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AA  作者: 碧乃苑
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何とも合わない三人がその場に座っていた。


そのうちの一人の少女の近くには馬が立っている。

しかも、少女は銀色に光る鎧を着て、腰には剣を佩いている。


心利はその剣をチラチラ見ながら心の中で溜息と涙を流した。


なにせ、今自分の目の前には歴史の偉人が二人もいるのだから。


一人は一万円、もとい福沢諭吉。

もう一人はフランスを救った英雄と云われているジャンヌ・ダルク。


歴史家がこの場に居合わせたら歓喜の叫びを上げるだろう。


しかし、心利は恐怖の叫びを上げそうになっていた。

なぜなら、二人とももうすでに死んでいるのだから。


膝を抱え込み座る心利を見て、ジャンヌはその肩に手を置いた。

その動作すら恐くて、心利は肩をビクリと震わせた。


「ぁ…ごめんなさい」


さ、と引っ込められた手。

項垂れるジャンヌを見て、心利は慌てる。


悪い人じゃないということは分かっているのだ。

それなのに、体は言うことを利かなくて…


お互いがモジモジして一行に話しが進まない中、福沢さんは何も言わなかった。


「ぁ、えっと…その…ジャ――」


「いい加減にしてくれーっ!」


突如、心利の声を遮って響いた声。

その声の主は、職員室の隅に置かれていたダンボールの中から飛び出してきた。


20代ぐらいの男だろうか。

心利の中で(悔しいが)一番かっこいいハルに追いつくとまではいかないものの、それなりに顔の整った男が、ワーワーと喚きながらこちらに近づいてきた。


「何なんだい、君達!モジモジモジモジしちゃってさ!つき合ったばかりの彼氏彼女(カレカノ)かい!?」


ポカーンとする三人。

いったいこの男は誰だ、という視線を向けられながら、更に男は喚き続ける。


「言いたいことがあるならさっさと言っちゃえばいいだろ!?それをいつまでもウジウジと!ほら、二人とも握手して!」


グッと手を掴まれて無理矢理握手をさせられる。

その光景に満足そうに笑う男。

呆然としていた心利とジャンヌも、つられてはにかみながら微笑んだ。


「そうそう。仲良くなりたかったらまずは握手握し――」


「じゃねぇよ、このバカ男!」


ガンッ


突然、怒声と痛そうな音が男を直撃した。

その音に比例するように、白目を剥いて倒れた男。

そして、その怒声を上げた人物を見て、心利はギョッとした。


「ハル!?」


ハルはうっすら額に汗を浮かべ、乱れた息をしているものの、心利を見ると口角を上げて笑った。


「何してるんだ、図書委員」


「そっちこそ。天下の天照ハル様が焦ったご様子で。いったい何がありましたか?」


「お前に言う理由はない」


その言葉に、心利はズカズカとハルの元まで歩いていくと、キッとハルを睨みつけた。


「ここまで巻き込んでおいてよくそんなことが言えるわね!私はただハルのことを心配してっ……え?」


言いかけた言葉にハッとし、口を押さえる。


心配?

え、誰を?

…ハルを?


そんなわけない!と頭に浮かんだ言葉を振り払う。


ハルがどうなっても私には関係ない。

元々こいつが引き起こしたことなんだし。

どうなっても…いい、はず。


「おい。なに、似あわない顔してるんだ」


「似合わないって何よ!」


バッと顔を上げ、再びハルを睨む。

それなのに、ハルはニッと笑っている。


「そっちの顔の方がいい」



それが、初めて見たハルの本当の顔だったのかもしれない。



頭脳明晰で運動神経抜群でルックスもいい天照ハルの、本当の顔。

それは、どこにでもいるただの中学二年生。



じゃあ、噂の天照ハルって、いったい何?



その瞬間だった。


私が見えたのは、目を見開いて立ち尽くすハルの顔。




いったい何が起きたのか、私には理解できなかった。


だって、すぐに私は真っ暗な世界に堕とされたから。








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