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73+2.間章 スリ師の手袋2

※割り込み投稿です。本日前編も投稿しておりますのでご注意を。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 アレス達は例によって例の如く、【救国の御旗】の『伏兵』効果を活用しながら〔廃墟林〕の中に踏み入った。


 領都側には今カトブレス公を始めとする聖戦軍の主力が駐屯しており、それこそ数千程度の帝国軍が襲撃して来ても返り討ちに出来る。

 千程度の兵を動かしたところで現状、何の支障も無い訳だ。


 とはいえ兵の大部分は包囲網に回しているので、今回の主戦力は武将達。

 同行兵の兵種は全て逃亡を阻止するための、アサシン達で占められていた。


 まあ元々密偵隊は最前線に出せないのでこういう機会に積極的に戦わせて経験を積ませようという意味もあるが、そもそも建物内なので軍で攻めるには向かない。

 アレス達武将が攻め手兼追い出し役を行い、雑兵を炙り出すのだ。


 クレイドールが気持ち先行しながら森の中を進み、カルヴァン、レギル両王子が左右を固めながら回復役を兼任するジルロックが中央、アレスが最後尾だ。

 外の包囲部隊は僧兵バルザムに指揮を任せてある。


 今のところ気付かれた気配は無いが、それでも周囲に見張りの気配すらないのは少々気になる。

 幾ら敵が使っているらしき獣道を避けたとはいえ、犯罪組織がこれほど無警戒で居られるものか。


 これは空振りの可能性もあるかと思った辺りで、草木に覆われた煉瓦の廃墟街が顔を覗かせる。

 元々スラム街になってた時期もあって、一部は石畳が健在だ。


 林の囲みを抜けた所為で、少しだけ歩き易くなった瓦礫の中で。

 元々は教会だったと思われる、巨大建造物の廃墟が姿を現すのだが。


「……おいおい。コレって明らかに取り込み中だよな?」


 本来人気が無い、少なくとも表向きは取り繕われている筈の建物内から。

 荒くれの男達と思しき怒声と金属音、悲鳴が小さく響いている。

 玄関周りには既に数名の、見張りと思しき面々の死体が転がっていた。


「そうだな、急ごう。敵対組織との抗争にしては争いの音が少な過ぎる。

 場合によっては口封じの恐れもあるからな。」


 ここからは方針を変更し、アレスとクレイドールが入れ替わる形で中に入る。

 人の気配を警戒しながら中に入ると、中では全身を甲冑に包んだ青年が雄叫びを上げながら両手の〔魔法の手斧〕を振り回し、見事な二刀流を披露していた。


「ぅおおおおおおっ!!」


「狼狽えるな!相手はたった一人、全員と同時には斬り合えぬ!」

「たった一人で〔キラーズ〕を敵に回した愚かさを思い知るがいい!」


 顔が兜に隠れた青年は、〔狩猟装束〕に身を包んだ犯罪組織の連中と思しき盗賊集団が攻撃アイテムを投げようとする隙を、巧みに狙い澄まして投擲する。

 更に手元に戻る〔手斧〕の魔力を活用し、動きを止めず別の賊へ切り込む。

 〔毒煙〕や〔催涙玉〕を使えば味方を巻き込みかねない距離だ。


 だが〔弾弓〕等で至近距離から〔爆裂玉〕を食らえば流石に足元が揺らぎ、即座に盗賊達は距離を取って一斉に投擲の構えを見せる。



「一人じゃなければ良いのかね?」



 『必殺・霧隠し』。

 背中に担ぐ様に刃を隠したアレスの一撃が賊一人の背中から唐竹に断ち切ると、回し蹴りの様に翻り青年を避けて【炎舞薙ぎ】に繋げる。


「【中位竜巻刃(ディストルネド)】ッ!」


「き、貴様ら何者d!」


 青年が驚くがはやいか、鎌鼬弾ける竜巻が盗賊達をまとめて切り刻む。

 賊達が事態を把握するより先にカルヴァン王子が残党を切り伏せ、残った一人にレギル王子が止めを刺す。


 この場で足止めをする程度の連中に用は無い。それよりこの青年から話を聞いた方が余程手掛かりが多いだろう。


「あ、あんたらは一体?!」


「私は聖戦軍の将アレス。キラーズとやらを制圧しに来た討伐軍だ。

 君こそ何者かな、顔も見せられぬ様なら別の賊集団だと判断させて貰うが。」


 したり顔で事情通を装うアレスに、青年は警戒しながら兜をずらし顔を見せる。


「オレはナイトのカルロット、あんたがアレス王子だって証拠はあるか。」


「おや、まさか〔韋駄天〕カルロットか?

