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ジュワユーズの救国王子~転生王子の胃痛奇譚~  作者: 夕霧湖畔
第一部 何故か第二王子転生
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4.第一章 バーランド王討伐戦

※お正月連続投稿。元旦1日から4日まで、毎日一遍ずつ投稿致しております。

※次回からは土曜投稿の予定です。

  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 長々と軍議に時間をかければ流石のバーランド軍もここに気付くだろう。

 元より作戦自体は事前に決まっていたので、どの程度予定通りかを確認するだけで会議は終わる。


「出陣する!敵は弱卒、地の利は我にあり!予定通りに殲滅するぞ!」


 歓声を上げて火を灯し、アレス率いる第一陣が出陣する。

 これに慌てて対応すれば、正面街道の死角から進む第二軍の動きが敵の視界から消える事になる。

 何より迎撃のために陣取る位置には、事前に準備した備えが随所にある。



「躊躇うな!敵の方が多いのだ、一人一人確実に仕留めていけ!」


 そこら中の道路で快勝し、次々と敵部隊を撃破する。降伏した者達は武装解除して近くの民家に投げ込んで捕縛した兵の扱いを任せる。


「順調だな。敵が数の利を活かすためには、王都から脱出する以外にはない。

 町に放火しようにも、この辺りは石造りの家が殆どだ。」


 下手に火に頼れば己の退路を断つに等しく、何より敵の大半は王城に入っていた所為で、現状は事実上の戦力の小出しに等しい。


 そしてそれは。ダモクレス軍を迎え撃とうとして出兵させた兵が悉く敗走した、バーランド王から見ても明らかだった。


「ええい、こうも一方的に負け続けるとは。

 お前達は騎士として、恥ずかしくないのか!」


 報告に当たり散らすバーランド王に応える声は無い。

 予想外なのは彼らも同じで、何故ここまで一方的なのかと首を捻るばかりだ。


「た、大変です!船が、我々の船が我々の船に、抑えられました!」


「はぁ?!言ってる意味が分からんわ!裏切者が出たのか?」

 慌ただしく入って来た伝令の報告に思わず怒鳴り返す。


「い、いえ。先日商人に買い取られた筈の我が国の船が、我々の船の退路を断ち、今制圧されたと報告が届きました。」


「ななな、何ぃ~!では例の商人はまさか、ダモクレス王の仕業か!」


 尚、流石に侵略に使う予定の船だったとはアレスも知らない。

 だが有効活用した時点で誤解が解けようが意味は無い。


 事ここに至るとバーランド軍が帰国するには陸路で国境を突破するしかないが、そのためには折角制圧した王城を諦めるしかない。


「えぇい!全軍を城の前に集めよ!

 こうなれば数の利が通じる内に敵の中央を突破して、敵大将たる第一王子を討ち取るしかないわ!」


「はは!!!」


 伝令が駆け出し、側近達も城内の兵を纏めるため慌ただしく動き出す。

 破壊された宝物庫が空同然だった以上、中身は持ち出されたと見るべきだ。


 だがバーランド王の決断は数手遅く、何よりアレス王子に正面から物量をぶつけ合う気など更々無かった。



「さあ、城内から敵を駆逐するぞ!全員私に続け!!」


 地下の脱出口から城内に戻った第二軍が、敵を突破した第一軍と合流して城内の敵兵の掃討にと乗り出す。


(うん。一応遠回りとは言え二軍に追い付くか。

 やっぱり私が前に出ると、当分は軍の経験にならんな。)


 敵が戦力を集め始めたので先手を打って強行突破したが、見渡す限り一桁LVの敵しか見当たらない。

 矢衾は全て弾き落とせて、何処から切りかかろうと先にアレスの刃が届く。

 ことアレスに限り、戦えば一方的な無双状態だった。


 ゲーム時代には経験値があったが、実際敵を倒し続けた者はゲームと同じように身体能力が上がる。『鑑定眼』スキルを使えばその成長速度差は明らかだ。

 強敵と戦えば戦う程、敵を討ち取れば討ち取る程。

 敵味方共に、明確に身体能力が上がっていく。


 この世界はゲームではないため現実に即した理解が必要だが、確かにこの世界は経験値に加え、スキルや魔法といった前世では有り得ない特色があった。


(『神速』スキルは確率発生だけど、要は踏み込みのコツだから敵の呼吸を掴めば先手を取るのは難しくない。

 技確率でダメージ倍増する『必殺』スキルは取らなかったが……。)


