110.第二十六章 聖戦軍快進撃・南東戦線
※次回敬老の日、間章投稿です。
◇◆◇◆◇◆◇◆
シャラーム王国の派閥は様々な地位の者が入り乱れており、第三者的には極めて複雑に見える。が、当事者的には分かり易く二極化していた。
片や大都市中心の現王スルタン大王率いる侵略強硬派。
片や小都市村々、シャイターン第一王子を旗頭とする外征反対派。
即ち、上限に苦しむ側と下限に喘ぐ側だ。
下限に喘ぐ側の問題は、偏に人手不足だ。オアシスは大規模の土地ほど少なく、小規模に至っては手製の深井戸一つが支えている集落もある。
当然外征など以ての外だ、従っても逆らっても死が見える。
畑を保つのも限界なら、自衛の人手も限界だ。例えば五人兵士として連れ去られれば、後は盗賊達に皆殺しにされるがまま。それが常に在り得る集団。
餓えたくないなら自分達が盗賊になる事も当たり前で、云わば敵は盗賊とすら言わないのだ。単に強者の村か弱者の村か、単にそれだけ。
彼らが暮らしを楽にする方法は一つ。井戸を増やし、畑を増やす事だ。
他国に目を向けたいなら自分達を巻き込むな、それが全てだ。
そして上限に苦しむ者達。彼らの悩みは、オアシスが限界まで発展した土地。
今以上に人が増えれば、オアシスが涸れる。一人頭の財産が減る。個々の防衛力も減る。当然、食料も限界がある。人は増やせないが、若い人手は常に必要だ。
オアシスを維持するには人手も金も武力も必要だ。
支配者層は常に空席を狙われる側に居て、死ぬまで気が休まる事は無い。
当然中に人を留まらせる事は出来ず、外に人を吐き出すしかない。口実がいる。
侵略で弱体化しても逆効果、ならどうするか。決まっている。一つしかない。
新天地だ。自国に財産を招き入れ、開拓を進める。そのためにも全てを増やせる新しい土地がいる。人が住める土地がいる。
本気で外を目指す事に、反対する者など居ないのだ。強者が弱者から奪う。それを当然の常識とせねば生き抜けなかった。
だが最大の問題は、シャラーム王国が弱者に位置すると言う点だ。
本気で殴れば潰される。滅ぼされた。また別の者達がオアシスを再建した。
そしてまた殴らねば生きられない程土地に満ちる。また外を目指す。
それがシャラームの歴史。侵略を止められない。
砂地を削る開墾には、膨大な資金と労力が必要なのだ。
だから奪う道を選んだ。国内には無いから。
聖王国はそれを認めなかった。
帝国はそれを支援した。
これこそが今限りなく暴君に近い振舞いを続ける、己に従う者以外を全て排除し続けるスルタン大王を。
南東最大の城塞都市ポマードの太守、ラシャドが賛同する動機なのだ。
「父上、本気の聖王国に勝てる筈がありません!
降伏しましょう!我々がスルタン大王と共倒れする理由など有りません!」
「くどい!お前達、とっととそのバカ息子を部屋に閉じ込めておけ!
太守一族の意見が割れる等、士気に関わるわ。」
何を下らない。勝てる内に勝つしか無いのだ。帝国に期待するしか無いのだ。
どこぞの貿易港が上手くやったとは聞いているが、所詮他国の思惑次第。
自分達で決められない弱者に意味など無い。奪う側にいてこそ救われる。
「我々の目的は敵の殲滅ではない!初戦奴らは砂漠を知らぬ者共だ!
どれだけ大軍を揃えようが、オアシスに入れない者共に生き延びる手段は無い!
我々がオアシスに陣取るという意味を、聖王国の弱卒共に教えてやれ!」
実の所ラシャドは、聖戦軍という他国連合の事が良く分からない。
他国の方が数が多い?普通だろ。聖王国とか深入りする訳無いじゃん。
戦後の後始末させるために、どうせ適当なタイミングで仲裁しに来るよ。
「導主ラダマン、金は弾んでやる!貴様も砂漠の民として死力を尽くせ!」
「言われるまでも無い。」
聖戦軍の大軍相手に怖気付くかと思ったが、手間が省ける。
だが何だ、何故か。妙に泥船感が漂う様な……?
◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて総大将殿、どう攻める気かな?」
「決まっている。初手から籠城を選ぶなら好都合だ。
我々は先ず兵を休ませる場所を確保するため、近隣の砦から順次制圧する。」
東央大国イストリア王は高らかに宣言する。聖王国二大公から見ても慣れぬ砂漠での野戦より、砦攻めの方が従来の戦術が活きる。
騎兵はこの地では真価を発揮出来ないが、歩兵中心の戦場なら問題無い。
「妥当だな。それに大軍の理が活かし易い。」
「問題は、連中がそれを理解しているかだ。
理解していれば、そこには必ず罠がある。」
――勿論太守ラシャドは無策だった。
前回の外征など爺様世代の話だ、教訓等当時のラシャドが聞ける立場じゃない。
兄弟が失脚し失脚させた結果の太守着任だ。忠告する者の言葉を聞いて、他者を蹴落とせる訳が無い。
太守ラシャドは今迄、自兵力が有利な相手としか戦った経験が無かった。
「ななな、何ぃ?全部半日と持たなかったのか!
何という情けなさだ!城兵に兵力を注がぬなど無能が過ぎる!
何という愚か者に砦を任せてしまったのか!」
勿論砦の守将は城壁にほぼ全兵力を費やした。
だって四方同時に攻められるとか初めての体験だし。後城壁が思った以上に脆いとか、武将戦力ホントに大事。
兵士千人より武将一人の方が門破り易いんですよ。
「知ってるか?砦を落とすのには三倍の兵力があれば十分なんだ……!」
「そ、そうだね。お前の上役は無茶を言ったよ。
千人で一万を食い止めろとか、儂らも無茶だと思うさ。」
守将は門が粉砕された時点で、自ら最上階で白旗を振り続けた。
導主ラダマンは陥落した砦の中に、住民として隠れていた。
彼らの役割は将の暗殺であり、真っ向勝負ではない。思った以上にあっさり陥落したが、それは多分敵を油断させる作戦。態とだろう。きっと。多分。
(まさか、何も考えずに戦って負けたとか有り得まいぃぃぃ…………ッ!)
悲報。砦内に聖戦軍の過半数収容出来ず。
指揮官武将は全員、城壁周りの天幕に待機。
「これは流石に小さ過ぎる。
補給隊の中継基地としてしか使えんのぅ……。」
「なあ。コレもう、ポマード陥落まで待った方が良く無いか?」
導主ラダマンは太守ラシャドの勝利を諦めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
一方砂漠の北西付近。闇司祭タンブルムと導主フセインは魔法都市ガンダーラの太守との面会を秘密裏に求めていた。
面会である。流石に公式な面会は、方針を決める前に不可能だ。
太守は適当な理由を付けて引き延ばし、水面下で接触する方針にした。
というかコイツ等大丈夫だろうか。
太守は大学の方針決定を待ってから決断する事にした。元々ガンダーラは大学の権力が一番強い。
「ななな、何とぉッ!!魔法王国レムオルの古代遺跡だとぉっ?!」
非戦派の学長シューベルトは、元々聖王国寄りの学長だ。
なので当然最初に接触を取るべきは彼だと思っていたのだが、今や魔法学者との二つ名を持つジルロックは独立派の学長ヴォルフガングの直弟子だった。
となると話はややこしい。聖戦軍としては大学全体を味方に付けたい。
なのでヴォルフガングを後回しにしてへそを曲げられるのは困る。元々魔法大学の学長は一人残らず偏屈者だ。
伊達に政治に背を向け、魔法だけに全てを捧げた者達の巣窟ではない。
尚、シャイターン参戦派のシューマンは聖戦軍に縁のある者はいなかった。
「そこは我らの土地だ。流石に無条件の立ち入りは認められん。」
「だが調査させんは絶対に認めん。それは大学の意義を否定する。」
〔古代遺跡〕を流浪の民に領有させる上で、最大の障害は魔法大学だった。
彼らは元々古代遺跡を調査する事で大学にまで成長した、魔法使い達の集団だ。
ある意味遺跡の調査こそが本懐であり、魔法研究に行き詰っている昨今では遺跡以上に価値のある研究対象は無い。
あると分かれば奪ってでも向かうだろう。むしろ立ち入りを禁止するなら確実に魔法大学は帝国に付く。
「安全性の確保のために調査は認めても良いが、立ち入る者の数は制限する。
相手が誰だろうと根こそぎ奪われる心算は毛頭無い。
研究者なら当然理解出来るだろう?」
「ま、道理じゃのう。儂とて研究成果を全て寄越せと言われたら断固拒否だ。」
(いっそ三学長同時に話を持って行くべきでは?)
誰か一人外した時点で決裂確実じゃん?
