一万円
躓きながら廊下を走り、一階の職員室前に辿り着いた。
悲鳴の主を捜して辺りを見渡すが、人っ子一人いないどころか、先に飛び出していったハルの姿も見えない。
迂闊に声を出すのも躊躇われ、一つずつ教室を確認していくことにする。
カラカラカラ…という音をたてて開いた職員室の扉。
やはり中には誰も居ず、イスや机が倒れていたりする意外はいつもと変わりなかった。
何かいたらいたで恐いので、心利はほ…と息をついた。
次の教室に行こうと扉を閉め、職員室の隣にある会議室へと進むため振り返った時、顔にドンッと軽い衝撃が起こる。
「…ん?」
ヒョイッと上を振り向き、一拍。
「っ…ギャァ――」
しかし叫び声を上げそうになったその口は、ぶつかった相手によって素早く塞がれた。
「し、静かにしなさい」
キョロキョロと辺りを見回しながら肩を震わせるその和服の人物は、大人も子どもも欲しがる有名なあのお札。
(い…一万円!?)
心利は目を点にさせてその人物、一万円もとい福沢諭吉を見る。
その間、一万円さんは心利の口を塞ぎながら職員室の扉を開け、中に心利もろとも入りこんだ。
職員室の中に入った一万円さんと心利。
一万円さんは心利を手近なイスに座らせ、自身も床に正座をした。
最初に切り出したのは一万円さんだった。
「――あなたは、天照ハル殿とご学友の方ですね」
「ぇ、あ、はぁ…まぁ」
あいつがちゃんと“学”をしているのかを疑問に思いながら、心利は曖昧に返事をした。
「私は福沢諭吉といいます」
「一…福沢さん、ですか」
「はい」
「あの…福沢さんって、たしかもう死んで……いぇ、別に何でもないです」
福沢さんは私の言葉に微かに反応し、目を落とした。
「確かに、私はもうとうに死んだ人間です」
「そうですか…ぇ、は?」
心利は目を白黒させながら福沢さんを見つめ、頭の中に渦巻く今さっき福沢さんが言った言葉を反復する。
「死んだ…人間?」
ふら…と、一瞬トびかけた意識を戻し、心利はイスから滑り落ちてその場にへたりこんだ。
昨日も今日も、いったい何が起こってるんだ?
考えれば考えるほど頭が痛くなり、心利は深い溜息を零した。
原因は分かっていた。
あいつだ。
あいつしかいない。
「あの、ハル…天照君とはどういった関係で?」
「聞いていないのですか?」
何を…と尋ねようとした瞬間、ガシャァァンッッ!という音が職員室、学校中に響き渡った。
シャァァン…と校内に響く音を聞きながら、心利は目の前の人物に口をポカーンと開けて見上げる。
「あなた達、いったいここで何をしているのです」
何とも勇ましい女性騎士が、馬に乗ってこちらを見ていた。
ヒロインちゃんしか出てません=計画性がない。
福沢さんが個人的に好きです。
いや、一万円が好きなのか?