表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジュワユーズの救国王子~転生王子の胃痛奇譚~  作者: 夕霧湖畔
第五部 帝国の暗部救出作戦
129/152

93.第二十二章 シャラーム軍港制圧作戦

 表題でネタバレなんて言わせないスタイル。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


「え?勿論我々はダモクレスが所属する聖王国に付きますよ?

 この貿易都市マシューがダモクレスと縁を切ってやっていける訳ないでしょ?」


 丁度上陸前に近隣海賊を蹴散らして頂けた事ですし、口実も十分じゃ無いですかと領主イーソンは早々に代表者一同へ席を勧める。

 おかしな事を言うものだと、当然の様に祖国を敵に回す事を受け入れている。


「アレス王子、流石に説明が必要だぞ?」


「あ、あっれ~?まさか商談の振りした脅迫外交の心算が、全肯定で歓迎とは思わなかったなぁ~?」



 制圧作戦、不要。流石にアレスも計算外。



 交渉のためにと先に上陸した聖王家一団と護衛を務めるダモクレス一行を前に、領主イーソンはまたまた、と猫の様な満面の笑顔で応じ。

 では代わりにご説明を、と最初に茶菓子の毒見をして見せてから姿勢を正す。


「そもそもこのシャラームは魔法王国等と呼ばれていますが、国土の大半は砂漠で覆われており、碌な作物が育ちません。

 交易都市等と銘打ってはおりますが国内に有力産業は無く、他国地方との中継地以外の価値が無かったため、大型船でしか利益を上げられないのです。」


 尚ゲームでは、海から上陸する際に大きな港が無くて砂浜から小型船で上陸するところを海賊達に狙われる、というステージだった。


 だがシャラーム王国を調査したところ、国内交易を想定し中型船しか止まれないこのマシューこそが、現在最大の貿易港なのは間違いなかった。

 ここは貿易都市とは過去の栄光、交易品に欠けた衰退港だったのだ。



「そこで大型船を率いて現れたのが、十年近く前のダモクレスだったのです。

 アレス王子率いるダモクレス商船は十年間の無税を対価に港を増築し、大型船が入港出来る港へと造り替えました。


 その間も『商品が無い?逆に考えるんだ、休憩地があるさと』言って大規模な塩田と濾過水に雨水を溜める貯水池を建造。

 この町を国内との交易拠点にしながら幾度も他国と交易を続けました。


 お陰でこの町は他国の食料を買い付けに来る商人達と、陸路で掻き集めた商品を売り捌く商人達が常に集まる一大商業都市へと急成長を遂げたのです。」



 今更国が何を言ったところで、ダモクレスと縁を切るなど考えられませんよと。

 イーソンは満面の笑みで寛いでいる。最近では密室で出来る水耕栽培に挑戦しており、海産物以外の食料生産にも貢献しているという。

 自国の経済に貢献した我が都市を切り捨て、国が今の財政を維持出来ると思っているのならやって見せろってところですと自信有り気に語る。


「アレス王子。君は他国で一体何をやっているのかね?

 離間工作の見本かな?」


 違うんだ。単に港が欲しくて、港を維持出来る商売を考えただけなんだ。

 ていうか塩田は比較的楽だった。ダモクレスでは人手が足りなくなっていたし、塩商人を他国に任せて交易で賄えば急場は凌げるかなって程度だったのだ。

 溜め池は自分達の手で管理出来る水が欲しかったし。管理費として浄水の一部を分けるくらいは当然でしょ?お互い様だし。


「軍隊の駐留ですか?砦は昔の物が使えると聞いてます。

 こちらとしても独立を維持する軍は正直足りてないので、聖王国の方々が防衛にご協力頂けるなら有り難いです。

 出来れば今後は聖王国とも、末永いお付き合いをお願いしたいですね。」


「こちらこそ。地元の協力は何よりも有り難い。」


 固く交わされる握手の前で、アレスは額の汗を拭った。

 わぁい!これで中継拠点が確保出来たぞ!別動隊選出が捗るぅ~!


「ん、そろそろ十年過ぎる?つったってソレ軍港だけの話でしょ?

 それなら軍港売却すれば修繕費ごと浮くから、十分対応可能では?」


「もう!アレス王子ってばすぐそういう事言う!

