104.第二十五章 外れ伯爵本命義妹、大穴も勿論救助待ち
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夜の内にヴェルーゼ皇女とミレイユ聖王女にシュトラルを紹介し。
翌日諸侯達にはリリスの母親兼古代語の専門家として〔放浪の魔女〕シュトラルの顔合わせを行った。
「それで、彼女達の天幕はアレス王子とは別にご用意するのですか?」
「え、気になるのそっち?」
何だろう。諸侯達が何を疑問視しているのか分からない。リリスは当然、婚約者二人も心当たりはなさそうだが、シュトラルだけは無表情を貫いている。
「いや、リリスを追い出す心算も無いし、侍女枠の寝室に入って貰うぞ?
レフィーリア、今日からお願い出来る?」
「……ええ。今私がどういう目で見られてるか凄く気になったけど。」
因みに今のアレスの天幕は折り畳み形式の四区画構成になっている。
夫婦共有部屋と寝室がある半円部分と、従者部屋と侍女部屋が四部円一つずつ。
盤外として中心に簡易食堂のある通路部屋の計四つだ。
会議用の天幕は外付けであり、一息で《紋章》に収納出来るのは居住用天幕だけになった。まあ元々多機能天幕を一つの枠で収納出来るだけ御の字だ。
会議用件武将用食堂天幕も、一枠別に使っている分広くなっている。
(えっと。ねぇこれって。あなたはダモクレス王家公認の愛人って事かしら?)
(私は只の護衛騎士です。良くも悪くも彼らは全員王族なんですよ。
多分同じ天幕でも、侍女兼任なら当然って認識なんじゃないですか?)
尚、男従者枠の護衛騎士、誰からも忘れ去られたアランとエミールは出入り口で無言を貫いた。
紳士な守護騎士エルゼラント卿は、当然護衛時以外は聖王国側の別天幕だ。
「それではマギリス宮廷伯、次は戦場以外でお会い出来る事を期待しています。」
念のため最低限の旅費と武装を渡し、書状を託されたリーゼロッテ宮廷伯は内心の複雑さを隠さずにええと頷いた。
手紙の内容は彼女も確認しており、
『(意訳)君の婚約者を暗黒教団が誘拐した先で発見したので救出しておいたよ。聖戦軍に罪を着せられない様に簡単な状況を記しておくね。
恩に着るなら何か返してくれても良いんだよ。勿論亡命も降伏も大歓迎。』
という毒にも薬にもならぬ内容だ。当然口約束であり確約も密約も無い。
だが口約束で済ますのは馬鹿の所業である。
都合良く言質として使うのが悪党、じゃなかった政治家の所業である。
大事なのは、この書状があるという事実なのだ。
額面の、言葉通りに使うための書状ではない。
書状にも教団と聖戦軍以外の組織、個人名は記載して無い。
ベルファレウス皇子は優秀な謀略家であり政治家だ。きっと己の都合の良い時に聖戦軍に接触し、必ず活用してくれる事でしょう。
えぇ、部下や彼女に使わせるにせよ、きっと見事に活用してくれるでしょう。
まぁ、ぶっちゃけ誰が誰と手紙を読んでも構わないともさ。
ゲェ~~スゲスゲスゲスゲスゲス……。
咳払いをしたリーゼロッテ伯は、間違いなくこの書状の価値が分かる人間だ。
役に立つと確信出来るからこそ、絶対婚約者に届けようとしてくれる筈。
「私も恩だけを売られる心算はありません。
なので我々に損の無い情報を一つ、あなたにお伝えしておきましょう。」
「ほう?」
「現帝の正妻シニフィエ皇妃が皇帝に諫言して軟禁されたそうです。
ですが実際は何かの生贄として捧げられるためであり、教皇アルハザードの手で護送され、このシャラームの何処かで幽閉されているという話です。」
「はぁッ?!」
は、え?生贄ぇ?!皇妃をわざわざ?皇帝の命で?!
「皇妃は元より帝国が小国だった頃の后で、実家への影響力など三皇子以下。あの方なら陛下に意見するくらいなら亡命を選ぶでしょうね。
そして私に言えるのもここまでです。」
……つまり宮廷伯は元々皇妃の件で教団側に探りを入れていた、いや逆か?
