90+1-1.間章 師匠を求めて三千里
※昭和の日休日投稿、前編です。次回はGW連続投稿、5/3日から。
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【魔奥義】。
それはゲーム原作に於いて、キャラ固有技と記載されていた必殺技の事だ。
設定上では魔剣技を強化した一撃必殺の能力を発揮する奥義となっており、但し奥義スキルとの同時発動は不可能とある。
理由は魔奥義の中で一つだけ、プレイヤーが選択したキャラに修得させられる技があるからだ。
まぁ他は全てボス専用技なので、実態は確認しようが無いのだが。
その性能はまさに高威力の魔剣技と言った代物で、奥義スキルより勝るとは言い難い反面、MPを消費すれば確実に発動するという利点がある。
だが、修得出来るのはあくまで一人に限る。
故にゲーマー視点では奥義スキル持ちが優遇され過ぎているための、他ユニットに対する救援措置。梃入れだと思われていたものだ。
だが魔奥義は現実となったこの世界で存在する。
であればゲーム的な都合以外の理由が存在する筈で。
アレスはそれこそが魔奥義習得――いや。
――魔奥義開発のヒントとなると思っていた。
魔剣技は魔法と融合させた必殺剣の強化版だ。
そのために必殺剣との同時併用は複数の、性質の異なる魔力を同時に使用する事になり矛盾が生じる。
これが必殺剣と魔剣技が同時に使えない理由だった。
そして魔剣技は魔術と融合させた奥義であるが故に、元となった魔法の術式からも大きく外れる事が出来ない。
つまり魔剣技は魔剣技で、既に拡張の余地が無いくらい完成されているのだ。
だが極論【中位魔法】が使えれば魔剣技に必要な術式は足りている。
アレスは当初、ここに魔奥義の可能性を見出したのだが。肝心の魔術と必殺剣の融合手段が見つからなかった。
(だが手掛かりは得た。恐らく【魔剣技】は『傭兵四極』の発展版だ。)
『傭兵四極』は魔力だけを用いた術式の無い必殺・必中スキルだ。
この特性を利用する事で魔術を必殺技と融合させる足掛かりにする。
魔剣技と必殺剣の枠に囚われない魔力操作を体得すれば、恐らくは高位魔術との秘剣の融合も叶う筈。
それが今、アレスが挑戦中の鍛錬だ。
というかそもそもの話。
アレスは義勇軍が接触可能且つ魔奥義を教えてくれる師匠、剣聖アルデバランを現在進行形で探している。
現実にゲームの様な一人限定縛りは無い。
何かしらの都合や事情は在り得るが、ぶっちゃけ新開発せずとも本人に。可能であれば複数人に指導して貰えるのが一番良い。
一人しか教えて貰えずとも、教鞭過程を学べれば教わった者が他の者達に教える事だって理屈の上では可能なのだが。
結局は見つからなければ意味が無い。
なので既存魔奥義の再現は期待せず、魔奥義の原理だけを突き止めて一から新規開発する方針に切り替えた結果、現在に至る。
(けど四極を一つ修得した程度じゃ全然足らない。
はっきり言って魔剣技を参考にした方がマシなくらいだ。)
やらないよりはマシとは言え、闇雲に剣に魔力を込めたところで意味は無い。
単なる素振りよりは意味があるが、【必殺剣】以上には至らない。
『必殺・裂帛』は極論必殺剣【パワー】を効率良く一瞬で使い切るだけだった。
勿論魔力を一瞬で高め上げ、狙ったタイミングで使い切るのはかなり難しい。
けれど発展性が無い。単に素早い魔力強化でしかなかった。
最近漸く修得した『必中・疾風』は魔法を不完全に発動させて武術の一部として応用する技術だった。
所謂魔法の不発技。暴走させずに不完全に魔法を再現するのは確かに難しい。
だが要は不意を打つための小細工で、技には余り貢献していない。
