86.第二十章 白月城決戦・傭兵の頂き
※エイプリルフール投稿。今週はもう投稿しません。
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原作ゲームに於いて、魔騎士は【攻撃魔法】と【魔剣技】という切り札があるが同じハイクラスであるナイトには【回復魔法】しか増えていない。
下位クラスの【必殺剣】の恩恵はソーサラから転職した場合は受けられず、戦士クラスとしてはお粗末の一言。
この選択に関しては言い訳の余地も無い転職失敗例となる。
公式曰く「ゲーム難易度を上げたい人のために用意しました」。
スキル以外の長所が死に魔力と筋力両方が半端になる、通称『罠転職』だ。
殴りたかろ?
一応ゲームではスキルの比重が大きいので、【バスター】さえあれば戦える。
なのでナイトこそ敵専用クラスにすべきだと揶揄される事もあるが。
本当に見るべきものが何も無い職業では無い。ではナイトの長所とは何か。
「【ジャッジメント】ッ!!」
至近距離で斬撃が輝きを帯びて拡がり、〔僧兵〕バルザムを呑み込んだ。
物理攻撃に光属性を宿す、死霊系特効武器〔輝きの剣〕。
必殺剣【ジャッジメント】が使用可能になる装備アイテム〔誓約の籠手〕。
防御力と魔防が3pずつ上昇する装備アイテム〔騎士のマント〕。
どちらもナイト系クラスの専用装備であり、ナイト以外にはナイトから転職した特殊クラス以外には装備出来ない。
ナイトとは装備品次第で著しく戦力が変わる、装備特化クラスなのだ。
「は!プリースト風情が粋がるなよ!こっちは最前線で戦ってるんだ。」
当然と言えば当然だが、プリーストの恩恵は【回復魔法】に【補助魔法】【必殺剣】が加わる、護身が出来る回復役。専用装備など存在しない。
前衛に出るバルザムが異端なのであって、本来プリーストは後衛として守られる側の存在だ。尚美少女コレクションと揶揄される程にクレリックは少女が並ぶ。
唯一の例外がバルザムだ。
これは公式発言で女性開発者の趣味。閑話休題。
「そういう事は、回復の隙を与えずに言ってくれないか。
今のが噂の【ジャッジメント】か。意外とお目にかかる機会は無いものだな。」
バルザムが治療を終えて立ち上がるが、実の所傭兵ナイトは追撃しなかったのではなく、『反撃』を警戒して出来なかったのだ。
ぶっちゃけバルザムの一撃が重い。いや神官の筋力じゃねぇだろとは心の声だ。
更に本音を言えば、相方の魔法使いに援護を期待したいのだが。
「【光檻圧縮】ッ!【光檻圧縮】ッッッ!!
あははははははッ!!ノッて来たノッて来たノッて来たぁ!!
研究者冥利に尽きるねこれはぁっ!!!」
『続け様』にジルロックが光の輪の束で魔法使いを捕らえて握り潰す。
厳密には輪の形をした衝撃が叩きつけられる形だが、問題は『必中』効果だ。
術の発動と共に輪が上昇して包囲し、一人にしか的を絞れない代わりに逃げ場を確実に奪っている。何よりこの場の誰も聞いた事の無い魔法を使っていた。
何あれあっちも怖い。多分というか絶対『激情』スキル持ち。
「いや何だよお前!絶対それおかしいだろ!
そんな魔法聞いた事もねぇよ!ふざけんなよ!!」
「それはそうだろうね!何せこの魔法はボクが開発に成功した新魔法だ、今日この日が公式の場での初お目見えさ!」
何かヤベェ事言ってる。
「ふざけんな!新魔法って何だよ、有り得ねえだろ!
魔導書なんて全部古の時代の発掘品かその複製だろうが!魔法を一から作れるなら誰も苦労しねぇよ!!」
だよなオレもそう思う。でもあの魔法使いは違うらしい。
「オイオイ現実を見たまえよ!そもそも君、新魔法の開発研究した事あるかい?
そもそも魔法を産み出したのは神じゃなくて古代王国、人の技術だよ!
