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ジュワユーズの救国王子~転生王子の胃痛奇譚~  作者: 夕霧湖畔
第五部 帝国の暗部救出作戦
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111.第二十六章 砂漠の秘剣、龍虎の衝突

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 南東のアガペラ支部は思ったほど多くない。

 海岸線は雨が降り易いため、シャラームでも比較的砂漠化が進んでいない。にも拘らず支部が少ないのは、そもそも人が住むのに適していないからだ。


 理由は近隣の海岸線が〔流砂の岩峡〕と呼ばれる岸壁になっている点、〔流砂〕の多発地帯だというのも大きいが。

 一番はやはり〔甲殻の墓場〕と呼ばれる程に巨大蠍や昆虫系の大型モンスターが大量発生するダンジョン地帯があるからだろう。


 つまり海岸付近は甲殻系モンスターが鎬を削る、魔物達の大量発生地帯なのだ。

 魔物を避けた狭い岩場の隙間の様な海岸線以外、荒涼とした砂砂漠が大半。

 これでは開拓が進む筈も無い。


 何が言いたいのかというと、こんな環境で数少ない港を使えば夜だろうと誰にも気付かれない筈が無いのだ。

 それが他地方に全く伝わっていないとあれば、当然情報封鎖をした集団が近く、例えばアガペラ支部等と云った裏社会の関係者が必ず関わっている。


「間違いありませんな。

 帝国船を降りた一団は彼らから道中の兵糧を受け取り、城塞都市ポマードを経由せず、海岸沿いの道を抜けて王都を目指した様です。

 彼らは王都の住民に気付かれない様に入城する心算でしょう。」


 忍頭コジロウが回収した書類をまとめて提出し、アレスに説明する。


「海岸線付近はモンスターの巣窟じゃ無かったか?」


「それは南東地域、〔岩龍山脈〕を越える手前の話ですね。

 南西は端の方こそ高山帯に囲まれていますが、大部分は湾岸地域。塩湖の周りはモンスターとて繁殖が叶わない不毛地帯です。

 道中が灼熱帯で途中補給が全く出来ない点を除けば、海岸線こそ一番安全な旅路を約束してくれるでしょう。」


 言い換えればその二つこそが最大の障害となるのだろう。何せ魔物すら避ける程の一帯だ、行軍が過酷にならない筈が無い。


「……いや。帝国貴族なら〔冷房の魔玉〕や〔給水樽〕があるな。

 魔導具を大量に用意出来るなら、そこまで苦労する旅路にもならないのか。」


 〔給水樽〕は聖戦軍でも重宝している、MPを注いで水を満たす魔導具だ。

 これさえあれば水不足の心配が無いため、砂漠の進軍では必需品だ。魔導具の中では安いとはいえ、数が必要なので結構な金額になる。


 一方で〔冷房の魔玉〕は聖戦軍でも殆ど使っていない高級品だ。

 皆無では無いが、軍議の際と医務室でしか使っていない。一つで六畳間程度しか適温に下げられないのに、価格で言えば〔銀武器〕並の金額が必要だ。


 ゲームでは登場しない日用品魔導具だが、普通の軍隊なら考慮に値しない程の金が動く高額魔導具だ。

 だがそれさえあれば、砂漠に慣れない貴婦人でも強行軍が可能だろう。

 唯一にして最大の問題は砂嵐だが、待機に徹すればテント程度の魔導具でもどうにか出来る筈だ。


「流石にもう王都に入城している頃だな。既に手遅れの可能性も有るか。」


 正直その可能性で最初の段階から考慮していた。マギリス宮廷伯は救出を望んでいたとは思うが、【転移魔法(ワープ)】は大陸全土を瞬間移動出来ない。

 西部から来たなら数日単位、意識を失っていた筈の情報源なのだ。

 だから事の真偽や周辺情報を優先して調べていたのだが……。


「ですが、目的次第では直前まで生かされている可能性があります。」


 そうなのだ。ヴェルーゼの指摘通り、聖戦軍への切り札の可能性がある。

 というより、このタイミングで連れ出されている時点で相当に怪しい。


「いっちゃん肝心なところが確認出来そうにないか……。」


 とはいえ今回の支部が把握出来ている最後だ。アガペラの幹部も確認出来ている範囲ではほぼ壊滅、残りは王都常駐と推定される連中だけだ。


「本来の目的である暗黒教団の殲滅は概ね完了した。

 シャラーム攻略も迫っている今、これで満足するしか無いな。」


「では。」


「王都へ向かう。本隊と合流し、シャラーム王都攻略に挑むぞ。」


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 制圧作戦を終えた今、アレス達が王都までに南東方面聖戦軍へ追い付くかどうかは微妙な線だ。必要があるとも限らないが。

