103.第二十四章 闇神具神殿の崩壊
※次回8/9~/11日、夏休み三日連続投稿予定です。
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ちょっと奥様旦那様?!【武断剣】で【落雷剣】ってあれ何?何ザマスの?!
ゲームではそりゃあ出来てましたけどね?ゲームシステム上アリでしたけどね?
秒殺斬撃三連撃って理不尽にも程がありませんコト?!
俺散々頑張ってるけどアレ未だに出来ねぇッ!!
このゲームで最強の攻撃と言えば何か?
勿論使用武器にも左右されるため一概には言えないが、全プレイヤーが断言する攻撃こそ【落雷剣】使用中の【武断剣】発動だ。
【邪竜剣】はそもそもラスボス専用、【魔王斬り】含めて味方は使えない。
【天動剣】はダメージを増やさず、『ドラゴンブレス』は『必殺』スキルと同時に発動しない。クリティカルは全攻撃に発生するので無関係。
【魔奥義】は基本敵専用で、最大攻撃力こそ叩き出すが【☆奥義】が発動しないため『必殺』か『連撃』次第だ。敵防御力が高いと若干弱い。
『必殺』はともかく『連撃』は【☆奥義】全般で発動するため、効果範囲を評価に含まない限り、【☆奥義】を超える使い勝手にはならない。
『憤怒』や『激情』は敵以外ほぼ魔法使い用スキルだ。
恐らくゲームバランスの都合と言われていたが、アレスは感情的な状態で武技を使いこなすのが難しいからだと思っている。
ゲームはこの世界を模倣したものなのだから。
故に絞られるのは二つの【☆奥義】発動中。
防御力が高い相手には【封神剣】に軍配が上がるが、【武断剣】の三回攻撃は高レベルになる程防御力格差を埋める。
攻撃力50に防御力30と仮定すれば計60と50、そしてこれ程の防御力を有する敵は、ほぼドラゴンに限られる。
ここに【破壊剣】か【落雷剣】の数値が加わる。
一見両者の条件は同じに見えて、物理と魔力以外に属性ダメージが乗るか否かという点に相違がある。故に最大ダメージは【落雷剣】。
全ての条件を加味した場合、最高の攻撃力を誇るのは作中ほぼ唯一の【武断剣】スキルを有するスカサハというのがプレイヤー間の共通認識だ。
……だから不思議は一切無いんですけどね!?無いんですけどね!
ワタクシ事アレスめも同じ【武断剣】スキル持ちなんですよ!【武断剣】発動中の【落雷剣】は単一攻撃扱いですから三回攻撃してもMP消費は一回分!
練習しない筈無いじゃ無いですか!練習してるに決まってるじゃ無いですか!!
アレ、ホントに物凄く難しいからな!?練習でもどっちつかずに終わるくらい超高難度の必殺技だからな!?アレ何で出来るのってくらいトンでもないからな?
これだから天才様はよぉォォォッ!!!!
「アレスってさぁ、剣の事になると結構ムキになるよね。」
「オレあいつに才能嫉妬されるのだけは絶対納得いかねぇ……。」
「『傭兵四極』制覇した男が何言ってんのかしらねホント……。」
「アレ、本当の本当に本心なのか?物凄く理不尽に感じるのは私だけか?」
ジルロックを交えた【星奥義】使い達が、歯軋りするアレスに愚痴を呟く。
人の事言えないのは分かってるんだよ!でも感情の問題は別なんだよ!!