もう学長達自身に牽制して貰おうよ。
「だが遺跡の存在を知れば全員が動くぞ?
絶対に大学を離反して勝手に調査に向かう奴が、全ての派閥から出る。」
「「「それは確かに。」」」
(あ。うん。三学長同時に話すしか無いわコレ。)
(ていうか自分が行くために他を抑える気じゃね?)
(当たり前でしょ?彼らは偏屈者の頂点、学長ですよ?)
「だが雑に調査を許して遺跡を破壊される方が問題じゃぞ。
それなら部外者の管理人を認める事で規制するのは悪く無い。」
「何モノは考えようだ。遺跡全体の調査を優先すればいい。
遺跡を壊して遺跡の魔法を失わせるなど話にならん。遺跡の保護と全体像の把握を優先する。序でに管理費を浮かせる。
その為に現地人の管理人を認めるのだ。」
「そうだな。魔法使いを管理人にするなど以ての外。
魔法使いの理性を信じるなど正気の沙汰では無いわい。」
魔法使い代表者達は力強く己の自制心を否定する。
「となれば一部の研究成果は持ち帰るが、第一班は記録を最優先にする者達で構成するべきじゃのう。
調査記録を分析に回せば多少の不満は抑えられよう。」
「うむ。当然道中の安全も問題だ。
安全な道程でも無いのに半人前を向かわせるなど以ての外よ。やはり相応の実力者だけで構成せねばなるまい。
魔法研究以外を優先する者達が割を食うのは当然だな。」
「あ、聖戦軍としては帝国の密偵を招き入れる訳には行きません。
シャラームとの戦争に使われるのも厳禁です。」
「「「何心配するな、戦争に参加したい奴に遺跡へ向かう資格など無い。」」」
「太守として命じる。
遺跡調査に向かいたいなら、暗黒教団と暗殺教団アガペラの排除が先だ。
残党を排除した後ならもう止めはせん。」
「バカヤロウ!いいから逃げないと死ぬぞ!」
「うわぁぁぁん!ココ故郷!この廃墟オイラの故郷なのぉ~~~!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
アレス達〔グレン傭兵連合〕の規模なら〔砂弾きの杖〕があれば、〔灼熱渓谷〕を抜けた方が手早く南東に辿り着ける。
アレス達は城塞都市ポマードが陥落した日、都市内へ侵入可能なアガペラの隠し通路から教団邸宅へ突入した。
「うわぁ!て、敵襲だ!聖戦軍の襲撃だ!」
「何、まさか我々の計画が占領軍にバレたのか?!」
「くそ、直ぐに散れ!こうなれば敵将の暗殺どころでは無い!!」
「……成る程。経緯は理解しましたアレス王子。」
「いやあ、流石に早い。まさかもう陥落しているとは思いませんでしたよ。」
騒ぎに駆け付けた聖戦軍兵士達は、中から掲げられた聖戦軍の旗に唖然とした。
敵襲かと思ったら味方の襲撃だった。いや、敵への敵襲だった。
「事前に連絡が欲しかったところですが、まぁ聖戦軍は見張られていた訳ですから文句は言えません。
それでこの後は我々と合流する予定ですか?」
「ハハハ、全身で文句を訴えてますよイストリア王。
けど生憎こっちは先日上陸した帝国船の乗客を追っていまして。
序でに近隣アガペラの拠点も襲撃しておく予定ですね。」
「帝国の船が?それは増援、という話では無く?」
「数が少ないんですよ。何かしらの切り札くらいは警戒すべきかと。
王都攻略には間に合わせるので、そちらはお任せします。」
「……分かりました。そもそも我々に町の人間と暗殺者の区別は付かない。
そちらの事はお任せしましょう。」
「太守ラシャドは手強いので?」
「いえ。【高位地盤崩壊】こそ苦戦しましたが、それも城壁あっての話。
城内に突入した時点でもう時間の問題でしょう。」
導主ラダマンはポマードを脱出し、地下洞窟にあるアガペラ支部へと帰還した。
元々アガペラは暗黒教団の分派ともいえる存在であり、ここの様な洞窟を拠点として隠れ住むところから成長した集団だ。
町中で暗殺術の修練を積むのも限界があるため、オアシス内に拠点を移した今も育成所として使われている。
そして導主ラマダンはここの支部長でもある。
「何故だ?何故聖戦軍の者が我々の拠点を襲撃出来た?
