せめて他国の新兵と共同歩調取ってよォ!」


 質と数が露骨に劣っている兵力で戦場に出るとか狂気以外を感じない。

 けれどアストリア王子は更に無情だった。


「指揮権を私に統一してくれるなら構わないけど、他の誰かの旗下に付けられると戦死時に謀殺扱いされる恐れがあるから独自に動くよ?

 あ、最新の情勢は未だ分からないから独立部隊扱いで宜しく。」


「あああああああああああぁッッッッッッッッッ!!!!」


 じゃ、お願い。と言いたい事だけ言って席を外すアストリア王子。

 口を挟む隙が無かった諸侯達も、会話に取り残されたまま呆然と見送る。


 最悪だ。言っている事自体に間違いは無いし、何より拒否権が無いのが最悪だ。

 兄は既に行動に移しているので、時間を費やすと加速度的に状況が悪くなる。


 顔面をテーブルに撃ち付けて頭を抱え、そろそろ本格的に音が漏れ始めた胃痛を堪えて必死でこの後の対応に知恵を絞り出す。

 諸侯達は頼れる英雄アレス王子の錯乱振りに、ドン引きしながらオロオロする。


「あ、あのアレス王子?」

「すいません!この場の諸侯の方々には、私の旗下で動ける担当文官を数名派遣して戴きます!申し訳無いがこの件に拒否権は与えません!

 今後は皆さんとの連絡役をその派遣文官に努めて頂く!」

「あ、ああ。それは構わないが。」


 経緯を見ていた諸侯も揃って同情の目でアレスを心配する。

 何せ事情は今全部知っている。多少の無理は応じようという気にしかならない。


「後、皆さんからはアストリア王子に本作戦中限定で構わないから従える者達という条件で新兵部隊、一国最大五十名以下で募集します!

 期限は諸々予定があるので三日以内に編成終わらせます!ので明日まで!

 最後に、私ちょっと負傷兵帰国の件で修羅場るので、西境界への進軍は七日後を目途に出陣延期でお願いします!以上です!」


「「「「「り、了解した。」」」」」


 失礼しますと駆け出した後に、慌てたヴェルーゼ皇女が今日話し合う予定だった書類を全部持って後に続く。



「あ、アレス王子?あの方は何を考えているんですか?」


 アレスが戻ったのはイストリア城で一番壁が分厚い執務室だ。

 現在は義勇軍の中枢としてアレスのために貸し出されており、外に会話の内容が漏れないよう人払いをした上でヴェルーゼが尋ねる。

 流石にあれほどの内容を相手への相談無しに実行するのは如何なものか。

 事前の評価からは全く納得出来ない態度に対し、アレスは。


「全部です!全部計算尽くですあの腹黒笑顔はッ!!」

「は?」


「あの腹黒笑顔はこっちの問題点全部察して把握してます!

 全部察して理解して、堂々と無能な馬鹿兄貴を演じました!」


「え?ええええ!!」


「つまりあの腹黒笑顔は、全部先出しで状況を固めた上で絶対に維持出来ない現状を用意したんですよ!

 解決しないと義勇軍が崩壊するぐらい追い詰めてね!」


「はぁ?!え、ちょっと二人で分かってないで一つ一つ説明して下さい!」


 頭を掻き毟る振りして髪形を整えている辺り、少しは平常心を取り戻した様だ。

 何やら言語化されていない情報が多数兄弟の間では通じ合っているらしい。

 先ずはその部分を知らないと、場の理解も追い付かない。


「問1!今ダモクレスは負傷兵すら迂闊に自国に返せない程の人材不足です!

 何故なら文官の半数以上をダモクレスが担当しているから!

 解1!祖国を空にして、諸侯に兵を返さなきゃダモクレスが滅ぶところを見せつけました!邪魔したらその国がダモクレスを滅ぼそうとする戦犯です!」


「問2!義勇軍は戦闘員以外でほぼ貢献してません!

 何故ならダモクレスが雑務全般を仕切っていて下に就くのを嫌ってるから!

 解2!ダモクレスの事務可能人材帰国させます!諸侯が人手出してダモクレスに協力しないと今後の補給はずっと滞ります!」


「問3!復興と治療の目途が立ってないのに進軍する必要があります!

 何故なら全体の不足と不備の不満が全部ハーネルへの怒りに代わっているから!

