100.第二十四章 原作未登場要人救出作戦
※次回7/21日休日更新予定。
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「救助対象が誰か教えて頂けなかったのは何故ですか?」
隠し通路を移動中、小声でヴェルーゼが問いかける。彼女を伴った時点である程度の見当は付いているだろう。アレスも声量を気にしながら頷き返す。
「どうやらベルファレウス第三皇子の婚約者殿らしい。
面識があるかどうか、彼女の発言諸々が真実かどうかも確認して欲しい。」
「……成る程。分かりました。」
救出に成功してもしなくても面倒な事態を察したヴェルーゼが、溜息を漏らして意識を切り替える姿を堪能じゃない癒されて確認し。
アレスも再び出口側の隠し扉にキリっと向き直って息を押し殺す。
扉の向こうではいよいよ痺れを切らした闇司祭ベルデハが【闇呪縛】使用に踏み切ろうとするが、辛うじて上の階の討伐が間に合ったらしい。
階段を下りて大広間へと到達し、別動隊こと〔グレン傭兵連合〕の面々が階段を守る様に部隊を展開する。
この階は左右と後方に幾つかの部屋がある以外は、【闇神具】の精製祭壇がある大広間一つだけだ。
多分周囲の柱一つとっても、精製神殿の祭壇と同化しているのだろう。
地面に描かれた紋様の複雑さに比べ、室内は殺風景とすら言えた。
「ちぃ!遂にここまで来たか、聖戦軍め!」
とはいえこの階には二種類の闇騎士達が控えており、加えて範囲魔法の餌食にならぬよう、ある程度散開した状態で階段を包囲している。
因みに闇騎士達の違いは〔リビングドール〕か否かだ。階段周りには〔リビングドール〕が多いが生身もしっかり紛れている。
例え密集したとて【退魔陣】で一網打尽は叶うまい。多少長期戦の覚悟は必要になりそうだ。
早々に始まった乱戦に気を取られている間に部屋に入り、アレスはそっとリーゼロッテ宮廷伯嬢の口元に軽く手を当てお静かに、と囁く。
(マギリス宮廷伯とお見受けします。我々は恐らく貴殿と利害を一致させる者。
先ずは御身の無事を優先させて頂きますのでご容赦を。)
彼女が頷いたのに合わせて足元に手を回して抱え上げ、所謂お姫様抱っこの状態で素早く後ろの隠し通路まで後退して彼女を下ろす。
密偵達は入れ替わりにアレス達の壁になる位置に移動し、射撃体勢で待機する。
リーゼロッテ嬢の解放はヴェルーゼに任せ、敵が気付かない間はアレスは護衛に専念して警戒態勢を維持した。
「【嵐天巨人伝承】ッッッッ!!!」
「「「ぅわぁぁぁあああああ~~~~~~~~~ッ!?!」」」
自分を囮に敵を集めたジルロックが、無茶苦茶良い笑顔で闇騎士達を一網打尽にしていた。
「【高位爆炎噴火】ッ!!」
リリスも続いた。
「あぁ?!まあ、マギリスの小娘は何処へ行ったッ?!」
思った以上に一方的な展開じゃ無いかな、コレ。
「……先に止め、刺してきます。」
「あ、はい。」
こちらに背中を向けながら狼狽える闇神官達を密偵隊が狙撃して、即座に距離を詰めたアレスが【炎舞薙ぎ】で焼き払う。
「キィィィィええええええええええッッッッ??????
ななな、きき、貴様ぁ!?ま、まさか脱出路から来たのか?!」
間合い外のベルデハが金切り声を上げて振り向いた。
あ、成程ね?
「我が名は〔グレン傭兵連合〕のエース、アスター!
暗殺教団アガペラよ、貴様らの悪事もこれまでだっ!!」
「お、おのれ?何?聖戦ぐ、えぇい、どっちでも良い!
我々に奥の手が無いと思うな!来い、ロプロ~~~スッ!!」
いょっし、来たぞ〔マナリング〕持ちリビングドール!
