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ジュワユーズの救国王子~転生王子の胃痛奇譚~  作者: 夕霧湖畔
第五部 帝国の暗部救出作戦
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109.第二十六章 聖戦軍快進撃・忘れられた民との邂逅

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 リシャール第二聖王子率いる聖戦軍本隊の遠征は、シャラーム上陸直後にアレス王子が別動隊を率いて失踪するという計画された不測の事態に見舞われ、数多くの混乱の中で始まった。


 砂漠の進軍は当初こそもたついたものの。

 一度砂漠に慣れて迷いから解き放たれ各部隊の動きが最適化されていくと、最初の頃が嘘の様な快進撃を続けた。


 幾つか要因として挙げられるのは。

 先ず第一に聖戦軍は戦略目標を「シャラーム軍からの各オアシスの解放」と位置付けていたが、シャラーム軍は「主要都市の防衛」しか重視されていなかった。

 という根本的な視点の違いがあった。


 シャラーム王国は常に砂漠によって往来を遮られる。

 元々頻繁に互いの情報交換をする風土が無く、緊急時は個々の対応力がモノを言うのだ。そもそも、小さなオアシスに他所を支援する余地など無い。

 砂漠の民は、それぞれに独立気質が高かったのだ。



――結果。

 シャラーム王国が聖王国の進軍を知った時、既に聖戦軍は最初期の混乱から持ち直しており、砂漠での戦い方を確立していた。


 逆にシャラーム王国は幾つかのオアシスが陥落した状態になって、初めて王都が聖戦軍の上陸を知る羽目になったのである。




 初動の食い違いが過ぎ去った両軍が、遂に対陣。

 とあるオアシス都市での初のシャラーム軍との本格戦闘が始まる。


 シャラーム王国はこの時、王都と主要交易都市三つに兵を集める戦略を立てた。


 理由は幾つかあるが。

 第一に全戦力を王都に集めるには各地の豪族達の力が強過ぎて、単に戦力集結を拒否されて終わる恐れがあった事。

 第二に聖戦軍の攻撃目標が王都以外にあり、絞り切れなかった事。

 第三に暗黒教団と暗殺教団の連携が、碌に機能しなかった事が挙げられる。


 本来最速で各地を繋ぐ筈の暗殺教団アガペラが、シャイターン第一王子の依頼を受けた〔グレン傭兵連合〕の襲撃を受けていたからだ。

 この時二つの教団は、未だ謎の傭兵連合に重要拠点が落とされた混乱の真っ只中にあり、戦域での現地戦力以外何者も用意出来ずにいた……。



 闇司祭タンブルムは漸く現れた暗殺教団アガペラの導主フセインの姿に、溜息と共に安堵の声を漏らした。

 やっとだ。何が何だか分からない内に聖戦軍の上陸が報告され、何故か全く貿易港周りの情報が入って来ない。


 いや、実の所分かっている。ダモクレスの密偵団に敗北したのだ。

 貿易都市マシューの領主イーソンには以前からダモクレスと縁を切る様に何度も要求し続けたのだが、全然全く聞きはしない。


 その内ダモクレス密偵も力を増して来て、先日の聖都陥落以降こちらへの動員数が跳ね上がったと報告が上がっていた。

 まあ恐らくはアミール将軍の一件が原因だろうとは察しが付く。海賊達にも手を回して警戒に当たらせていた。


 だが流石に聖戦軍本隊が上陸して来たとあっては勝負になるまい。

 それに聖王国の密偵と思しき者達が、王都内に現れたという報告がある。


