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ジュワユーズの救国王子~転生王子の胃痛奇譚~  作者: 夕霧湖畔
第五部 帝国の暗部救出作戦
134/152

98.第二十三章 死霊魔法(色々ある)

※公式規格「2025年夏のホラー」に合わせて短編を一作投稿しました。

 題名は「私がこのミステリーを没にした訳」です。楽しんで頂ければ幸いです。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 この際はっきり言うが、アレスが暗黒教団を襲撃しているのは教団の情報を手に入れるためと敵組織の壊滅を狙っているからだ。

 ぶっちゃけヤバい物を作れなくなったら放置しても全然問題無いと思ってる。

 だから非戦闘員を皆殺しにする必要は無いし、その気も全く無いのだ。


「だから何でこの教団の非戦闘員共は、やたら血の気が多い上に自分から全滅しに行くんだよ……!」


 アンデッドである。老若男女、余さずアンデッドである。


 危険だと言ったのに。明らかに普通じゃないと言ったのに。

 別動隊が無表情で距離を取り、防衛線を敷いている間に。

 彼らは揃ってアンデッド達に、自分の意志で向かっていった。


 家族を殺すなと盾になりに行って喉笛を噛み千切られたアンデッドは、振り抜いた拳で己が庇っていた家族の頭を粉砕して。

 そのままアンデッドの戦列に加わった。


 死体に噛み付いたアンデッドの両腕を圧し折り、そんなに他の女が良いのかと顔面に拳を振い続けて起き上がった、他の女のアンデッドに襲われた。


 我が子を蹴り飛ばして逃げた父親は、見捨てた我が子等に囲まれて蹴り飛ばした息子に噛み付かれた。傷が多過ぎるとアンデッドには成れないらしい。

 俺だけを助けろとか絶対ねーよ。ん、放置な。


 今やアンデッドがアンデッドを食らい合い、互いのLVを上げ合う蟲毒である。


 信じられるか?これ全部元味方同士なんだぜ?

 操られてというか、最初に隠し通路から現れた不審な数名は、今や里の人間のほぼ全員がアンデッドとなっていた。

 生き残っているのは捕縛されていた数名のみだ。


「うぅん、オレの知る限り【死霊魔法(ネクロマンシー)】に噛み付いた相手をアンデッドに変える様な術は無かったんだけどなぁ。」


「そもそも【死霊魔法(ネクロマンシー)】自体禁呪だからねぇ。

 アレスが知らない魔法が合ってもおかしくはないさ~。」


 その辺どうなの?と砦の上から見下ろすジルロックが捕虜の一人に尋ねる。


 洞窟内にある砦の上に集まり出入口を閉鎖し終わった、別動隊こと〔グレン傭兵連合〕の面々は多少の手傷こそ負ったが、一人の戦死者も出していない。

 大丈夫だとは分かっていたが、一応【呪い】に感染して無いかは確認した。

 そう、この現象は【呪い】によるものなのだ。


 この呪いは生きている間に何をされても一切、感染する事は無い。

 但し死体となった状態で噛み付かれると、5LV以下の状態で〔アンデッド〕化して【呪い】が付与される。

 この【呪い】があるアンデッド以外で同じ現象は見た事が無い。

 〔アンデッド〕は【死霊魔法(ネクロマンシー)】抜きに出来ない。その筈だった。


「う~ん。この里に死霊術を研究していた奴は居ない筈だな。

 そういうのはもっと頭のいい奴の揃ってる里に行くから。」


「え、何出張制なの?優秀な奴は外に出向して行くの?」


 もう普通に機密隠す気無いね捕虜くん。因みに妙な性癖の捕虜は既にアンデッド化した彼女の糧となった。彼は別の裏切り者だ。


「ああ。確か近くにある養成所にも出向している筈だ。

 この里は優秀な教団員を育てて送り出す、教育専門の里なんだ。

 優秀な子供はバンバン外に旅立って、大抵は戻ってこないんだぜ?」


 そんな。勝ち誇られる君の姿に異様な説得力を感じてしまうじゃないか。

 アレス他ハイライトの消えた武将達を脇に、彼は自慢気に自分の知ってる情報を話してくれる。凄く有り難いんだけど、何だろうこの胸を抉る切なさ。


「まあオレの知ってる限り、【死霊魔術(ネクロマンシー)】っていうのは基本駄作だぜ?