 軽装備中心の騎士なら一太刀で首が飛ぶ。急所を狙う余裕は優にある。

 恐らくこの急所攻撃や一撃死状態がクリティカルヒットになるのだろう。



 そしてアレスが有するスキルは作中でも類を見ない計十個。


 1『鑑定眼』、2『浄化』、3『鉄心』、4『見切り』、5『神速』、

 6『連撃』、7『竜気功』、8『☆奥義・魔王斬り』、9『☆奥義・封神剣』、

 10『☆奥義・武断剣』。


 この十種になる。



『鑑定眼』は何度も使っているステータス看破。視認した相手にしか使えないが、ゲームではマップ内の敵全てのステータスが把握出来る理由付けスキルだった。


『浄化』『鉄心』は揃うと全ての状態異常を無効化出来る。今回は関係無い。


『見切り』はゲームでは敵のスキルを無効化して発動させないスキル。こっちではスキル化している動作を事前に察知出来る、直感に近い代物だった。


『神速』は技確率で先制攻撃。要は相手の隙をついて切り込む踏み込み動作。


『連撃』は反撃の隙を与えない切り返しの剣技、武芸動作の事だった。この動作のコツが何となく掴めて来るとスキルとして発現する。


『魔王斬り』『封神剣』『武断剣』はそれぞれ通称で☆奥義と呼ばれるキャラ専用の切り札スキルの事だ。修得してみた結果、それぞれ秘奥義といった、独特の動作を含んだ武技の様だった。

 これもオーバーキルにしかならないので、当分使う気は無い。


『竜気功』は以前も語った通り、魔法や物理ダメージを半減させるスキル。因みに一部ボスと竜種族だけが使える半体質スキルだ。

 対竜武器などで無効化出来るが、基本は常時発動式。正直意識する必要は無い。

 当たれば普通に痛いし、単に打たれ強い以上の代物では無いからだ。



 こうして実際に上げると敵にほぼスキルが無い今、有効なのは三つだけだ。

 『神速』『連撃』『竜気功』。たったこれだけにも関わらず、アレスは未だ掠り傷一つ負っていない。


(LV差があると、前世とは比較にならないくらい一方的だな。

 しかも意図して急所を狙えば、ゲームとは比較にならない程に敵を倒し易い。)


 これがさっきまでの自分とベルファレウス皇子との関係だと思うと、そら恐ろくなる。任意発動の『鑑定眼』スキルで見た王子のLVは30越え、今アレスとこの場の誰よりも、全てにおいて差が開いていた。


「敵を倒すのを躊躇うな!今この場で倒せなかったら、次に犠牲となるのは我々の家族だというのを忘れるな!」


 先頭で連戦となった部下は、敵を倒したタイミングで合図を出して交代させる。

 ゲームではよくやった戦術だが、現実でも少人数の内は有効らしい。


 ゲームと違うのは連戦すると疲労で息切れして、目に見えて戦い振りが拙くなり始める所か。体力は数値化されてないだけで、現実には存在する。


 如何に勝てようが連戦は愚策だ。ゲームと現実は違う。

 この違いを把握して戦術を立てないと、何れは足を掬われるだろう。


「怯むな!落ち着いて戦え!我々は勝てる戦いをしている!」


 倒れ込んだ兵士の背を押して割り込み、敵の剣を弾き飛ばして下がらせる。

 丁寧に檄を飛ばし、味方の被害を減らす様に心掛ける。自分一人が強くても兵士達が弱ければ孤立する。


 ゲームには士気など無い。ゲームであった頃すら、死んだらほぼ蘇生出来ない。

 生まれ変わりもやり直しも出来ないのだから、丁寧に、丁寧に味方に経験を積ませてこの戦いを生き延びさせる。


 やがて城門周りの中庭の敵兵は、概ね倒し終わって倒れ伏していた。

 敵の大部分は城外に追いやられ、ダモクレス城は既に奪還出来たとみて間違いは無いだろう。

 後は未だに諦め悪く、城門の外で集結して抵抗を続けている一団だけだ。


(とは言え、乱戦になると被害も大きい。ここらで決着を付けたいが……?)


