生贄
音子心利、中学二年生。
極々普通の家庭に生まれ育ち、極々普通の私立中学に進学。
そして、極々普通の平和な日々を生きてきました。
魔法や異世界に興味がないわけでも、科学を絶対的に信じてるわけでもない、ただの本好きの図書委員でした。
でも、今日から過去の自分を捨て去ろうと思います。
魔法ってあったんですね!オバケっていたんですね!
その証拠は、今、私の目の前にいるおばあさん達。
ニヤニヤとこちらを見ながら、給食室から持ってきたと思われる大鍋(アルミ製)の中身を大きなしゃもじでかき混ぜている。
さっきから見てましたけど、その中の赤い液体。
理科室から持ってきた変な薬品で作ったんですか?
白い何かが浮いてるのは気のせいですよね。
私、何も見てませんから。飼育小屋の鶏が入れられるところなんて。
本当、何も見てないんです。見てても頭から消します。
あ、ちょっと…髪を掴まないでください!
痛いです痛いです!痛いって言ってるでしょ!?
学校に来てみると、クラスの人が謎の生物と入れ替わっていた。
と思えば、実は全校規模で入れ替わっていた。
クラスメイト(?)の突然の変貌に呆然としてしまい、心利は何の抵抗もなく縄でぐるぐる巻きに拘束された。
そして、あれよあれよという間に、ぐつぐつと煮え滾る大鍋に放り込まれようとしていたのだった。
後ろは黒服おばあさん達に囲まれ、逃げられなくなっているこの状況。
こういう状況を絶体絶命というのだろうか。
(こんな訳の分からない最期なんて嫌だーっ!)
所詮、心の叫びは心の叫び。
誰に聞こえるまでもなく、心利は突然出てきた大男に担ぎ上げられ、赤い液体が煮え滾る大鍋に向かって放り込まれた。
死ぬ間際、人は今までの人生を走馬灯のように思い出すらしい。
私には、そんな人生を振り返る時間も与えらなかったけど。
落ちる落ちる堕・ち・る…。
『心利』
「……ぉに、ちゃ…」
ガシャァァアンッッ!
最後の記憶は、何かが割れる音と深い緑。
このヒロインちゃんはよく気絶しますね。