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77.第十八章 解放

 胃痛要因が増えないとか、言ってないよねw?

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 雷鳴の如き胃音が鳴り響く中、アレスは能面の様な笑顔で沈黙を貫く。

 耐性の無いイザベラ大司教が青褪めた表情でアレスを見つめる。

 深い深い深呼吸の後、アレスは重い口を開いた。


「あの。もしかして〔大聖堂〕ってもしかして。

 『浄化』スキルを始めとした神の力を隠すための建造物だったんですか?」


 秘密を守るための、とアレスが確認すると、イザベラ大司教はええと頷く。

 ここであれば秘された〔聖王家の紋章〕を開示しても、外の者に気付かれる心配は無いとの事。


「そして白月城シャルルマーニュにも、此処と類似の地下聖堂が存在しています。

 聖都奪還は、その〔地下聖堂〕に辿り着くために必須なのです。」


 つまりはそこが、もう一ヶ所の相応しき場になるのだろう。

 だがまあ。つまり今こそが最大の好機であり、次の機会は聖都奪還後にしか無いと見て構わないだろう。


「皆さん。これから私が明かす話は、容易に信じられない、信じたくない話になるでしょう。ですが、証拠はあります。

 一番肝心な話をする前に、先ずは私の話の信憑性を判断して貰うために、幾つかの証拠を先に提示させて頂きましょう。」


「お、おいアレス?お前一旦敬語抜きに話せないか?」


 固い笑顔のまま口を開くアレスに一同は戸惑い、特にアレスにより近しい者ほど不吉な予感を覚えて動揺する。


「大司教様、御確認下さい。

 正直私には真贋を確かめられる程の知識がございません。」


 ごとり。

 テーブルの上に、《王家の紋章》から出された〔()()()()()()〕と〔()()()()〕が一緒に並んだ。


「「「ッ?!?!?!」」」


 イザベラ大司教と聖王家の面々が驚愕の余り息が止まる。

 思わずリシャール殿下が慌てて懐から強力な魔法で封じられた箱を取り出し、鍵を開いて中身を確認する。そこには()()()()〔聖王家の紋章〕があった。


「「「ッ????」」」


「いやいやいやいやいやッ!!」


 全員がヤバい事が起きている事だけは理解し、脳が理解を拒んだリシャール殿下が思わず何かを叫ぼうとして形にならなかった。


「え?複製?でも一体どんな時に?」


「……ッ?!い、いえ。こ、これ!ほ、本物です!いえ、オリジナルです!!

 これは聖王家が引き継いだ〔聖王家の紋章〕の複製などでは無く、真なる【()()()()()】で間違いありません!

 これは【ラグナロク】の真の力を引き出すのに必要な、まごう事無き神から授けられた、正真正銘の【神具】の補助至宝ですッッッ!!!!」


「「「なっ!なにぃぃぃいいいいぃぃッ~~~~!!!」」」


 ほほほほほほ、ほぅ。本物か。本物以上のオリジナルですか。

 複製ですらありませんか。四つ目でしたか。


「あ。アレスもそこまでは知らなかったのね?」

「ッッッッ?!?!?★◇※X◆?」


 理由を尋ねようとしたアストリアが過呼吸になってるアレスに気付き、動揺し過ぎる人がいると冷静になるってほんとだなぁ等と呟く。

 それ俺が言いたかった。


「そもそもコレ!こんな〔盾〕があったなんて私達も知りません!

 何であなたが聖王家の紋章付きの盾を持っているんですか?!」


「こ、こっちは恐らく〔地下聖堂〕に収められているという聖都の鍵〔聖王の盾〕だと思われます!では、今の〔地下聖堂〕には?!」


「多分()()()()転がってるんじゃないですかねぇ?」


「「「はぁっ?!」」」

 いやコレ俺も理解したくないわ。俺も知らない爆弾幾つあるの?


