表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AA  作者: 碧乃苑
46/46

逃亡劇




教卓の裏で息を殺して暫く。

どれくらい経ったかは分からないが、不意に冷気が少し修まった。


が、それと同時にミシリ、ミシリ…という音が教室に広がる。

その音は徐々にこちらに近づいてきて……。


嫌な汗が頬を伝う。

背筋を何かが這いまわるような感覚が襲う。

背後にいるハルも、体を強張らせていた。


ミシ、ミシリ……


すぐ側で止まったその気配に、ギュッと目を閉じた。


「いやぁ~、熱々ですね。お二人さん」


「……へ?」


そぉ…っと目を開けてみると――


「久しぶり、心利ちゃん」


「……京、さん?」


相変わらず空気を全く無視して爽やかに笑う吉川京さんがいた。


「な、何でここ」


口を開いた瞬間、ドゴッと鈍い音がして京さんが壁に吹き飛ばされた。


「っ……たいなぁ、ハル君」


顔を歪ませてお腹を押さえる京さん。

私は隣から発せられる怒気と殺気に体が強張るのが分かった。


「お前か……」


「ハハハ、何のこと?」


「お前があいつを……」


「だ・か・ら。何のことか分からっ」


京さんの言葉を最後まで聞かず、再びハルは京さんに殴りかかった。

が、次は拳を受け止められ、ハルは苦虫を噛み潰したような顔になる。


「血気盛んなのはいいけど、そんなことしてていいわけ?

 早くしないと、また彼女が――」


意味深なことを言いながら京さんは薄く笑み、ハルの手を離した。

忌々しげにハルは京さんを一瞥すると、私の手を掴んで教室の出口に向かって歩き出す。


「えっ、ちょ、ハル?どこ行くの?」


「逃げる。学校から」


「逃げ……っていうか、京さんは」


引っ張られながら振り向くと、教卓付近には誰もいなかった。


「え……何で?」


確かにさっきまでそこに京さんはいたのに、一瞬のうちで誰もいなくなった。

辺りを見回してみるものの、教室内には私とハル以外誰もいない。

訳が分からず首を傾げるが、その理由を今ハルに尋ねることは無理そうだと思い、引っ張られるまま私は廊下に出た。




「あー……まったく、思いっきり殴りやがって」


さっきハルと心利がいた教室とは反対側の教室の壁にもたれ、京はグレーのポロシャツを捲った。

白い肌とは対照的に、腹には青黒い痣が出来ていた。


「加減ってものを覚えてほしいもんだね……っ」


微かに顔を歪め、その場に座り込む。

殴った本人の顔が頭をちらつき、ついつい口角が釣り上がるのが分かった。


あの子の周りでは何て面白いことばかり起こるんだろう。

あぁ、楽しい。

楽しくて仕方がない。


思わず笑い声が漏れそうになるのを堪える。


これから一体どんなことが起こるのだろう、と想像しながら。




一方、京が反対側の教室にいることに全く気付かず、ハルと心利は階段を駆け下りていた。


先程まで弱くなっていた冷気は、階下へと向かうごとに、再びその強さを増していた。

おそらくさっきの女は一階にいるのだろう。

この冷気は女が近くにいればいるほど強くなった。

つまり、冷気の弱い場所にいれば安全だろう。

しかし、それでは学校を抜け出すことは出来ない。

朝になってこの騒動が終わるとも限らない中、学校内に居続けることは自殺行為だ。

それにこのまま朝になって生徒が登校してくれば、騒ぎは更に拡大するばかりだ。


ならば結論は一つしかない。

ハルは後ろから必死に後を追ってくる心利を見て、唇を引き締めた。


何よりも先に、彼女を守るために。









やっと続き書けました。これだけ書くのにどれだけ時間かかってるんだ、自分ww すいえば、第一シリーズなんですが、現在裏で加筆修正中です。前からちょくちょく書いてますが、何話かにまとめちゃいます。けっこう大幅に加筆が増える可能性があります。申し訳ありません。それでは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