105.第二十五章 異世界忍者の隠れ里
※お盆追加投稿。本日と明日の金土二日間投稿します。
◇◆◇◆◇◆◇◆
あなたは忍者という単語に、泡立つ様な童心を感じる事がありませんか?
私はあります。アレス第二王子は忍者が、大好きです!!
米の傍に忍者が居ない事は減点だ。だが認めよう、ここは異世界なのだから。
だが独自の魔法体系を築き上げたアサシンの進化系とか、むふぅ!トテモ良い。
当然探したさ。そして泣く泣く接触を諦めたさ。何故ならこっそりと探す手段が噂話以外に無かったからな!そう、アレス王子は冷静になれる男!
原作の話を修正不可能なレベルで崩壊させると、先が読めなくなるとね……。
そう。察しの良い諸君は当然お気付きだろう!その通りであると私が告げるッ!
忍者の里には、シャラーム編で合流する仲間がいるんです。
暗殺教団アガペラと裏で繋がっている、シャラーム王家への復讐のために義勇軍に身を投じる、忍者の仲間がね!……ふぅ(満足☆彡)。
さて、改めて原作の流れを確認すると。
シャラーム編の導入では、義勇軍はシャラームに聖戦軍へ参戦を促すための使者として上陸する。
ここで帝国と連携した正規軍が問答無用で襲い掛かって来た事で、聖戦軍はシャラーム王国との交渉を断念。
事態を重く見た聖戦軍は、本腰を入れてシャラーム攻略へと乗り出した。
聖戦軍を影で支えるためシャラームの補給線を断とうとすると、王国に雇われたシャラームの裏社会が義勇軍に牙を剥く。
そして暗黒教団と暗殺教団が双方結託し、義勇軍へ襲い掛かるのだ。
その一件が原因で両組織が繋がっていると判明し、捕虜から聞き出した情報を元に暗黒教団の神殿を発見する。
それが原作の流れだ。
本来はこの過程でリリスを発見し、魔法大学で手掛かりを得て神殿攻略に挑む。
そして神殿で、ヴェルーゼ皇女が所持する【三神具】の存在が明らかになる。
神殿攻略後は本体と合流に向かい、魔法王国期の古代遺跡を発見しつつ仲間を増やしながらシャラーム王都攻略に乗り出す事になる。
……ふ、また歴史を変えてしまったな。誰も知らんけど。
何せ原作では暗殺教団と暗黒教団が手を組んでいる程度の情報しか無いし、シャラーム王家は裏で逆らう貴族を暗殺していた悪の国家程度の存在なんですよ。
両教団の繋がりとかゲーム的には重要じゃないし。
とまあ。
忍者の里を出奔した彼が合流するタイミングは、実は確定では無く。
神殿攻略後から王都攻略までの間だけ。魔法大学のあるガンダーラに再び戻ると向こうから接触してくる。
理由は聖戦軍が暗殺教団と衝突したからだ。
逆に言うとガンダーラは二度訪れる必要は無い。あくまでこれは期間限定の隠しイベントなのだ。忍者一人が増えるだけなので無視される事も多い。
今の今迄彼らと接触を持たなかったのは、接触が早過ぎて暗殺教団と忍の里が特に対立していない可能性があったからだ。
中立であれば問題無いが、初期状態が同盟関係だと厄介な話になる。
とはいえ現状で放置も出来ない。これ以降にシャラーム王家へ協力されると聖戦軍が困る。敵対なら今が各個撃破に最適だ。
だがまあ、独自文化を築いて来たのなら同盟関係は薄い筈。
だが既に暗殺教団とは衝突したし、今更退路は無くなった。
出来れば離脱する彼以外も、里ごと全て此方側に引き入れてい仕舞いたい。寧ろダモクレスに移住して貰っても良い。して欲しい。
里の位置は《紋章》で把握しているので、後は向かうだけだ。
なので今回は、魔法都市ガンダーラで一旦休息を取り、アレスはダモクレスだけで忍者の里に向かい、国として協力を取り付ける心算でいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ガンダーラで一日待機し書類整理に費やしたが、特に接触は無い。
とはいえアレスでは無くアストリアに接触する可能性も十二分にあるので、出発を遅らせる心算は無い。
元より原作に忍者の里を探り当てた描写など無い。シナリオの確変は確実だ。
岩石砂漠を超えて一直線に進むのはアレスの愛馬ならぬ愛鳥、走り鶏チェイサーを先頭にした走り鶏騎兵隊の三百人部隊だ。
但し隊を指揮しているのは三名だが、武将は十名程度同行している。密偵隊こそ百名参加しているが、実際に里に入れるのは武将達だけだろう。
道中遭遇した砂漠蛸やワイバーンを苦も無く蹴散らし、ドンドンと山脈を登り続ける。一番厄介だったのはやはり『流砂』だろうか。
「アレス王子!砂漠蛸がワイバーンに捕食されてるんですけど?!
