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80.第十九章 聖都攻略戦・地下聖堂

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 アレスが〔聖王の盾〕を装備しながら進むと、罠以外の一切の障害が無かった。


 微妙に肩透かしな感じもあるが、時間に余裕がある訳でも無いので良しとする。

 何より道中には幾つかの宝物庫が分散して隠されており、〔魔法の武器〕を始めとした今後の足しになる品々が揃っている。

 元々此処はヨルムンガント討伐の備えなので、有り難く使わせて貰おう。



 そして遂に目的の、〔地下聖堂〕最深部へと到達する。

 そこにはやはりというべきか、()()()()()〔聖王の盾〕が飾られていた。



(((…………よ、喜べない……。)))


 予想通り、至宝増えてる。


「さ。お兄様、本来の主人公の出番で御座います。」


「あ、やっぱりそうなる?」


「なるだろうね。俺用のはここに在っちゃうもん。」


 覚悟を決めたアストリア王子がアレスから【神威の紋章】を受け取って、祭壇に昇り台座に【紋章】を嵌め込む。

 そこでふとミレイユ王女が呟く。


「あれ?もしかしてアレス様の物語で使った〔紋章〕って、私が持ってる方だったりしてませんか?」


「「「……。」」」


「ねぇ。何自然にあなたが渡してるの?」


 凍り付いた笑顔のヴェルーゼがアレスを振り向き、つい腰が引ける。


「いや、だって俺が兄さんと話してたんだもん!」


 だが無情にも地響きを上げて後ろの扉が閉じ、〔盾〕を封じた結界が解ける。

 即座にアストリアの傍に駆け寄り、術者達を中心に集めて戦士達が周囲を囲む。

 もう全員が自然な空気で臨戦態勢を取っていた。


 地響きが周囲を揺らし、八方形の壁が一斉にせり上がって八体の彫像が現れる。

 そして〔盾〕のある台座の下から手が伸び、盾を嵌めると一際立派な鎧を纏った彫像〔メイルゴーレム〕が、剣を眼前に掲げながら浮上する。

 いや、要は昇降機なんだが。


『偉大なる神の導きに感謝しよう。新たなる()()よ、心して聴け。

 既に承知しておるかも知れないが、我は邪龍の封印の番人である。』



「「「…………。」」」

 彫像を含めた全員の視線が、()()()に注がれる。


『我は告げねばならぬ。今や邪龍の封印は半ば解けかかっていると。

 不完全ながら、既に邪龍は現世に干渉し始めていると。』


 左脇の〔メイルゴーレム〕戦士像が口を開く。


『我は告げねばならぬ。【三神具】は単独では真なる力を発揮出来ぬのだと。

 〔封印魔法ラグナロク〕は、【三神具】の力を完全な形で引き出す魔法である。

 但しその力は、術者と【神具】使用者に神の力に耐え得る器が揃って初めて発揮される。その器の持ち主は『浄化』スキルという形で神に証明される。』


 次に口を開いたのは元出入り口側だった背後の神官型〔メイルゴーレム〕だ。


『我は告げねばならぬ。汝が示したのは〔聖王家の紋章〕の原器、【神威の紋章】であると。【神威の紋章】こそが、【三神具】の完全なる力を受け止め切れる最後の【神具】であると。