教団を黙らせるための弱みを探って出て来た情報、の方か。
教団を黙らせる効果は期待出来ないが、生贄で何かをするなら聖戦軍対策の方が有り得る。何せ場所はシャラーム、妨害する動機にはなる。
と、いうより。
――皇妃の痕跡を探せば教団の儀式場に辿り着く、か。
「成る程、確かに有益な情報だ。
情報提供感謝しますよ。」
ゲヘゲヘ。まぁ~た原作に無いイベントだよ。
どっちなんでしょうね?ゲームでも水面下では実際に起きていたのか。
それともバタフライエフェクトが発生してるのか。
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今回アレスが別行動を取っている最大の目的。
それはリリスの解放と暗黒教団の拠点殲滅である。
勿論魔龍ヨルムンガント討伐隊の底上げも兼ねているが、作戦目標としては教団の弱体化と調査となっている。
リリスの解放は教団の作戦行動を封じる一手でもあったが、それは先日の一件で一段落したので問題ない。
「問題があるとすれば、皇妃の一件がこっちの網にはかかって無いという点か。」
「出鱈目とまで言いませんが、信憑性はあるんですか?」
ミレイユ王女は生贄自体に懐疑的だ。他の諸侯も大なり小なり同じ感想か。
元々生命力を魔力に変換するという発想が一般的じゃない。生贄を使った秘術がピンと来ないのだろう。
「そもそも我々の目的は暗黒教団の拠点制圧なんだ。
信じようが信じまいがこっちの方針を変えられないから、騙す意味が無いさ。」
「お話を聞く限り、アレス王子は我々に意見を求めて無いように感じますな。」
威圧する様な態度で不満を出して来たのは東央国イストリアのブリガム将軍だ。
指揮権そのものに口を挟む様な発言に諸侯の一部が気色ばみ。
「ああ、そうか。貴殿はそこを勘違いしていたのか。
ブリガム将軍、我々は別動隊だ。作戦行動に対して意見を挟む余地は無いぞ。
貴殿の期待している様な役割を果たしたいなら、それこそリシャール殿下と共に行動すべきだったのだ。」
「なっ!それはどういう意味ですか!」
足手纏い扱いされたと思ったのだろうブリガム将軍が屈辱に顔を歪ませる。
だがアレスは冷静に言葉を続ける。
「今回の作戦は予行演習だ。我々の果たすべき役目は指揮ではない。」
「だからそれは……!」
「我々はリシャール殿下が帝都攻略中に先行して潜入する、皇帝や邪龍の直接討伐を目的とした別動隊だ。
はっきり言って最終的に全軍の指揮は殿下に丸投げする事になる。つまり我々が行動に出た時点で作戦は決まっているんだ。
足が頭脳を無視して突然動きを変えたら困るだろう、という話だ。」
要は戦術上の変更はあっても戦略の変更は出来ないぞ、という意味だ。
この場の全員は将では無く、駒として最前線に立つ必要がある。
「そ、それではアレス王子は我々に一兵卒の真似事をしろと言われるのですか!」
「極論そうだな。もっと言うなら全員英雄になれ。」
「「「はっ?」」」
「理想は完全復活前に皇帝を討つ事だが、復活した際に直接戦うのは殿下では無く我々だぞ。そもそも邪龍は一兵卒如きに傷も付けられん。
極論邪龍との決戦が始まったら撤退が許されるのは【三神具】持ちだけ、くらいの覚悟でいろよ?」
「し、仕切り直しも考慮するなと?!」
「帝都トールギスの皇城ビルスキルニルは邪龍封印の蓋でもある。
邪龍と空で戦いたいなら撤退もアリだが、確実に地上で戦えるのは城内にいる間だけだぞ。【三神具】に固有の魔法が宿っている理由もそれだ。」
「……ま、魔法なら届く、と?」
「大抵の魔法は届かないし通じない。所詮ダークドラゴンは眷属止まりだ。
古代王国を滅ぼしたって説が成立するのは伊達じゃ無いぞ?