 どう転んだって〔アンデッド〕は生前の能力を引き継げない。

 〔リビングドール〕はどっちかっていうとゴーレムに近い技術なのさ。

 【死霊魔術(ネクロマンシー)】だけで完結しない、別の秘術を盛り沢山に用いてる高級品だ。

 〔リビングドール〕の素体になれるってのはそれだけ名誉な事なんだぜ。」


「おいおい、それってお前さん。」


 まさかこんなんでも優秀だったのか?


「ああ!勿論こんなの基礎教養さ!

 里の人間は死んでも〔リビングドール〕になれるくらい優秀な人間になれって、子持ちの親は皆で言い聞かせるんだぜ!」


 そうですか。そして君は優秀になれなかった残念な側の教団員なんですね?

 何か段々聞くのが辛くなってきちまった。


「アレス王子、この後どうしますか?」


「ん~。……高台の上には登れないみたいだから、低LVの魔法使い達に倒し切れなかったら俺達が倒そう。

 下限LVの引き上げも大事だしなぁ。」


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 《治世の紋章》で壊れた隠し通路の先を覗いて状況が大体分かった。

 どうやらここはマップ名〔吸血宮殿〕に値する吸血鬼マップだ。サブクエストの中で、吸血鬼達の眠る遺跡を発見するというイベントがあるのだ。


(とすると、リリスのクエスト場所はもう少し北の方角か。)


 後で今迄に発見した拠点と教団内にあった隠れ里の地図を照会すれば、大分候補が絞れるだろう。

 当のリリスは今回の件で、既に20LVを突破した。最初から特殊クラスなので昇格は必要無いが、ステータス的にはHP以外ハイクラス級に到達している。

 一撃死を避けるには心許ないが、経験値的にはそこそこだろう。ゲームなら安心の領域だが、果たしてイベントはどうなるか。


(おっと、先ずは目先の事を優先しないとな。)


 この先にはアンデッド達を従えた吸血鬼達がいる。彼らとの戦いが本番……。


「ああ。逃げた幹部連中がここに来た所為かぁ……。」


 【呪い】付アンデッド達が闇司祭と闇神官の服を着た奴らしかいない件。

 え、彼らゾンビじゃなくてレッサーバンパイアとかだったの?


「ほう。今回の侵入者は活きの良さそうなのが揃っているじゃないか。」


 勝ち誇る様に見下ろす〔吸血鬼〕ストーカーは幅広の椅子に腰掛けて吹き抜けの最上階で待ち構えているが、このステージ最大の特徴は彼自身。

 彼が修得した伝承魔法【テュポーン】にこそある。


 その真価を知るアレスは室内に入る前に魔法部隊で大広間を一掃し、魔騎士隊に先陣を切らせて左右の階段への道を切り開かせる。

 遠慮呵責の無い【炎舞薙ぎ】の炎によって、中央広間のアンデッド達よりも階段を守護する吸血鬼達の方が次々と倒れ伏す。

 流石のストーカーも吸血鬼達の被害には忌々し気に舌打ちして立ち上がる。


 だが左右二部隊に別れた魔騎士隊を双方庇う様に位置するのは、エルゼラント卿とブリガム将軍率いるナイト部隊であり。


「「「【魔壁魔法(シェル)】ッ!!」」」


「む、小癪な人間共め!低級の防御魔法如き、我が秘奥の前には無力と知れ!

 伝承魔法、【嵐天巨人伝承(テュポーン)】ッ!!」


「よ、避けろォぉぉッッッッ!!」


 ストーカーの両手から放たれた風の渦が巨大化し、幾多の竜巻となって一階中央広間を中心に埋め尽くす。

 両端に集ったアレス達は、互いに渦の隙間を縫う様に走り回った。


 フハハハハっ!知っているぞ【嵐天巨人伝承(テュポーン)】ッ!!


 この魔法には『必中』効果があり、範囲内の相手に下位魔法級のダメージを必ず五発与える鬼畜魔法である事を!

 そして『心眼』と『見切り』があれば命中回数は一発に抑えられる事も!

 貴様が最上階に陣取っている所為で、階段側が安全地帯になる事もォッ!!


 移動力と敵の数の関係上、絶対に安地に入れない者が出る事もォォォぉッッ!!


 走る。走り回る。味方の部隊が邪魔にならない様に走り回る。

 時に部隊がぶつかり合わない様に指示を出し、頭上の渦と下の渦の乱れを可能な限り視界に収めながら走り続ける。

 初見でダメージの受けそうな範囲を渦の下部分と推定し、必死で最低限の威力に抑え込もうと直撃を避け続ける。


 でも絶対一度は追い詰められるんですけどね?