 ハウレス王国随一の騎士がこんなところで一体何を?」


 韋駄天カルロットはハウレス王国を解放する際に、国王救出を依頼する筈だった原作ゲームでの参戦キャラだ。


 殆どの国が将軍クラスしか派遣しなかった原作義勇軍と違い、今の聖戦軍は国王自ら原作キャラを副官にして参戦している有様だ。

 参戦していない事に違和感は一切無かったが、縁も無いから気にもしなかった。

 だが当然要職の人間であり、他国である聖王国へ現れるには不自然な立場だ。

 顔を見る限り当人なのは間違いなさそうだが……。


「あ、ああ。いや、今のオレは国を捨てている。

 国を売った裏切り者を始末し、家族の仇を討つまで国に戻る気はない。」


(ん?あれそういえば今、ゲームより多分半年から一年くらい早い……。)


 ダモクレス王族紋章付きの短剣を見て動揺したのか、カルロットはあっさりと裏事情まで話してくれた。


「そうか。この場で真に受ける訳にはいかないが、仇を譲る程度は構わん。

 相手の名前を聞いても?」


「トロルズ。親戚なんで俺と似ている。

 顔立ちで分かる筈だ。」


「分かった。全員、彼の顔を覚えておいてくれ。

 それと今この一帯は我々が包囲している。君一人で出た場合の安全は保証出来ないのでその心算で。」


 互いに情報交換しながら地上階を制圧する事しばし。

 どうやらこの〔キラーズ〕という集団は領都周辺を縄張りとする犯罪組織の一つであり、ブラッドロアに傘下入りする事で討伐隊情報を仕入れているという。

 キラーズは対価として〔バルバロイの紋章〕やクラスチェンジの場所を提供しており、トロルズという男は恐らくはそれ目当てでこの組織に所属したらしい。


「あいつは試合でオレに反則負けして、騎士になれなかったんだ。」


(強い……。流石は無敗の英雄、噂は伊達じゃないらしい。)

(ヤバい……。これ彼が帰国する動機が無くなってる奴じゃん。)


 トロルズという男は帝国と内通し城内に敵を招き入れ、その為に将軍一族だったカルロットの家族を闇討ちしたのだと語った。

 本来なら仇を討っても君主が捕らわれたままで、祖国の陥落に責任を感じて義勇軍に駆け込む流れだったのだろう。

 だが国が解放された今、汚点である彼が戻るかと言えば。


(コイツ、絶対戻らない。思いっきりハウレス王に引け目感じとる。)


「問題はこの地下階への入り口だな。ここは魔法王国期の古代遺跡だったらしい。

 地下部分は強力な魔法で封じられているから、専用の鍵が無いと開かない。」


 さっき幹部らしき男を倒したアレスは、何となく〔スリ師の手袋〕の小袋側の中を確認する。やっぱりそれらしき魔法の鍵があった。


 使ってみた。やっぱり開いた。


「さ、流石だな。一体いつの間に手に入れてたんだ?」


「さてな。先に進もう。」


 能面の様な笑顔でアレスは扉を開ける。勿論罠の有無は確認したが、どの道階段の構造上罠を設置出来ない筈だ。付与術式の問題で扉と干渉してしまう。


「……ねぇアレス。その〔手袋〕、後で調べさせてね。」

「絶対だぞ。後で調べたくないって言っても絶対報告書上げさせるからな。」


 事情を知らないカルロット以外の視線が、手袋に集まっていた。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


「ふ。ここまで来れた事は誉めてやろう。

 だが悲しいかな、貴様らは我々の後ろ盾が何者か知らぬ。

 例え我らキラーズを倒せたとしても、貴様らに安息の時間は永遠に訪れぬ。」


 黒づくめの男達の後ろに、巨大な甲冑に身を包んだ大男が嘲笑を浮かべる。


「あの。まさかグラッキー大公が謀反の罪で処刑された事をお知りにならない?」


「「「…………え?いや、大公様が?」」」


 あ、コイツ等裏の大公家家臣だわ。ていうか流石に伝わってる頃では?


