101.第二十四章 邪竜司祭と支配の杖
※7/21日海の日投稿。続きは今週土曜となります。
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「……つまりここは、【闇神具】の精製工場と〔リビングドール〕製闇騎士の量産工場を兼ねていた訳か。」
「アレス王子、どうしますか?」
ヴェルーゼがいち早く立ち直り、今後の方針を尋ねる。
中は驚く程深く、地下一階では済まされない程の規模がありそうだ。
「……ああ。氷漬けになっているなら解凍すればどうにかなる筈だ。
先ずは、っと。ヴェルーゼ皇女、『浄化』で四隅の儀式陣を破壊してくれ。」
試しに動かした祭壇に切り付けてみるが、陣自体には干渉出来なかった。
魔力で弾かれる様な手応えがあったので、恐らくそれでいける筈だ。
ここを壊せばリビングドールの大量発生は防げると見て間違いないだろう。
そして原作の様な宝箱は見つからなかったが、この階の様子を見れば大体の見当は付く。要は宝箱があった一角に何があるかだ。
祭壇付近の呪具置き場、研究用と思しき棚の鍵付き金庫を開いていけば。
「よし、あった。これが〔四竜の冠〕で間違いない。」
「『リリスよ、ヴェルーゼ皇女を殺し〔至宝の箱〕を奪いなさい。』」
「っ!?」
「【闇縄魔法】!」
咄嗟にリリスの間に立ち塞がろうとしたレフィーリアの身体を、割って入った闇色の光縄が拘束する。
その間にリリスが体当たりしながら、ヴェルーゼに《闇の短剣》を突き刺した。
(?!今何処から!)
「ッ?!」
即座に走り出すアレスはリリスの手元に突然刃物が出現した様に見えた。
一方で事前に指摘されていた分、急所は避けた筈のヴェルーゼは突然の魂を吸い取られる様な虚脱感に膝を折る。
その間にリリスは彼女の服の下の小箱、リリスに見せた事が無い〔至宝の箱〕を的確に取り出して振り向き。
「【召喚刻印】ッ!?」
「『浄化』ッ!!」
アレスの手から〔四竜の冠〕が消え失せると同時に光が放たれ、走り出そうとしていたリリスの身体から呪いの力が抜け落ちる。
「えっ?!?!?!?」
「【高位再生】ッ!!」
膝から崩れ落ちるリリスの身体をアレスが支えて〔至宝の箱〕を拾い上げ、一方で床に落ちた《闇の短剣》の黒い魔力がヴェルーゼの傷の治療を阻む。
「『浄化』ッ!!」
「?!?!?」
再びの輝きが《闇の短剣》から力を散らし、ヴェルーゼが体を起こす。
レフィーリアを拘束していた術が限界を迎えると、アレスはリリスを彼女に任せ〔四竜の冠〕を奪った男の方を振り向く。
物凄い表情で疑問符を巻き散らす、邪悪な妖気を漲らせた老翁こと。
〔暗黒教皇〕アルハザードがいた。
「え、女装?」
「ちゃうわ!それを言うなら男装じゃい!」
「ッぐあああぁ!!」
『浄化』の輝きは飛ばせるらしい。
割とノリで手を突き出したアレスの閃光が直撃し、アルハザードが〔四竜の冠〕を取り落として呻き声を上げる。
「な、ならばもう一度!