ベルデハの叫びで魔術紋が輝き、押し入れの様な壁から二刀流剣士が走り出す。
恐らくは虎の子、他よりLVも高く用心棒的な騎士なのか。だが遠い。
「お前を斬るのは奴の後にしてやろう!」
「ぅえええぇ?」
碌な装備も持ってない闇神官より、レアアイテム持ってるリビングドールの方が大事に決まってんだろ!常識で考えろ!
全力で司祭を放置し距離を詰めたアレスを、リビングドール剣士が迎え撃つ。
初太刀の切り払いを僅かに後退して躱したところに逆手の一振りが翻り、アレスは逆袈裟で切り弾く。続く追撃には利き手突きで応じて来た。
スキルが無いから強敵では無いかと思ったが、どうやらギリギリでスキルに成らないレベルの技量らしい。というより、基本剣術に忠実過ぎるのか?
アレスの『連撃』や『神速』に双剣の手数で対応して来る。むしろスキルに対抗するための双剣術なのか、読み易さとは裏腹に随分と防ぎ難い。
(はっ!これは神が俺に試せと言っているのか?魔奥義の練習のために開発した、アレンジ【魔剣技】を!)
「秘剣ッ〔真空跳ね鼬〕!」
剣戟で渦を巻く『連撃・翻り』を使いながら【真空斬り】を放つ、至近距離からの二重鎌鼬が翻る。だが〔リビングドール〕ロプロスは防ぐのではなく直撃で踏み止まり、鎧で耐えながら【破壊剣】を唐竹割りに切り落とす。
危な!くそ、タイミングがずれて初太刀しか飛ばなかった!
「秘剣〔真空跳ね鼬〕!」
「【致死奈落】ッ!!」
実戦で出来ねば意味が無いと、鍔で逆手の追撃を弾き上げて。
再びの〔跳ね鼬〕を試みるが、今度は読み易いと言わんばかりに双方それぞれの剣で受け止める。
後ろに跳躍し、腰を沈め。
「【秘剣・真空跳ね鼬】ッ!」
渦が一太刀に連なる。初手を同じ様に受け止めようとしたロプロスの剣が圧力に引きずられ、崩れた姿勢に二之太刀が切り払う。
鎧の一部が裂け血飛沫が舞い。しかし踏み込んで両肩に切っ先が迫る、交差する様に双剣をほぼ同時に振るう。
刃を受けた直後だからこその、零距離斬撃。
「正確過ぎる。」
脇に倒れ込んでの前転回避。互いに背中を向け合い、揃って後ろに振り返り。
否。ロプロスの背に、アレスの背が載り双剣が止まる。
背中合わせの相手と切り結ぶ剣戟など、正道の剣術にある筈も無い。
思考無き体でも反射的に前に走り出して後ろを振り向き。
その瞬間を、【封神剣】の一閃が断ち切る。
「手強かったぜ、思ってたより遥かに。」
「【致死奈落】!ば、馬鹿な!剣士如きに我が即死魔法を堪え切れる筈が!」
「ってソコ、うっさいわぁッ!!」
『神速』で距離を詰めての『必中・疾風』に繋げ、ベルデハの無防備な背中に『連撃・翻り』が直撃する。たたらを踏んで、立ち止まり。
咄嗟に【秘剣・真空跳ね鼬】からの【奥義・武断剣】が余さず牙を剥く。
「……り、理不尽が、過ぎませんか……?」
いい感じに、良い勝負が出来たんだよ!余計なタイミングで水を差しやがって。
捨て台詞と共にベルデハが崩れ落ちる。アレスが顔を上げると。
「「「狙われてもいないのに、今のはちょっと……。」」」
あれ?今回味方が居ない?!