「いよしっ!一撃だけで耐え抜いたぞ!」


 アレスの指揮した部隊も半数近くは一撃で済んだが、中には三発くらい当たった者もいた様だ。ていうかコレ、初見を一撃で凌ぐのってかなりの無理ゲーじゃね?

 スキル関係無く、走り回るって発想が無きゃ無理じゃね?


 元々鬼畜難易度ゲームだって?そうねぇ……。


「く、何であんな状態で走り回るのかと思ったがそういう事か……。」


 訳も分からずに従った者達は流石に全てを避け切れなかった様だ。

 というか中には走り回らず全てを耐えようとした者もいたが、途中で理由に気付いて慌てて走り回った武将も居た。

 弓聖シンクレアさんっていう、事前に説明を受けた一人なんですけどね?


「あ、あんな強引な方法で我が秘奥を破ろうとするとは……。」


 術が尽きた途端に突撃を指示したアレスと違い、ストーカーは口元を抑えながら慄いていた。ドン引きだ。


 因みに聖戦軍の面々はそりゃあもう、今の全力疾走を見たのでかなり必死だ。

 階段を制圧し術者に手を届かせなければ自分達も同じ目に遭うと、両脇の安地に居た者達すら本気で階段を攻略する。

 因みに足止め役だった捨て駒達アンデッドは当然の様に全滅している。


「す、ストーカー卿!指揮を、我々に指示を!」


「あ、ああ。そそそ、そうだな。

 二階の踊り場の者達は右側の、色物男のいない方を全力で防げ!

 色物男は我が相手をする!後そこちょっと退けろ!

 今の内にもう一発伝承魔法を使うぞ!」



 フハハハハハハハハハァっ!!そりゃゲームじゃ無いんですから安全地帯なんてどうとでも動かせますよね!

 色物男ってワシの事かィッ!!



「とぅ!手すりダッシュッ!」

「「「我々着いていくのぉッッッ?!」」」


「ぅえええええぃ?!ててて、【嵐天巨人伝承(テュポーン)】ッ!!」


 馬鹿め!動揺したな、よりによってワシに狙いを定めよってからにィ!!!!!


 きゃあっ!天井まで舞い上がっちゃうっ!!


「だが一撃で凌いだぞ!」

(((いや、コイツどういう神経してるんだろう……?)))


 後でちびるぞ!絶対ちびるぞ!頭から落下して死ぬかと思うった!

 だがチャンス!


 紙一重で手すりを掴み、片手の力だけで辛うじて最上階に飛び上がり偶然の勝利を掴んだアレスに。

 ストーカーは両手の爪を咥えながら()()()()()()いた。


「おま、人の即死級魔法を階段代わりに使うのってどうなの……?」


 思わず後ろを振り向く。味方は全員下の階だ。


「…………オレは幸運の女神に愛された男さっ!!」

「死ねぇ!!貴様は絶対に相容れない敵だッッッッ!!!」


 突然『我を忘れた(しんそく)』くストーカーの鉞〔激情の斧〕を躱して、咄嗟に【封神剣】でカウンターを返すと。

 視界の端に無言で巻き込まれない様に階下へ向かう吸血鬼達が見えた。どうやら彼の琴線じゃない逆鱗に触れてしまったらしい。

 いやまあ好都合なんだが。


 けれど割と軽くない手傷を受けたストーカーは怒りの形相の侭に冷静さを取り戻してしまったらしく、続くアレスの追撃を霧に化けて『完全回避』する。


(これがコイツの『完全回避』スキルの正体か!)