「駄目だ、やはり連絡が付かん。

 町に〔グレン傭兵連合〕という異国の傭兵達が現れたという報告が最後だ。」


「くそ、シャイターン王子め。まさか異国の傭兵団に目を付けるとは……。」


 シャラームの者なら裏社会を牛耳る暗殺教団の噂くらい誰もが知ってる。決して逆らうなど考えない程度には恐れられた存在だ。

 だが他国へ移ればいい傭兵団なら、極論国を出て解散すれば済む。

 報酬に汚い傭兵団なら砂漠の民の虐殺も、一切躊躇う事は無いだろう。


「くそ、重ね重ね本拠が最初に落とされたのが痛いな。

 だがまあ、そっちは聖戦軍を落とせば何とかなる。我々の役目はシャラーム軍が衝突している間に敵の本陣へ潜入し、聖王家の者達を暗殺するだけだ。」


「信用出来るか?太守は確かにこの短期間で五千の軍勢を揃えたと言っていたが。

 少なくとも聖戦軍なら一万か二万は想定すべきだ。」


 不安を隠せないタンブラムにフセインは溜息を吐いて答える。


「信用するしかあるまいよ。要は足止めさえ出来れば良い。

 聖戦軍を脅威と見做さん太守へなど、所詮はその程度だろう。」


「流石にアレス王子の暗殺には、時期尚早か……。」



 そんな甘い戦況じゃなかった。



 聖戦軍()()()。大半が騎兵、走り鶏()()()()


「いやいやいや、多い多い多い!」



「五部隊に分けて一斉に前進させましょう。折角物量で勝ってるんです。

 無茶は不要です。相手が手薄にした砦から順次、落として行けばいい。」



「早い早い早い!うわっ、気付かれたぞ!早く撤退しろ!」


「おい夜になるまで持ち堪えるんじゃなかったのか!」


「オレに言うな!誰だ質なら勝負になるとか言ってた馬鹿太守は!」


「夜襲はどうした!聖王家暗殺するんじゃなかったのか!」


「夜になる前に町が落ちてて何が出来るって言うんだ!

 砂漠のど真ん中にでも隠れとけって言うのか?死ぬわ!」



「「せめて半日くらい持たせやがれェ~~~~ッ!!!」」


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 〔灼熱渓谷〕。

 それは岩龍山脈と呼ばれる、シャラームの西と東を分断する山岳地域にある。

 岩龍山脈の中央に亀裂の様に存在するその岩石砂漠は砂嵐の通り道であり、同時にシャラームの中央街道というべき要衝である。


 そこは過酷な地、頻繁に熱砂が発生する。反面、遠目に見ても分かり易い岩山が砂漠での貴重な目印となる。

 更に渓谷の西にオアシスがあり、王都との交易路として栄えているのだ。


 時間と水に余裕があるなら迂回するのも良い。但し容易に天候が変わり、容易く水分を奪う広大な砂地が、最短一日の熱砂の渦よりも過ごし易ければだが……。



「ふ、ふふふふふ。そうだよ、こういうのだよ。

 こういう所に待ち伏せるのが本来のアガペラのやり方なんだ。

 何が悲しくて砂漠の向こうにある敵陣に、無理矢理忍び込まねばならなかったのかと悔やまれてならんよ。」


「全くだ。そもそも援軍を待つのではなく、援軍の居る場所に向かえばよかったのだよ。上司の戦術眼に恵まれぬと、要らぬ苦労をさせられるものだ。」


 命辛々逃げ出したタンブラムとフセインは、やっとの思いで腰を下ろす。

 もう少しだ。もう少しで目的の交易都市へと辿り着く。落ち延びた部下達との談笑も自然と口が軽くなる。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


「い、一体ここはどういう場所だ?