偉そうな口は、先ず自分で研究してから言い給え!
攻撃力の弱さと範囲が課題だったけど、この様子なら用途別に使い分ければ全然問題なさそうだね!」
「……~~~~、ちぃぃぃっくしょぉぉぉおぉおおおお!!!!」
使われたが最後、碌に相殺すら出来ない謎魔法に悲鳴を上げる相方に比べれば、こちらの相手は随分と常識的だと思う多分きっと恐らくは。
呼吸を整えた筋骨隆々の男は、先程からスキル持ちとしか思えない程洗練された体捌きを披露していた。
元神官職ならスキル自体が珍しい筈なのだが。
恐らく最低でも『反撃』『必殺』持ち、『心眼』もか?
「戦いの最中に余所見か?別にそこまで追い詰められた心算は無いんだがな。」
「……お前ら大概非常識過ぎないか?」
いやこの二刀斧プリースト、マジでオレが負けそうなんだが。
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「おいおい、舐められてんじゃねぇぞルトレルぅー!!」
舌打ちしつつも本気を信じ切れないルトレルが勝算を探す間に、周囲の傭兵から野次が飛ぶ。
傭兵は実力商売だがパフォーマンスが不要な訳じゃない。むしろハッタリの無い傭兵は、実力が分からない新人に軽く見られて侮られる。
無駄に歯向かわれず、指示を守らせるためには分かり易いハッタリが必須。
少なくともこの状況下で隙を晒されて逃げ出す大将に、己の命を預ける傭兵など居ないと断言出来る。
今後どれ程ルトレルが大陸最強を自称しようが、誰も真に受けはしないだろう。
そうなれば復権は不可能だ。数も揃わず野盗同然の烏合の衆に成り下がる。
(ち、本気で勝算がありやがるなコイツ。これだから天才様は嫌になる。)
ルトレルにとって奥の手は乱戦でこそ出すものだ。一騎討ちの正面対決で出せば余計に観察されて破られ易くなる。
そもそも『傭兵四極』は能力の不足を魔力で補う、一撃に賭けただけの単純な手札なのだ。仕掛け時の判らない状況で振ってこそ真価を発揮する。
こんな速さ対決で手の内を明かす等、本来絶対にゴメン被る。
だがこの場では形だけでも勝負を受けないと、本当に〔鮮血魔狼団〕の肩書きは暴落する。ならば選択の余地は無い。
腹を括り、正眼に構える。
「……は。この期に及んで騎士剣術とはな。」
「何とでも言え。お前と違って俺は雑食なんだよ。」
理解出来ていない。ルトレルが正規の剣術を学んだのは傭兵になる前。
傭兵として磨き続けた剣腕に頼らない時点で、初撃の斬り合いは諦めたと、二の太刀と反撃に賭けた事が丸分かりだ。
この男ルトレルは、迷いが己の剣腕を単調にしていると気付いていない。
(来いよ鈍ら。お前のメッキを剥がして、身の程を教えてやる。)
無駄な力を抜く。元よりスカサハが得意とするのは片手剣術、肩に担いだくらいで動きに支障が出る程半端な鍛え方をした心算は無い。
あらゆる戦局、姿勢。どんな状況、体勢でも剣が振える様に腕を磨き続けた。
強いて言うならこの姿勢の最速は上段だが、それこそ誰かが合図一つで横槍を入れる可能性くらい考慮した上での構えだ。
初手は必ず譲る。何を仕掛けて来ても捻じ伏せる。
――さぁ、踏み込めるならやって見せろ。
が。ルトレルは切っ先を上げた瞬間後ろ足に一歩下がり、剣を構え直す。
そして『神速』に達する重心移動による加速跳躍。瞬間剣戟に放電が走る。
常人であれば虚を付いたであろう奇策による袈裟斬りも、虚勢を『見切り』一撃に賭けない小細工も、スカサハには察して余りある。
同時に『神速』で踏み込み手首の内側に入り込んだ唐竹の『一閃』が抉る。肩の装甲を両断して深々と骨を割り、床に届く程の鋭い剣閃。
ルトレルの体を弾き飛ばす程の衝撃の中、振り上げた剣に宿っていたのは【落雷剣】による魔剣技の魔力収束。
(凌いだぞ、〔剣鬼〕ッ!!)