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〔マナリング〕を最優先で回収しつつ、リーゼロッテ宮廷伯の元へ向かう。
闇司祭ベルデハは〔邪竜儀典〕等と装丁が施された奇妙な本以外目ぼしい装備を持っていなかった。
とはいえ《闇の錫杖》は今の所破壊手段が無いので《紋章》に回収だ。
「改めましてマギリス宮廷伯嬢、アレス・ダモクレス第二王子と申します。
話せる範囲で構いませんので、事情を聞かせて頂いても?」
ヴェルーゼ皇女とはやはり面識があった様で、向こうも素性の見当は付いているだろう。この期に及んで偽名を使うのは腹を割って話さないという様なものだ。
「先に聞かせて下さいアレス王子。
先程の『利害を一致させる者』というのはどういう意味ですか?」
「あなたが暗黒教団に囚われていたからです。彼らと敵対しているならという程度の、さして深い意味の言葉ではありませんよ。
別に事情を話せなければ強引に聞き出すという気もありません。
そもそも事情を知らぬ内に連れて来られた可能性だってありますから。」
「……分かりました。と言っても、祖国や殿下を裏切る心算はありません。」
覚悟を決めたリーゼロッテ宮廷伯曰く、彼女はつい先日まで帝国の自領に居たという話だった。
以前から度々生贄の提供を要求されていたものの、当の直轄領主ベルファレウス第三皇子は軍の維持が優先だと鼻で笑って一蹴していた。
だが漆黒騎士団の将軍であるベルファレウスが領地に留まり続ける暇など無く、代官は婚約と同時に代替わりしたマギリス宮廷伯令嬢こと、リーゼロッテ宮廷伯に任されていた。
彼ら暗黒教団は殿下の居ない時を狙って度々面会に訪れ、業を煮やした先日遂に面会中の強硬手段に出た、という経緯らしい。
「皇帝陛下は今や教団を、近衛相当の直属の部隊として用いています。
例え第三皇子殿下が訴え出ても、遠ざけられるだけとでも思ったのでしょう。」
「……変だな。」
「どういう意味だアレス?」
単純に考えればこれは教団側の増長だ。独断で動いて当事者が死んだなら、教団側にペナルティを課す方が暴走を防ぐ意味でも合理的だろう。
だがそれ以前に、皇帝が直接命令すれば良い事だ。生贄が必要なら。
アレスは皇帝が邪龍に乗っ取られている事を知っている。
「生贄集めは教団が独断で行う事なのか?帝国領だぞ。」
「っ?!殿下が暴走する事を期待されてる?」
リーゼロッテ宮廷伯の言葉にアレスは素直に頷けなかった。
少なくとも今劣勢の帝国軍がやる事じゃない。考えてみれば原作でも帝国は劣勢の部隊に本気の増援を出した事が無かった。
単純に辛勝続きでアストリア王子率いる義勇軍以外は敗走すらあったから、本腰を入れる程の危機感が無かったとも解釈出来たが。
明らかに劣勢な今の戦況でも同じ様な動きを取っているとなると、疑問が出る。
「……今宮廷伯殿に我々が提案する選択肢は三つです。
一つはこのままダモクレスを始めとした聖戦軍に亡命する。名前を出して反旗を翻して頂けるのなら、客将として歓迎致します。
二つ、ここで死んだ事にして亡命する。教団が強硬手段に出た以上、帰国しても地位が保障されるとは限りません。素性を隠した方が安全でしょう。
兵は預けませんが、捕虜では無く亡命貴族としての待遇を約束します。
三つ、この町以外の帝国兵を頼り帰国する。この町の帝国兵は暗殺教団狩りをしている我々としては討伐対象です。見逃せません。
ので自力で他の町へ向かって頂く分にはお止め致しません。次に会う時には敵となるでしょうが、無事の解放をお約束致しますよ。」
「「「なっ?!」」」
「どういう心算ですか?私はあなた方の敵国貴族ですが。」
「我々にはあなたを処刑する利益がありません。
教団は我々の手であなたを殺して貰った方が好都合でしょう。
それなら第三皇子殿下に無形の恩を売ります。場合によっては殿下の離反も期待出来ますし、秘密裏に連絡を取り合っても構いませんよ?」
この場で帝国に強い反感を持つ者は少ないとはいえ、堂々と離間策を語られると物言いたげな視線がアレスに集まる。
実際有効な事も分かるので、皆反論し辛い。