 我々は確かに砂嵐を避けて、岩龍山脈の間道を進んでいたのでは無かったか?」


 そこら中で砂嵐が吹き荒れる中、聖戦軍は大軍が進軍するため主要街道を外れた迂回を余儀なくされていた。


 とはいえそこは事前調査万端なダモクレス密偵の派遣地域だ。

 別に道無き道では無く、歴史の波に埋もれた山道を利用した古の街道。当然予め使える道を確認した上での案内だったのだが。


「まさか〔熱砂の壁〕を超えて来るとはな。

 お前達が持つのは〔砂弾きの杖〕か、まさか現物がまだ残っていたとは。」


 現れたのは浅黒の肌を持った、人を寄せ付けぬ空気を纏う美青年マハクーラだ。


「立ち去るがいい、異郷の者達よ。

 ここは古の巨人達の末裔が住まう、歴史から忘れ去られた秘境なのだ。」


 〔流浪の民〕の若長マハクーラによると、彼らは元々この地に住まう魔法王国の末裔であり、この地に移住して来た巨人達によって故郷を失った。

 以来数百年、シャラームの山中を放浪しながら生きて来た、古の歴史を継承する者達なのだと言う。


「以前来た事があるだと?そんな馬鹿な、もう一つの道と言えばサイプロクス達の巣窟へと通じる廃街道しかない。

 〔熱砂の壁〕を超える際に間違えたのではないか?」


「そ、そんな筈はない。我々は確かに一度この地を訪れている。

 以前アレス王子と共に来た時は、間違いなく巨人など居なかった。」


「「「()()()()()()来た時?」」」


「ねえグレイス宮廷伯、まさかとは思うけどアレスって〔杖〕で道を進んだ時一人で先行した事とか無かった?」


「……何度かありましたなぁ。

 何故かこの道を進む時だけ妙に慎重で。」


「え、何?まさか本当に巨人達の巣窟へ向かったとでも?」




「本人でなければ〔盾〕か〔紋章〕を持っている。

 確かに、これと同じ〔盾〕の様だ。尤も、こっちのは随分古めかしいが。」


(((……ホントに来てた……。)))


 巨大な単眼巨人達は、〔聖王の盾〕を返して他の者達を帰らせる。

 それは粗暴な巨人達とは思えぬほどに、理知的な振舞いだった。


「お前達のいうジャイアント種は、我々でいうワイバーンと同じだ。

 我らサイプロクスは受けた恩を忘れぬ。霧を晴らす杖は持っているか?

 ならば約束通り、お前達をあの廃墟へと案内してやろう。」


(((……ホント何したんだろうあの王子は……。)))




〔レムオルの古代廃墟〕。

 それは〔熱砂の壁〕を抜け、〔霧の結界〕に隠された廃墟都市。

 粘土製の〔メイルゴーレム〕が徘徊し続ける、惑わしの霧に閉ざされた古の都市の姿である。

 ここは今や只のダンジョンなのだ。無限に復活するゴーレム達と廃墟の外は何も無いが、この地は紛れも無く流浪の民達の故郷であった都市なのだ……。


「な、何という事だ……。まさか、私の代でこの地に戻って来れるとは。」


「でもメイルゴーレムがいる限りこの地に住めないのでは?」


「問題無い。アレは只の番人なのだ。

 この〔古の紋章〕があれば、彼らに襲われる事は無い。

 むしろ敢えてコレを使わず城壁の外へ出る事で、我らの祖先は鍛錬のために彼らを討伐して実戦経験を積んでいたと聞く。」


 アレス王子は地上の防衛用エリア三層しか知らないが、実は地下には低LV用の訓練場が二層ある。


「この場所か?どの道我らには関係が無い。

 我らの領域に入らぬ限り、好きにするが良い。」


「おお!感謝する、サイプロクス族の巨人達よ!」


「なあリシャール聖殿下、折角だから我々も彼らの居住権を認めるのはどうだ?

 下手に後でもめる前に、協力の対価として彼らの領土として正式に認めた事にしといた方が……。」


「奇遇だなシャイターン王子、私もそう思っていたところだ。」


((絶対これ、後で戦争になるレベルで揉める土地だ……。))


 取り敢えず〔熱砂の壁〕内は全てサイプロクスの領土、〔霧の結界〕内は全てを流浪の民の領土と公的に調印しといた。

 反発した連中?しない面々で調印した後で説明したよ。

 お前ら自力でココ来れんの?最悪アレス王子と殴り合う覚悟ある?


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


「う、嘘だ!五万の軍勢だぞ!一体どんな手品を使えば先回り出来る?!」


「うるせぇぞホラ吹き!テメェ援軍の居る場所に向かえばいいって言っただろ!

 一体何処に援軍が残っているのか言ってみろ!!」


「あぁ?!お前がそれ言うのかたかが傭兵連合如きに支部全滅させられた分際で!

 流石は名高き暗殺教団だよなぁ!!もう死体しか残ってねぇぞ!!」


「見つけたぞ!暗殺教団の残党だ!殺せ!」


「俺達の土地を暗殺者共から取り戻すんだ!!」


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


「なぁタンブラム、本当に今回は大丈夫なんだろうな?」


「当たり前だろう導主フセイン、今度の目的地は何処だと思っている?

 魔法都市ガンダーラだぞガンダーラ。この地には我らが精強なる闇神殿の中でも切り札ともいえる場所がある!

 しかも連絡員とは既に連絡が付いている!」


「な、何ぃ!ほ、本当か!本当に連絡員は届いたんだな!」


「喜ぶがいい、我らが虎の子たる〔闇騎士〕軍団、総勢五千を全て出陣させる!