アレスが一番期待しているのは残る『必殺・迅雷』と『必中・朧』なのだが。
「流石にチラ見しただけで習得するのは無理っぽいなぁ……。」
正直師匠無しで、よくぞここまで頑張ったと思う。だが限界だ。時間も無い。
師匠探しは魔奥義習得のため、非常に急務だった。
聖都奪還の数日後。
アレスはストレス発散と賞金稼ぎのため、聖都の闘技場に挑戦していた。
聖王国の闘技場はクラウゼンと同等の難易度だと言われているが、ゲーム上ではプレイヤーの育成キャラ次第だと言える。
即ち。攻撃力、魔力重視のクラウゼンに対し。
持久戦、手数重視の聖王国だ。
もっと分かり易く言うなら。
魔騎士中心のクラウゼンに対する、ナイト中心のジュワユーズとなるのだ。
「【傷回復】ッ!!」
力任せに後方に弾かれたアレスは、再びの回復魔法に舌打ちする。
彼の持つ魔剣〔ライフブレード〕は回復魔法限定で20pも回復力を引き上げる敵専用ナイト系クラス専用武器だ。
というか闘技場でしか登場しなかった。
そしてその闘技場で聖都の覇者を担っていたのが、アレスと今剣を交えるナイトからの転職ジェネラル〔闘将〕ハーゲストその人だ。
ぶっちゃけ同LVのハイクラスじゃ勝てない《鉄血》持ち。
絶対元貴族か貴族の血を引いてる、最低でも妾腹確実な超絶エリート騎士。
まさかとは思いますけどその宝剣、一族伝来の家宝だったりします?
闘技場だからこそ許された性能だったと言える、しかしゲームではターンを一回消費する分微妙性能だった〔ライフブレード〕は今。
力任せに弾き飛ばされ、あるいは回避によって距離を取らされる度に消耗が一方的に減るという、戦術的な圧力に依って凶悪な代物へと変貌していた。
アレスの『神速』や諸々の『必殺』剣技は全て類稀なる経験則を伴った『心眼』によって気取られ。『反撃』こそアレス優位に立ち回れるものの、『連撃』速度に関してはもう紙一重の差しかない。
彼の女性的な相貌とは裏腹な巨躯から繰り出される剛剣の数々は、《紋章》数の優位無くば容易く返り討ちに遭うほど鋭い代物だった。
まさに天性の《巨人の資質》を感じさせる、鉄塊の如き不屈の甲冑騎士。
だがそれ以上に。
「【ジャッジメント】ッ!!」
「ぐぅっ!!」
一騎打ちの経験値が違い過ぎる。
巨大な光の刃が集束し、アレスの【魔王斬り】が両断して衝撃で後退する。
魔力を消費するハーゲストに対し、スキルで対抗するアレスは技量面では優位に立つが、実際には研ぎ澄ました一瞬の判断力が必須だ。
僅かなミスで今の様に、ダメージ未満の衝撃が次の動きを拘束する。
【真空斬り】では範囲が狭く追い切れない。止むを得ず体勢を立て直す隙を得るため広がる【炎舞薙ぎ】の焔で疾走するハーゲストを間合いに収める。
だが大盾に漲る『魔障壁』によって払い除けられ、魔力を収束させる僅かな間に再び距離を詰められる。
些末な剣捌きの変異など剛剣の前には、膂力で捻じ伏せて正道の剣戟を振い。
一切の乱れを許さず王道の太刀筋を叩き込む。
『神速』の後退一歩が紙一重で剣戟の間合いを『見切り』。
刹那の三連剣舞【武断剣】が一筆書きの斬閃を煌めかせる。
「ぐッ!」
だが踏み止まる。乱戦で積み重なった激痛や衝撃を癒した、一交錯前の治療術がハーゲストに無理を押し通す余力を残して。
至近距離。必中の間合い。
『必殺・迅雷』。ハーゲストの膂力が姿勢構わずに引き出す剛斬撃を、アレスは斜めへの受け太刀で流し切り。
背後からの刃が消え失せる『必中・朧』。不可視を実現した剣戟の読み封じ。
『見切り』切ったアレスの【封神剣】がハーゲストの腹を薙ぎ、突き抜ける衝撃が意識を刈り取る。
「す、素晴らしい~~~っ!!