「……私が味方の振りをして騙すとは思っていない様ですね。」
「あなたは殿下を愛しておられる様ですので。」
「っ!……嫌な人。」
実際現状で内通するには、ベルファレウス皇子の立場が微妙過ぎる。
教団がこれ幸いと皇子の排除に乗り出す恐れがある状況下で、建前だろうと婚約者の名を前面に出して離反を口に出来るとは思えない。
元々皇子の為に生贄を拒んでいたリーゼロッテ宮廷伯だ、聖戦軍の全面的な味方になるとは最初から期待していない。
そして彼女もそれは正確に理解した様だ。暫しアレスの提案を検討し。
「では仮に、もし私があなたからの書状を殿下に届ける事を条件に、無事に帝国へ送り届けて欲しいとお願いしたらどうするお積りですか?」
「但し殿下への口添えは含まない、ですね。
勿論それでも構いません。〔西部〕迄でしたら問題無く送らせて頂きますよ。」
あっさり返されて悔しそうな顔をする宮廷伯だが、正直彼女の安全を考えるなら間違いなく亡命した方が良い。
しかも暗黒教団の手の者と接触出来ない今の彼女の立場だと、下手な帝国兵との接触は命取りだ。気を利かせて教団幹部に連絡されたら目も当てられない。
そもそも道中の旅費とて持っているかどうか。
皇子の安全を優先している時点で選択の余地は無いとしか言えない。
「アレス、ちょっと良いかい?この〔邪竜儀典〕って本なんだけど。」
リーゼロッテ嬢が黙り込んだのを見計らい、ジルロックが話しかけて来る。
後は彼女の決断次第なので、一旦時間を置く意味でもと本を覗き込むと。
「これ、古代語で書かれた【闇神具】の開発技術書だよ。
しかも開発過程、試行錯誤の段階まで記録されている研究資料だ。多分だけど、この本があれば俺達でも【闇神具】が創れるようになる。」
「っ?!待て、それは!」
思わず神殿に配置された祭壇を見る。重要なのはつまり、これらでは無く。
ジルロックが頷く。
「神殿も祭壇も全て効率を追求してのものだ。そっちは改めて建築すれば良い。
再現不能なのはこっちだ。この【邪竜儀典】は、【邪龍】の力を複製するための【闇神具】なんだ。」
開かれたページの一部には、アレスにも読める部分があった。
記録者クトゥラカ。
それは聖都に現れた魔女、アレスの知らない闇司教の名前で。
原作ゲームに於いて、ストーリの進展に応じて新しい【闇神具】が登場する理由はつまり、開発者が研究を続けていた事を意味し。
と同時にここは。
この本がある、この神殿は。
慌てて走り出し。倉庫と思しきもう一つの祭壇のある部屋を開く。
中の教団員は既に討伐されている。様々な呪具は今慎重に調査されている。
ここは〔リビングドール〕が大量に出現する筈の部屋で、結局何も出現する事の無かった部屋だ。
「あ、アレス王子。丁度良かった。こちらに隠し扉が……?」
「一旦全員出ろ!この部屋の仕掛けを動かす!」
慌てる様子のアレスに促され、慌てた密偵達と魔法使いの研究班が外に出る。
隠し扉の奥は倉庫だ。《紋章》で確認した時、山程の武防具が重ねられていた。
問題は使い手の方だ。周囲の壁には武防具しか無かった。壁じゃない。
大量の〔闇騎士〕を急に用意出来るか?否だ、仕舞える場所は何処だ?
即座に動かし、溢れ出る程の数が現れた場所。
祭壇の固定具を外すと、四分割されて四隅に固定出来た。
この状態でも恐らく、いや別種の儀式陣が姿を現している。
ならば。
祭壇のあった真下の蓋を開けば。
「こ、これは……!」
アレスの後ろから中を覗き込んだ一同が驚愕に息を呑む。
氷の中に、干乾びた死体が無数に並んでいる。
ここは生贄にされた死体の保管庫。
そして恐らくは〔闇騎士〕に加工する前段階。
量産型〔リビングドール〕の原料庫だ。
※次回7/21日休日更新予定。
今回ロプロスしか出て来なかったのは、闇騎士を大量発生させるのに必要な生贄が用意出来ていないためです。そもそもアレス達の到着が早過ぎて、覚醒準備すら間に合ってません。
あと闇司祭ベルデハが戦ってるのは正面部隊です。遠くに行ったアレスに攻撃する余裕は一度も有りませんでしたw
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