 契約書が手放せないじゃない!」


 即決するなぁイーサン君、割と言い値で買い取りおったぞコヤツ。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 海賊と港の売却費で潤ったので、取り敢えずその日は戦勝祝いに簡単な宴を開かせる事にした。流石に全員同時に酒飲んだら不意を打たれた時に困るからね!


 早々に砦を確保しつつ、守りを固める部隊と休息部隊を選出する。

 どさくさ紛れに別動隊の出発も誤魔化せて一石二鳥さ!急に決まったから誰から休みかなんて、全員が把握出来る筈も無いからね!

 宴会休憩じゃないって気付いた時には既に別の町に移動済みって寸法さ!


「何故独断で動くのだアレス王子は!」


「独断ではない、私が同意して許可を出したのだ。」


「しかし、軍師が突然居なくなられては進軍計画が成り立ちませんぞ!」


 リシャールの指摘にも彼らの勢いは止まらない。だが今後は彼らの意見をまとめるのも、作戦を立案するのも自分の仕事だ。

 内心を押し隠して咳払いをする。


「アレスは暗黒教団対策に回るとの事だ。こちらは自由にやって良いらしい。」


「そ、それはつまり……。」


「私の立案では不足か、カプリオン卿。」


「い、いえその様な事は一切。」


「既に指針がお有りかな、リシャール殿下。」


「ああ。幸いにもアストリア王子を副将に残してくれているのでな。

 ダモクレスからは既に敵地の情報を提供して貰っている。」




 やって参りました魔法都市ガンダーラ。

 ここには二つ、有名な場所があります。

 一つは闘技場、シャラームの闘技場はここに在ります。

 そしてもう一つは何と、魔法大学。箒で空は飛べません。呪文一つで十分です。


 ええ、先日〔放浪の魔女〕シュトラルから貰った例の魔導書。【飛行魔法(フライト)】の事ですとも。

 因みに似た様な魔法が神聖魔法にもあるが、あれはぶっちゃけると空輸であり、自分と周囲をまとめて運ぶ魔法。術者の移動力そのまま。

 【飛行魔法(フライト)】は対象が常時浮遊状態になって移動力が1p上昇、砂漠等の移動力補正を受けずに自由行動が可能となる。


 脱線したがここはジルロックが在籍しアレスが潜入した事もある場所で、様々な魔法を研究し、教えている魔法使い育成機関だ。

 ここは敢えて国家に所属せず、授業料さえ払えば世界中何処の国から来ても最低限の魔法知識は教えて貰えるという珍しい場所なのだ。


 無論実際の習得には学識6~7p分の勉学という、本人の努力が必要になる。

 だがここに所属すれば、中位魔法までは習得出来る限り全て購入出来るというのはかなり大きいアドバンテージだ。


 尤も高位魔法となると、学長の許可無しには購入出来ないので。実はどの学長の下に就くかが重要となる。

……違和感を覚えた方は大正解。学長とは本来校長の別称だ。

 だがこの魔法大学では、大学長こそが大学トップ。学長の中から選ばれる学長の統括役となる。

 学長とは教頭に相当し、しかも複数存在して全員で派閥を築いているのだ。


 理由は当初こそ担当分野の問題で、攻撃魔法と補助魔法と付与魔法に分かれていたのだが。現在では複数派閥に所属出来ない分、指導内容に大差は無い。


 これは長年新魔法の開発に失敗し続け、現在新しい魔法開発は不可能と言う結論に達し、他派閥と指導内容を変える意義を失ったからだと言われている。

 うん、達したんだ。公的には達したんだ、ジルロック君。


 とにもかくにも。今は常に三学長が居り、派閥の違いは魔法に対するスタンス、意見の違いだけとなっているのが現状だ。

 具体的には非戦派、参戦派、独立派になる。


 学長の下に教授が居て、要は大学の中枢たる魔法研究者達だ。彼らに弟子入りして初めて学識7相当の知識を学べるようになり、この一部が教授になる。

 この教授達が一般学生に授業する先生方で、学識6相当の一般常識を含めた基礎魔法知識を、誰でも教わる事が出来る。



 何となくこの面倒臭さが分かって戴けただろうか。

 要は学長の派閥に入り、教授達の誰かに弟子入りしないと高位魔法は使えない。