あの通路がバレているならポマードの陥落はもっと早かった筈だ。」
「ああ、導主ラダマン。やっとお戻りになられましたか。」
留守を任せていた暗殺者達からの報告を受け、思わずラダマンは任務のため連絡を絶っていた自分を悔やみ、壁に拳を打ち付ける。
「く、〔グレン傭兵連合〕だと……。そうか、だから連中は。
聖戦軍上陸の混乱を突いたシャイターン王子の奇策に、我々は見事に踊らされたという訳か……!」
実際はシャイターン王子も踊らされてる側なのだが、それを知る手段は情報網が分断されているアガペラには無い。
というか実は〔グレン傭兵連合〕のトップがアレス王子だと気付いたアガペラの諜報員も居ない訳では無い。
だが聖戦軍上陸の情報に紛れ常識的な情報のみが抽出された結果、アレス王子が偽名で別動隊を率いているという情報が排除されただけだ。
何せ。
「な、何ぃ!何故ポマードを攻めている筈の部隊が此方に来る?!
……いや、違う!〔グレン傭兵連合〕だ!コイツ等は聖戦軍とは無関係だ!
連中はオアシス攻略戦に便乗しただけで、最初から我々を襲撃する事だけが目的で動いているんだ!!」
聖戦軍の実質トップが、自軍を放置とか普通考えない。
「ここまでだ!導主ラダマン!」
「お、おのれ〔グレン傭兵連合〕!
おのれ、裏切り者の、シャイターン王子め……!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
王都とガンダーラの間には広大な礫砂漠が広がっており、両者を繋ぐのは街道と言えば聞こえは良いが、砂漠に明確な道など無い。
あるのは星空や太陽、或いは遠方の山景を参考にした方角の指針だけだ。
故に街道と言えば地形が分かり易い、あくまで比較的だが安全性のマシな一帯の事を指し。中継点と呼べる休息地も存在していた。
其処はオアシスでは無いが、強い日差しや風を遮るのに適した岩場であり、時間と費用を賭ければちょっとした砦くらいは築く事が出来る。
また伏兵にも向くため、北から王都へ進軍する敵への防衛拠点として最適な場所として認識されており。
原作では二つの教団による最大限の支援を受けた、シャラーム軍との一大決戦地となっていた。
このマップの特徴と言えば、マップの数ヶ所からランダムで出現する増援であり上限こそ定まっていたが、膨大な数の敵兵にあった。
進軍状況によって出現する敵のLVと範囲は偏ったが、ゲーマーであれば低LVユニットを鍛える貴重な調整エリアとして活用されていた……。
「どういう心算だ、お前達はこの砦に何を仕掛けていた?」
「何も?どうして何かを仕掛けていると思った。」
「ふざけるな。まさか百人前後で二万前後の軍勢に勝てるとでも?
お前達は一体ここで、何を準備していた。正直に答えろ。」
闇司祭タンブルムと導主フセインは、鬼気迫った顔で武器を構える。
「ほう、では行く先々全てで同胞が全滅してるって聞かされ続けた我々の気持ちがお前達に分かるか?
まさかこの砦の兵すら、既に王都に引き上げていたとはなぁ……。」
「全くだ。何処へ行っても全滅壊滅、音信不通。
これ以上何処を探せば我々に打つ手が在るというのかな……!」
「…………え?いや、うん。それ本気の話?
え、ホントに伏兵の当ても全く無いの?」
「「貴様は今、絶対に言ってはならん事を言ったぞォォォッ!!」」
二人は血涙を流しながら、最終決戦を挑んだ。
※次回敬老の日、間章投稿です。
原作王子「非戦派に彼らの後ろ盾になって貰おう。」
お兄さま「戦争と研究で選ばせれば大学自体を後ろ盾に出来るんじゃあ?」
お兄様は順調に良い空気の吸い方を学習しておりますw
因みに太守ラシャドは別に無能な御仁では有りませんw単に自分の常識で戦術と戦略を考えて仕舞っただけなのですw常識内ならむしろ優秀な方ですよw!
そして彼の末路は物語に影響を与えない可変式ですw処刑されたか降伏したかは読者皆様の想像次第。
得意分野からはみ出すと途端に駄目人間になるのに、自分では自覚して無い上に人の話を聞かない。失敗しても自分が原因だとは夢にも思わない……。
そんなタイプの上司を持った方は、彼が上司と同じ顔だと想像するとスッキリして頂けるかもしれませんw
ええ、どんな末路でも構いませんよ!全ては皆さんの想像次第wwww!!
作品を面白い、続きが気になると思われた方は下記の評価、ブックマークをお願いします。リアクションや感想等もお待ちしております。