 そもそも別動隊は輸送物資が調達し易いだけで、移動が劇的に早い何かがある訳じゃない。行軍中の速度は若干身軽で無理し易い程度の差だ。


 そして南東聖戦軍は岩龍山脈を南に迂回する選択を選んでおり、近道が無い。

 理由はシンプルに自軍の数が多過ぎるため、選択の余地が無かったのだ。


 何せ〔灼熱渓谷〕は道が細過ぎて部隊の大部分が〔砂弾きの杖〕の射程外となるため、安全を優先して杖持ちを往復させるとかなりの日数を要する。

 全体が射程に入らないのは止むを得ないとしても、全軍で移動出来る分砂漠の方が兵糧の消耗は少ない。


 砂砂漠の進軍は困難ではあったが、敵の警戒はし易い。

 最大の警戒地点は、山際を超えた先のオアシスであると思われていた……。




「ビンゴ!あの砂煙の先に居るのが聖戦軍だ。」


 ナシール第七王子は本来で有れば将軍職として最前線に立つ以外の生き方は許されない、王位継承権など飾りでしかない木っ端王子だった。


 シャラーム王家は邪龍退治の際に聖王の傍らで剣を振るい、武神の系譜として名を馳せた一族の末裔だ。

 邪龍に通じる秘剣を継承する証として、即位式の際には必ず【奥義・封神剣】を披露する事が定められている。


 武を尊ぶと言えば聞こえは良いが、逆に言えば剣を握れぬ者には玉座に着く資格すら無いという過激な思想。

 けれど過酷な砂漠に於いては誰も彼もが、常に最前線に立てる王を歓迎した。


 されど真に必要なのは、文武両道。剣腕だけの男に政治が出来る筈もない。

 暗殺者が裏社会を取り仕切る王国の、頂点に立つのは常に相当の覚悟がいる。


 だが最も教育に力を注がれる王子は、当然最初に生まれる長男だ。

 何より当代の第一王子シャイターンは『鑑定眼』という希少スキルを含む、七つのスキルを体得する鬼才。ナシール如きでは勝負にすらなっていない。


 だが。巡って来たのだ、玉座の可能性が。

 父スルタン大王と対立した他の兄弟達が次々と処刑、或いは急病。流行り病すらない急死を前に、誰も自然死など信じなかっただろう。

 身の危険を感じた兄シャイターンは失踪し、聖戦軍の手を貸り反旗を翻した。


 ナシールは歓喜した。自分こそ父の味方に立てる。父に認めて貰える。

 所詮只の予備でしかなかった自分が、表舞台に立てるのだ。


 だがそのためには手柄と脅威の排除が必要だ。これらはどちらも一度に叶う。

 要は聖戦軍に勝てれば全てが手に入り、負ければ御破算になる。

 だが構うものか。元より自分の手には無かったものだ。

 ここで勝負に出られなければ、自分は生涯お飾りの居るだけ王子だ。


『砂漠で戦うなら大軍なんて要らない。

 一撃離脱を繰り返して消耗させるのが、俺達砂漠の民のやり方でしょう!』


 王都で待ち構えるだけの大王を説得し、己が手勢三百に増員千二百を得た。


 大軍であるが故に進路を制限される聖戦軍を、山脈を利用し待ち伏せする。

 後は機動力任せの夜襲に賭ける。砂地で追撃が出来るならやればいい。

 離散の危険は地理を知らず、大軍であるほど危険が増す。

 遮るものが無ければ迷わないと思っているなら、彼らは砂漠の餌食となる。


「最初は夜襲だ。後は砂漠の丘に隠れながら、昼夜を問わず奇襲を繰り返す。

 俺達を甘くみる聖王国の軍勢に、目にものを見せてやれ。」




「……どうやら奴さん、岩龍山脈の岩陰に伏兵を置いている様だな。

 狙っているのは位置関係から見ても、南東聖戦軍で間違いないだろう。」


 《治世の紋章》でシャラーム軍の伏兵を発見したアレス王子は、少々面倒な事になったと頭を悩ませる。


 今なら全速で現地に向えば背後を突けるだろうが、流石に五千もの大軍が動けば奇襲などは夢のまた夢。確実に気付かれる。

 千五百対五千の正面対決など、普通は無謀。当然逃げを打つだろう。

 となると今度は単に、標的がアレス側に移るだけだ。


 だが無視すると王都攻略の際に背後を突かれる恐れもある。タイミング次第では面白くない結果になる。

 多少進軍を遅らせてでも、彼らを追跡し殲滅してしまうべきかと思い。

 ふと報告序でに皆の意見も聞いてみるかと思い至ったのだが。


「ダモクレスは此方に三百の天馬兵を同行させてましたよね?