「ぶぶぶ、ブラックロアが襲撃されたからっていい気になるなよ?!

 連中ですら我らが真の主にとっては下っ端、手足の一つに過ぎんのだッ!!」


「いや。だから大公が死んだから大々的に討伐が出来た訳でしてね?」


「何処情報だよ!最近は聖戦軍って連中が帝国軍と衝突したせいで、何処も彼処も憶測だらけの欺瞞情報が飛び交ってんだぞ!

 大公軍だってそこに合流するために出陣したばっかなんだぞ!?

 そもそも聖戦軍ってのも本当は義勇軍が作った偽物部隊だって話だぞ!」


 取り乱すキラーズの幹部達だが、兵隊と思しき連中は状況が理解出来ておらず、幹部達の動揺振りに顔を見合わせ、首を捻っている。


「いや義勇軍って元々聖戦軍に参加するための連合国軍で、聖王国に合流したから今は聖戦軍になった訳ですよ。

 さては君達、ベンガーナ攻防戦以来大公家に放置されてますな?」


 領地トップが処刑されて本家の取り潰しが決まったのだ。自分達の身の振りを考えねばならない時に末席の者まで構っていられないだろう。

 事情を知っているのも一部だろうし、後回しにされている間にアレス達が到着し屋台骨であるブラッドロアの方を討伐したのだとしたら。


 大公家の破滅すら知らず、聖戦軍にブラッドロアが襲撃された理由を必死で調査しているタイミングでカルロットの襲撃を受けた事になる。


「残念だったな!貴様らの安全を保障してくれる大公家の悪事は既に露見した!

 帝国軍も主力の殆どは敗走を始め、既に(一部は)〔中央部〕から脱出を図っているのが現状だ!

 貴様らの後ろ盾は、既に無い!!」


(((あ、しれっと偽情報混ぜたぞコイツ。)))

 帝国軍。主戦力なら、未だ聖都。


「で、出鱈目を!ハッタリで我々を騙せると思うな!」


「この森は既に、聖戦軍に包囲されている!

