81.第十九章 聖都攻略戦・白月城への道筋
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聖戦軍総大将リシャール第二聖王子が全軍を以って進軍を始めた時、帝国の聖都防衛大将クラスター将軍は逸ったなと勝機を見出した。
確かに効果的なタイミングではある。
シャラーム王国の増援は即座に聖都の援護に到達出来る訳では無い。
今なら確実に、帝国軍とだけ渡り合える。
だがそれも一時的、即刻聖都の門を陥落せしめる事が出来なければ逆効果だ。
だからクラスター将軍は叫んだのだ、進軍に動揺する自軍に『好機だ』と。
思わぬ援軍に安堵し、助かるかも知れないと思った瞬間の死の気配に対して。
敵は援軍に動揺していると。強引な、無謀な賭けに出たぞと。
勝機を保障して、士気を取り戻そうと声を張り上げた。
だが違った。
門が開き。〔白月城シャルルマーニュ〕まで伸びる唯一最短の道。
上がっていた〔大水道橋〕が降りて、聖戦軍を招き入れた。
一度だけなら油断したと思っただろう。
敵の別動隊が思った以上に進軍しており、実は門が陥落寸前であった事を見落としてしまったのだと。
「ば、馬鹿な……っ!!こ、こんな事が……。
ま、まさか全ての橋に、最初から敵の手が伸びていたのか……。」
四つ目の橋を聖戦軍が駆け上る。
今、最後の門が開き。
防衛網が間に合わぬままに聖戦軍が王城へと突入して来る。
自分達は忘れていた。ここが元々敵の都であったという事を。
敵の手が、敵兵が紛れ込む余地は幾らでもあったのだと。
帝国軍が力で聖都の民を従えている以上、最初から全ての裏切者を排除する余地など無かったのだと。
今更ながらに気付かされた。
「は、ははは。これがアレス王子の深謀とやらか。
確かにこんな策を打たれては、今迄どの将も太刀打ち出来なかった訳だ。」
不可能では無かった。決して有り得ない手では無かった。
だがどれだけ前から準備され、計画されていたのか。
「狼狽えるな!敵総大将の首が目の前にやって来たのだ!
我々が勝利する、最大の好機である!」
将軍が率いる直属の精鋭を掻き集め、全力で城門の中に現れた聖王家の旗を目指して突撃を挑む。
それこそがクラスター将軍に届き得る、唯一の勝機であったから。
「将軍!白月城から、煙が!火の手が上がっています!」
それがクラスター将軍が最後に聞いた言葉となった。
聖都城下町守護大将クラスター将軍、討ち死に。
その一報は帝国〔中央部方面軍〕にとって、正しく崩壊の序章となった。
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巨大な金属鎧が跳ね回り、魔力を帯びた刃が間断無く火花を散らす。
『神速』の踏み込みが先手を譲らない。互いの『反撃』は鎬を削り合い、続いた『連撃』が〔鎧〕の隙間を斬り広げる。
ハイクラスの身体能力は、大男の如き彫像相手にも譲らない。
互いに放つ『必殺』の一撃は『見切り』出来るアレスだけが優位に立てる。逆に間合いや体捌きの妙技には条件反射と速度任せに凌ぐのが限界。
敵の長所は質量差を活かした高い身体能力と頑強さだ……。
(あれ?)
何というか、思った以上に優位に立ち回っている。
剣技、技の多彩さという一点に於いてはアレスを上回る者は極少、程々に聖戦軍以外なら希少な程だ。少なくともスキル数ではトップクラス。
天才を名乗るにはちょっと無理がある秀才としては、努力を怠った覚えはない。
少なくとも愚直な武術しか再現出来ない〔メイルゴーレム〕の及ぶ領域では絶対に有り得ない。
だが他の分野で劣っているかと言えば。回復魔法に『竜気功』持ちのアレスは、重武装ではないが〔魔法の鎧〕をまとっており、見劣りする程ではない。
『神速』に『見切り』があれば速度に限っては勝ってすらいる。
手数も『反撃』一辺倒の敵に対し、『連撃』分アレスの方が勝る。
更にここに、三種の【星奥義】が加わる訳で――。
――正直言って、割と圧倒していた。
そもそもアレスは五つ紋章に三天稟持ち。
LV差がほぼ無い相手にステータスで劣る事は先ず無いのだ。
可能性があるとしたら特化型かボス補正持ちくらいだ。
やたら格上と戦ったりしていただけで、本来一騎討ちであれば普通は負けない。
けれど単なる強敵と戦ったアレスにしてみれば、これ程の優勢は思わず罠を疑う程度には苦境に慣れ過ぎていた。
だが流石に小細工無く圧倒出来る状態が続くと、冷静に観察する余裕が出来る。
(あれ?もしかしてこの試練、最適解は最強の騎士八人を揃える事だった?)
