表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジュワユーズの救国王子~転生王子の胃痛奇譚~  作者: 夕霧湖畔
第一部 何故か第二王子転生
13/152

7.第二章 山賊団連合

※本日から平常投稿となります。基本的にこの作品は土曜投稿を予定しております。

 稀に金曜か休日が含まれるかも知れません。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 ゲームの原作では、戦記物語である反面兵士達のステータスは無かった。


 勿論実際には『鑑定眼』で一人一人の数値は出て来るし、別に戦力として数えられないかと言えばそうでは無い。


 だがゲームでは一度補充したらクリティカルならぬ〈大打撃〉を受けない限り、兵士が減る事は一切無い。

 兵士雇用の利点は攻撃力が若干上がる事と、大打撃のダメージ倍増を肩代わりしてくれる点だけしか無かった。


 このゲームはあくまで武将達の物語だったからだ。


 その特徴は装備品、防御力にも表れている。ゲームの防御力に兵士の装備は一切反映されていなかったのだ。

 というより、武器と違って注目すらされていなかったというべきか。


 元々このゲーム、キャラごとの防御力は基本的に成長も変動もしない。装備品も表向きは最初の装備から変わらないという扱いだった。

 故に防御力は体格値×装備LVごとの倍率によって定まっており。


 具体的には体格7pの大柄男の場合、村人等の場合装備LV0、則ち作業服扱いであり防御力は皆無。

 LV1は軽装備(体格×0.5=3p)、LV2は騎士装備(体格×1=7p)、LV3が重装備(体格×2=14p)となる。


 材質の影響は一切無く、装備アイテムに〔名工の防具〕や〔魔法の防具〕がLV1~3種あるという形だった。

 後は全部アクセサリーの類か天稟くらいか。竜の鱗も装備LV扱いだ。


 兵士がどれだけ上等な装備を揃えていようと、ゲーム上は戦況に全く影響を与えないのだ。無論、ゲームだったならそれで正しいのだろう。

 あれは物語の一面。活躍の切り取られた部分なのだから。



 だが現実となった今は、そうもいかない。


 部隊全員に防具を用意する必要があるし、負傷兵の治療費や食糧だって必要で。


 こうして経費を算出して、書類を用意して購入計画を立てねばならない。

 それは決して悪い事では無い。アレスが発案した大盾部隊だって、元々原作には無かったのだから。


 厳密にはあれは部隊では無く只の追加装備だ。だが戦術的な価値を与える事は出来るし、戦果に繋げる事も出来る。数値は物差しであって全てでは無い。


 だからこれも。未来のための布石であって、無駄な努力では無い。



 突然現れた巨人二体を倒した夜。

 アレスはずっと天幕の中で、進軍のために文官仕事を続けていた。


「ふふ。辛ぁい。」


 異世界に限らず、有給は平和な世の中にしか存在しない。

 そして異世界の識字率は低く、多くの場合軍隊の文官は分業制だった。


 元々数日単位での行軍だったら文官は必須じゃないが、遠征で非戦闘員を抱えての行軍は負担が大きい。長年組織改革は進めていたが、他国は違う。

 自国の恥を他国に見せたい騎士団など無いので、細かな折衝は身分差が物を言うアレスが直接確認した方が話が早い場合が多い。


 というか将軍格と話を付け易いアレスは、他国文官からも有難がられる存在だ。

 自国の指揮官が兵站を理解しているとは限らない。


「来たか、入れ。」


 天幕に入って来たのは初老の密偵頭、グレイス宮廷伯爵だ。

 今はアレスの部下であり、拾われた当初は養父だった人物でもある。

 養父になった段階で王族入りは決まっていたそうで、必要な礼儀作法を覚えさせるための養子身分だったので、アレスに密偵職としての技能は無い。


 特殊クラスであるハイロードは全ての転職を先に済ませた状態なので、アレスの職業技能は初期職ファイター、上位職扱いのハイクラス魔騎士、主君の任命無しには転職出来ない特殊クラスはアルケミストを習得している。


 要約すると戦士、魔法剣士、全魔法使いになる。う~ん、チート転職極まれり。

 何せ特殊クラスの前提職ガン無視出来たからね、ハイロード。

 ステータスだけを考えれば戦士系特殊クラスにすべきだけど、一方で特殊能力は増えない。元々特殊クラスは最初から転職してる実質キャラ専用クラスも多い。


 よって!全部の魔法が修得出来るワシに穴なんて無いぞ!