少なくともオレは、下手に撤退するぐらいなら全軍を城内に突入させる。一戦の犠牲が増えても世界中の国々が各個撃破されるよりマシだからな。」
マジな話、城外に出られた時点で勝算はアホほど薄くなる。
聖王伝説に味方を増やして回った描写があるのは航空戦力必須だったからでは?
アレスから語られる全滅覚悟の強硬策に、将軍に限らず口籠る武将一同。
「理想は【三神具】を持たない全員が〔対竜武器〕を装備して邪龍に挑む事だな。
優先順位が高いのは我々だが、本隊にも一部は回す必要がある。だが帝都攻略迄にはこの場の人数分の〔対竜武器〕を何とか用意したいな。」
「「「っ?!」」」
交渉出来るなら竜族を味方に付けたいくらいだが、その場合〔対竜武器〕が不足する恐れもある。勝算を考えると実に悩ましい。
「そ、それは一時的な貸与という意味ですか?」
「褒美を兼ねているから当然私物だぞ。
邪龍に挑む勇者なんだから、それぐらい必要だろう?」
〔対竜装備〕。それは【三神具】に次ぐ、大陸最高峰の武装である。
竜素材は竜退治が必須であり、挑むだけで誉れ。勝てば栄光が約束される。
大国の名将だろうと金銭だけでは入手出来ない、全ての武人達の憧れだ。
「正直邪龍相手には破損覚悟になる。むしろ予備が欲しいくらいだ。
職人は確保したが、素材の方がなぁ……。」
(((し、職人まで確保したのか!アレス王子はそこまで本気で!?)))
ゲーム宜しく隠しダンジョンで竜素材ウハウハとか出来れば良いんだけどね?
ホラ現実だと戦闘力的な問題で確認すら出来ないから。
作業時間もあるし、決戦前にどれだけ間に合うかも不明だしなぁ……。
「し、しかし資金は一体?それ程の数を揃えるなら相当な額が……。」
「現在進行形で稼いでる最中だよ。正直聖王国の財力は本気で当てにしてる。
流石にダモクレス単独で用意出来る額じゃあないからな。」
「流石にそこ全部ダモクレスに負担されると聖王家の立場がありませんので。
その代わりお兄様方の分は優先して確保させて戴きますが。」
「ま、【三神具】の代わりは必須だからなぁ……。
ダークドラゴンの分はパトリック殿下用になるから、ソコは安心してくれ。」
リシャール殿下分も含めて、この先々で素材を確保する必要がある。
とても頭の痛い話だ。
「「「………………。」」」
腹を割った会話にしても、動く金額が馬鹿デカ過ぎる。
聖王家の本気とダモクレスの異常さが浮き彫りになる会話だ。
軽く青褪めた表情で沈黙されると、流石のアレスも不安になる。
今更尻込みされてもその、困る。
「……そういう訳だから、この部隊の作戦は基本全員の意志統一を優先しない。
あくまで俺の指揮に命を懸けられる前提で参加してくれ。その辺は報奨のデカさと引き換えだと思ってくれないと、方針が成り立たん。
この部隊への投資額だって冗談に出来ないからな。」
ブリガム将軍だって、イストリアの国家予算を知らない立場じゃない。
一家臣にダモクレスの代わりとか、その。とても無理。
「わ、分かりました。武人としての誉れには変えられませんからな。
貴殿を主君の代理として、儂も覚悟を決めましょう。」
そういう事にしておこう。うん。
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先日の会議以来、追加でもう一つの神殿を攻略したが生贄を行う様な儀式の痕跡は見当たらなかった。
そもそも最大規模の施設が、先日暗黒教皇アルハザードに襲撃された闇神具神殿以外に無さそうだ。
シャラーム王都攻略も視野に入れれば、時間をかけ過ぎる訳にも行かない。
(コレ多分、シャラーム内の諜報力は帝国に劣っていると見るべきだな……。)
悔しいが認めざるを得ない。元々ダモクレスは小国であり、帝国深くに諜報網を伸ばせるだけでも驚異的なのだ。
全世界一律で世界最高など望むべくもない。