 【神威の紋章】抜きの邪龍討伐は、ほぼ不可能であると証明された事を。』


 後に続いたのは右脇の双剣持ち〔メイルゴーレム〕だ。

 どうやら彼らは、全員異なる感知能力で現状を認識し、起動している様だ。


『邪龍は無傷では倒せない。先ずは【三神具】の力で命脈を断たねばならぬ。

 【三神具】の使用者は〔始まりの紋章〕の継承者の中に現れる。

 『浄化』持ちと人を越えた〔血統〕の者は、神に拒絶されぬ限り扱えよう。

 〔封印魔法ラグナロク〕は『浄化』持ちのみが発動出来る。

 必ず【神威の紋章】を介して発動させねばならぬ。

 これらが揃って初めて、邪龍討伐は果たされるであろう。』


 最後に邪龍の討伐法を語ったのは、〔聖王の盾〕を構えた彫像だ。


『心せよ。この〔聖王の盾〕は神に選ばれる候補者を選定するための物。

 選ばれし者は、〔始まりの紋章〕の一欠片を継承するであろう。』



「「「…………。」」」


「い、いやぁ。そこまでは知らないです。

 兄さんが《紋章》を追加で得るために必要だったとしか。」



『『『故に我らは試さねばならぬ。お前達は、世界の希望足り得るかを。』』』


『『『お前達は、世界の希望を守り切れるかを。』』』


 全ての彫像達が、一斉に武器を構える。


『『『心せよ!我らを倒せぬ者は、邪龍の鱗一つ傷を付けられぬ事をッ!!』』』




 当然の事ながら、アレスの知る原作に〔聖王の盾〕を巡って戦うシーンは無い。

 単に宝箱を開けて手に入れるだけだ。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


「畜生!絶対上手く行き過ぎていると思ったんだっ!!」


「嘘おっしゃい!最初から上手く行ってなかったじゃない!」


 迫り来る【王墓の守護者像】八体に後衛など建前程度にしかいない。

 そもそも彼らは魔法を使う機能が無いのだから、神官型をしていようが忍者二体を除いて全員〔魔騎士〕だ。

 〔忍者〕二体を除いて全員〔魔騎士〕だ。


 遺跡を動力源にする〔メイルゴーレム〕に尽きる様なMPなど無く、代わりに毎ターン使用出来ないという制限付きだった。


 だが物理オンリーだった筈の全てのゴーレムを、御丁寧にも魔力攻撃可能にしている様な相手がまさかそんな分かり易い隙を作るとは思わない。

 何より全員魔法装備で身を固めている。同LV帯の敵の中では明らかに頭一つか二つ分くらい性能がぶっ飛んでいる。


「いや重いし硬いな!あと間合いがおかしい!」


 はっきり言おう。

 明らかに人が振るうには長過ぎる【魔力剣】の剣身が、敵味方を問わず辺り一帯で翻り続けている。


 だって一人で複数の敵を相手取るのに、並の刀剣の長さじゃ間に合わないのだ。

 一般的なメイルゴーレムは人と同じ戦場を想定されているので体格も左程変わりは無いが、目の前の相手は明らかに巨人に匹敵する大男だった。

 逆に言えば、それ程の高出力で【魔力剣】を振るっているのだ。

 彼らにとっては適正のサイズでも、後衛ごと一刀両断出来る長さが普通にある。


 まして流石に八体の全員が前衛とかされると、流石にアレス達だけでは前衛人数が足りてない。

 となればやはり、迂闊に離れられない分は長さで補うしか無い。


「くっ!こんなに魔法が効かないんですか、メイルゴーレムとやらは!」


「火力さえ確保出来ればそこまで頑強とは言えません!」


 紫電が弾け、閃光が煌めいて彫像達が直撃を避ける。

 魔術師としては優等生だが、ミレイユ王女は完全な後衛スタイルだ。

 既に幾度と無く出の速い【下位魔法】で足止めを試みたヴェルーゼが、繰り返し強行突破される現状に歯軋りしている。


 敵は〔雷の魔剣〕持ちが無詠唱で魔剣を振るう上、油断すると【魔力剣】が前衛を無視して凶刃を届かせる。

 回避と反撃速度に主体を置かねば、いつ直撃を受けてもおかしくは無い。


 敵の動きが早く戦場としては狭い室内が、何よりも魔法使いに向いてない。

 現状で魔術師達が【中位魔法】以上の術を使う隙など、全く見出せ無い。


 ヴェルーゼの様な戦闘特化型の魔術師が苦戦する状況下では、ミレイユが戦況を覆すのは不可能に等しかった。


(全ゴーレムが最低35LVの『反撃』スキル持ち重装甲。

 しかも後衛に攻撃が届くとか反則だろ!?)


 〔槍衾の槍〕が伸縮し、連中の巨躯による『連撃』を可能としている。

 実際技量だけなら間違いなくアレス達が圧倒出来るのだ。

 だが後衛を庇いながらという条件が、彼ら前衛の動きを縛っている。


 だが一方で、全員が散開しながらの戦闘状態に陥ったとしたら。

 既に防御力の劣る何名かが戦線を離脱しても、何らおかしくなかっただろう。


 突如現れた土壁の盾が、彼らへの直撃を防ぐ。

 【土遁】に【火遁】、【水遁】に【身代わりの術】。

 更には【口寄せの術】まで使いこなすと実にうっとおしい。

 魔法が使えないとか一体何だったのか。


 二体の忍者ゴーレムが、仲間の間を走り抜けて援護し続ける。


(この微妙に戦い辛い部屋の広さも、ゴーレムを活かすための細工って事か!)


 そもそもゴーレムと言うものは、生物の様に複雑な思考が出来る代物じゃない。

 地元の錬金術師によればゴーレムとは術式のパズルだという。

 特定の動作を変化し続ける条件に応じて分岐させる、要はプログラムに近い代物なのだろう。

 魔導具に電子機器の様な複雑な構造が無いのなら、当然動きも単調になる。


 戦闘用ゴーレムの正しい運用法は、スペックによるゴリ押しだ。本来ゴーレムは手順を乱せば容易く隙が出来る。だから高威力の装備で穴を埋める。


 その隙が、他のゴーレムによって埋められている。


 つまりこのゴーレム達は、部屋の広さそのものに合わせて全ての術式が組み込まれているのだ。

 密室以外ではここまで噛み合う事は無い。屋内だからこそアレス達を適切に追い詰める事が出来る。

 まさしく彼らは、この部屋での戦闘に特化したゴーレム達だった。


 武術も基礎に限って言えば、状況に応じた臨機応変な型の繰り返しだ。

 単純な動作の組み合わせ、最適解を最適な時に。

 極論、武術とはそれであり。

 最適なタイミングを、狙って用意出来るのなら。



 ゴーレムとて『必殺』スキルを獲得出来る。



「嘘だろ?!今の動きは何だ?!」


 崩れた瞬間を狙い澄まされたスカサハが、首筋に迫った太刀を凌ぎながら驚く。


「どうやらおかしいのはやたら適切な『反撃』時だけって訳じゃなさそうね。

 ゴーレムって普通、スキルを獲得させるのは無理って話じゃ無かった?」



…………そんな話があったんだ?!



