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ジュワユーズの救国王子~転生王子の胃痛奇譚~  作者: 夕霧湖畔
第一部 何故か第二王子転生
20/153

14.第三章 北方最強

※次回、2/24日土曜日も投稿予定です。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 アレスは乱戦の最中、味方を激励しながら敵将ゴドルーへと足を進める。

 義勇軍と敵を見分けるコツは鎧兜では無い。肩に巻いた、一見止血している様にも見える赤いスカーフだ。

 包帯と違い結び目をリボンの様に目立たせる事で、薄闇での同士討ちを避ける。


「松明に火を灯せ!傭兵は無視して賊軍を討て!」


 アレスは既に帝国軍に似せた外装を取り外している。

 アレスは切り込んだ騎馬隊の先陣では無く、帝国軍に紛れた中央軍の中にいた。

 味方の装いは全て傭兵風。故に帝国軍装を纏うものだけは迷わず敵だ。帝国軍が信用出来なくなった傭兵達の士気は高くない。


「どうやら敵は状況を全く把握出来ていない様ですな!」

「油断はするなよ!我々が大丈夫でも周りが見落とさないとも限らん!」

「「「承知!」」」


 騎士エミールが作戦の成功に喝采を上げながら敵兵を斬り倒す。

 敵兵の中に紛れていた緊張感に加え、敵兵による義勇軍への罵倒やらへの沈黙は長年の側近である彼には相当の不満だった様だ。

 嬉々として暴れ回る様は、実のところ味方の大部分に共通しているのだが。


 元々アレス達の立てた作戦は、帝国武将がマゲッタ卿の裏切りを都合良く信じてくれると期待した訳では無い。


(そもそも砦の兵が増援を出せなかったのは、あくまで煙幕による同士討ちを警戒したからだ。

 逆に言えば煙幕の外側までは、出陣してもおかしくなかった。)


 その時点で偽計に成功は無い。

 その時は即座に撤退し、煙幕の中で()()()()()()()()全てを委ねれば良い。



 元々作戦のメインは煙に紛れた挟み撃ちと前方への誘導だった。

 敵将が中央に居る内に煙幕を炊いて中央突破を誘っただけで、弓兵を中央に集めたのもその誘導。

 実はそもそも、弓兵と最低限の護衛以外陣地には残らなかった。煙幕を焚いた時点で大部分は移動を始めたからだ。


 一番困る対応は、煙幕外の左右から狙っていた機動力に劣る魔法使い部隊へ突撃される事。即ち左右への襲撃だった。

 そもそも煙幕は、地形の問題で森の中にまで流れ込まない。


 実際には左右からしか襲えていないのであり、中央への攻撃は自滅の可能性が高くて不可能だったのだ。


 煙幕に紛れて義勇軍が行った事。それは敵兵に紛れて都合の良い報告を叫ぶ事。

 敵軍に紛れた()()()()()()()()、敵に都合の良い報告を叫んで誘導する事だ。

 中央に居れば味方の攻撃は届かないのだから、実は同士討ちの心配も無い。


 後はもう、敵兵が陣に近付いた段階で弓兵は陣から撤退するだけ。

 中央では味方の同士討ちが始まっていると報告しながら、偶に油断している敵兵を煙に紛れて背後から襲撃して離れる。これだけだ。


(後は傭兵団の一部に義勇軍が紛れる。砦に駆け込むなら門を破って火を放つ。)