普通このランクの武将騎士を多数揃えるのは不可能という点を除けば、実は一応の正解例ではある。
アレスは忘れているが、そもそも部屋に入れる人数は多くない。
「甘い!」
『必殺・裂帛』。
〔傭兵四極〕と呼ばれる魔力で一瞬の筋力を高める剛剣が、斬撃となって翻る。
薙ぎ払いとすれ違い様の衝撃が鈍器の様に撃ち抜き、鎧越しに衝撃を伝えた。
ゴーレムに痛みは無いが急所はある。急所は内核と外殻に分ける事で衝撃の直通を防げるが、外殻とて限界はあり破損すれば歪みを生じる。
動きが乱れた王者ゴーレムに更なる追撃を仕掛け、アレスは更なる『必殺』剣、〔傭兵四極〕のもう一方の実戦使用に挑む。
(コレを、更に集中して、五感を研ぎ澄ます感覚で……!)
『必殺・迅雷』。
必殺スキルは実戦でしか習得出来ない。必殺の覚悟を込めてこそ体得しうる一撃を指すからで、多分殺せるでは無く殺して見せると、漆黒の決意が重要なのだ。
攻撃の瞬間だけ自身の魔力を微活性して一瞬だけ反射速度を跳ね上げ――。
次の瞬間。
アレスの上体を光の輪が拘束し、強制的に動きが止まる。
「え?」
迫る宝剣は止まらない。王者ゴーレムの剛力はアレスの首筋に収束し。
跳ね上げた反射速度を全力で体を傾ける事に費やし、首に触れた刃と同一速度で飛び退き続け。
騎士メイルの体が捻られ、切っ先が斬撃と化す前に冷えた首筋から刃を。
離せた。
(い、今の!一体何?!)
※〔王者の宝剣〕。
それはとある大王に贈られた、『必中』の効果が宿る伝説の魔剣。
(はっ!まさか今の魔力拘束が『必中』効果?!え、エグくない?!
そりゃ確かに弓矢なら追尾出来るけど魔剣が勝手に誘導するの?ソレで絶対当たるとか無理では?
とか思ってはいたけど!思ってはいたけど!!)
因みにゲームでは『必中』スキルの評判はぶっちゃけ悪い。
何故なら他のスキルも発動すれば命中する。その場合『必中』の威力は通常攻撃と何ら変わりないからだ。しかも無効化出来るスキルも案外多い。
はっきり言って他スキルが同時に発動しない分楽になるくらいだったのだが。
――ちょっとあまりにも『必殺』性能が高過ぎる。
別に首筋を狙う必要が無いからあくまで『必中』といいたいのかも知れないが、相手の動きを止められるなら一番の急所を狙わない理由が無い。
王者ゴーレムもそう言ってる。
今ものっそい本気で首狙われた。
(くそがッ!攻撃に転化する技術を全力で回避に費やしちゃったじゃねえか!)
続く剣戟を凌ぎながら、アレスは立て直しを優先する。
というか心に反撃する余裕が無い。いや腕ごと拘束とか絶対無しでしょ?
再び拘束される。全力で回避する。剣で受け流しとか絶対無理。
『見切り』『心眼』スキルがあれば鴨スキルとか言ってゴメンなさい。
『見切り』も『心眼』も無傷を保障してくれるスキルじゃ無いんですわ!防げないのよ、無かったら既に死んでるけどさ!けどさ!