何とあの〔闘将〕ハーゲストを下し、頂点を制したのはあの〔無敗の英雄〕ことダモクレスのアレス、王子だ~~~~~~ッッッ!!!」
響き渡る歓声に応え、アレスは〔神憑りの太刀〕を掲げて笑顔を浮かべる。
胃潰瘍こそ無いが、心音は煩い。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「傭兵四極が双翼、『必殺・迅雷』と『必中・朧』ッ!
是非ともこの私めにご教授頂きたい!!」
「いや、あの。そんな直ぐ土下座されるとは。」
敗北直後に面会を求められ、一体何か不満でもあったのかと身構えていたハーゲストは要件と同時の嘆願に美貌の口先を歪ませる。
今までの闘技場人生でも勝利者に頭を下げられる経験など、数える程しかない。
何より聖都を奪還した〔無敗の英雄〕相手にここまで下手に出られると、外聞が悪いにも程がある。気まずいどころでは済まされない状況だ。
「せ、せめてもう少し詳しく聞かせてくれないか?
一応我々は好敵手と呼んで良い間柄の筈だ。事情くらい伺っても良かろう?」
言葉遣いが堅苦しいのは性分だ、見逃して貰いたい。
「……成程、【魔奥義】か。確かに噂には聞いた事がある。
【魔剣技】の延長という話なので私には縁が無い代物だと思っていたが。
そうか、そもそも【魔剣技】の成立にまで遡るべきだったか……。」
【ジャッジメント】はナイト系クラスにしか扱えない防具〔誓約の籠手〕を必ず必要とする、割と謎の多い奥義だ。
何故魔騎士や他のクラスには使えないのかと疑問に思った事は幾度もある。
だがある意味これも、魔剣技や魔奥義開発の過渡期に誕生した魔導具だったのかも知れない。
例えば使用者への負荷を防具と同調させる事で和らげる。
そんな効能を有するのだと仮定すれば、製作段階から〔昇格の儀〕の術式を参考にして調整が施された、旧時代の再現武具と取れる訳か。
「となるともしや、アレス殿は〔誓約の籠手〕抜きに【ジャッジメント】を行使出来たとすれば、それも【魔奥義】の一種になると考えているのか?」
「というより、そこまで出来るなら第三者的にも別物にまで出力等を拡張出来るのでは?範囲を重視したり、間合いを狭めて威力を高めるとか。」
「そうか。つまり【魔剣技】とは魔法の術式を剣戟で拡張したものなのか。」
魔剣技を使えないハーゲストには想像するしかないが、今度他の魔剣技使いにも聞いてみたいものだ。
「だがなぁ。君がこの地に留まってくれるならともかく、私が今更聖戦軍に加わるというのは流石に難しいと言わざるを得んよ。」
というよりこれは、闘技場の闘士全般に言える話だろう。
「我々は闘技場で戦い続けて長い。一対多を前提とする戦場で闘技場に等しい活躍が出来るとは到底思えんよ。
恐らくは今までの常識が邪魔をして、思わぬ不覚を取る事になろう。」
「そうでなくとも我々闘技場の勇士はある種、聖都最後の砦という側面もある。
我々は聖都に残り続ける、最後の武力でもあるのだからな。」
ハーゲストが語るのは闘技場が帝国支配下でも維持出来た理由であり、ある意味暗黙の了解でもあった。
闘技場の面々は一騎討ち特化であり、戦場向きではない事。そして追い詰め過ぎれば牙を向く高LV達である事。
これらがあるから帝国も闘技場を兵達の修行場という意味で見逃したし、無理に徴兵をしなかった動機でもある。
味方には不足で敵には厄介。そんな微妙な立ち位置こそ、聖都内の横暴に対する適度な抑止力として成立したのだ。
「そこを何とか、二秘剣の伝授のためだけで良いので……。」