「すっげぇな。俺等にゃこれがヤバい物だって事しか全く分からねぇ。」


 当事者じゃないスカサハが乾いた笑いで軽口を叩いているが、他の面々は聖王家の紋章を見た時点で引いている。深刻さは共有して頂けたようでなによりだ。


「あの、一体これはどういう事なんでしょうか……?」


「そうですね。先ずこれらの品々の出所なんですが……。

 ぶっちゃけ物心付いた頃から《王家の紋章》の中に入ってたんで、経緯は一切、全く分かりません。」


「ちょっと?」


「ですが誰がと言われたら、先ず間違いなく神御自身でしょう。」


「「「いや何で?」」」


 もう誰が問い返したとかどうでもいいレベルで全員不穏な顔色しているな。


「端的に言って、私は産まれる前の記憶があります。

 前世で成人してから死んだ私は、気が付けば神と思われる御仁と対面してましてこの世界を救って欲しいと頼まれているんですよ。

 その際に御神自身から与えられた助力の一つが【救国の御旗】でして。

 この世界で本来起きる出来事も物語としてある程度知らされております。スキルや紋章は愚か、体質まで自由に選ばせて頂きました。

 なので各スキルの裏事情も紋章五つの凄さも、全く知りませんでしたね。」


 秘技、単刀直入に本題だけ言い切って質問させるの術!

 どう言っても理解の範疇超える話だから、聞きたい事から答えた方が話早いぞ!


「た、端的過ぎるでしょう!

 もう少し言葉を尽くしなさい!」


 そう来たか。でもぶっちゃけ細かく言っても逆に分かり辛いんだよなぁ。



 斯く斯く然々。


 取り合えず一同には、私が別世界で死んだ成人だった事。

 死後に神っぽいイヤに親し気な存在が幾つかある世界のうちどれか一つを救ってくれと頼んで来た事。

 言う通りにした際、色々便宜を図ってくれた事。

 物語という形で未来に起きる筈だった出来事をある程度知らされている事。


 この辺の話を納得は出来ないまでも理解はして貰った。

 納得?俺がしたい。させて見せろよ、十数年経っても納得は出来ねぇぞ?


「じゃああなたが記憶喪失というのは嘘だったんですね?」


「いや?本当に零歳から五歳までの記憶は全く欠片も今も無いよ?

 お陰で空白の五年間っていう物心付く前の知らなくて当然の筈の時期に、山の様に増えていく謎の過去に今現在進行形で秘密が増えてる気がしてるぜ?!」


 分かるかい?この自分の知らない自分にヤバい秘密が繋がっていくこの恐怖が。

 しかも心当たりは神様っていう、何が有っても不思議はないし何でも出来る、超ド級の落とし穴だぜ?


「いやいやいや。流石にそれを信じろと言うのは俺には無理だ。

 何せ神がそんな気軽に手を貸しているなど。そんな簡単な話じゃ無いぞ。

 そもそも御神と接触を持てた者はそれこそ神が手段を残した大司教以外は聖王と聖女の他には存在していない。」


「ふむ。どうしても信じられませんか?」


 分かるとも!その気持ち!


「流石にな。もっとはっきり言えば、君が偶然〔聖王家の紋章〕と〔聖王の盾〕を手に入れた事で得た力では無いかとも疑っている。

 それらにはそれほどの力が宿っているからな。」


 くくく。そう来たかね。その発想は私にも無かったがね?


「ところでヴェルーゼ皇女、貴女は帝国を脱出する際【聖杖ユグドラシル】を持ち出していますね?

 それをこの場の皆さんに見せられますか?」


「「「ッッッッ!!!」」」


「……それもあなたが神から見せられた未来の物語の知識ですか?」


「ええ。その通りです。」


 皆が驚きとヴェルーゼが何をする気だと、周囲とは警戒の眼差しでアレスへ鋭い視線を向けて恐る恐る【()()】を懐から取り出す。

 やはりと言うべきか、まるで《紋章》の様な収納法だ。一見して彼女が隠し持っているとは分からないのもこれで納得する。




 すとん、と腑に落ちた表情でアレスは【()()()】を横に並べた。



「「「ッ?!?!?ッッッ※◇★X◆???」」」




「どうか皆さん、挙ってご確認下さい。

 私には本物かどうか調べる術はありませんので。

 これが、私に用意出来る一番の証拠。神々しか用意出来ぬ筈の至宝。

 【三神具】()()に御座います。」




 今日一番の錯乱した悲鳴、頂きました★



  ◇◆◇◆◇◆◇◆


「おひょひょひょっ!!さあどうだコレを見るが良い!!