 無論魔法大学だけが高位魔法修得のルートじゃ無いが、高位魔法の魔導書は基本ここでしか製作していない。

 他所では高位魔法が先ず出回らず、ほぼこの魔法大学で製作された魔導書だけが各国で取引されている代物だと言って良い。



 以前来た時は学生ルートで入学し、教授の弟子入りが出来なかったために購入に至らなかった。だが今回は貴族ルートなので、多少割高でも購入出来る筈だ。


 以上の理由でこのガンダーラの町が中継点に選ばれた訳だが。




「取り敢えず予定より早く着いたんで、数日間自由行動になります!」


 えぇ~?っと参陣部隊一同から声が上がる。

 彼らはダモクレスを主力とした五千人部隊だが、事前に用意した住居は複数件の建物が一体化した、表向き富豪用の別荘なので全員が余す事無く泊まれる規模だ。


 とはいえ兵達は一部屋複数人のベッド生活なので、多少は不自由を感じる環境だろう。まあこれでも軍の駐屯場所としては結構な贅沢なのだが。

 現状敵国に潜入中なので、最低限の偽装はさせている。


「但し報告が届き次第動くので、半日以上拠点を空ける箏は無い様に。

 闘技場も目一杯使って良いけど絶対に半日で切り上げる事!

 作戦行動中なんだから、絶対に酔い潰れるほど飲むなよ?

 遅れたら置いていく事もあるからな!緊急時は見捨てるぞ。

 今の我々は、逸れの傭兵部隊だという事を忘れるな!

 以上、本日解散!」


 さてと。想定取り対象が到着したという報告が届いたので、早速闘技場へ向かうとしよう。出来れば今日中の制覇が望ましいが、今迄の闘技場とは毛色が違う。

 さてはて、どこまで行けるだろうか。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 その日の闘技場は、いつもと空気が違った。


 ガンダーラの闘技場は、他所の闘技場よりも入れ替わりが激しい傾向にある。

 だがそれでも大体上位陣程順不同であり、現チャンピオン等はここ一年全く入れ替わった事が無い。何より、一日で五連戦以上を行う者は先ず居ない。

 それはガンダーラが魔法都市であるため、参加者に魔法使いが殊の外多いという点も関係していた。


「ななな、なんとぉ~~~~!流浪の騎士アスター、また魔法を切った~~~!

 これで遂に六人抜き達成だ~~~ッ!早い、早過ぎる!

 未だこれ程圧倒的な速さで闘技場を攻略した挑戦者が、果たしていただろうか!

 これはひょっとすると我々は今日、闘技場の歴史を塗り替わる日を目の当たりにしているのかも知れませんっ!」


 大歓声の中でドルイドを切り伏せたのは、勿論銀髪の優男こと〔髪染めの腕輪〕で変装したアレス本人だ。


 今回【魔王斬り】以外の星奥義は封印しているが、LVも近いので基本的に手を抜いてない。闘技場としての最高LVは原作だと間違いなくクラウゼンや聖王国の方が上で、こっちは僅かに低い。

 だが魔法使いが多い分、一撃で不覚を取り易いのが特徴となっている。


「や、やった!七人抜きだ!これはひょっとすると、ひょっとするのかッ!?」


 因みに神官系はバランス型か魔力特化が多いが、魔法使い系は速さ重視が多い。

 『心眼、神速、反撃、連撃、必殺』とかいう割と許されない性能のモブが居る。


 『連撃』は『見切り』以外で防げんのやぞ、『反撃』は『神速』でも代用出来るが自分は二つ持った上で『必殺』持ちとかマジで殺意が高過ぎる。

 『見切り』持ってるアレスだから対応出来るのだ、他の者なら秒殺も在り得る。


「許すまじィッ!!」


「あ、アスター選手、怒涛の【破壊剣】二『連撃』で叩き潰した~~ッ!!

 明らかにオーバーキルッ!紙装甲相手に一体何が彼をそうさせるのか!」


 【高位崩落氷河(テラルグレイシャル)】。高位魔法は魔法大学関係者以外には渋いという話をしたが、闘技場関係者は割とバンバン使ってくる。

 というか下手なマップボスより闘技場モブの方が強いのは、割と良くある。


「『必中・疾風』ッ!からの『必殺・裂帛』ゥ!溜めが、長過ぎるッ!!」


 くっ!『必殺・迅雷』を試すには未だ慣れが足りない!序でに相手の耐久力も!