 この世界、回復魔法自体は一般的にあるが、魔法職も回復職も専門家だ。

 はっきり言えばアレス達のいる北方地方では医者の方が多いくらい。

 ダモクレス王国に至っては、公的な回復職で生計を立てている者は一人もいない程のド田舎だ。


 それもその筈。ゲームであれば作品上の都合と言えたが、実際の理由は魔法の修得は個人負担になるとお金がかかり過ぎる。

 言ってしまえば魔法使い一人に、小部隊一つ分の装備と同じくらい必要だ。


 怪我人の治療は特に難しく、城や砦には怪我人の回復力を促進させる専用の結界を用意し、普段の回復魔法の代用としている。

 この世界に於いては時間さえあれば部位欠損以外の大抵の怪我は回復する、城の価値は計り知れない程に大きい。


(部隊同士の殲滅戦なんて、本来はやるべきじゃないが。

 何故バーランド軍はここまで粘る?ここまで負けて何故撤退しない?)


 既にここ以外の兵士達は逃走を始めていると伝令が届いた。

 バーランド王とていつまでも残ってはいないh……。


「あぁ!き、貴様アレス王子だな!

 貴様にバーランド王の名において一騎打ちを申し込む!

 だから部下の誰にも手を出させるな!」


…………えぇぇ……?

 何で?隠れてたの?今の今まで後ろで声も上げずに?指揮も取らずに?

 いやいや。そもそもこの王様、撤退する機をかなり逃してやがる。


「お、おう。良いんだな。本当に一騎討ちで良いんだな?」


「勿論だ!我こそは近隣諸国に知られたバーランド国王ぞ!

 尋常なる果し合いを望む!さぁさぁさぁさあっ!!」


 鑑定。

【バーランド王、LV5。~略】


「あ、はい。全員、騎士の名誉に賭けて邪魔しないよーに。」

 あんた、部下と一緒に襲い掛からないと勝ち目無かったよ。


「バーランド王、討ち取ったり!もはやこれ以上の戦闘は無意味である!」


 勝利の笛の音と共にアレスの名が高らかに叫ばれ、敵味方から歓声が上がった。

 どうやら想像以上に反感を買っていたご様子であった。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


「そうか、もう行くのかい。」


「ああ。生きとったんなら王位返上するぞワレ。」


「断る。戻って来れた君は救国の英雄だ。

 兄より優れた弟のいる小国王なんて、真っ平御免だね。」


 小粋なジョークと笑いの溢れる会話。我々の兄弟仲は良好です。


 ここは奪還したダモクレス城。勝利した翌日。

 落ち着いたら兄は、山中の隠し砦で治療を受ける手筈となっている。

 当分王城は使えないので、残る物資は全て持ち出す予定だ。


 あの後改めて父と同じ墓に入れる心算で戻って来たら、意外と気力を取り戻していた兄と再会した。どうもアレスの治療で内出血は止まっていたらしい。

 滲み出した血は、元々包帯に浸み込んでいた分だった。


 血圧が下がり過ぎていただけで、実はアレスが治療した段階で峠を越していたのでは無いかと言うのが、王家主治医の見立てだった。

 今は未だ出血過多で歩けないが、半月もあればベットから離れられるとの事。


 詰まり、王の立場に兄が入っただけで、当初の予定にも変更は無かった。


「まあ折角助かった命だ、精々無駄にせず後方で支えさせて貰うよ。」


 バーランド王国は未だ陥落していないし、事情を聴いた漆黒騎士団が取って返す可能性も無くなった訳ではない。

 今のダモクレスは、下手な戦力を保持する方が危ない。


「ま、今更言っても始まらない。先王陛下の墓と民草は兄さんに任せる。

 王宮から持ち出せる物も、旗や壁飾り以外は全部持ち出したよ。」


「ああ。捕虜達も全て船に乗せたんだろ、後は出港するだけだ。

 次に会う時は、多分全てが終わった後になるな。」


 出発に時間をかけたら無政府状態を主張出来ない。だから出発は今日中。

 そして今度は本当に、生きて再会出来るか分からない旅に出発だ。


「元気でな、兄さん。」


 診療所を出たアレスは城を出ると、馬を走らせて港へ向かった。

※お正月連続投稿。元旦1日から4日まで、毎日一遍ずつ投稿致しております。

※次回からは土曜投稿の予定です。


あれす「ステージクリア時にファンファーレなるじゃん?

 アレ味方の伝令が鳴らす、敵総大将を討ち取った合図。」

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