 砦の兵と合流するのなら、密偵隊は労せずヨーグ砦の中に入り込める。

 後は内応のお時間だ。これが偽計()()()()メインプラン。



 今回は増援軍が合流を恐れ、脇道への撤退を選んだ。

 旗は正直どうとでもなった。そもそも疑心暗鬼さえ煽れれば十分。

 失敗したら偽計に惑わされず、やはり砦に合流したのだから。


 そして彼らは疑心によって脇道へと誘導された。脇道から遠い位置に陣があった場合、恐らく入城せずに自分達で陣を立てて休息しただけだろう。

 脇道があったら、恐らく砦からは距離を取る筈だと踏んだ。的中した。


 敗軍の将は煙幕が消えるまで待たず、煙幕の中で立て直しを選ぶ筈も無い。

 同士討ちを避けたい者達はむやみに剣を振るわない。だから背中を狙い易い。

 武将と思しき相手に先ずは「逆族」扱いして斬りかかった。流石のアレスでも煙幕の中では即死させられなかったので、素直に撤退した。


 撒かれた種は彼等を蝕み、『煙幕を経由』する形で脇道へと脱出する。

 斬りかかる者が居なければ敵兵は去ったと安心し、帝国軍は脇目も振らず安全な脇道へと進み続ける。


 アレス達は『煙幕を経由』して帝国増援軍に合流し、傭兵隊の振りをして増援軍と共に脇道へと踏み入ったのだ。


 帝国軍は傭兵隊の顔など把握していない。見分ける必要も感じていない。勝てば契約した部隊に報酬を払うだけだ。

 契約していない部隊が紛れ込むなど想定してない。

 故に。脇道近くに伏せた兵が、容易く煙に紛れて合流出来る。


 渓谷の谷間を進みながら、脱落兵や逃走兵の隙間を埋める様に敵中央に近付く。

 アレスも敵兵と雑談しながら敵将の容姿や位置を聞き出し、味方を叱咤する振りをしながら敵本隊に接近する。


 敵軍の脚は存外遅い。お陰で魔法隊、歩兵隊も追い付いて後方を閉鎖し、義勇軍による包囲網が完成していた。



 脇道の広場前に先回りしていたのは、元々最初の戦いに参加していなかった別動隊だ。歩兵の数は最も多く、足も遅い。閉所で背後だけに回すのは無駄だ。

 半数以上はこちらに回り込むために迂回させており、今彼らの進路を万全の状態で塞いだ上で、強襲を仕掛けている連中の事だ。


 砦が動いた場合は味方が森に逃げる計画だった。その場合脇道からの襲撃は敵背後への強襲となる。

 狭い道なので大軍に追い立てられる事も無く下がれるだろう。

 こちらも今回は選ばれなかった作戦だ。


 そして。味方の義勇軍が鬨の声を上げたと同時に、アレスは声を張り上げた。

 意訳。『お前達の指揮官は裏切り者だ』と。




「ま、待て!俺は義勇軍に降伏する!だから殺さないでくれ!」


 既に帝国軍の指揮系統は機能しておらず、敵味方のはっきりしている義勇軍こそこれ幸いと、続々降伏する者達が増え続けている。

 義勇軍は捕縛用のロープを配っているので、敵の捕虜は次々と無力化されて戦場の脇に追いやられていった。


 後は指揮官さえ討つか捕えれば大勢は決まる――。


「既に、戦の勝敗は決したと思うんだが?」


「いや。ダモクレス王子アレス、お前を討てば義勇軍の敗北だ。」


 混戦から少し離れた岩場の上。


 北方最強スカサハ。

 軽装にして秘蔵の宝剣、アレスと同じ〔飛燕剣〕を携えた長身の優男。

 そして後方、谷間の向こうから傭兵隊獅子の牙が現れる。


「ホント、おっかねぇ奴だなアレス王子殿下。

 まさか五分以上の兵力相手に此処まで完勝するとは思わなかったぜ。」


 獣の牙の団長ナゲッタは心の底からの恐れと共にその胆力を称賛する。


 身の危険を感じたスカサハ達獣の牙は、迷わず森影に紛れた脱走を選んだ。

 自分達にしか通じない合図を無言で交わし、足場の険しい森へと自然な形で隊列から逸れていく。


 一段高い木陰から脇の帝国軍を見下ろす形になって軽く一息を吐き。直後に前方から敵軍の襲来が叫ばれ、裏切者と叫ぶアレスの声が響く。


 帝国軍から離れて直ぐだったからこそ、声音が区別出来る程にはっきりと聞き取る事が出来たのは獅子の牙一同に反転を選ばせる動機となった。

 後は高みから見下ろし、アレスの近くへ山間から移動するだけだ。


「北方最強スカサハだな。義勇軍は獅子の牙を丸ごと雇う用意がある。」


 決定権があるのは誰だ、と問うと団長ナゲッタが俺だ、と答える。

 平然と次の戦いを見据えて語るアレスの戦術眼に、たかが山賊や成り上がり帝国武将如きじゃ手に負えない訳だと納得してしまう。

 だが同時に、血の気が騒ぐのも止められない。


(やべえ。これは極上の敵だ。今後どれだけ戦場を渡り歩いても、これ以上の相手に出会えるとは思えねぇ。)