アレおかしく無いですか?!」
「いやオカシイのはハイドラダゴンの方だから。
普通の砂漠蛸は体格ギリ巨人越え程度の10LV前後モンスターだよ。」
奴ら最大の取り柄は『流砂』内からの奇襲だけだよ。ハイクラスの敵じゃねぇ。
30LV越えとかドラゴンと渡り合えるじゃねぇかバッキャロー。
忍者達がこちらの動きを警戒して向こうから接触して来るなり、こちらの到着を待つなり、対応はどちらでも構わない。
だが気付かれないというオチだけは無い筈だ。
急斜面の岩肌は障害物だらけで、常に砂塵が吹き下ろしている。
視界こそ悪いが砂嵐には満たない。それでも〔砂弾きの杖〕は有効なので、進軍速度に支障は無い。
この辺りになるとサボテンを中心に植物が増えるが、精々高山植物止まりだ。
大規模に発展するには食料が不足している。未だ接触は無い……。
「忍者の里の方々とお見受けするが、相違無いかな?」
少し前から監視されている気配は察知していたが、漸く正面に立ってくれたのでこちらから声をかける。
多分里の位置が割れていると察して牽制を兼ねているのだろうが、アレスの言葉に周囲の監視者達から同様の気配が伝わる。
それも当然か。護衛の密偵達なら兎も角明らかに戦士然としたアレスに『物見』が可能とはまさか思うまい。
「我々は〔グレン傭兵連合〕、諸君ら忍者の里に依頼がしたくて参上した!
そちらの代表者に、お目通り願いたい!」
「……依頼が目的なら何故此処へ来た?
そちらにはそれ以外の目的がある、違うか聖戦軍のアレス王子。」
「っ!」
しばしの沈黙の後、忍者が一人だけ正面に降り立つ。
アレスの言葉に疑問を覚えていた味方も、流石に現れれば信じざるを得ない。
と同時に、アレスは内心の驚きを押し隠す。彼はコジロウ、恐らくは元では無く未だ忍頭であろう、原作で義勇軍に合流した上忍だ。
「ふ。そこまで分かっているなら話も早い。
我々が直接此処へ出向いた理由は、我々が暗殺教団と敵対しており君達と教団の区別が付け難かったからだ。
流石に地元民ではない我々に、裏組織の詳細を掴むのは難しくてね。」
「我々をアガペラと同類に語るな……!」
一面から殺気が満ち溢れ、互いに一種即発の空気を纏う。
だがこれこそ彼らの争いが根深い証だ、隠せない程の対立はアレスにとって頼もしいとすら言える。
「何、それが確信出来たから直接こっちへ赴けたのだ。
教団側の資料から君達の秘術体系を無理矢理に奪おうとした痕跡を発見してね。
出来れば彼らを殲滅するために、君達の力を貸してくれないかね?」
鷹揚に構えるアレスに代表者と思しき忍装束の男は、周囲の殺気を押さえる様に手を上げ警戒心を増す。であれば見定める心算か。
尚、確信があったと言うのは割とハッタリだ。何せ古い資料しか存在せず、同盟の可能性を否定出来る程じゃない。
アレスが確信出来たのは、今さっき溢れた敵意のお陰だ。
「それは我らの里に聖戦軍への参戦を求めるという事か?」
「国軍扱いは無理だし向いてなかろう?