迂闊に振り返ると冷静になれない事柄に蓋をして、アレスは今後へ意識を戻す。
ある程度の調査は終えたとはいえ、どうやら隣の階を中心にこの階は徐々に崩落を始めていた。どうやら下の階で支柱が破壊されているらしい。
先程の戦闘で誰の目にも明らかなくらい、足元にヒビが広がり始めている。
出来れば〔リビングドール〕素材(異論は認めない)を完全に焼却してしまいたいが、崩壊している一帯は正にあの辺からだ。
あちらに対応している内に脱出出来なくなったら目も当てられない。
神殿絡みの資料は《王家》に収納出来た分で凡そ半分程度、ゲームの宝箱で入手出来たアイテムは全て回収済みだ。
〔ライフリング〕含め、原作以上の成果は出している。これ以上は欲張りか。
「リリス、『ファイアブレス』は出せそうか?」
「うん、多分行けると思う。」
〔四竜の冠〕はリリスへの精神支配を弾く効果だけではない。
ゲーム的には装備枠を消費するが、以後四属性の『ドラゴンブレス』が魔力確率で発動するスキルとして追加されるのだ。
因みにイベントで装備する上に外せないので、以後の装備枠は実質二つだ。
尚、ゲームでは属性の区別が無く、オートで相手の弱点属性が発動する。
現実では別に外れない魔法が掛かってたりはしなかったので、『ブレス』も本人の意思で選択出来るのではないかと考えられる。
ならば遠慮無く破壊出来る対象である階下の死体(やっぱ面倒)置き場へ向け、ド派手に防御貫通攻撃を試し撃ちさせるのだ。
どうやるのかと即座に階段に退避出来る人数で見学していると。
両手で菱形に組んで息を吸い込み、叩き込む様に息を吹き付ける。
「「「ぅおおおおお~~~~~~~~~………………。」」」
渦巻く様に広がる白に近い朱色の火柱が、階下の氷塊死体を見事に焼き焦がす。
見た目の綺麗な輝きとは裏腹に、相当な高火力である事が伺える。
「スゲェ、氷が割れるだけじゃなくて焦げてるぞ。」
「なんか思った以上に格好良いな。何で出来ないんだオレ。」
実際アレス含めた何人かが装備出来るかを試したが、奇妙な魔力が反発して被る事が出来なかった。一方でリリスの頭には適切なサイズに伸縮している。
まあ恐らく邪竜司祭向けに調節されたアイテムなのだろう。『浄化』スキルにも反応しない辺り、彼女が候補止まりだった原因かも知れない。
「ちょっと不便かも知れないが、精神に干渉する魔法を弾くみたいだ。
普段から出来る限り外さないようにしてくれ。」
「うん分かった。」
ミシリ。
「……じゃ、急ぐか。」
「そうだね、そうしよっか。」
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ちょっと撤退の際に略奪品をガメて逃げようとした輜重兵が逃げ遅れたが、概ね撤退は恙なく完了した。
ハイクラスでは無かったので身包み剥ぐだけで見逃してやろうか。これを温情に出来る辺り、私も実にこの世界の価値観に馴染んだものだ。
適切かって?町に全裸の人間が現れたら、盗賊に襲われたか犯罪者って思われるのがレジスタ大陸の一般常識かな。
門番が捕まえてから考える程度には良くある話だよ。
変態は生き辛い世界だから大人しくしようね?人斬りは経験値になる世界です。
閑話休題。
全員の脱出が確認出来次第全ての出入り口を破壊封鎖し、辺りは既に月が傾く夜空となっていた。流石に町は目指せない。
砂漠の移動は夜の方が向くと言うが、それは時期と余力による。
魔物が活発に活動する時間は当然移動に手間取るし、移動中の獣除けは大軍ほど効果が薄い。何よりじっくり休めるのは間違いなく夜だ。
視界がいつ閉ざされるかも知れない中、消耗した体力で挑むのは流石に危険だ。
今日の所は出口の監視も兼ね、明日早朝の出発まで見張りを交代させながら兵を休ませることにした。
「ヴェルーゼも今日は無理せず寝ていてくれ。
ミレイユ、彼女の事はお任せします。」
ミレイユ王女は少しだけ不満そうに、それでも二人の身を慮って素直に頷く。
プライベートで完全に敬語が抜け切らないのは勘弁して欲しい。正直未だ公式の場では立場が上だし、軽口を叩くのは中々慣れない。
沈黙を貫いてくれる厚意に甘えつつ、アレスはリリスを連れ出し見回りを兼ねた散歩に向かう。
マギリス宮廷伯ことリーゼロッテ令嬢は別テントで、軟禁という建前で護衛付きの休息を取って貰っている。
彼女が何かするとは思って無いが、仮にも帝国貴族。そもそも聖戦軍には与しないと宣言しているのだから、危ないのは身内の方だ。
とはいえ彼女の解放が聖戦軍側の利益になると言うのは武将間では共有しているのだから、無暗に事を荒立たせようとする者もいまい。
明日密偵隊に彼女の護送を任せるまでの間なら、特に何事も起こるまい。
今一番心配なのは、ヴェルーゼを刺したリリスの方だ。
薄々程度には気付いていただろうが、自分の保護者を自認してくれている相手を刺すなど、操られていようが動じるなという方が無理だ。
少なくともアレスは言わないし、むしろ本心から情が湧いている証だと軽く感動すら覚える。出来ればヴェルーゼでは無く自分であれば笑い飛ばせたのだが。
流石にこればかりは誘導もしようがない。
人通りがあるうちは取り繕えていた様だが、周囲に人影が無くなると不安が顔に出始める。無理していたのが丸分かりだ。
催眠状態ではあったが、リリスには操られていた間の記憶が残っていた。
「気に病む必要は無いぞ。少なくとも俺達は察していた。
それなりに対策もしていたし、その分ちゃんと傷は浅い。休みさえすれば明日に尾を引く事も無いさ。」
「っ?! ど、どうして教えてくれなかったの……?」
「分かってる事は全部教えてたぞ?確定情報は無かったが推測は出来た。
だからあくまで察してた止まりだ。」
「嘘っ!」
「嘘も何も、そもそも証拠なんて全然出なかったぞ。どっちかというと今回の一件と手に入れた資料を調べれば確証が出るんじゃないか?