 そして宣言しよう!君達が今感じている疑問その他諸々の感情は!

 この私ことアレス・ダモクレスが自我を取り戻して以来!ずっと脳裏を掻き回し続けた衝動であると!!

 この件に関する神からの説明は、一切皆無だッッッッ!!!!!

 さぁ皆、この胃袋が捻じ切れる感覚を存分に共有しようじゃあないかッ!!!」


 床に両拳を打ち付けて、アレスは両膝を付いたまま叫んだ。

 やっべ、ちょっと本音に負けちまったZE。


「…………つまり。」


「【三神具】って魔龍復活に使える奴やろがぃ!

 よりによって何でそっちを増やしたのさ!新しい【神具】じゃ駄目なんかい!

 数か?三つ増やせるから【三神具】なのか?

 物語じゃあアストリア兄さんが【三神具】の力で魔龍討伐してたやろがい!

 足りないんか?!魔龍が【三神具】だけじゃ足りないんか?

 それとも他に同格のラスボスでも増えたのか?

 オイラを()()()()()()って言った癖にィッ!!」


「「「え?」」」

「あ。なるほど?」


 下手したら三神具並の爆弾発言に、正しく反応した皆と違い。

 当事者の筈のオニイサマだけは何故か納得の疑問符を浮かべる。


「え?あ、アストリア王子様?今のワタクシのお話、衝撃的では?」


「あ、うん。つまりアレスが()()()()()()()()()って話だったって()()()()って話なんだよね?ちゃんと分かってる。

 でもね?」


 周囲が戸惑う中、アストリアは凄く気まずい表情で。


()()()()()()って言ったんだよね?神様。

 それ、主人公を入れ替えるって話じゃなくて、()()()()んじゃないかな。」



 ピシリ。

「「「ッ????」」」



 表情が固まったアレスを脇に、アストリアが言葉を続ける。


「だからさ。私が主人公だった話に、もう一人の主役を足したんじゃないかな?

 【三神具】諸々ごと。」


 一拍深呼吸し。




「多分神様、嘘を言ったつもり無いと思う。

 説明不足なだけで。」



「「「「ななななっ!なにぃぃぃいいいいぃぃッ~~~~!!!」」」」




 ちょッ!!!!待てッッッッ!!!!!


 否定出来ねぇ!そういう感じの神様だったッ!!



「お~い。もしも~し。」


「夜逃げさせて下さい。」

「駄目だよ主人公。」




「…………ここに【神具】使用可能候補の皆さんを集めた理由は分かって頂けたと思います。皆さんは将来的に【三×二神具】を扱って魔龍かそれ以上の何かあるいは魔龍複数形に挑んで頂く事になると思います。

 ()()()()()()()

 生贄候補は後数名いるけど、減らす事は無いからな。」


 両手で顔を隠したまま、アレスは宣言する。

 主人公水増し事件とか、オイラ心の整理が付かないよ…………。


 アレスの膝が折れ、理性が真っ白になったところで今日の話はお開きとなった。

 翌日アレスを見た諸侯達が揃って凄い表情をして物言いたげな顔を浮かべたが、誰一人として何の話をしたか触れる者は現れなかった……。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 くっそ役に立つ気がしない未来視の話もすんなり納得して貰えたので、アレスも当日メンバーとの話はスムーズになった。

 心の棚はそっと山積みだ。聖都解放の時に〔聖王の盾〕の数も確認しなきゃならないからね。頼むよ本来の使い手オニイサマ。


 〔大聖堂〕が解放された事で、教会総本山の神官達にもある程度自由が利く様になった。お陰で〔デルドラの神官房〕との共同体制も構築され、聖戦軍の神官部隊は後方部隊とはいえ千を超える規模となった。