「おし!タイミング分かって来た!」
背筋の冷たさを堪えて剣戟を弾く。アレは間合いに入った瞬間に任意で狙いを定めて発動させる魔術効果だ。防げないのは間合いが近過ぎる所為だ。
タイミングさえずらせば効果範囲を狂わせての回避も不可能じゃない。
(ありがとう『見切り』スキル!君のお陰でまた救われた!)
一方で『必殺・迅雷』の体得は失敗したと断言出来る。もし次に同じ事やったら絶対確実間違いなく死ぬからだ。
『完全回避』が発現する事はあっても『必殺』スキルとしてのタイミングは完全に掴み損ねたといって良い。少なくとも今回は無理だ。
であればもう出し惜しみして長引かせる意味も無い。
「【奥義・封神剣】ッ!からの【奥義・武断剣】ッ!!」
装甲をすり抜ける斬撃に広がった傷口への三連撃。如何な失われた技術で生み出されたゴーレムとて今迄に蓄積したダメージが回復する筈も無く。
遂に芯まで届いた斬撃がゴーレムの全身に亀裂となって広がった。
『見事なり、聖王の後継者達よ。お前達と人類の安寧を神に祈り、祝福を願おう。
心ばかりの褒美として此度の試練に用いられた魔法の品々は、全てお前達の今後のために役立てると良い。』
「「「え?」」」
何だかんだ言って余裕も無かったので、全員割と全力で壊しにいってた。
勿論手加減どころか、少しでも傷が出来たら抉じ開けにかかった。
だってゴーレムとは思えない連携だったから。命懸けだったから。全力で。
『〔聖王の盾〕にこそ劣るがそれらは〔聖王の鎧〕とも呼ばれた当代の最高技術が注がれた魔法の品々だ。その丈夫さは諸君らが体験した通りである。
必ずや汝らの旅路の役に立つであろう。
未来を頼む、当代の人類の守り手達よ。』
ゴーレム達の残骸が次々と分解され、武器を始めとした武防具が解放される。
無情な声が消え去った後、皆は我に返って慌てて全ての魔法装備を回収し、その無事を確認した。
これだけ必死になって戦って、実質無報酬とか絶対嫌だ。
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「いやぁ、どう考えても〔聖王の鎧〕と〔盾〕は君が装備すべきでしょ。」
「〔鎧〕はともかく〔盾〕はお兄様とお姫様が装備して下さい。
ぶっちゃけ不意打ち対策の《シーカーリング》と忍術使える《忍術極意絵巻》は便利過ぎて外せねぇんだわ。
あとワシの戦闘スタイル回避任せの火力押し。」
ゲームでは装備品の制限が三つだったが現実ではそんな事は無い。
だが魔法効果の重複限界の問題を踏まえると三つになる。
要は魔導具が三つまでという意味だ。但しゲーム的に意味を持つ装備は大体魔導具というだけの話で。
「聖王家象徴の〔盾〕を二つ並べられてもその、困ります……。」
ミレイユの泣き言にそりゃそうだと深く頷いた一同は、今だけミレイユが持って後日リシャール殿下に渡そうという話になった。
もう一つは予備で《紋章》の中にそっと大事に仕舞っておく。
〔聖王の鎧〕など原作に登場しない。
どんな性能かと思えば、データ的には力+5、防御+3、対竜ブレス10p。
装備LV3でアレスの体格は7のちょっと大きめ。なので防御力は驚きの17pとなる。ブレスは防御無効攻撃なので、ダメージ10p減は結構大きい。
要は装備者の肉体に合わせて若干伸縮する、筋力が上昇する最上級のドラゴンメイルだ。え?ドラゴンメイルの性能?
〔名工の防具〕は防御+2、〔魔法の防具〕は+4だよ?中間中間。ゲームでは対ブレスが欲しいかどうかで装備させるかが決まります。げへへ。
というか筋力+5だけでアイテム枠一つ埋まる性能だよ!