 聖王国の名の下に、神妙にお縄に付くがいいッ!!」


「「「ななな、なにぃ~~~~?!」」」


 キラーズ幹部達が聖戦軍の名に動揺する傍らで、こっそりと後ろに下がった男の前に騎士カルロットが立ち塞がる。


「何処へ逃げる気だトロルズ、貴様の行き先は地獄のみだ。」


「き、貴様カルロットか!?……まさかここまで追って来るとはな。

 丁度良い、同じナイトなら俺の方が上だって証明してやる。」


 剣を構える両者の姿を見て、キラーズの面々も覚悟を決めたようだ。

 幹部達が一斉に武器を構えて襲い掛かると、レギル王子とカルヴァン王子にそれぞれ二人ずつが襲い掛かる。


「あれ?」


 不意打ちよろしく一人のアサシンがアレスの脇をすり抜けたので背中から切り捨てようとする前に、クレイドールはその剣戟を弾きジルロックを庇う。


「おいおい、俺を無視してくれるなよ。」


「抜かせ田舎の盗賊もどきが!」


 暗殺者同士の勝負は暗器――即ち投擲道具と仕込み武器バトルなので、第三者が挟まると巻き込む可能性があるので狙い難い。

 ここは素直に任せるとして、アレスは唯一余ったキラーズとやらのボス相手に向き直ると、ボスは舌打ちしながら丸薬を放り投げて天井を向く。



「ほいっと。」


 邪魔する相手が居なかったので『神速』で踏み込みがら空きの喉を切り裂くと、ボスは疑問の表情で首が床に転がり、一拍置いて体も倒れる。



「え、終わり?」


 周りはこっちに気付く気配すら無いので、武器を拾い懐を改めて金庫の鍵っぽい物や脅迫用と思しき弱みの書かれた手帳、武器や防具を剥ぐ。

 持ち物から見ても影武者の線は無いだろう。何某家の誰だったかを証明する紋章も持っているので偽物だったら迂闊過ぎる。


……一通りやる事終わってしまった。


 参戦しようかと思ったけど、ぶっちゃけ良い勝負っぽいので適度に経験を積んで貰った方が彼ら的にはプラスか。流石にアレスが加わると圧勝過ぎる。

 ま、まぁ逃走用の隠し通路は見張っておくとして……。


 ふと〔スリ師〕の小袋が引っ掛かり、開けると人の頭蓋骨で出来た〔呪いの髑髏マスク〕が入っていた。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 キラーズとやらはかなりのお高い金額で昇格を斡旋しており、大公家の裏の資金源の一つだったと判明した。


 役割的には違法魔導具の売買を管理しており、下部組織の中ではバランサー的な役割だった様だ。

 メインの犯罪はブラッドロアにやらせて邪魔者を始末し、品物をキラーズという外部組織に管理させる事で、適度に大公家へ依存させる構造だったのだ。


 お陰で大公に逆らう者達は秘密裏且つ非合法な手段で、大公家が関わりの無い形で始末する事が出来ていた、という話だ。


 因みにあの場にいたアレス以外の全員、LVが上がった。

 更にあの後〔韋駄天〕カルロットには祖国での復職支援を条件に聖戦軍への参戦を要請したら、普通に亡命で良いという形で話がまとまった。

……本当に良いのかは後日、ハウレス王と話し合ってから決めよう。




 後日。アレスはジルロックから報告を受けていた。


「アレスも知っての通り、現存している通貨は全て『硬化』の魔力が込められた、一種の魔導具だってのは知っているよね。」


「ああ。何でも昔の王様が贋金対策に始めたらしいが、周辺各国に通貨の支払いを限定されて赤字塗れになって破産したという伝説だろ?」


 要は貨幣の材質経費が、魔導具化の費用と比べると誤差なのだ。


 その国は一部の大金貨的な使用法を考えていたらしいが、他国との経済格差が有り過ぎて一斉に交換を要求されたというオチだ。


 数千万分しか用意してなかったのに数十億単位で一斉に生産を要求されたらどれだけ赤字だろうと造るしかない。

 何せ周辺国全てが敵なのだから。合掌。


 その所為でこの世界の貨幣は魔力付与された物以外全て淘汰され、ある程度の大きさと重さがあれば時代も国も問わず貨幣と認められる。

 金貨も銀貨も銅貨も全て、付与経費に比べれば端数なのだ。

 千円札一枚を作るのに十万円かけて偽札にする馬鹿は居ないという事だ。


 どれだけ馬鹿々々しいと思っても、千年以上前の貨幣が実際残ってる。

 家や人が消し飛ぼうが貨幣だけは原形を止めていた、という話は珍しくない。


「つまり〔スリ師の手袋〕はその貨幣の魔力を認識して、傷付けた相手を指定して小袋内に召喚する魔導具なんだ。

 だから相手に怪我をさせない限り、術式は対象を認識出来ない。

 回復アイテムや攻撃アイテムも入手出来るのは、ぶっちゃけ只の誤差なんだ。

 〔手袋〕の対象指定能力が低くて、貨幣と区別出来ないんだよ。」


「なるほど?じゃあ〔手袋〕の魔力が発動するのは、あくまで怪我を対象だけに限られてる訳か。」


「そういう事だね。」


「じゃあ距離は?」

「対象の所持品。」


「いや、だから所持品認定される距離。」

「持ち歩いてない物が所持品認定される訳ないでしょ?」


 因みにだが。因みにだが相手のポエムなり帳簿なりを入手出来た〔手袋〕は元々アレスが《紋章》内に所持していた方だけだ。

 この町で入手したもう片方は、普通にジルロックの説明通りのスペックしか発揮していない。


「いや、でも……。」


「ていうかもう片方、術式自体が成立してなくて只の模様だったんだけど。

 あれ何処で入手したの?全く解析出来ないんだけど?

 これホントに魔導具なの?」


 目が怖い。

 申し訳ありません!コレ、本来教会奪還作戦の前に投稿する筈の分、後編です!

 適切な場所に差し込むため、今回予約投稿しておりません!

 予定している2/11日分は予定通りに投稿させて頂きますので、どうかご容赦を!



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