 傭兵を長年続ける団長に限らず、獅子の牙は腕自慢が揃っている。その頂点に君臨する団長の勘が、これだけ敵将を間近に捉えても全滅の危機を訴える。

 このアレスという戦士は、決して自分の劣勢を無視して交渉を始める様な、実力だけを信じて戦う様な人間ではないのだと。


「団長、俺が挑む。それが答えだ。」


「……!任せたッ、北方最強!」


 スカサハの意図を察し、全てを託して送り出す。対するアレスも意図を解した。


「一騎討ちだ!邪魔をするな!」

(乗って来た!連中が見ているのは報酬じゃない、信用だ!)


 一息で坂を下ったスカサハと、アレスの剣戟が弾き合う。




 ヤバイ。人生最大の命の危機を迎えているとアレスは確信する。

 様子見の剣戟では無く、防げなければそれまでの手加減無き応酬が牙を剥く。

 ベルファレウス第三皇子はそもそも一撃を躱せるかが全て。危機と言うより一瞬の博打と呼ぶ方が相応しい。

 今回とは前提条件がまるで違う。


【傭兵スカサハ、LV10。人族。

 『奥義・武断剣、見切り、心眼、神速、反撃、連撃、必殺』~】


 『鑑識眼』で視えたデータが物語る。

 身体能力、スキル数。能力の上では全てにおいてアレスが圧倒していると。


 だが十数合と斬り合う間に、幾度と無く頬を、急所を掠めて反撃の隙、スキルの発動を幾度と無く止め、凌がれる。


 当然だ。ゲームと違い、スキルは只のデータでも才能でも無い。

 相応の、スキル化される程の技量、秘技、体捌き等を理解し使いこなしているという意味だ。


 アレスと違い、文字通り最初から以て生まれた上辺だけの代物じゃない。

 ゲームではランダムで済んだが、それは才能任せの直感的に戦うタイプの戦い方と言えるだろう。

 達人にとっては戦法を、武技を組み立て、動きの先を読んで放てる代物なのだ。


 更に言えば、アレスは『鑑識眼』や『浄化』『鉄心』『竜気功』と云った技術系以外のスキルが多い。

 凡そ全てが武技にまつわるスキルで構成されたスカサハと較べれば、むしろ明確に劣っているとすら言えるだろう。


 距離を取っても肉薄され、凌ぎ躱しても間合いを外される。

 経験。洞察。先読み。誘導。

 あらゆる駆け引きにおいて身体能力任せに凌いでこそいるが、常に優勢を保ち続けているのは間違い無く歴戦の剣豪たるスカサハだった。



「おいおいマジかよ。あのスカサハと真っ向から張り合ってやがるぞ……?」


 死角からの一閃、体捌きによる間合いの変動。

 見逃せば全てが致死の隙となる瞬間。

 それら全てを掠り傷以下で凌ぎ、躱して弾き、反撃すらして見せるアレス。


 距離を取って全体を俯瞰してすら素人目には負い切れない、剣戟の嵐を余す事無く対応し切る、尋常ならざる身体能力の暴力。

 遠くでは未だ続く乱戦が幻に思える程の隔絶した反射速度で、あらゆる技術を捻じ伏せにかかる神懸った才能の暴威が其処にある。



(死ぬシヌ死ぬわオイラむっちゃ首とか手足の関節が寒い。)


 内心の恐怖を押し殺して既に十数回を超す致死の瞬間を切り抜ける。

 今まで学んだ剣術とは何だったのかと言わんばかりに、多彩に変幻自在に想像の裏から死が迫る。


 何割かは勘で避けた。防げない何合かは切っ先や肘や拳を動員して捌いた。

 避け切れないならと相打ち狙いに切り替えたらきっちり無傷で避けられた。


「ははははは!凄いな貴様は!

 此処まで手応えを感じない相手は初めてだよ!!」


(ヤメて!テンション上げないで!!)


「随分と好きに言ってくれるな!