依頼自体は別にあるが、ダモクレス単独なら君達を里ごと雇い入れる事も吝かではないよ。現場の者に話せるのはここまでだ。」
忍頭はあくまで現場の代表、指揮官であって里の有力者止まりだ。
アレスと同格に話せる相手では無い事は、彼自身が理解している。故に力尽くで排除という全面対決の姿勢は取れないだろう。
「……良いだろう。但し、こちらの誘導には従って貰う。」
「代表者数名は同席させるので、その旨も取次ぎを頼む。」
「……分かった。」
やはりアレスだけに話させようとしていたかと確信しつつ、しかし流石に警戒が重過ぎるのでは、とも感じる。
ひょっとしたら丁度今、彼が里を出た原因が起きているのかも知れない。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「……へぇ。流石に現場で見ると迫力があるな……。」
頭上高くに伸びる亀裂から、太陽の光が降り注ぐ。
洞窟を抜けた先には木造建築と人造池と畑で構成された隠れ里があった。
山の麓からそれなりに長い距離の洞窟を歩いたので、同行している殆どの仲間は現在位置が山のどの辺りか判らないだろう。
アレスとて事前に村の位置を《治世の紋章》で探り当てていなければ、到底現在位置など分かりようもない複雑な洞窟だった。
砂漠の高山帯、それも洞窟を抜けた先に木造建築中心の和風を連想する村があるのは、異世界出身者としてとても違和感を感じる光景だ。
だが【錬金魔法】という存在を踏まえると、他の金属中心に構築するより修繕も管理もし易い、現場に適した手法だと理解が及ぶ。
瓦屋根も【石材錬成】で複製し易いサイズだと気付けば、砂漠に向かないどころか交換が容易な、とても合理的な建造物と化すのだ。
「……分かっているとは思うが。」
「ああ、勿論この場で見た光景は忘れるし人に伝えない。
そもそも勝手にここを訪れた者は、口封じするのが忍達のルールなんだろ?」
今彼らが襲わないのは、アレス達が聖戦軍という巨大組織の中枢人物だからだ。
この場の口を封じしたところで割れた里の情報は失われないし、逆に暗殺教団の二の舞となるだけで終わるだろう。
アレスを脅す心算で素性を指摘したのだろうが、結果的に彼らは譲歩せざるを得ない状況に追い込まれている。
彼らが機密を守るには、アレスの意志で沈黙を守らせるしかない。
だからこそ、彼らの意思を尊重するのは友好的な態度だと判断される筈だ。
入り口近くの大きな屋敷に案内され、全員が室内で待つ様に告げられてコジロウが立ち去る。室内には誰もいないが扉の前と屋敷周辺には見張りが居た。
やがてそう待つ事も無くコジロウが戻り、代表者のみ同行する様に告げて部屋の上階に案内された。
茣蓙に座った数名の忍装束の者達は明らかに並の実力では無く、一目で里の有力者達だと分かる者達だけだ。
里が今回の事態を如何に重く見ているかが伝わり、アレス以外の全員から緊張感が伝わっている。アレス自身の自然体な振舞いが如何にも不自然なくらいだ。
まぁアレスの場合、ワクワクが感極まって昇天賢者モードなだけなのだが。
「さて、先ずは自己紹介から始めよう。
我が名は忍大将サイゾウ。この度の交渉の代表を務めさせて頂く。
我らは人前で真の素顔を見せぬ習わしがある故、この装束と覆面こそが身の証。
どうか、ご理解頂きたい。」
「現場代表、忍頭コジロウ。皆様の護衛兼警戒に当たらせて頂く。」
忍者の里からの自己紹介はあくまで二人のみ。
決定権はあくまで忍大将であるサイゾウにあるのだろう。他の者達は全員が一目で分かる程サイゾウに敬意を払っていた。
「現聖戦軍所属、ダモクレス代表アレス第二王子。
この度の交渉では聖戦軍の軍師では無く、ダモクレス王国の王子としての立場で皆様に交渉させて頂きます。
我が方の同行者は全員聖戦軍の所属なれど、ダモクレス関係者でもある。
ダモクレス以外の意見をお聞きしたい場合などの助言役と心得て頂きたい。」
「それは、聖戦軍としては本件に関わる気はない、という意味か?」
これに対しては早速ミレイユ聖王女が手を上げる。
「聖戦軍は本件に無関係を貫けません。
一方でダモクレス単独で事が済むなら済ませて頂いて問題無い、むしろ有り難いというのが現段階での判断です。
ですがそれも、それこそ現場で片付く問題で終わった場合のみです。」
つまり単なる交渉決裂ならともかく、アレスが暗殺された場合は聖戦軍の問題になると言う意味だ。自然、里の側にも相応の緊張感が走る。
「先に依頼と提案、ダモクレスとしての希望から話させて頂きましょう。
先ず依頼は、シャラーム国内に入国したという帝国要人の捜索と現状調査。
提案は、忍者の里の皆様を、可能であれば里ごと勧誘させて頂きたい!
ダモクレスは、あなた方忍者の里全ての民を増員する密偵部隊として招き入れる用意がありますッ!!
我々は、あなた方の様な諜報組織を探していた!」
「「「っ!?」」」
「無論、勧誘を断ったからと言って我々があなた方に敵意を持つという話では全く御座いません。
むしろダモクレスとしては、友好的な関係を築けるのなら現状維持でも良い。
依頼は勧誘の御返事に関わらずお願いする予定です。」
「ま、待て!まさか里ごと雇うというのは、移民を要求しているのか?
