つまり
痒志は朝のホームルームの前、朝ぶつかってきた無礼なアイツの事を考えていた。
(ぶつかった癖に何も言わないなんて。なんて無礼者!失礼しちゃうわ!)
しかし痒志は、そんな無礼者の事が大脳皮質の皺の一つに挟まって取れないのだ。
(もう……なんであんな奴の事なんかが……)
そんなことを考えていると、カバンの隙間からマトリョウシカが覗いて、ニヤニヤと痒志を見ている。
「何?文句でもあるのかい?廉太郎。」
「いいや?……それにしても初々しいねえ、若い時を思い出すよフツフツフ。」
二人の会話はいつも通りだが、痒志はいつもと違って落ち着かなかった。
(風が違う……)
朝のホームルームが始まると、教師が開口一番こう言った。
「このクラスに転校生が来ます。」
途端にざわつくクラス。
「はい、静かに。じゃあ転校生に入って来てもらおうか。……早く来いよ下さい」
痒志はそれまで転校生なんかどうだっていいというような様子で窓の外を見ていたが、転校生の顔を見ると、驚いて机の上に頭を当てると、
「お前は……!」と叫び、そして何事もなかったかのように座った。
そう。転校生は而男だったのだ。
そして教師は空いている席を(中略)なったのだ。
「これからよろしく。痒志。」
「そうだな。お隣さん。」
空を燕が飛ぶいい日だった。