〔傭兵四極〕と呼ばれる秘剣群は、その発動に魔力を用いるが故に膨大な魔力を制御する【魔剣技】との相性が極めて悪い。
(『必殺・迅雷』ッ!!)
深く踏み締める。
だが元々『スキル』と【魔剣技】は同時使用が可能だ。
故に〔傭兵四極〕の中にも、例外的に相性の良い【魔剣技】は存在する。
例えば『迅雷』が微電流を介して自身の反射速度を高める、【落雷剣】と同じ雷属性の魔力を用いている等の――。
『連撃』による【奥義・武断剣】。
――食い縛る間に繰りだされた、迅雷の一瞬に翻る三太刀の剣閃。
そして【破壊剣】の地属性魔力による、圧倒的な寸断力が甲冑を引き裂く。
「なっ……!」
「踏み込むのと踏み止まるのは、全く違う。」
空を切る。
放電が散り散りに消える。
『鉄人』を連想する頑強な肉体とて出血を留め筋力で傷口を塞ぐ事は出来ても、断たれた骨を繋ぐ程の超常的な力は無い。
留めて置ける流血とて、所詮はその場凌ぎの代物だ。
血飛沫となって流れ出した力が全身の活力を蝕み、ルトレルは地面に倒れ込む。
「な……。ルトレルが、負けた……?」
第三者が割り込む隙すら無い、真っ向勝負による決着。
傭兵達の誰かが呟いた言葉に。
「傭兵は、己の腕で挑む者の代名詞だッ!!」
スカサハが剣を掲げて叫ぶ。
「牙を研ぎ!一人でも前に出て、己で危険を買って出る!!
勝利をもたらす、強者の称号だッ!!」
傭兵達の目に次第に熱が灯る。
敵味方に関係無く、自然と拳に力が籠る。
「負けの言い訳に傭兵を騙るな!傭兵の戦いは、敗北を覆すためにある!!
俺が最強だ!俺が傭兵の見本だ!!俺の生き方が傭兵だッ!!」
「傭兵は、勝つために闘う者達の称号だッ!!」
雄叫びが歓声となって周囲に拡がる。
「傭兵の頂点を真っ向から捻じ伏せやがったぞッ!!」
「さ、〔最強の傭兵〕の、誕生だッ!!!」
「「「〔剣鬼〕ッ!〔剣鬼〕ッ!〔剣鬼〕ッ!〔剣鬼〕ッ!!」」」
勝利で語る。実力で屈服させる。正真正銘、理想の体現者。
誰もが憧れる、傭兵の頂点の背中。
「……ち。やってられねぇぜ。」
負け犬は所詮踏み台かと、仰向けに倒れ直したルトレルが呟く。
やってられない。ここで最後の力を振り絞ろうが、既に何も変わらない。強いて言うなら〔鮮血魔狼団〕が史上最低の負け犬として駆逐されるだけだ。
不意打ちどころか、掠り傷一つ付けられず返り討ちだろう。
「所詮〔四極〕止まりの、凡人かよ……。」
帝国傭兵が順番に武器を預け投降する傍らで、ルトレルの呟きにスカサハが首を傾げながら振り向く。
「そう言えばアレスも〔傭兵四極〕とやらの修得に拘っていたな。
一体【魔剣技】の成り損ないに何があるんだ?」
驚いた顔で見上げるルトレルは直ぐに納得の表情を浮かべ、少しだけしてやったりと笑みに小さな喜色を宿す。
「あぁ。何だお前、【魔奥義】を知らないのか。」
「何?」
隠しても無駄な、聞けば直ぐに分かる謎かけだ。
だがルトレルは今だけの楽しみだと、冥途の土産に勿体ぶる事にした。
「やっぱりお前は、頂点知らずの田舎傭兵だよ。」
〔シーカーリング〕を投げ渡して満足気に息を引き取るルトレルに、最後に勝ち逃げされた気分で溜息を吐く。
わざわざ腕輪を投げたのは、アレスは知っているという意味だろう。
だが素直に届け先に聞くのも何となく癪だ。
「なぁジルロック。お前は【魔奥義】って……。」
「いや、騎士装備の構造なんて錬金術師に聞けよ。
オレ等は【バスター】をこの〔籠手〕に注ぐ感覚で使えば【ジャッジメント】になるってくらいしか分かんねぇよ。
店ならちゃんと紹介するから!ていうか武装は解除してるだろお前!