まあ状況証拠はあの襲撃で出揃ったと思うが。」
「それって……。」
「ああ。単に備えていただけさ。だから俺達としては何とか出来た、だ。
誰も大怪我せず、何も失わなかった。だから成功さ。
お前は何も悪く無い。伊達に兄を気取った訳じゃないぞ?」
「その話、もう少し詳しく聞かせてくれないかしら?」
暗がりから美女の声がして、予想通りの人影が姿を現す。
〔放浪の魔女〕シュトラル。浅黒い肌が砂漠を連想させる、妖艶な黒髪美女だ。
そしてゲームではこの闇神殿のあった遺跡へ、再度〔四竜の冠〕を装備した状態のリリスを向かわせると遭遇出来る隠しキャラ。
「構いませんよ。丁度、あなたの事で答え合わせもしたかった。」
「え?」
アレスの言葉に期待と不安の入り混じった表情で彼女を見るリリス。
リリスにはシュトラルの名前までは教えていないが、元々母親かも知れない人に託されたとは伝えてある。
自分に関係のある人と気付いて真っ先に思い浮かぶのは、彼女が自分の母親かも知れないという可能性だろう。
「あらあら。女には秘密が付きものよ?」
「貴女の魅力は秘密が暴かれただけで損なわれるものではありませんよ。
それに彼女の立場は私の『鑑定眼』によると邪竜司祭です。」
「あら。あなたの『鑑定眼』は随分と変わったものが見えるのね?」
(ん?)
不安気なリリスの肩に手を置いて、アレスは大丈夫だと安心させるように頷いて励まし、シュトラルに向き直る。
すっ呆けるような笑顔の彼女は、こちらの意図を察した上での態度だろう。
「貴女は以前、私に夫が闇司祭であったと教えて下さいましたね。
実の娘を攫った連中を追っていたとも。リリスの保護を依頼した貴女とその父親が関係者かも知れないと疑うのは当然でしょう。
単刀直入に聞きましょう。リリスの母親は、貴女ですね?」
「まあ。それで?そうだとしたら、その子の身の上はどう変わるのかしらね?」
不安気な表情で、しかし肯定されない事に動揺するリリス。
けれどその程度は想定内だ。というよりこの程度で認めるとは思ってない。
「闇神官がリリスを眠らせて護送し、貴女が追いかけていた。
つまり暗黒教団にとって〔邪竜司祭〕は特別な価値がある。その価値は何か。」
「っ!」
アレスが取り出した【邪龍儀典】にシュトラルは確かに反応し。
開いたページには〔四竜の冠〕の事がはっきりと記載されていた。
「未だ通しで見ただけですが。この魔書によると〔四竜の冠〕は、邪龍の力を宿す闇神具【魔龍冠】の失敗作だと記載されています。
邪龍の力に耐えられる素材として四竜の角を用い心臓を封じたのに、逆に邪龍の干渉を弾く効果を得てしまったとね。」
本を閉じ、シュトラルに視線を向ける。周囲に聞き耳を立てる者はいない。
「【魔龍冠ヨルムンガント】は皇帝ルシフェルの身体に魔龍ヨルムンガントの魂を宿らせた闇神具の名です。
邪竜司祭とは、魔龍ヨルムンガントの器候補ですね?