 闇司祭ベルデハが、直接〔暗黒教皇〕様から許可を得たとの事だ!」


「や、やった!勝ったぞ!我々は今度こそ勝ったぞ!!」




「……え?闘技場に〔グレン傭兵連合〕が来てた……?」


「ああ。何日か前、岩龍山脈の方へ向かったそうだがね。

 凄かったよ、あの頃の闘技場での活躍振りは。」


「な、なあ。連絡員と連絡が付いたのは、いつだ……?」


「ぼ、ボアソンの町から、〔灼熱渓谷〕に逃げ戻った日……。」


「……おい。まさか時系列的に、こっちを陥落させた後に〔灼熱渓谷〕へ向かったとか言わないよな?」


「あ、あぁ!あんた等も着いたのか!

 大変だ、聖戦軍が迫っているのに、闇司祭ベルデハとの連絡が付かないんだ!

 あんた等何か知らないか?!」


「う、嘘だ!だって〔闇騎士〕だぞ!?総数五千の軍勢だぞ?

 物量が違うんだ、たかが傭兵団に負ける筈が無いじゃないか!」


「え?いや、多分未だ全部は起こし終わって無い筈だぞ。

 だって五千の〔闇騎士〕なんだから一朝一夕で起こし終わる筈無いだろ?

 あ、そっか。今丁度覚醒準備で大変な頃なのか……。」


「「わあああああああああああああああっッッッッ!!!!!!!!!」」




 取り敢えずこの場の残党が向かうべき場所を決めねばならない。

 闇司祭タンブラムと導主フセインは立場上対等だが、彼らの実質的な代表者ならタンブラムになる。


 本来であればアガペラの裏社会ネットワークを使うか、隠し神殿を使って現地の闇神殿へと連絡を取るのだが。

 アガペラは壊滅しており闇神殿とも連絡が取れない。


 だが分かった事もある。どうやらグレン傭兵連合は、暗黒教団と暗殺教団の区別が付いていないという話なのだ。

 となると案外ダモクレスとは無関係な組織なのかも知れない。そう考えれば暗殺教団が動きを掴めなかった理由も察しが付く。


 無関係な組織だから、シャイターン王子に雇われるまで無警戒だったのだ。


「今役に立つ情報か?それ。」


「聖戦軍だけ相手にすればいいって事だよ!進行方向が逆なんだからな!」


「そ、そうか。そう考えれば確かに……?」


「だが肝心の聖戦軍はどうする?」


「が、ガンダーラの太守を動かし、魔法大学に参戦を承諾させよう……。」


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


「どうしたんだ、アレス王子。」


「ああ、いや。本隊の方が先日ボアソンの町に来てたらしい。

 ガンダーラへ進軍したらしいから、丁度入れ違いになったらしいな。」


「そうか。じゃあ本隊と合流するのか?

 それとも先行して王都へ向かうか。」


「いやあ、それも考えてるんだけど。

 本隊は北側を経由して岩龍山脈を越えるルートを選んだみたいなんだ。」


 アレスの返事にレオナルド王子はああ、とアレスの逡巡を察する。


「このまま王都に南下したら、南東の暗殺教団が放置される訳か。」


 報告によると現在の聖戦軍は二手に分かれており、リシャール殿下とアストリア兄さんは二万程を連れてガンダーラへ向かった。

 そして南東方面を担当しているのが。


「イストリア王率いる二大公含めた約三万か……。

 真っ向勝負なら問題ないと言えるんだが、暗殺者対策の様な奇策に強いかは少々不安が残る陣容なんだよな。」


 単純な制圧戦なら問題無いだろう。だが潜伏する教団の発見は、他国の諜報に力を入れていないので分が悪い。


「しかし実際、彼らが無理なら陣分け自体が成立しない組み合わせでは?

 ある意味我々こそが、その暗殺者対策のための部隊な訳ですし。」


 ミレイユ王女の指摘通りではある。だからこそ合流前に先行し、王都周りを掃討しておこうという発想もあるのだが。

 そこへ聖戦軍への同行が決定した忍頭コジロウが報告に戻って来た。


「シニフィエ皇妃の一件、確認が取れました。

 どうやら南東の港に先日、帝国の中型船が来訪していた様です。」

「人語を流暢に喋る巨人種とか、そもそも原作に登場しとらんけん……(吐血」

 容疑者は一桁LVで出来る選択肢など交渉一択、アドリブ対応以外不可能と弁明しており……w



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