 ならいっそ、私の聖天馬騎士団五百と先に奇襲を仕掛けてしまいません?」


「え、それアリなの?」


 確かに航空戦力なら余裕をもって追い付くだろうし、山岳地で八百なら不利とは言えない。奇襲が出来るなら勝算も十分だ。

 先に気付かれても付かず離れずで後続が来るまで牽制に徹すれば良い。決して分の悪い勝負とは言えないが、置いてかれる側の意見はどうなのか。


「「「り、リシュタイン姫が良いのであれば?」」」


 プリースト混合騎士団で倍の数に切り込むとか、流石姫プリーストは一味違う。

 連戦に次ぐ連戦を熟している諸侯は、反対する以前に無理したくない。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 白馬による奇襲のコツは空の雲に紛れる事だ。それは夜空でも変わらない。

 リシュタイン姫の学識は8、そして体格6、魅力7。ミレイユ聖王女と並んでも遜色の無い美女な筈の彼女は、間違いなく性格補正で減っている。

 あの獰猛な笑みに囲まれ、中心で天使の様に微笑んでいるのだ。迫力が違う。


「音に配慮するなら風向きを意識すると良いでしょう。

 全軍を一ケ所に集めず、複数の塊となって進軍すると空に紛れ易くなります。」


 【救国の御旗】が『伏兵』効果を付加すれば、密偵無き部隊に山岳地を滑空する高機動姫プリーストの『奇襲』を防ぐのはほぼ不可能だろう。


「滑空落下!」


 初手は素直に彼女に譲った。

 すると奇襲慣れした聖天馬騎兵団は翼と足を畳み、一斉に急降下を始める。

 無音で影の落ちない山影から迫り、僅かに翼を広げて滑る様に落下角度を傾かせ移動を開始したシャラーム軍の背後に一斉突撃を仕掛ける。


「「「【バスター】ッ!!」」」


 突然煌めく魔力衝撃波に其処彼処で悲鳴が上がり、訳も分からぬ中でも一部の者は事態に気付いて反撃を試みるが。

 直接接敵する前に天馬達は殆ど体勢だけ整え、着地と同時に地面を跳躍。素早く上昇を開始している。


 いっそ再び見失いかねない見事な手際。天馬の扱いにかけては大陸一を誇る勇名は伊達では無いと、まざまざ見せつけられた気分だ。

 流石に同じ真似は出来ないと、アレスは魔騎士部隊の特性を活かし。


「「「【中位火炎渦(ディスフレイマ)】ッ!!」」」


 岩壁を利用して距離を維持しつつ、敵の弓兵部隊を真っ先に潰しにかかる。


「て、敵襲!岩陰を背に散開ッ!