『リリスよ〔至宝の箱〕を奪いなさい!』」
「『浄化』ッ!」
慌てて【杖】を構えたアルハザードが命令を叫ぶが、立ち上がったヴェルーゼがリリスに『浄化』の輝きを浴びせ、動くより先に呪いを打ち払う。
そのままレフィーリアから引き取り、リリスの両腕を抑えて声を張り上げた。
「リリスは私に任せて、そちらをお願いします!」
「おぅよ!」
「っちぃ!【後退衝撃】ッ!!」
辺り一面に衝撃波が拡がり、走り出したアレス達に壁の様な圧力が加わる。
受け身自体は容易く手傷の様なものは負わなかったが、比較的近い距離に居た者も含めて全員。一人残らずアルハザードから距離を取らされていた。
(原作では謎の衝撃波だったあれか!という事は、本来詠唱は不要なのか。)
「【召喚魔法】!」
だが正しく魔法であり、魔力消費は小さいものでは無いらしい。
周囲にダークナイツ数体と十数体の巨人を召喚すると、荒い息を吐いて遠くに転がった〔冠〕を睨む。
「ふ、ふふふふふ。やってくれましたねアレス王子。
まさかあなたが『浄化』スキルを所持しているとは思いませんでし、た……。」
アルハザードが絶句する間に、アレスは両手に持っている〔至宝の箱〕を両脇のポケットにしまうと見せかけて《紋章》内に入れる。
勿論そっくりなだけの偽物だ。そして胸元から取り出した三つ目の〔箱〕をヴェルーゼ皇女に投げ渡す。
彼女も懐に戻す振りして《紋章》に仕舞う。勿論本物だ。
だがアルハザードから見れば、一度奪われた本物を投げ渡す筈が無いとしか思えないだろう。増えた《王家の紋章》を知らないのだから。
つまりアルハザードから見れば、アレスの持つ複数個の内の一つが本物だ。
事実露骨過ぎる挑発に、物凄い勢いでアルハザードの口元が引き攣る。
「く、くふふふふふふふふふフフフフフフフフフ。
どうやら噂以上の悪童振りの様だ、〔無敗の英雄〕の雷名は本物らしい。」
原作ではリリスが救出された時点で部下任せにしてあっさり引いたが、実際の所今のLV差はかなりきつい。
『鑑定眼』で確認出来た範囲では現段階で既に、ゲーム終盤で戦う時とLVや装備以外の違いは無いらしい。流石に30LV台で戦う相手ではない。
さて目的は果たしたので後は如何に撤退させるかだ。
だが原作では更に〔リビングドール〕を召喚していた。この差がMP不足を警戒した結果なら相手は神官系魔法使い、今なら案外勝てるか?
「お褒めに預かり光栄だな。アンタが暗黒教団トップと見たが、間違いないか?」
「ええ、〔暗黒教皇〕アルハザードと申します。以後宜しく。
あなたがこの場を切り抜ける事が出来るのなら、ですが。」
「お、そんな事言って残りMP気にして逃げる気だったり?
実際は今結構無理していたり?」
お互いにこやかに談笑する傍ら、不意打ちへの警戒は全く欠かさない。
「お互い様でしょう?連戦に次ぐ連戦、アイテムで多少は回復しても気力や体力迄は完治出来ません。
あなたは大丈夫だとしても、他の方々はどうでしょうねぇ?」
「「ふ、ふふふ。ふはははははははははッ!」」
同時に全く笑って無い目で朗らかに笑い合い、唐突に笑顔のままに次を伺う。
が。
突如地面から衝撃が突き上がる。
敵味方を問わず床に倒れ、膝を付く。周囲を見渡すが原因は分からない。
「【光縄魔法】ッ!
総員、その場で体勢を立て直せ!地響きが収まり次第動くっ!!」
アレスも咄嗟に光の縄で〔四竜の冠〕を拾い上げて手元に引き戻し、『浄化』の輝きを浴びせながら叫ぶ。これでも回収されるなら今回は諦めるしか無い。
が、どうやら当たりだった様で。アルハザードは舌打ちをして視線を〔冠〕から外す。振動も徐々に収まりそれぞれが立ち上がる。
(何だ、地震じゃない?何かが衝突し続けた……?)
と。次は闇騎士倉庫で爆発の様な衝撃が走り、壁ごと床が崩れていく。
慌てて壁際の全員が階段目掛けて走り出すが、元々階段周りはアレス達が占拠しているためアルハザード達は壁から離れるに留まり。
伸びて来た巨大過ぎる蛸足が、躱したアルハザードから【杖】を奪う。
勢い良く穴から這い出した巨体は、この場の全ての巨人達を足しても上回る程の超巨大蛸だった。
と同時にアレスは気付く。知っている。
この蛸の足には吸盤の代わりに鱗があると。鱗がある蛸の魔獣が、この砂漠地帯には生息している事を。
砂漠蛸という、しかし巨人より一回り大きい程度の魔獣でしか無い事も。
「あははははははっ!!!ざまあないわねアルハザード教皇様!