だから専門家は専門家同士で話し合えって言ってんだよォ!」
「いやそれは分かっているけど使用感についてもう少し詳しくだね?」
騎士が籠手と剣を挟んで必死で降伏を試みてた。
「いや、それ全部後にしろよ?
俺達が居るのは未だ戦場だからな?」
こいつの同類に詳しい話を聞くのは、これだから嫌なのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
今や帝国の主要幹部の殆どが連れている暗黒教団の司祭達だが、ダンタリオン皇太子の傍らにはゲーム原作でも登場しない。
何故ならダンタリオンにとっては暗黒教団の連中こそが帝国への方針転換の元凶であり、自分達を失脚させた集団だからだ。
何故に自分達を失脚させるために協力せねばならないのかとは、ダンタリオンがゲームと現実の両方で口にした事がある言葉だったが。
ゲームとは致命的に違う点がある。
ダンタリオンが聖都奪還の現場に立ち会っているという事実だ。
アレスが歴史の流れを変えねば、聖戦軍と帝国の真っ向勝負は成立しなかった。
殆ど視界にすら入っていなかった義勇軍に討たれたゲームとは違い、実力でダンタリオンは聖戦軍に下されている。
将としての器が劣っていると、既に証明されたまま生き残っているのだ。
ゲームではチャンスなど無かった。登場した戦場で討ち取られた只の凡将。
追い詰められての再戦など、存在しない。
『実力で勝てない事など、誰よりもあなたが一番分かっているでしょう?』
〔闇司教〕クトゥラカ。
燃える様な長い朱色の髪を夜風になびかせ、窓辺に座る黒いドレスを纏った妖艶な美女が薄ら笑う。
これ程月夜が似合う魔女もいないと、その不精に慣れた仕草をみても納得する程にその女の容姿は魅力に満ち溢れていた。
だが漂う瘴気の様な邪悪さが、全てを台無しにしている。どれだけ無謀な男でもこの女を前にしては腰が引けるだろう。
『私だけよ?あなたの勝利に貢献する気があるのは。
あなたは既に負け犬、損切されただけの無能な元皇太子。
今更取り返しなんて付かないし、無様に降伏でもしようものならあなたの妻子は見せしめとして、人である事すら許されない。』
それは悪魔の囁き等という生易しいものではない。脅迫ですらない。
この女は、単に実験材料の肩代わりを要求しているだけだ。
『従えば妻子が助かるとでも?』
『勝てるならあなたの好きにして問題無くない?
義勇軍のお姫様に縋り付く機会なら作ってあげても良いわよ?』
つまり本当に送り届けるだけ、か。同意を取る気も無いというのがこれ程有り難いとは思わなかった。この女にとって、理想的な実験の機会さえ提供出来れば報酬くらいは支払ってやると、ダンタリオンの生死など興味すら無いのだと。
そんな上から目線で放たれる無関心さ。
ダンタリオンの妻子はどうやら、魅力的な実験材料にはなり得ないらしい。
「使う機会など、無い方が良かったのだがな。」
※エイプリルフール投稿。チキンなので自白しますw
次は5日投稿予定です。
プリーストは命中、回避率を引き換えにした怪力タイプ。あるいは火力を必殺剣で補い弓で戦うサブウェポンタイプに分かれます。
経験値は回復魔法で稼ぐので、スキルは殆ど育ちません。実質装備LVが上がって死に辛くなっただけで戦力としては十分ですからね。
回復役を、前線に出すな。
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