装備LV3が甲冑の様な重装甲を指す点を踏まえれば、動きを殆ど阻害しない上に全身鎧なLV2形状でこの防御性能を実現するのは凄まじいの一言だろう。
他の防具の方が良いとは、絶対に言えない性能なのは間違いない。
あと〔聖王の盾〕はゲームでは装備出来なかったけど、魔防+5pでした。
いや対魔法装備としても最上級じゃん。これ以上とか敵専用装備しか無いぞ?
防御力がデータ上に現れないのは多分大きさの問題で、要は背中に付けていても魔防は発揮されるからだろう。
最近アストリアに教えて貰ったが、実はアイテムの効果が分かるのは『鑑定眼』持ちだけらしい。
装備者の魔力が邪魔になるので未装着アイテム限定というが、ワシは今迄気付かなかった程度には影響無いです。ゲスス。
そうだね、多分《覇者の紋章》だね。
これゲームチートの影響とかじゃ無かったんかぁ……(白目)。
あ。ゴーレム装備の〔魔法の防具〕も装備LV3ですが無事でした。
重戦士タイプはこの場に居ないけど、聖戦軍の役には立つと思います。ワシらの報酬は聖王装備以外、実質魔法の武器だけだけど。
金銭的な物としては膨大な価値があるので、特に問題無いと思いマス。
「さて皆さん、忘れられていると思いますが。
私の知る知識に〔聖王の鎧〕とか有りませんでしたが。
私がこちらに来た理由は、〔聖王家の紋章〕を此方の祭壇で使用したかったからなんです。終わったら【神威の紋章】でも試させて下さい。」
「「「は、は~い。」」」
心が疲れた顔をしたイザベラ大司教が、改めて進み出る。
彼女はこの戦いの最中、攻撃目標から外されていた。というか戦闘が終わるまで結界に閉じ込められていた。
どうやら〔アークビショップ〕というクラスは試練の対象外となる様で、彼女の戦闘力は皆無に等しいので有難いのは間違いないが、顔が恐怖に歪んでた。
まあ何も出来ずに余波が結界にぶち当たるとかそりゃ怖いだろう。
「この祭壇の名は〔神威の祭壇〕と呼ばれるもの。
その用途は〔聖王家の紋章〕の調律と修繕。【ラグナロク】を正しく継承出来ているかを確認するための場でもあります。」
イザベラ大司教が祭壇の魔導具に魔力を灯し、順番に起動させていく。
光が祭壇全体に及ぶと、今度は祭壇全体が一体化したように輝きが脈打ち一つの術式として連動する。
全ての輝きが祭壇中心に固定された、〔聖王家の紋章〕中心に集まり魔力の奔流を産み出し続ける。
やがて輝きが収まり、イザベラ大司教は取り外した〔紋章〕に魔力を注いで状態を確かめると、安心した顔で頷く。
「術式に問題は無いようです。これで用事は済みました……。
いえ。済みません。【神威の紋章】をお貸し下さい。」
アレスは彼女の内心の葛藤には触れず、【紋章】を手渡して祭壇の外に戻る。
全員が緊張で息を呑む中設置すると、祭壇が再び起動する。だが今回は魔導具に魔力を灯す必要は無く、祭壇全てが連動して光を放つ。
正直これは見ている側としても少し心臓に悪かった。何せさっきとは間違いなく違うのだから。けれど無情にも輝きは収まらず。
『〔聖王の盾〕を祭壇に置いて下さい。』
(幾つだろう……。)
全員が嫌な汗を掻く中、アレスがそっと他の面々が持つ分を回収して二つとも、同時にそっと並べて置いた。
(ぶっちゃけ次があるとは限らないからねぇ……。)
不測の事態慣れしている自分が悲しいと思いつつ、一見して問題無く〔盾〕二つは白い輝きに満たされ続ける。
そして少しの間、沈黙の待ち時間が続いた。
『破損していた術式が修復されました。これで資格者に《始まりの紋章》の継承が出来る様になります。』
(((ああ、だから聖王家は《紋章》を継承出来なくなったのか……。)))
やっぱり盾は一つだけ並べるべきだったかも知れない。
※続きは春分の日、20日投稿となります。
政治的危険物は普通イベント限定の非売品ですw
胃潰瘍魔神の気持ちが皆にも理解出来る様になって来ましたw
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