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ジュワユーズの救国王子~転生王子の胃痛奇譚~  作者: 夕霧湖畔
第一部 何故か第二王子転生
24/156

16+1-2.間章 デルドラの神官房2

※前後編、後編です。前日15日に前編が投稿されているので御注意下さい。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 決闘開始直後。

 僧王は闘技場から降り、他の一同は見極めも兼ねて周囲の見学席に座っている。

「ほう。アレス殿はあの歳で既に十のスキルを保有しているのか。

 今の『神速』と言い、これはバルサムでは荷が重かったかも知れん。」


 あれで同世代では一番鍛え抜かれているのだがと驚きと共に漏らした僧王の楽し気な言葉は、カルヴァン王子の耳に疑問を残す。


「僧王殿は、他人のスキルを見極める目をお持ちなのですか?」


 確かそういうスキルがあると聞いた事があるが、ガンディハーンはいえと首を横に振って手持ちの杖を見せる。それは先が瞳の様な形をした奇妙な代物だった。


「これは〔鑑定の瞳〕という魔法の杖でしてな。

 杖の瞳に映した対象の「LV、職業、全スキル名。」が鑑定出来るのですよ。

 スキルの『鑑定眼』とは聊か見えるものが違いますので、どちらが優れているかと単純に優劣は付けられないのですが。」


 修行の成果を目に見える形に出来ますからと、代々の僧王が製法含めて継承しているらしい。


「それ、沢山作れるんですか?」


「ここで販売しておりますよ?顧客は少ないですが。」


「……………………他の場所で売れば、絶対買い手は増えると思いますが。」


「一応秘伝なので。」


「そうですか。」


 高かったけど一本注文しつつ視線を戻すと、アレスは【必殺剣】を適度に織り交ぜた戦い方を確立しており、僧兵バルサムを圧倒しつつあった。


 手を抜いている様子は無いが、あれほどハイレベルな戦い振りは初めて見るのにアレスの方には余裕すら伺えた。

 訓練や魔物相手で知った心算でいたが、まさかこれほどの技巧派だったとは思いもしなかった。同じ王子でありながら、自分はどれほど未熟なのか。


「一流の武人となるには先ず、観察する事です。

 そして短所を否定してはいけない。長所が必要に届かなくてもです。

 足りないものを補うためには、足りない事を否定してはいけない。」


 軽く独り言の様な僧王の言葉に、思わずカルヴァン王子は息を呑む。


「後、アレス王子を基準にするのは大部分の王子に失礼です。」


「…………それもそおですね。」


 脂汗を浮かべて口を噤む。悪いとは思うが同意しかない。

 弁明は試みたがどう贔屓目に見ても、アレス王子に普通の要素は無かった。


「僧王様、準備が出来ましたが。

 ……あれ。もう始めているんですか?」


「ん?何の準備だ。今日この闘技場を使う予定は無かっただろう。」


 現れた僧兵はえ?と首を傾げる。


「いや。ここを使わないのは〔浄化の儀〕の準備中だからですよね?

 何か中断の指示がありましたけど、直ぐ終わる段階だったので全部終わらせた上で休息を取らせましたけど。」


「待て。では〔祭壇の封印〕は解いたままなのか?

 儀式は今日やらぬと伝えてあった筈だが?」


「え?初耳ですよそれ。

 それにいつもは当日まで使わないんだから、わざわざ〔封印〕なんてせず部屋を封鎖するだけで済ますじゃないですか。」


 そこで階下から誰かを探す声が聞こえ、部屋に入らずに遠ざかる。


「……今の、そちらの方のお名前ですか?」


「え、ええ。私の名前です。客人の方ですか?」


 そこまで言って、全員に沈黙が漂う。明らかな行き違いの気配。

 そして〔封印〕が解けたままとかいう不吉な言葉。


「「「…………。」」」


 薄々全員がそれぞれに、細部が判らぬままに事情を察し始める中。


「……やっべ。」


 僧王ガンディハーンは小さく呟いた。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 木像が立ち膝となり、鋭く正確に拳を突き下ろす。