 密偵系技能はシーカーの『探索技能』と特殊クラスの『忍術』を装備アイテムで補える!ワシに習得出来ない特殊能力はアサシンの『暗殺術』だけ!

 故に器用万能!生存能力最強!転職ボーナス美味しいです!


 閑話休題。

 よって王族としての役割以外では彼グレイス宮廷伯を師と仰ぎ、各地の偵察任務の傍ら、効果的な技能の使い方の手解きを受けていた間柄だ。


 内心は気安いのだが、王族入りした時から彼は宮廷伯として接し、敬語を使わずにアレスに話しかける事は無い。アレス自身ももう慣れた。


「今日くらいゆっくり休むべきだったのではありませんか、アレス王子。」


「重傷だったらそうするがね。

 私が【ヒール】を習得しているのは知っているだろう。」


 まさかこんな落とし穴があるとはな!いや流石に神官一人くらい招聘してるけど彼は今過労で倒れてます。いや流石に北部じゃ資金も足らなくてね?


 道中トラブルこそあったが、結果的に士気もLVも上がり、被害も最小に抑えられた。実際のところ、想定よりずっと順調なのだ。


「報告を聞こう、グレイス卿。」


「先ずは先程の戦勝への御喜びを申し上げておきます。

 正直一人で巨人二体を相手にするのはやり過ぎかと思いますが。」


「援護を頼める状況なら躊躇しなかったさ。

 同時に出て来たのなら自重もしたがね。」


 本題の前に釘刺しから入る辺り、最初から一騎討ちで決着をつける気だった事はバレバレらしい。

 当然かと思いつつも、終わった話なら敢えて掘り返すまでも無い。


「それで?あの巨人の素性でも分かったのか。」


「ええ。あの二人は中央の山中に潜んでいたイムカヤムカ兄弟という、地元だけで知られる巨人盗賊達です。

 どうやら大陸中央が盛り返した結果戦火が広がったので、方面軍を避けて北部に逃げて来た様で。」


「成程。通りで別格の強さだった訳だ。」


 そう言えば聖王国編のサブイベントにそんなのが居たなと思い出す。

 向こうだと雑魚キャラなんで忘れてたわ。ぶっちゃけ換金アイテムが手に入るだけのイベントだったし。


「で、近隣の盗賊団ですが、連中を恐れて二つの山賊団が合流しておりました。」


「そういう繋がりかぁ……。」


 ふむ、遂に来たか。本シナリオの方の盗賊団イベントが。


 ゲームだとバーランド王国の制圧後にデモンハウルという大盗賊団を撃退した次に二つの山賊団による挟み撃ちシナリオが発生。

 他の山賊団は北部方面軍との衝突前なら何時でも攻略可能、無視しても構わないサブイベントとなっていた筈。

 尚、無視した結果東部でLV差によりリセットを繰り返した事前情報無しプレイヤー多数。北部で戦える戦闘回数には上限がございま~す(はぁと)。


「そっちを先に片付けてから北部方面軍との交戦だな。