 こっちには指揮官としての役割もあるんだがっ?!」


 心が超泣きたい。誰だLVさえ上げればステータスの暴力が通じるとか。

 掠って無いんだよこっちの攻撃は。


「は!悲しいね!こっちもそろそろ身の危険ぐらい感じて欲しいものだがな!」

「ッッ!ッ!!!」


 軽口の後に更に剣速が上がる。さっきよりもギリギリに、より際どく。

 泣き言を言う隙すら無く死が迫り、今迄の強敵全てが雑魚にしか感じない。

 いやホント既に某第三王子くらいじゃないと太刀打ち出来なくありませんかこのバグ枠。知っているか?知っているぜ?コイツ未だ奥の手隠し持ってやがる。


(あ~~~!もう君が一番の教材ですよ剣の先生ですよ!

 間合いの取り方一つ、躱し方防ぎ方全てが参考になりますとも!)


 もう猿真似だろうと真似するしかない。もう手の内覚えられてて死ぬ。

 元々習った型の範囲じゃとっても全く防げやしない。こんな変則的な防ぎ方ってあるんですね。出来るんですね。下手に下がらない方が防げるんだマジかぁ。



(くそ!最初に仕留めそこなったのが此処まで響いてくるか!

 こいつ、この短期間でオレの剣を学習し始めている!)


 仕留める機会は幾度と無くあった筈だ。勝ちを確信した瞬間も何度かあった。

 しかし強引な反撃は諸共に命を奪うもので、最悪一方的に耐え切られてこちらだけ致命傷を負いかねないと、スカサハは数限りなく勝機を逃し続ける。


(殺さずに勝てるならそれで済ませたかったが、此処まで捻じ伏せられると考えが甘かったとしか言えないな……ッ!)


 アレスには分からない。寸止めで済ませる隙は全て反撃か相打ちで返して手加減の余地を封じてしまった事も。


 余裕の無さによる必殺の反撃がスカサハの降伏の機会も奪っている事も。


 お互いの未知を覚え、体感で理解し続けた二人にとって、既に完全な意識外の攻撃は存在しない。

 【必殺剣】も全て使い尽くし、武器の性能も違いは無い。はや単なる力業は隙にしかならないと理解している。


 故に決着の道は一つしかない。



((【奥義・武断剣】!!))



 神速の、呼吸すら許さぬ一瞬の三連撃が、全く同じ軌道で交差する。

 只の連撃でも、肉体強化任せの加速でも無い。

 一切反撃の隙を挟ませない芸術の如き三つの円が一筋に繋がり、音叉の如き金属音を奏でさせる。

 そしてどちらも、致死の連鎖を凌ぎ切る。


 洗練された鋭さで勝るのが剣豪スカサハ。速さと力強さで劣勢を跳ね退けるのが王子アレス。


 ならば最後の勝因は。


(馬鹿な!n(『連撃』【奥義・武断剣】!))



 凌がれても尚動きを止めなかったアレスと。

 動揺して戦いを忘れたスカサハにある。



「……は。余計な事……、考えちまったか……。」


 三筋の斬撃を受けて、倒れ伏すスカサハ。

 傷は浅い。狙いが甘く、衝撃に振り回された初手に比べれば余りに拙い剣に振り回された強引な連撃。だがそれでも、全て届かせた。


【傭兵スカサハ、LV10。状態:気絶。】


 倒れる前に踏み止まり、剣を支えに両膝を引き上げる。

 遅れて体を縛り始める震えに支配される前に、死力を振り絞って剣を掲げた。


「北方最強スカサハ、ダモクレスの王子アレスが討ち果たしたぞ!!」


 闇夜に上がる喊声が、峡谷での戦を終える最後の一声となった。

※次回、2/24日土曜日も投稿予定です。


 回答編。実は指揮官の判断は対して重要では有りませんでした。


 実は帝国兵に紛れた義勇軍兵視点では、燦然と輝く様に発動した【救国の御旗】が見えてましたw敵に気付かれなかった要因の一つに『伏兵』効果もあった訳です。

 敵軍と行動するという不安の中で、義勇兵達にはアレスの現在位置が曖昧にでも伝わります。

 共に行動している証拠は彼らにとって、どれ程心強く映っていた事でしょうねw

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