 やっべ、ゲームで普通にスキル持ち居たから普通の話だと思ってた。

 そういやモンスターとして出て来るゴーレムも他に居たわ、固定値の奴。

 何で別枠なんだとネタにされてたけど、もしかしてスキルの有無だったりして?

 え?〔メイルゴーレム〕って実は滅茶苦茶高性能だったりするの?


「古代王国期の遺産は殊の外優秀って聞くからなぁ!

 聖王に古代王国の遺産を手に入れる伝手が有っても、オレは驚かねえよ!」


 そこでおずおずとアストリアがこちらを振り向き。


「……うん。全ゴーレムが『心眼、神速、反撃、必殺』のどれか三つに魔法の武具分のスキルを持ってる。」


「「「っ?!」」」


「何で黙ってたっ?!」


「ゴーレムがスキルを持ってるのは普通の話だと思ってんですぅ~ッ!!」


 そんな訳無いと言おうとしたスカサハだが、違うと言える程ゴーレムを見た覚えはない。というか。


「……そういやゴーレム自体始めて見たな。」


「いいから手を止めないでッ!!

 向こうと違ってこっちは体力魔力切れがあるんだって忘れてない?!」


「「すいませんしたぁ!」」


 謝罪しながらも対応し続けられるのは、ある程度攻撃の手順に慣れて来たからだとアレスの冷静な部分が告げる。

 となれば打開策は単純だ。


「全員同時攻撃を仕掛ける!後は臨機応変かつ強引にッ!!」


 ゴーレムに知性が無いか等分からない。そもそもこの会話を理解出来ない保証も無いのだ。とあらば複雑な作戦は逆効果。

 一人一瞬、口籠ったミレイユ王女にアレスは。


「ミレイユ様、我々が貴女に合わせます。

 皆もそれで良いな。」


「「「おぅっ!!」」


 治癒魔法には微量ながら周囲のマナを取り込む性質があり、それがLV上昇に繋がる。より多くの怪我人、強力な治癒魔法を行使する程入手マナは増す。

 つまり回復魔法の使い手は、強者との戦闘を経験せずにLVを上げられる。


 最近でこそアレスの傍で戦場に立つ機会も増えたが、彼女の経験値は魔法の習熟度で稼がれたものだ。戦闘経験ではない。


「っ!はい!」


 この場で最も連携に慣れていないのは、実戦経験が最も少ない彼女だ。

 無理を要求し負担をかけるより、全員で彼女をフォローする方が確実だ。自分達は競争相手では無く、仲間なのだから。


 アレスの意図を察したミレイユは、その言葉に力強く頷き機を伺い。

 そして小技で狙いを読まれるくらいならと敢えて火力を求める。


 当然その隙を忍術使いの双剣ゴーレム達が狙い澄ますが――。


「――成程、一人を狙うなら逆に読み易い!」


 スカサハが【身代わり】ごと『続け様(れんげき)』に切り伏せれば。

 渦を成した流し切りでもう一体を『切り返す(はんげき)』のはアレスの役目だ。


――そして。満を持して生じた隙に。


「【中位破邪柱(アレイスター)】ッ!!」

「【下位閃光(レイ)】ッ【下位閃光(レイ)】ッ!!!」


 光の柱が重甲冑の〔槍衾〕戦士達、そして後方で相殺しようと〔雷の魔剣〕を構えた神官達を飲み込み。

 弾けた雷はヴェルーゼが続け様に放った閃光によって、相殺されて機を失う。


 アストリアの【破壊剣】が一人背後へと回った、三体目の〔槍衾〕戦士を狙い澄ましたかと思えば。

 剣姫レフィーリアの【奥義・封神剣】がその横腹を斬り払う。


 そして二人が【奥義・武断剣】で双剣達を圧倒する剣戟の嵐を見舞えば。



 【落雷剣】が迫る一同を薙ぎ払う。



 直撃は避けた。同時攻撃であったが故に、全員が反応こそ間に合ったが。


「……全く。頑強な上に俊敏とか、本当にゴーレムかよ。」


 〔王者の宝剣〕〔聖王の盾〕〔聖王の鎧〕に身を包んだ騎士鎧の守護者像。

 恐らくは初代聖王を模したと思しき最高レベルの〔メイルゴーレム〕は、全てのゴーレム達の中で唯一無傷に等しい堅牢さを誇っていた。


「……悪い。他の連中は皆に任せて良いか?」


 アレスは敢えて魔防が高まるだけの魔剣〔守護の聖剣〕を構えて立ち塞がり。

 無言の肯定に背を押され、聖王の試練に真っ向勝負を挑む。

 明らかに裏試練を発見したアレス王子達w

 魔法を使えないなら忍術や魔法の武器を使わせれば良いよねw

 何、後衛に攻撃が届かない?逆に考えるんだ。

 届く大きさのゴーレムを作れば良いさ、とw



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