 同士討ちを避け、敵影を掴む事を優先しろ!」


 指揮官と思しき声に即座に反応し、同時にとは行かずとも個々に命令に対応する様は決して彼らの練度が低くない事を示している。

 奇襲を受けた部隊の対応としては間違いなく上等、動きも手堅い。


 であれば次に行うべきは、相手に選択権を譲らない追い込み漁だ。


「二人共、合わせて下さい!」

「ダモクレス、追撃用意!」


「「「【高位竜巻連団(テラルエグゼギュア)】ッ!!」」」

「「「【中位竜巻刃(ディストルネド)】ッ!!」」」


 三柱の巨大な真空の大竜巻が敵先頭の潜もうとした一帯を、諸共に飲み込む様な竜巻の数々が荒れ狂う。

 それらの規模と勢いは、単独による伝承魔法をも上回る程に広く満ち溢れ。

 岩陰諸共に真空の刃が、間道全体を埋め尽くす。


 因みに今回のダモクレスは三百隊を、三人の隊長と副将が率いている。

 それ自体は珍しくも無いが。


 部隊長をアレス、ヴェルーゼ、ミレイユ。

 副隊長にリリス、スカサハ、レフィーリア。

 兵数が少ない分、普段よりもとっても豪華だった。



「ちぃッ!」


 不意に飛び出した剣士が最も分厚い竜巻を天まで断ち切るが如く両断し、割れた大竜巻が弾ける勢いで竜巻が乱れ次々と立ち消えていく。

 それは聖戦軍では偶に見られるが故に天馬隊の動揺を誘うには十分であり。


「あ、アレス!今のは?!」

「いや違う!あれは俺とは別種の秘剣だ!」


 珍しく動揺を露わにしたヴェルーゼに応えながら、アレスは一直線に今の秘剣を振った武将の元へ急降下する。


「総員、俺に続け!【高位竜巻連団(テラルエグゼギュア)】ッ!!」

「「「なっ!!!」」」


 空からの一閃に対し、驚愕の叫び声を上げたのは地上の兵士達。

 敵の後続が続く前に絹を引き裂くかの様な斬撃が拡がり、上空へと立ち昇る筈の大竜巻を両断して地の末まで解けて果てる。


 馬上からの【魔王斬り】一閃で落下の姿勢すら調節し、天馬の背を足場に据えた『神速』の跳躍を以て敵前に迫るアレス。

 竜巻の術者たる魔騎士は驚愕に振り回される事無く切り返し、ギリギリの姿勢で咄嗟の剣戟を間に合わせる。


「よぉ魔法斬りの剣士殿!アンタがこの部隊の大将首で間違いないなっ!?」


「抜かせ!貴様こそ武将の自覚あるならば、名乗りの作法ぐらいは心得ろッ!!」


 挑発に乗せられた剣士が一騎討ちの宣言を口走り、アレスは余裕を以て馬前へと跳躍を果たし、追撃の隙を封じ切る。

 部隊単位での魔術戦も大将が足止めされては仕切り直さざるを得ない。

 因みに今の正解は一人先行した敵将アレスを部隊で包囲するか、上空への反撃を優先させるところだ。若い若い。


「その言葉そっくり返したいところだが、敢えて先に名乗ろうか!

 我が名はアレス・ダモクレス!聖王国に賜りし号は、〔聖王の剣〕なりッ!!」


 ハイここ大事!ワタクシ無敗の英雄改め〔聖王の剣〕です!!

 聖王国奪還の功績を讃え、正式に祭典で与えられた名誉称号です!

 初手敗北から始まる無敗の英雄時代は、既に過去のものとなったのですっ!!

 これからは聖戦軍としての進軍だから、堂々と名乗れるよアニキィ~~!!


「「「なぁ!?!?!?」」」



 驚愕と納得。竜巻を両断した二つの剣戟、常人には許されぬ鬼才の秘剣。


 『魔障壁・両断』。【真空斬り】と【魔力剣】を共に会得した者にのみ許される瞬間の魔力刃による両断斬撃。


 対するは、技量のみを極めた究極の斬り捌き。

 得手を魔術に限らずあらゆる一撃を斬り払う星奥義の一角【奥義・魔王斬り】。


 凡人には一見して等しくも、覚えがある者ほど似て非なる対極の太刀筋。

 振るった本人であれば否応無く自覚せざるを得ない、極意の差異。

 砂漠の熱に特化した軽装の青年剣士は、背筋の冷や汗を悟られまいとして思わず息を呑む。


「そうか、これが。貴様が〔無敗の英雄〕か……。」

 こふっ!


「良かろう!我が名はシャラーム王の第七子にして王位継承者が一翼!

 星奥義の継承者、ナシール王子である!!たかが中央剣士が如何に脆弱か、砂漠の剣をその身に味わい得と知るがいいッ!!」


 お、おのれ!心理戦とは卑怯なりィッ!

 ゲーム効果的には似てるけど、『奇襲』スキルは指揮官スキル。『神速』は武芸スキル。参照ステが全く違う理由は現場だとこんな感じになるからです。


 対処法が多い代わりに格下には確実に発動するのが『奇襲』。

 対処法が少ない代わり確率でしか発動しないのが『神速』です。

 『伏兵・潜伏』は敵の現在地が判らないだけのゲーム画面的な効果に留まり、戦闘中には効果がありません。気付くの遅れると後衛が先に狙われるよ、とw


 砂漠ステージの特徴は奇襲、伏兵なので目に見えない敵が沢山登場します。

 彼らが奇襲出来ないのは、アレス王子が先手を打って軒並み潰した影響ですw



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