「ななな、何でだ~~~~っ!」


 全力で拳の下から脱出しながら木像を見上げる。

 こんなん知らんわ。そもそもこの世界にゴーレムがあるとは初めて知った。

 いや未だ本物とは限らないのだが。


【デルドラの守護者像、LV25。ゴ】巨大な拳が突き下ろされる。下ろされる。まだ下ろされる。


「いや終わらねぇな!ていうか一体何だよこれっ!」


 アレスが必死で間合いから逃げ続けるが、まるで檻の柱の様に次々拳が地面に突き立てられて逃げ道を塞がれ続ける。

 別に複数の木像が襲い掛かって来た訳ではない。単に一つ目の拳が引き戻される間に次の拳が襲い掛かっているだけだ。では何故か。


「ば、馬鹿な!御本尊が何故今動き出す?!」


 木像の腕が六本あったからだ。二人に同時に拳を打ち下ろしてもきちんと数が足りてしまう、所謂三面六臂という奴だ。


 因みに六臂とは肘の数を指す。仏像とかで良く見る奴で胴が三つな必要は無い。

 頭が三方位を向いているだけで、肩が縦に三つの場合も横に三つの時もある。

 全ての腕が似た様な動きをしている限り、案外互いが邪魔になる事は無い(只今実体験中)。


 拳に反撃するには初動で体勢が崩れてしまったため機を逃している。

 何とか隙か距離を取りたいが、拳の戻り際を狙うと次が躱せない。人を握り潰せるぐらいに拳が大きい所為で、避けるだけで今は手一杯だ。


「ッッッ……!!」


 というか下手に話すと『神速』が使えなくなる所為で追い付かれ始めた。

 呪文で反撃は無理かと思ったら、地面一帯を埋め尽くす長い脚による蹴りが壁のように迫って来た。


(ちょっ!外に逃げ切るスペースが無い?!)

「ぬぅん!」


 壁に叩き付けられる前に横へ逃げ切るのは無理だ。咄嗟に【魔王斬り】で勢いを殺しながら足の上に弾かれる。

 下手にその場で持ち堪えたら重量負けは確実だ。窮地を脱したかと跳ね上がった空で再び掬い上げるように迫る長い爪先が死角から出て来る。


「ッ?!?!」


 【魔王斬り】である。

 混乱しながら更に上に跳ね上がり、木像が床に座り込んでいるのが視界に入る。

 気付いてみれば当然だ。【魔王斬り】である。

 床ぎりぎりに足を伸ばしていたのだから、他の姿勢では不可能だろう。だがその場合足一本は膝を曲げて体を支える必要がある。


 ならば未だ通り過ぎている最中の二本足と、階段の様に迫る三本目の足は一体何だというのか。待てよ頭の回転が視界の認識に追い付かんのやぞ。


 アンタも馬鹿ねとばかりに爪先で蹴り上げる様は、まるで連続写真の様で。

 それでいて微妙に動きが修正されていく様はまるでバレリーナの様に丁寧な練習風景を連想する。私天井に蹴り飛ばされるピンボール。


「ッ!」


 むしろ蹴り飛んでやったぜワシ凄い。天井に激突する前にバク転の要領で着地し目の前を通り過ぎる足の裏の先には、ようやく鑑定し損なったデルドラの守護者像とやらの全身が見える。

 着天と跳躍の【魔王斬り】ピンボールの傍らで。


 見上げる顔の両脇には恐らく三方向を向いた、首を回す必要のない顔がある。

 地面に付いた手二本で体を支え、通り過ぎた足は畳まれて次の蹴りに備えられて再び迫りそうなのと合わせて計六本。

 気になる胴体は背中を地面に傾けて、足がギリギリ届かないならそう、今迫って来るのはそう、六本腕の片側三本だ。


「うぉぉぉぉお~~~~~~~~~ッッッッ!!!!!!

 俺を地上に下ろせっ!バルザァ~~~~ム!!!!」


「す、済まん!分かった!」


 魂の叫びを向けた相手は、いつの間にか標的から外されて呆然とこちらを見上げている。我に返ったバルザムは慌てて守護者像の背中に向けて走り出す。


 上体を起こすだけで容易く届く拳は、アレスに地上へ跳ぶ隙を与えてくれない。

 必死で【魔王切り】を繰り出し弾かれながら、天井に挟まれて潰されない様斜め横に飛ばされて天井と拳と蹴り足を跳ね回る。


 貴様ァッ!【魔王切り】は超絶技巧なんだぞ!ゲームでいう技確率なんざ成功率が今20%程度って意味なんだぞ!

 『見切り』スキルで予測して全力で逃げ回ってぃいい加減地上が恋しいわ!