 解3!馬鹿兄王子が自国の権利内で合法的に強権を振るい兵を動かします!邪魔したら自分達もハーネルと同じ内政干渉なので、追認以外出来ません!」


「ぇえ……?」


「問4!新兵の調練が足りません!鍛える時間は確保出来ません!

 理由は問3と大体同じ!

 解4!放置すると全滅の戦力で盗賊退治に挑みます!呼ばれたのに援軍出さないとか謀殺にしか見えないから、諸侯も指揮権移譲に承諾するしかないよ!」


「問5!再編成必須ですが、諸侯が進軍を望んでます!

 何故なら軍資金が足りないから!征服地と解放地では略奪禁止な分、収入が減ります褒賞頼みです!尚褒賞の配分は少ないので駐屯するほど出費が嵩みます!

 解5!新兵を連れ出して盗賊退治に向かいます!盗賊の軍資金は全部没収出来ますので収入が増えます!人数減るので出費も減ります!人動くので諸侯達も再編成するしかありません!」


「問6!東部の治安は荒れてますが、復興に人手は避けません!

 理由は問5に加え、上級貴族ほど雑用を嫌います!そもそも我々軍隊です!

 解6!新兵を率いて盗賊退治でお茶を濁します!北部で私がやった行為の焼き増しですけど、治安が回復するだけでも義勇軍の評判は上がるでしょう!」


「問7!兵力に自信の無い方々中心に兵を引き上げたがってます!

 何故なら金と兵の損耗が激しいから!里心だって馬鹿に出来ません!

 解7!新兵をダモクレス指揮下で連れ出し鍛えます!軍を分けた上命令権を一時的に差し出しているので独断帰国が出来ません!

 兵糧がダモクレス負担になれば、負担が減るので文句も言えません!」


「ラストぉ!兄の無理難題なので、オイラは自然な形で諸侯に要求出来ます!

 不満は戦力外を連れて来た無能な第一王子に向かうでしょう!

 兄の名声と引き換えですが、盗賊退治で回復出来るでしょう!ハイ、武功が不足していただけなのでハーネルの助力も不要ですね!

 ハイ、急ぎ解決が必要な問題点はこれで全部ですね!」


 ぜーはーぜーはーと荒い息を吐き、水を酒の様に一気呑みするアレス王子。

 もうね、完敗ですわと両手を挙げて降伏宣言するアレスに、ヴェルーゼは改めて兄弟仲の良さに納得する。

 どう聞いても似た者同士だ。お互いに相手の出来る事を完璧に見切ってる。


(そりゃあここまで全部気付いて打ち合わせ抜きに対応出来る弟がいれば、自分が非凡とか平気で言えるわよねぇ……。)


 それはそれとして、弟の仕事量を限界まで増やす兄も兄だが。


「すると、兄が自国に残っていた理由に諸侯が納得して、あたなに同情させるまでセットかしら?」


「うぇい。間違いありません。というか兄、命令している振りして自主的に旗下に入っているので、諸侯的にも文句言えないところまで含みます。

 ここで下手に却下して兄に国へ帰られると、義勇軍も王位継承権に口挟んでる事になりますので。」


「アナタ達ホントに兄弟ね。魂で繋がっているわ。」


 そして今、王太子である兄は弟アレスを上に据えている。

 義勇軍の編成上、ダモクレス軍はアストリア第一王子がアレス第二王子に任せている扱いであり、本来はアストリア王子がアレス王子の配置を差配する立場だ。


 故に主力を率いて盗賊退治に乗り出しても、むしろ主力を帰国させたとしても、新兵を連れて来た以上は義勇軍が抗議する権利はない。

 無論実際にそれをやれば、義勇軍内のダモクレスの地位がその他大勢並に低下する行為なので、実際に行う事は在り得ない。

 だが可能だとチラつかせる事は、今回出来た訳だ。


 揃ってこの扱いを逆手に取る気だと察し、呆れたヴェルーゼは溜息を吐いた。


「ふはははは!これから時間が勝負の再編成地獄だぜェ!!」

 ダモクレスは密偵網で手に入る情報は全て兄弟で共有してます。兄が調べた情報は弟に届きますし、義勇軍の情報も兄に届いてますw

 どっちが優先とかじゃなくて、割ける人材の比率を動かす形なので、全密偵を集めるとかはありませんし出来ません。近場に派遣した密偵の中でやりくりする感じ。

 大部分は現地潜伏している草か商人モドキですw


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