 帝国側に何か動きはあったか?」


 デモンハウルは早々に片付けたが、本来は初戦で決着が付く規模では無い。離散した盗賊達も踏まえ、多少のイベントの前後はあり得ると思っていた。

 尤も、帝国の動きに変化がある可能性は多分無い筈。


「いえ。先日東部中央の制圧が終わった後の再編に苦戦している様ですね。

 現状、未だ北壁砦の一軍以外は東部軍のままです。ただ東部諸国の解体は終わりつつあるので、東部地方の首都が決まれば来年春には出兵可能かと。」


「いや。進軍だけなら北部での戦果を理由に東部軍総大将が引き継げば、今年中の出兵でも来れるだろう。

 北壁砦を補給拠点として成立すれば、極論主力は帝国軍だけでも十分だ。」


 北壁砦カルヴァン王国。北部と東部を隔てる山岳国家。

 現状では帝国東部軍が占領し、北部攻略用の兵を準備している状況だ。ゲーム上では只の通過点だが、北部では難攻不落の要所として名高い。


 理由は東部北部両面からの、進軍の困難さによる。歴史的に北部でも東部でも、此処を超えようとした国々が幾度も大敗した。北部諸国が戦った事すら無い帝国の軍門に、軒並み下ろうとしている理由でもある。


 なので出来れば、北壁砦は此方の防衛拠点として活用したい。

 東部軍再編前なら主戦場を北部では無く、東部に設定出来る。そうなれば残る北部諸侯を全て味方に付ける事も容易い。


 これから軍議で話し合う内容とは言え、基本方針や戦略面はアレスが先に考えておかないと、利害の違う国同士の軍隊が対立しない筈も無い。

 聖王国との合流が必須な分、時間は基本的に帝国の味方なのだ。


「では、今後の偵察は東部を中心に行います。」


 故に。東部との交戦は今年中に始める心算で備える必要がある。


「連絡後は少し休め。人に休めと言ってそれでは説得力無いぞ。」


 即座に動こうとするグレイスに、苦笑しながら見送るアレス。

 さてと受け取った地図のチェックと報告書の確認だけ終えて寝ようと、机に付いて仕事を片付け終える。遅くは無いが既に結構夜は更けてしまった。


「さてと。こっちも必要分は終わったな。」


 外のプチ宴会も一区切りついたようだしと鎧だけ外そうとした時、慌ただしい足音と出入口で護衛が口論する声が聞こえる。


「……だったら今直ぐ起こしてくれ!

 モブソン団長が他の騎士団と結託して出陣したんだ!」


……あっれれ~?私魅力値そんなに低かったかなぁ~?


 ちょ、待てよ。造反系イベントは魅力5以下の限定イベントやったやろ。

 アレスは暫く振りに、胃壁が奏でる幻聴が聞こえた。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 実際問題、アレスの評判が悪かったかと言えば、真逆である。