こんな男と手を組んだばかりに返り討ちに遭うだなんて!生憎だけど私の研究は御覧の通り成功したわ!
ダークドラゴンとの融合までは時間が無かったけど、この通り今の私は既に人間という器の限界を超越した!もうあなた達の好きにはさせないわよッッッ!!」
【闇司教クトゥラカ、LV42。ハイドラダゴン。
『鑑定眼、鉄心、神速、反撃、魔障壁、アクアブレイク、連段、薙ぎ払い、
闇耐性、四属性耐性、雷弱点』
『魔神の紋章1、不死身の紋章2』『半魔の血統』。闇の錫杖、ライフリング。
『HP628、MP230、……』】
くくく、クトゥラカさぁぁぁあん?!?!?
おま、アンタ一体何やってらっしゃはるぅん?!?!?!?
嘲笑を上げる蛸の頭部に、何処かで見た美女の上半身がくっ付いていた。
多くの人が間違う胴体ではない。巨大な胴体はきっちりと後ろに存在しており、漏斗という蛸炭を吐く部分が彼女の腹部辺りにある。
下半身部分は欠片も無いが、上半身には例の黒ドレスが残っている。
いっそ九個あるという脳の部分に、直接下半身が繋がっているのかも知れない。よく見れば彼女の首には《邪竜冠》が融合していた。融合していたのである!
いやマジで何やらかしてんじゃぃッ?!
「き、貴様!まさかクトゥラカなのかぁッ!?
ダークドラゴンの融合実験等に失敗したからと言って、その様な化け物となってまで生き永らえたいのかッ!!」
「あらあら御大層ねぇ!失敗したのではなくさせたのでしょうっ?!
生憎私の邪魔をした闇司教ベルゼビュートなら、今ここに居るわよぉ?」
穴の底から引き摺り出した蛸足の先には、死に体の男が絡め捕られており。
掲げられると同時に激痛の絶叫を上げ、〔暗黒教皇〕アルハザードの眼前に渾身の勢いで叩き付けられた。
血飛沫が弾け飛び、原形を止めない男の身体が一面を染め上げる。
胴体からは鼻息の様に荒く空気が吐き出される。アレスは知っている。
砂漠蛸は地底湖を中心に生息するが、時に流砂を作り出して陸に浮上して砂嵐に紛れながら獲物へ襲い掛かる、水陸両用の魔物であると!
(いや、デカいわ!デカ過ぎるわ!!一体何のゲームだよコレェッ!!)
「それにそもそもお門違い!私は生き永らえたいんじゃないの!
我らが神の力を直に浴びたいの!道具越しじゃ無く、我が身に宿したいのよ!
故に我が神随一の眷属はご老体、人間のあなたではなくこの私!!
名付けるのなら、そう『ハイドラダゴン』っ!!」
色々ヒドイッ!!余所でやれ!!
コレ下手したら邪龍並にデカいのでは無かろうか。まあ流石にそこまでじゃないにしても、二番手クラスの巨体なのは間違いない。
だから確信出来る。原作では絶対謀殺に成功したんだろうな、と。
「なっ!アナタそのナリで我らが神の眷属を名乗る気ですかぁ?!」
そして皆が恐怖に震え怯んでいる隙に〔四竜の冠〕をリリスに被せる。
これでアルハザードに今この場で果たせる目的は恐らく無い。
というより。
(総員順次撤退。奴の相手はジジイに任せよう。)
(((そーですね。)))
密偵隊は隠し通路から気絶したリーゼロッテ宮廷伯を連れ。
アレス達は階段側から徐々に兵を引き揚げさせる。
「あはははははははは!何とでも言いなさい!
この【支配の杖】を奪った以上、あなたの周りの配下は全て私の手駒!