 万単位の軍隊が揃っているとはいえ、治療専門部隊がこの規模を確保出来る軍隊は史上稀にみる規模だと断言出来る。

 そして改めて、大司教含めた聖王家の面々が前線包囲網に合流を果たした。


 よってこれで漸く聖都攻略の下準備が整ったので、改めて軍議を開いたのだが。


「どういう心算だ!聖都の包囲を解くなど正気の沙汰では無い!」


 聖王国諸侯の一同が何故か挙って総反対。

 正直ここで意表を突けると、何故か日常に戻って来た感覚が湧く気がします。

 けくく。


「冷静に。私は聖都奪還のために、包囲網の戦力を動かすと言ったのです。

 そもそも包囲を解いたらどうなると言うのです?」


「それは勿論……!?」


「そう。聖都から帝国軍が脱出を図るなら、脱出させてしまえば良い。

 既に聖王国の奪還は聖都以外終わっている。彼らが逃げる先は無いのです。

 それこそ今は増援の余地すら無い、帝国本土に逃げ込むしか、ね。」


 そもそも少数の兵が脱出したところで敵の戦力が減るだけ。

 主力が脱出したなら大軍の事、進軍速度も落ちるし追撃は容易だ。


「今聖王国の中で、帝国軍にとって最も堅牢な場所は聖都白月城シャルルマーニュを置いて他にはありません。

 合流先の無い今なら、彼らは聖都を脱出してくれた方が討ち易いのです。」


 アレスの前には聖都の周辺地図が広げられている。

 聖都は、端的に言えば一つの小高い丘の片側を削った山城の類だ。

 それも只の山城では無い。背後に三日月状の湖に囲まれた、天然の水堀に閉ざされて正面だけが開かれた、裾野に階段状の城下町を拡げた最大級の要害だ。


 湖から攻め寄せれば巨大な城壁に遮られ、城壁を制圧すれば深い堀か細い橋の、不自由な二択を選ばねば本城には届かない。

 湖と山を利用した高低差による防壁が、大軍の突入を阻んでいる。


 逆に湖を迂回すれば。小高い山を階段状に削られた城下町が進軍を遮り、五重の城壁を乗り越えて漸く山頂の王城に辿り着く。

 だが城壁前は全て水堀があり、戦時には橋自体が門となる。


 中央の大水道橋は全ての城壁を乗り越えて進軍が可能だが、同時に全ての城壁の中央が跳ね橋となっている。

 大軍の利が生かせない上に、守り手は城壁の塔から攻撃が出来る。


 この城下町の随所にある尖塔も厄介だ。飛行戦力には何処から弓や魔法が飛んで来てもおかしくない。城下町側の突入は、城下町の全てが砦の一部となる。



……うん。ぶっちゃけドラゴン以外は本当に攻略法がほぼ無いな。

 物量で攻めるには町造りに費やされた、膨大な物量と資金が敵になる。



 ゲームではね。そもそも大軍が籠城して無かったんだよ。

 何故なら当時は中央軍の総大将ダンタリオン第一皇子が、義勇軍に討ち取られた混乱の最中。聖王国の者のみが知る秘密の通路で少数精鋭が侵入し、王城以外は割と守りがガラ空きになっていた。


 つまり現在の難攻不落振りは発揮されていないのだ。


「まあ大水道橋だけなら全ての跳ね橋を、ダモクレスと聖都の手勢が抑えてます。

 中央に突入したタイミングで解放する手筈なので、其処はご安心を。」


「「「「「何でだよ!いや、いつからだよッ!!」」」」」


 え?聖都陥落時からずっと、少しずつ……。

 増えるのがモノだけだって、誰が言ったのw?(ゲス顔)


 聖都をイメージするなら丸い皿からはみ出したタルトでしょうか。


 お皿となる三日月湖側は全面城壁がそそり立ってます。

 入り口はタルトの先でスライスパインを五枚重ね、城壁側程高くなる様に。

 パインの芯側が城壁だと分かり易いのでは?

 五段目境の後ろに王城が載ってます。その後ろに絶壁と城壁。

 この城壁がタルトの壁で、具材との間に隙間があります。

 タルトの両端は全て崖、両端と先っちょから王城手前の段まで。

 計三本の線状の生クリームで飾りましょう。

 両端が城壁、王城前の芯まで伸びる生クリームが中央跳ね橋です。

 城壁が分かり辛いなら、芯部分も生クリームを載せた方が見やすいかも?

 芯の下には水堀をチョコで表現しましょうか。


 いやぁ、救出した時に密偵連れてたって言ったし……w



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