里の主力を丸ごと雇う、という意味合いでは無かったのか!?」
思わず口を挟んだ脇の長老に、アレスは平然と応じる。
「移民は絶対ではありませんが、理想ではありますね。
ダモクレス密偵団にあなた方の戦力は是非とも欲しい。ですが主力丸ごとの雇い上げというのでは逆に、あなた方が他の依頼が受けられず困るのでは?
可能な範囲での長期契約は次点、その場合聖戦終了が目安でしょうか。
長期契約が叶った場合、最初の任務こそが当初の依頼となります。」
「む、むぅ……。」
自分達の雇用費を安売りする心算は無い。だが迂闊に金額を提示すれば最悪即金で用意され、言質と取られるかも知れない。
忍の里の長老達は既に、ダモクレスの経済力が自分達の里を丸ごと買い上げる事も不可能では無いと試算しており、それ故に安易な発言が憚られた。
「……何故、我々を必要とする?
ダモクレスは既に今、大陸有数の諜報網を備えているではないか。」
慎重に、言葉一つ聞き逃さぬ慎重さでサイゾウが口を開く。
視線が後ろのグレイス宮廷伯に向かう。
これに対し宮廷伯は、アレスに軽く視線で断りを入れてから口を開いた。
「先ず我々の第一王子が婿となり、ハーネル王として即位する話はご存じですな?
ダモクレスの継承者は第二王子であるアレス王子となりますが、当然ながら我々ダモクレス密偵隊の全貌は他国に移るアストリア第一王子も御承知です。
我々が株分けした際、他国に移る第一王子の方が一時的にとはいえ自国への影響力が強い事態は好ましくない。かと言って排斥したい訳でも無い。
そしてダモクレスの密偵網を、急激に拡大する方法等決して多くはない。」
「……成る程。その限られた手段の一つが、他の諜報組織の吸収という訳か。
では我々に対する信用は?なぜ我々を選んだ。」
「最初から貴殿らの全てを信用する心算も、最上位に置く心算もありません。
ですので、先ずは実力。あなた方の特殊クラス忍者はアサシンの経由が必須だと言う点までは把握しています。
次に信用。一つの組織に全面的な信を置くのは危険、ですので元々ダモクレスは複数の諜報集団を抱える方針を取っている。
故に今はこれ迄の実績と、我々に対する情報の正確さで判断しています。
そして絶対条件として、暗黒教団、並びに下部組織である暗殺教団アガペラとの対立。これは絶対に必要だった。
最後に規模。数十名の組織では無く、里単位。万は越さずとも小国単位の戦力は備えている。
故にあなた方こそが、我々にとって理想的だった。」
質問に答えながらもアレスは良くも悪くも上方修正する。
サイゾウは先にアレス視点での価値を聞いて来た。彼らにとって本来なら最重要な筈の、自分達の利益を後回しにして。これはつまり……。
「では質問だ。君が我々に先々まで望むのは、諜報か?戦力か?」
「……一に諜報、二に戦力だ。
戦力は手段であって必須では無いが、より高い状態であれば望ましい。」
さあどう出る?そっちの期待している対価は、評価か?
……それとも助勢か?
「…………。」
「…………。」
暫しの緊張感の後、肩の力を抜く気配がする。
「……お察しの通り、実は今我々は、とある難敵と対峙している。
そちらの対処が終わった後であれば、先祖伝来の仇敵アガペラの殲滅。
……そしてこの僻地秘境からの移住、願っても無い話だと言わせて貰おう。」
「ならば我々も出来得る限りの助力をお約束しよう。
先ずはその難敵の詳細を聞かせてくれ。」
伸ばされた手が握り返され、アレスとサイゾウが交渉成立だと互いに力強く頷き合った。
※お盆追加投稿。本日と明日の金土二日間投稿します。
ちょっと頑張れたので予約日を修正。
聖戦軍「別に諜報組織が不足してる訳じゃないので……(遠い目)。」
ダモクレスは、里ごと数千人を抱え込みたいと思ってます!
ぶっちゃけ忍者の里の話を聞かされたのは、聖王家の面々と里に同行した武将達だけです。他は雑に勧誘したい相手が居る、程度にしか聞いてません。
各地の機密の山を並べられた上で、この話を聞いたリシャール第二聖殿下の心境を述べよw!
作品を面白い、続きが気になると思われた方は下記の評価、ブックマークをお願いします。リアクションや感想等もお待ちしております。