あなたに勝機は万に一つも無いっ!!」
アルハザードの周りの巨人が彼を包囲する様に向き合い。
アレスはアルハザードの視界から『伏兵』の如く隠れて下がっていく。
「えぇい!そこまで言われては認めない訳には参りません!
あなたがソコのアレス王子を討てるというのなら、我々もあなたを闇司教の長と認めると致しましょう!!」
「ちぃ!姑息なジジイめ!貴様の不始末を押し付ける気か!!」
「アレス様、口調が悪役。」
「何とでも言いなさい!暗黒教団は生き汚いのですっ!!
【転移魔法】ッ!!」
「うわぁ!ほ、ホントに逃げやがった!仮にも組織のトップだろぉ!」
思わず何処かに隠れて無いか探してしまうが、転移する瞬間を目撃しているので疑い様が無い。思わず空を見上げて呪いの念を飛ばす。
くそ、『物見』技能無いからいけるかと思ったのにぃ~~~!
「あっはっはっは。無駄よぉ?
あいつの行動理念は自分の手で教団を世界の頂点に押し上げる事だもの。
私の様な研究者や我らが邪龍神を信奉する同志達とは、根本的に相容れない。」
わは、コレ最初っからこっちに気付いてたって事ですね?
眼中に無いじゃなくて、そして巨大な目ン玉の一つがずっとこっちを見てたのは別に飾りでも何でも無いんですね?
「因みに聞くけど、このままお互いに自分の目的を優先するってのは?」
「あなただって研究者の気持ちは分かるでしょう?
試運転も無しに本番とか有り得なくない?」
ゆっくりと大蛸がうねる様に向き直り、聖戦軍の方へと体を傾ける。
うぅ~ん、そっかぁ。つまり貴女視点では最初っからあのジイサマ逃げ出すって分かってたんですね?さぁっすがぁ!
「雑魚を庇いながらじゃあ本気なんて出せないでしょう?
前哨戦から始めてあげるから、あなたの本気を見せて御覧なさい?」
「ち、畜生!その余裕、是非とも他の雑魚を殲滅するまで続けて下さい!!」
ニヤニヤと肘を巨体に預けて黙っているクトゥラカに、アレスは舌打ちしながら仲間へ向き直る。明言しないのは騙す気が無いからだ。
つまり時間をかけない限りはこっちの思惑に乗って試運転の方を優先してくれると見て間違いない。
「武将戦力だけで迎え撃つ!但し優先するのは周囲の護衛戦力だ!
間違ってもこっちからあの砂漠蛸モドキに手を出すなよ!?」
「あ、アレス王子?しかしそれは……!」
上の指揮は先に撤退しているヴェルーゼ皇女に任せるしかない。
彼女なら他国の兵であろうともある程度信頼を得ている。全部隊の統率を取るのに支障は無い筈だ。問題はこちらか。
ブリガム将軍は本心ではアレスの指揮下に不満がある様だ。
「洞窟を崩されながら上に上がられる方が事だ!数の理が活かせる相手じゃない!
何より向こうが試運転を優先するのは〔教皇〕の手駒に未練が無いからだ!
捨て駒にならないなら当然向こうは俺達の殲滅を優先する!
これが敵前の会話だとは理解してるな!?」
「ッ~~~!わ、分かりました!」
いよし、第一関門突破!初戦突破!
後は如何に余力を残しながらあの、明らかに普通のジャイアントじゃない一つ目巨人達やダークナイツ達を削るかだ!
「アレス王子、砂漠蛸ってあんなにデカくなる魔物なんですか……?」
「そんな訳無いでしょ!どう考えても変異種か改造種のどっちかだよッ!!」
割と本気で信じてしまいそうなカルヴァン王子の様子に、アレスは思わず本気で叫んだ。
※7/21日海の日投稿。続きは今週土曜となります。
原作未登場ボスが、いきなり変身後の姿で乱入して来ましたw
ドラゴンより大きなモンスター?邪龍以外登場する訳無いじゃない!!
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