 だが甘い。長く霧状を保てないのは距離を取ろうとする動きで見え見えだ。


「【中位破邪柱(アレイスター)】ッ【中位破邪柱(アレイスター)】!!」


「ぐぉぉおおお、おのれぇッ!!」


 怪力任せの【吸血剣】を【魔王斬り】でいなし、更なる『反撃』が直撃し。

「なっ!」


 傷口の筋肉圧で刃を受け止めたストーカーが剣を掴み、【破壊剣】をアレスの胴目掛けて横薙ぎに叩き付ける。


「ち。逃げ足の巧い奴だ……。」


 腹を抉られながらも掴まれた刃の向きを傾け、弾かれる勢いで剣が抜ける。

 まさか肉を切らせて骨を断つを実践されるとは思わなかった。


 が。膝を付くアレスへの追撃を、手すりを蹴って現れたスカサハが【魔力剣】で追い返す。どうやら隊の指揮は副官に任せての乱入らしい。

 舌打ちしながらストーカーも後退し、〔斧〕を構え直して敵を二人と見定める。


「逸り過ぎだ、アレス。」


「悪い。油断したつもりは無かったんだが。」


 LVが先の〔殺戮者〕アモルより低いとはいえ、相手は立派なボス。

 バンパイア種族は長寿な分老獪だとは基礎知識としてあったので、なるべく弱点を攻め続けたくはあったのだが。

 乱戦で魔法を使い続けるのは流石に無理があったと、認識を改める。


「因みに吸血鬼は別に人を殺す程の血を吸わなきゃ生きられないって種族じゃない筈だが、降伏する気はあるか?」


 既に大勢は決している。総大将に従うだけの吸血鬼集団と、指揮を取れる者が複数いる傭兵連合では粘りが違う。ここでストーカーが戦い続ける限り、戦況を挽回する手段は無いだろう。



「イケメンを二人並べて降伏勧告とかふざけるなよ?」

 脊髄反射で凶顔を浮かべて睨み返された。



「あ、俺もイケメン枠なのか……。」


 性格補正が大きいスカサハは、間違いなく顔だけならイケメンだ。

 けれど流石に命がかかった場面で今の台詞は遣る瀬無い感情に満たされる。


「お前らぁ!吸血鬼は美形じゃなきゃ許されない?!

 男は顔が全て?そんな連中に、膝を屈するお前達じゃあねぇよなぁッ!!」



「「「ぅおおおオオオオォッッッッ!!!!」」」

「そこで参加するなイケメン側のクズ。」



 いや、つい魂が共感して。

 ていうかそれで良いのか吸血鬼達よ。それがここに集っている動機なのかストーカーさんや。ゲームでは割と只の脇役だったのになぁ。

 喚声を上げる吸血鬼達の士気が膨れ上がり、死兵と化した集団を前に。


 傭兵連合の面々はアレスに責める様な視線を向ける。

 いや、オレ悪く無くない?


「死に晒せ!ブ男と蔑まれた者達の怒りを知れェ!!」




 『必中・朧』。武器を魔力で包み、攻撃の瞬間に光属性を纏わせて視界から刀身を隠す魔技だ。そしてアレスが未修得だった最後の『傭兵四極』となる。

 MP消費しない程度の一瞬しか隠さない点にコツがあるのだと、聖王国で雇った師匠によって実体験させられて理解した事が功を奏したのだろう。


 後このマップで手に入る筈の【嵐天巨人伝承(テュポーン)】の魔導書は、念入りに調べて拾っておいた。



「お前も容赦無く実験台にするよなぁ。」


 力尽きたストーカーを始めとした吸血鬼達を制圧し、呆れた顔のスカサハが剣を支えにアレスへ呟く。


 『必殺・迅雷』と『必中・疾風』。


「『四極』二つの実験台にした天才さんにだけは言われたくないんですよ。」


 聖都を奪還した後に訓練し始めたスカサハにあっさりと体得する様を間近で見せられたアレスは、歯軋りしながらストーカーとそっくりな表情で彼を睨んだ。

※公式規格「2025年夏のホラー」に合わせて短編を一作投稿しました。

 題名は「私がこのミステリーを没にした訳」です。楽しんで頂ければ幸いです。


Q.そんなに難しいの?

A.セーブ&リセットに慣れないと大体クリア前に詰みます。

  サブイベ全無視しても割とクリア前に詰みます。

  低LVクリアはリセット抜きでクリアした報告はありません。

  警告は必ず同マップ内にあるけど、初見殺しイベントは時々あります。


こーしき「LVさえ上げれば攻略情報無くてもノーマルクリアは普通に出来るよ!

 ベストエンド?周回して全イベント見つけてね!攻略本には勿論全イベント情報があるよ(尚乱数とステータス必須イベント)!」

 乱数でしか見れないイベントには、流石にクリア必須イベントはありませんw

 これは一生遊べるゲームだから……!


ぷれいやー「「「誰でもクリア出来る構成なのはギリ認める。」」」

 シナリオだけでクソゲー評価を免れた疑惑がありますw


「料理は趣味だが、剣術は生き甲斐なんだ(凶眼)。」



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