 何せアレス率いるダモクレス義勇軍は、ありとあらゆる意味で普通の軍隊と違っていた。規格外に優秀だと言って良い。


 本来この時代の軍隊は、補給線が安定確保出来る戦争とは無縁である。

 領主単位での戦は基本三日あれば終結する。領地の端から端まで一日で行けるのが普通の領主で、複数の貴族が集まって王国、一領主が王国を名乗る例もある。


 先ず領地から出る戦いが滅多に無いので、領主の戦と言えば小競り合いか盗賊退治で、兵糧など全て城の蓄えで足りる範囲になる。

 小規模の戦は、徴兵の際に弁当を忘れるなと注釈される事もある。要は参陣義務が税の一種なので、食事の面倒は自分で見ろという話なのだ。


 数日以上出兵する大規模遠征は大国だけの特権となる。

 基本は王が各領主に号令をかけて、大体三日程で全員集合して開戦。現地集合の時もあるが、各個撃破の恐れもあるのである程度まとまってから進軍する。


 この場合、食料は領主側の負担で一週間程度。参陣が忠誠の証となる根拠だ。

 騎士達は戦場に出るだけで、主君に奉仕しているのである。


 多少現地からも集めるが、量は金銭で取引出来る気休めの範囲に留める。

 そもそも千を超す軍隊を養う食料を五百以下の村に求めるとか無理がある。十割徴税(略奪)でも養えるかどうかの博奕だろう。

 なので手持ちの食料が尽きたら撤退が基本となる。


 遠方への遠征が準備期間年単位になるのはこのためで、敵地に駐屯出来る食料が無くなったら敗走するしか無いのだ。

 現地の税収を軍隊に送れる体制を作らないと先へ進めない。故に制圧した領土は速やかに屈服させないと、進軍どころでは無い。


 だがここに、複数の船の大半に食料を溜め込んだ色物軍隊がある。


 そもそも常識的に数年間保存出来る兵糧とか希少物だ。なので溜め込んだ食料を半年単位で高く売れる土地で売り捌く武装商船が東部に限らず出現した。

 地味に帝国で食料を高く売り一部買い叩いた武器で支払わせ、聖王国で相場売りという商売で反帝国戦線の下支えもしていたがこれは脱線。まあ結構儲けた。


 兎にも角にも、国が盗賊退治する時は地元に臨時徴税として若干の食糧を要求するのは常識の範囲で。接待をする事で心証を良くしたい村側の都合もある。

 村を守って貰うには軍との繋がりは大事だし、略奪も防ぎたいので無理もする。


 が。要らないのだ義勇軍には。


 むしろ廃墟の解体やらを築陣の練習として手伝わせたり、飢えた村では兵糧の一部を適貨で売る事すらあった。


――裏事情として、盗賊退治に全軍一丸となるのは数が多過ぎて目立つため、別動隊として複数に分けて運用した。為に一部部隊は待機させる事も多かった。

 新人が多過ぎて知識面でも鍛える必要があった、等が上げられるのだが――。


 国が中々討伐してくれない大盗賊団を次々一掃し、困窮した生活を支えてくれた義勇軍の評判が地元民から上がらない筈が無い。


 となると参陣した騎士団も兵卒単位では大歓迎され、総大将アレスへの信望は分かり易い程に鰻登りとなる。なってしまうのだ。


 だが実態は義勇軍と名乗っている多国籍軍。ダモクレス軍が主力で矢面に立つ事で帝国の反感を躱そうとした、諸国連合軍である。

 大手を振って名乗れない各国代表は、盗賊団殲滅と地元救済という利益こそ得ているが名声は全てダモクレス王国のものとなる現状。

 名誉を好む騎士達は手柄を誇る事が出来ず、不満を溜め込むしかない。


 だが一方で、異を唱えるには口実が足りな過ぎる。

 何せ全部事前の約束通りだ。しかも兵糧の大部分もアレス王子の持ち出し。現状で祖国に協力を仰いだ所で余裕なんぞあるか馬鹿、だ。

 何より、帝国と全面対決を避けたい祖国が目立って良いと言う筈が無い。


 繰り返すが、アレスが例外である。難癖付けて奪おうにも食料は海上、最強戦力はダモクレス軍。財布の紐も胃袋も掴まれてる。

 その上で言うが、待遇は悪い訳では全く無いのだ。

 単に満たされないだけだ。金も、名誉も。称賛も、褒賞も。


『行くぞ!盗賊共に襲われている村を救うのだ!』

 困った数ヶ国代表が選んだ道は、緊急事態を大義名分とした独断専行である。


『はっは~~!良い感じに罠に嵌ってくれたぜ、義勇軍さんよ!』

 独断専行軍は今、山賊連合によって挟み撃ちされようとしていた。

※本日から平常投稿となります。基本的にこの作品は土曜投稿を予定しております。

 稀に金曜か休日が含まれるかも知れません。


 ゲーム的にはストーリマップとサブイベントマップに分かれているイメージです。

 クリアするだけならストーリーマップだけ進めれば良くて、サブマップでアイテムやら隠し設定等の情報を入手する感じで。


 尚、ストーリーだけ進めると、確定でLV不足に陥る難易度ですw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