だからこそ闇の魔力に対し親和性が高く、事前に施された術式と闇の魔術を用い容易くその体を操る事が出来た。
〔放浪の魔女〕シュトラル。貴女が娘の傍を離れた理由は、娘を暗黒教団に利用させないため、彼女への洗脳を弾く〔四竜の冠〕を探していた。
違いますか?」
「「っ?!」」
「既に皇帝ルシフェルが居る時点でリリスは本来用済みの筈。
なのに暗黒教団はリリス相手に実験を続けていた。となると他に役割がある。
ですが普通なら眠らせて記憶を奪う必要は無い。彼らの元で忠実な手駒へと教育して、戦場に出す手もある。けれどそれは選ばれなかった。」
沈黙の中で、リリスの息を呑む音が響く。
「であれば教団には、記憶喪失の方が都合良かった。
例えば【三神具】奪還のため、聖戦軍に潜り込ませる時のために。」
「そ、そんな……!」
「っ!そうか、だから〔帝国の聖女〕は義勇軍に参陣したのねっ!
……いえ、でもおかしいわ。それだと時系列が合わない。
【聖杖ユグドラシル】の奪還を計画するとしたら、帝国の聖女が帝国を脱出した後の筈よ。」
「ヴェルーゼ皇女には【闇呪縛】を弾く『浄化』スキルがあります。
恐らく暗黒教団は当初、リリスに【ユグドラシル】を使わせる心算で調整を施していたのでは?」
冷静に考えれば暗黒教団関係者が【三神具】を使えるのは本来おかしい。
皇帝や皇族、義勇軍関係者にも案外使える者が沢山いた所為で誤解したが、帝国側は何らかの方法で【三神具】の拒絶を無効化している可能性もある。
帝国に所有資格者が居なくても、本来全く不思議は無いのだ。
「……成る程。筋は通るわね……。」
シュトラルは自分が調べた情報を検証し、矛盾が無いと判断した様だ。
一方でリリスは、自分が最初からヴェルーゼへの刺客だった事にショックを受け只でさえ悪かった顔色が更に悪化していた。
「と、いう訳だ!こっちは最初からお前さんが操られる可能性に気付いた上で面倒を見ると決めていたんだ。
多少の怪我くらいは承知の上さ。」
頭をわしゃわしゃと撫でられ戸惑うリリスは、それでもと言い募る。が。
「済まないと思うのならこれ以上心配させるな。
折角上手く行ったんだ、皆には有難うって言ってやればいいのさ。」
「……う、うん。分かった……。」
躊躇いながらも面映ゆい顔でアレスに頭を預けるリリス。その様子にシュトラルはやれやれと呆れた様な顔で溜息を吐く。
「という訳です。確認しますが、あなたの夫は今も御存命ですか?」
「……証拠は無いんじゃなかったの?」
「勿論。ですが娘の扱いに同意しておらず、あなた一人で娘の奪還を試みたと仮定すれば、貴女が夫と決裂したか死別した可能性は直ぐに思い付く。
昔貴女が、暗黒教団と協力関係にあった事も含めてね。」
「……それで証拠が無いって言われてもねぇ。
ま、御想像通り父親は教団に殺されて、その時に娘も奪われたわ。
〔四竜の冠〕が邪龍の力を弾くって話も、教団に協力していた時に聞いていた。
それさえあれば教団が、リリスを魔法で探す事は出来なくなる。」
まあ、そこまで懐いているのに今更引き離す気は無いけど、と苦笑して踵を返すシュトラルに対し。
「因みに〔四竜の冠〕はリリス用に調整し直されています。」
ピタリ、と足を止める。
「この【邪龍儀典】も専門用語があって、解読には時間がかかる。
リリスの安全を確認するためには、専門家の協力があれば話は速いんですが。」
「……私に今更母親面をしろと?」
「私はパパじゃありません。お兄様です。兄枠です。」
「…………いや、うん。その返しはちょっと……。」
「これでも私は女好きを自認しておりますが、娘の教育環境には自信が?」
「その返しはズルいなぁ!分かった、分かったわよ!
娘はちゃんと私が育てます!それで良いかしら?」
しょーりィ!!
アレスはにこやかにリリスに笑いかけ、シュトラルに手を差し出した。
「勿論です。聖戦軍は貴女を歓迎しますよ。」
※次回8/9~/11日、夏休み三日連続投稿予定です。
箸休め回を一気に投下。出来ればその後を夏休みに合わせたかった……。
(両手で叩き合って)ウェ~イwww
く、娘の将来に不安しか感じない……!
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