賭橋朱音
白い靄が立ち込める教室の中、心利はとりあえず相手が誰かを聞くことにした。
「えーっと……あなた」
「あっ、賭橋です。賭橋朱音」
「朱音、ちゃん」
聞く前に答えられ、躊躇いながら名を呼ぶと、その子の表情はパァッと明るくなった。
「私、心利ちゃんの隣のクラスの図書委員なんです」
「隣……ってハ、じゃない……天照君のクラス?」
「はいっ、そうです」
ハルと同じクラスということが分かって、ハッとした。
そういえばこの子、知ってる。
あの怪事件に巻き込まれるきっかけになった事。
前回の委員会で、司書の先生が隣のクラスの図書委員が休んでるからって、私は仕方なく隣のクラスの中で期限切れをしている人をチェックする仕事を引き受けたのだ。
そのクラスの図書委員が、賭橋朱音。
けっこう長く休んでいたから、私はその間ずっと隣のクラスの分まで期限切れのチェックをしていた。
そこに毎回載る名前がハルで、ついにあの日私はキレてハルの家に押しかけたわけだけど……
(あのまま放っておけばよかった……)
後悔先に立たずとは言うけれど、振り返ってみればあれが私の人生のターニングポイントだったのかもしれない。
項垂れながらそんな事を思っていると、不意に誰かがギュッと腕を掴んだ。
まぁ、誰かと言っても一人しか居ないんだけど。
「……朱音ちゃん、どうかした?」
「……来る」
「……は?」
「あの人が、来るよ。心利ちゃんの、大切な人」
遠くを見つめるように白い靄に向かって話す朱音ちゃん。
目は光を失って、まるで人形のように淡々と言葉を述べていく。
「……朱音ちゃん、どうし」
「心利!」
私の言葉を掻き消すように、声が響いた。
声に反応してそちらに顔を向けると――
「……ハル」
名前を呼んだ瞬間、ハルが消えた。
「えっ、ちょ、何!?」
慌ててその場に駆け寄ると、消えたのではなく床に倒れているだけだった。
「……紛らわしい」
ほっと息をついてしゃがみ込む。
ハルは小さな寝息をたてて死んだように眠っていた。
(……いつもこういう顔でいればいいのに)
いつもの冷たい表情と違うハルを見て、私はそういえばこいつ同い年だったな、と思い出した。
「……老け顔?」
思ったことを口に出してみたらちょっと吹きかけたので、口を押さえて笑いを堪えた。
しかし、ハルが寝てしまったということはこの状況を打破する術が無くなったということで……
「……仕方ない。ここは心を鬼にして――」
心利は教室の掃除ロッカーに入っていたほうきを勢いよく振り上げ、ハルの頭目掛けて振り下ろした。
が、寸前で受け止められる。
「お前……殺す気か!」
条件反射でほうきを受け止めたハルは、今しがた自分を殺しかけた相手を睨んだ。
当の本人はそ知らぬ顔でほうきをハルの手から開放すると、仁王立ちをして言った。
「起きて。あんたよくこんな状況で寝てられるわね」
そんな心利の態度にムカつきながらも、ハルは立ち上がって状況を確認するかのように辺りに視線を走らせた。
そしてその視線は一点で止まる。
「……あいつ」
視線の先には変わらず魂が抜けたような朱音。
「あの子、賭橋朱音ちゃんって言うんだよ」
「知ってる」
「……あっそ」
せっかく教えてあげたのに、と剥れながらもハルの表情を見ると、先程怒っていた時よりも更に厳しい表情をして朱音ちゃんを見ていた。
(見てるっていうより睨んでる……)
あの子に何か恨みでもあるのか?と思っていると、急にハルが手を掴んで走り出した。
「ちょ、ちょちょちょ……ハル!いきなりどうしたの!?」
聞いても返事はなく、私はハルに引っ張られながら廊下を爆走する。
「……心利、絶対振り向くなよ」
走り終えてどこかの教室に飛び込んだ時、ハルがそう言った。
名前変えるかもです。タイトルの子。 というか、ホラーってどう書けばいいんだろ。誰か!ホラー書ける人助けて!;;;