なにより砂漠の民は、全般的に日焼けした者が多い。他国者が目立つのだ。
数百年単位で根付いている相手の諜報など、流石に厳しいものがある。
(となると原作には無い行動だが、取れる手段は一つしかないな。)
以前この辺りを来訪した時には確認出来なかった第三勢力。
暗殺教団アガペラにも暗黒教団にも属さず、独自の文化を守り続ける諜報集団であり、独自の魔法秘術体系【忍術】を築き上げた独立勢力。
――即ち、〔忍者の里〕。
アレスが所持する《忍術極意絵巻》の源流。
〔アサシン〕から昇格出来る最精鋭、特殊クラス〔忍者〕達の住まう隠れ里。
――彼らを、里ごと引き入れる。
理想はダモクレスの一部隊、一組織として。
最低でも依頼として、皇妃の居場所や情報の真偽を探って貰いたい。
砂漠地帯の境界であり、シャラーム西部の高山地帯。
断崖絶壁の山頂は雲を完全に遮断する程に高くそそり立ち、砂漠地帯への雨量を著しく制限する一因となっている。
反面、かの地は極めて降水量が多く、水捌けの良過ぎる大地は頻繁に洪水に見舞われて海に全てを流し落とす。
鏡の様に磨かれた急斜面は数百年をかけて鋭さを増しているが、人の身では気付けない程の緩やかな変化に留まっている。
けれど。その山塊は一律では無く、時に亀裂が走っている。
亀裂の中から流れる急流は地中に流れ込み洞窟となるが、ここが削れる速度は他と比べても早く、かつては今より上層に水源を刻んでいた。
涸れた亀裂。日光の届かぬ地下洞窟。
そこは過酷な環境でこそあったが、少数の者が隠れ住むだけであれば十分な広さが整っていた。
――〔忍者の里〕。
彼らはかつて、竜族や巨人族に住処を追われた者達の末裔であった。
だが邪龍大戦を超え、聖王国期に入っても。彼らは集落規模から抜け出せない。
彼らは砂漠の部族闘争に参加する程の数を揃える事が出来ず、里から外へ勢力を伸ばす事が出来なかった。
それは里が有する最大戦力がアサシンの進化職〔忍者〕であった事も、少数精鋭に拍車をかけていたからだ。
敗残者と言えば否定は出来ない。
しかし未だに滅びる事無く里を保ち続ける兵達の集団でもある。
彼らは間違いなく、一騎当千の実力者を揃えていた――。
「……それで、被害はどうなっておる。」
老人というには張りのある、戦士の声に応える配下が一人。
砂漠地方では希少な木造家屋に暮らし、同地方の者達から見れば豪邸とも取れる三階建ての大広間。魔導具化された行燈が並び、室内を灯している。
集まった者達は一人残らず〔忍者装束〕という彼ら独自の防具に身を包み、全員が緊張感と武装を解かずに沈痛な表情を浮かべていた。
「幸い駆け付けたコジロウ様によって、敵の撃退には成功しました。
ですが、下忍達が十名ほど〔蛇腹ムカデ〕の餌食となり……。」
〔蛇腹ムカデ〕はここ最近、神出鬼没に里や周辺の施設に現れては里の住民達へ襲い掛かり、丸呑みして去っていく謎の化け物ムカデの事だ。
既に何度か討伐を果たした筈だが、死体は何故か煙のように消えて次に現れる時は以前負わせた手傷すら消えている。
毎回別個体だという者もいるが、であれば何故一体ずつ襲って来るのか。
何より。
「斯様な外法の術、やはり奴以外には考えられぬか。
……八咫童子め。」
※本日8/9~/11日までの間、夏休み三日連続投稿開始します。本日中日。
『君』の『婚約者』に個人名は有りませんwあとは判るな?
武将との間にいざこざが生じる最大の理由がアレス王子が出資者、運営側視点で軍を考えているからですね。
普通の王族なら装備は武器屋を探し出して注文する物です。
アレス王子は武器屋を建てて採掘や原料を採取してるw
君ら褒美を出す側に立てる?という根本的な疑問に気付かない限り、王家なんだから対等やろが!という反論をしてしまう訳ですw
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