 裏拳を交わし様に拳を狙ったバルザムが手刀に切り替えた守護者像に弾き飛ばされるが、両者を同時に視認出来る守護者像は揺らがない。


 だが手数が減った一瞬でダメージ度外視で地面に飛び降りれば、流石に追撃にと掬い上げられた地面スレスレの平手打ちまでは躱せない。


 蝿叩きの様に横壁に叩き付けられたアレスは、地面に転がり落ちてようやく深々と荒い息を吐き出して前転の後に走り出す。

 踵落としが背後の床を揺らす。いい加減息が止まりそうだ。


「ッ!【下位闇球(ダーク)】!!」


 背後に迫る拳が僅かに宙に浮いた瞬間、地面に全身を叩き付ける勢いで伏せて拳を掻い潜り、腕の陰に隠れている間に敵の顔面に向けて黒い魔力球を飛ばす。


 他の魔法と比べて威力が高い分速度は遅い。故に裏拳が顔に届く前の闇球を破壊し直撃を避ける守護者像。

 だがその間は完全にアレスを見失った。


(今度こそ鑑定!)

【デルドラの守護者像、LV25。ゴーストゴーレム。

『心眼、反】「【退魔魔法(エクソシスタ)】ァッ!!」


 考えるより先に浄化の補助魔法陣を地面に展開すると、こちらに迫り来る巨大な木像は膝を折りながら地面に倒れ込む。


 補助魔法【エクソシスタ】。アンデットを消滅させる光属性魔法だ。補助魔法に属するので、実は基礎クラスのクレリックでは習得出来ない。

 アレスもアルケミストを兼ねたハイロードだからこそ習得出来た魔法だ。

 購入出来るのは東部中央のイストリア王国か、あるいは中央国家への到着を待たねばならない。この段階で入手出来る魔法では絶対に無い。


「くっそぉ……。

 オレは魔法一つで秒殺出来る相手にココまで死ぬ思いさせられたんかい……。」


 緊張感から脱して荒い呼吸を開放して膝を折ったアレスの耳に、木材が軋む音が届く。今とても聞きたくない音なのに、何故か方角は目の前の木像とは真逆。

 心臓の動悸がちっとも収まらない中。後ろを振り向くとゆっくりと。


 他の()()()()()が静かに立ち上がり始める。汗が全く引いてくれない。


「済まない、アレス王子!どうやら手違いで〔浄化の儀〕が始まってしまった!

 今【退魔魔法(エクソシスタ)】を使える者達に召集をかけているところだから、彼らが到着するまで出来る限り浄化を頼む!」


 大急ぎで降りて来た僧王ガンディハーンが、息も絶え絶えにアレスへ叫ぶ。


「何で浄化出来ない悪霊がこんなに溜め込んであるんだよ?!」


「浄化出来ないから普段は封印して溜め込んでいるんだ!

 元々此処はハイクラスを目指した修行場だ!だからハイクラスに達した僧兵達は外で修行して経験を積み、僧王となるために戻って来る!

 その時に次期僧王選出を兼ねて行うのが〔浄化の儀〕なのだ!」


 つまり【退魔魔法(エクソシスタ)】を使えるハイクラスは普段ここにいない訳か。

 だが何で居ない魔法を当てにして悪霊が溜め込まれるというのか。


「ここは神官達の聖地だからな。浄化魔法は使えずとも魔導具を用いれば悪霊封印くらいはクレリックにも可能だ。

 そして封じた悪霊はまとめてあの守護者像に収納される。

 次期僧王達の試練も兼ねているからな。

 闘技場に入れる守護者像は一体に限られている。

 最も多く守護者像の攻撃を躱しながら浄化した者ほど次期僧王に相応しいという訳なのだよ。」


「訳なのだよ、じゃね~よ。オレ僧王じゃ無いんだけど?