アレスも厳しいのは承知の上だ。彼は闘技場の花形で、美麗の君として今も絶大な人気を誇っているが、既にピークは過ぎた壮年の剣豪だ。
ぶっちゃけ背中一面を埋め尽くす癖毛のド派手な金髪からは想像も付かないが、トップの入れ替わりが激しい聖都で帝国占領前から殆ど交代した事が無い、数年来の覇者なのだ。新人期間を含めれば二十年近く活躍している計算だ。
但し見た目は、二十代でも通じる。
「だがなあ……。今更【魔奥義】修得の為と言える筈も無い。
これから修行の旅というには、既に歳を取り過ぎたよ。
私を超える後進が現れるまではこの闘技場で戦い続けたいというのが、帝国に逆らい切れなかった私の責任の取り方でもあるのだ。」
金銭的報酬を動機にするには、闘技場覇者に対しては不足だろう。彼を引き留めるため闘技場からはかなりの高額報酬が支払われている。
故に武人としての矜持に働きかけるしかないのだが。
「真面目ですなぁ……。」
流石のアレスも今まで見様見真似で体得出来なかった秘剣を、たかが数日程度の遅延で修得出来ると思うほど慢心出来ない。
場合によっては数ヶ月単位で教わるために、彼の聖戦軍同行は外せない。
金品を対価に勧誘するにしても、彼の使う武器はアレス視点でも最上位だ。
防具に関しても、彼なら買えない程の品は流石に立場上用立て出来ない。
二秘剣修得が魔奥義開発に必要だというのはあくまでアレスの個人的意見。理屈の上では『四極』未収得でも魔奥義は体得出来る。
あくまで開発のための裾野、足掛かりを広げたいがための提案だ。
(大分惜しいところまでは来ている筈なんだ。実際操れない筈の『竜気功』だって若干の濃度操作が出来る段階までは来ている。)
ダンタリオンの『ドラゴンブレス』を浴びた影響だろうか。
『竜気功』の濃度が一時的に圧され、弱まった経験から魔力に近い感覚で微量な濃淡が再現出来るコツを掴み掛けている。後は、術式無しでの魔力変化。
それらを【魔剣技】として成立するまで拡大、安定させる。
その足掛かりとなる感覚が、もう一歩欲しい。
だがやはり。あと一歩、決め手となる誘い文句が思い浮かばない。
「……ふむ。では会ってみるか?
私自身は同行出来ないが、私が四極の二秘剣を教わった師匠に当たる方にならば渡りをつける程度は出来る。
実際に認めて貰えるかは全て君任せになるが、どうだろう。」
「え?勿論それはそれで有り難いのですが、その方に長期の同行は?」
『四極』の使い手は本当に珍しいので、代わりを探すのはかなり厳しい。
特に必中系は貴重なので、紹介して貰えるのなら有り難いのだが。
「問題無い筈だ。何よりあの人は【魔奥義】を求めて聖都に辿り着いた方だ。
私もあの人も記録以上の足掛かりを掴めなかった身だが、君の話を伝えれば多分何とかなると思う。」
「?聖都に手掛かりが……、ですか?」
「ああ。その方とは、我が養父にして元迅雷騎士団長。
丁度、剣聖アルデバランの後釜として団長職に就いた男だ。」
「――なっ!」
――剣聖アルデバラン。
その名はプレイヤーに【魔奥義】を伝承する無二の存在であり。
公式が明言する、スキル限界数に達した作中唯一のソードマスターの名だ。
※昭和の日休日投稿、前編です。次回はGW連続投稿、5/3日から。
筋肉が無ければ明らかに女性にしか見えないイケメン巨漢剣士。性別は逆ですがモデルは仏舞台な某漫画だったりwいや、子供の頃肩幅が気になってね……w
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