 高位魔法は範囲が広い分発動に時間がかかる。なのに『連撃』で辛うじて手馴れたスキルを発動させるのが精一杯とは!


「ななな、なんとぉ!遂に、遂に九人抜きを、たった一日目で成し遂げた~ッ!」


 行っちゃうか?行っちゃうべきか?流石にそろそろ昼なんだが。苦戦すると自分で言い出した半日過ぎるんだが。


 次の闘技場チャンピオンはドルイドジェネラル、要はバ火力重装甲の動きは速い系タイプなんだが。このゲーム、重装甲でも案外速い奴は速いんだが!

 いや、まあ?《聖王の鎧》なんていうLV3並の防御力をLV2程度の重さで実現している私の装備程じゃあないんですけどね?


「来たぞ来たぞ~~~!今や闘技場の絶対覇者の呼び声間近、その名も〔重戦鬼〕スペンサーだぁ~~~~っ!!」


 だがこの俺に退路は無い!何故なら観客席に、リリスを連れた()()が此方を見て歓声を上げているから!


(ソレ、初日に必要?)

(出来れば初日が、良いんです。)


 そう!短期決戦以外に、道は無い(吐血)ッ!


「【下位風刃(ストーム)】ッ!」


 開始直後に互いの『神速』が距離を詰める側と後退する側で同時に弾け、しかし【魔王斬り】を節約して回避に費やした分だけ次手に余裕がある。

 だが一方相手が構えているのは盾、武器は明らかにオマケだろう。

 溜めに手を使わせる前に【真空斬り】が翻り、しかし弾けた障壁が一瞬の斬撃を離れた間合いのままに散らす。


「「「『鉄壁』っ?!」」」


 離れ続けるよりも収束に集中し。刃の間合いの至近距離で。


「【高位竜巻連団(テラルエグゼギュア)】ッ!っ【高位竜巻連団(テラルエグゼギュア)】!!」


 辺り一面を埋め尽くす程の大竜巻が、両断されると同時に続け様に一面を制圧し鎌鼬の渦を巻き散らす。

 見失ったのは一瞬。『必中・疾風』、風の流れに乗っての頭上からによる切り落としを、咄嗟の盾で直撃を凌ぐ。


((未だッ!))


 『必殺・霧隠し』。着地と同時に刃を背に隠し、至近距離で長三角の斬撃を描く裂帛の袈裟切りを、仰け反りながらも鮮血が地に迸る。


 スペンサーが『神速』の背面跳躍に成功し。


「【下位風刃(ストーム)】!【下位風刃(ストーム)】ッ!」


 只管に先手を打つ鎌鼬の重奏が翻る。


「……やっぱり俺は、追い詰められる方が強くなるタイプだな。」


 『必殺・迅雷』。攻撃の瞬間だけ自身の魔力を微活性して一瞬だけ反射速度を跳ね上げる、一瞬で振り抜く必殺剣技。

 アレスの初速がスペンサーの『連撃』よりも先に、その懐を切り薙いだ。


 倒れる間際。


「【魔王斬り】。」


 放たれる術は何かを観客が知る前に。

 魔力の渦が両断される。翻りの『反撃』がスペンサーに届く。

 それでも尚も、後ろ足に跳ねて姿勢を沈め。


「【高「【落雷剣】。」……っ】


 『竜気功』が揺らぎ。

 スペンサーがステージの外に弾かれた。




「……へぇ。成る程、確かに英雄の名は伊達じゃない。」




 間に合った。

あれす「せやかて聖戦が終わった後も軍港の維持経費払う意味無いし。

 貯水槽付き貯水湖は港と別施設だから、売っても交易に影響無いんだよなぁ。

 優先使用権はそのままだし、元が取れた時点で管理は人任せの方が……。」


いーそん「ボロかった中型船が限度の港があら大変!

 大型船多数が管理出来る巨大軍港になって帰って来たワ!!

 しかも購入経費が直ぐに取り返せそうな大量顧客付きのタイミングで!?

 昔の小都市ならともかく今のワシらならお手頃価格?!

 そんなの即金で買うしか無いじゃないッ!!!!(はーとオメメ)」



 作品を面白い、続きが気になると思われた方は下記の評価、ブックマークをお願いします。リアクションや感想等もお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