 コレ途中で中断しないと次の僧王選出に困るんじゃね?」


 倒れた守護者像は自然と闘技場の外に引っ張られる仕組みの様だ。

 アレが取り除かれるまで休憩出来るのだろう。ガンディハーンは闘技場の上には上がって来ない。


「それは問題ない。次の僧王選出には間があるからな。

 それに今は平和な時代が続いたせいで、僧王候補も少ない。今回の〔浄化の儀〕は僧王選出の為ではなく、間引き目的で行われる筈だった。

 後ワシは魔法よりも武力継承の方を重視して選出されたので、多分君の方が多くの守護者像を浄化出来る筈だ。」


「先にアンタが浄化出来んの?」


「途中交代すると不正と見做され、一体の制限が停止する。

 流石にあの数を同時に相手取るにはワシも歳でな。今回の会合で僧王継承を早めたいと提案する予定だったんじゃ。」


 成程。複数体が立ち上がったのはバルザムが居たからで。

 ついでに彼が闘技場に戻らないのも【退魔魔法(エクソシスタ)】未修得だからだろう。


「中断は出来んの?」


「中断するための人手もこれから来る。」


 つまり。アレスは援軍が来るまで一体でも多く浄化する必要がある訳で。


 守護者像の数は、多分()()くらいある。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 木像には〔封魔人形〕という20LV以下の悪霊を封じられる使い捨てアイテムが数十個単位で納められている。

 【退魔魔法(エクソシスタ)】一回でまとめて浄化出来る様にするための工夫らしい。その分一体一体の戦闘力は上がるが、試練としては弱過ぎても困るのだ。


 木像の数は百八体だが、全ての木像が使用中ではなかったため、アレスが二十体近く浄化した時点で半分近く終わっていたという話だった。

 悪霊封じは今も各地の僧兵が行っているため、儀式に支障が出る事も無い。


 だがアレスが逃げ回りながら倒し続けたお陰で、全員を中断の準備に回す余裕が出来た。ので、結局力尽きるまで戦ったのはアレスだけだ。


「よ、良かったですねアレス王子!

 お陰で〔デルドラの神官房〕も参陣を約束してくれましたし!」


「流石にコレで協力しないとか言ったら絶対許さんきに。」


 迷惑料というか賠償金代わりに幾つかの魔導具を譲渡と購入したお陰で、多少は装備品も充実した。損をしたかと言われれば否だし成果はあった。


 だがアレス王子は全身筋肉痛諸々で現在要介護中であり、一人では下山も侭ならなかった。仲間達に担がれてようやく漁村まで戻って来れた。

 この世界、ゲームに設定されていない体力を回復する魔法は存在しないのだ。


「まあそう言うなって。実際〔デルドラの神官房〕の指導員まで参陣してくれるってのは破格の待遇なんだろ?

 カルヴァン殿下も『反撃』スキルのコツを教えて貰ってるしな。」


 流石に僧王自らの参陣こそ無かったが、既に指導員として僧兵バルザムが小隊を率いて参陣している。

 他の〔神官房〕の面々は準備が整い次第合流する予定だ。


「それは君の妹さんへのフォローかな?」


 アレスの指摘に、スカサハは遠い目をしながら襲って来た熊を撃退している彼の妹に視線を向ける。彼女マリルは間違いなく軍医であって僧兵ではない。


「そうだ!その盾捌きこそまさに『鉄壁』スキル!

 よくぞこの短期間で極意を掴んだ!」


 『鉄壁』スキル。

 発動すると物理攻撃を完全に無効化する、ゲームでは主に拠点ボスが保有する盾持ちの重騎士用スキルだ。

 アイテムとして盾を持つ必要は無いが、装備LV3か重装備グラフィックの無いキャラクターが習得しているのは見た事が無い。


「はい!師匠!」


 クレリックのマリルは、小さめの片手盾で熊の体当たりを弾いていた。


 どうやら実際の鉄壁スキルは、受け流しというよりは受け弾きという分類の武技になっているようだ。

 見た目はか弱いマリルが熊の巨体を弾き飛ばす様は、実にシュールである。


「……俺の妹は、一体何処を目指しているんだろうな?」


【軍医マリル、LV8。クレリック。

『見切り、反撃、連撃、鉄壁。』】


 今のマリルに、ベッドから起き上がれなかった病弱少女の面影は無い。

 ついでに言うと殆どのクレリックは複数のスキルを持たない。

 前線に出ないクレリックはスキルを必要としない。だから神官房は例外なのだ。


 明らかに天性の武才を発揮し始めている彼女を見る兄の心境は、複雑の一言では到底済ませられるものでは無かった。

※前後編、後編です。前日15日に前編が投稿されているので御注意下さい。

※本編17は今週3/20日祝日投稿予定になります。


 完全なるギャグ回。新キャラも出てますが、本編に登場する際には簡単にでも説明が入る予定。間章は飛ばしても問題無い構成を目指してますが、小ネタとして本編にも関わります。

 因みに著者は再放送でしか見た事がありません(何

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