崩壊
風に髪が靡く。
肩ほどの長さの髪は、心利の数少ない自慢でもあった。
柔らかくて気持ちのいい手触りが好きだと家族も褒めてくれて、それから心利は肌の手入れは滅多にしなくても、髪の手入れだけは毎日怠ったことはなかった。
ローファーのつま先で地面を叩き、しっかりはき直す。
ハルが家の方に連絡もしくれたらしく、(何と言ったのかは不明だが)このまま学校に向かう。
因みに、ハル宅の朝食はとてもおいしかった。
イギリスの伝統的朝食らしく、特に印象に残ったのは“焼きトマト”だった。
焼いたトマトなんて食べれるのか…と最初こそ不安だったものの、食べてみると予想外に美味しかった。
これからは食わず嫌いはやめるようにしよう。
「門まで送る」
昨日と今日で気づいたこと、その1。
・ハルは意外に紳士だったりする。
どこからどこまでが紳士という基準は分からないけれど、部屋を出る時扉を開けて待っていたり、朝食の時も、私より早く食べ終わったのに、ずっと食べ終わるのを待っててくれた。ついでに食器も片付けられて。
今だって門まで送るって…。
そういえば、こんな紳士な国があったなぁ…どこだっけ?
ぐるぐるする思考回路の中で考えながら、ハルの後をついて昨日来た道を戻っていく。
不思議と、昨日は不気味に感じた雑木林や門の装飾にも何も感じなかった。
朝だからだろうか?
「もう来るなよ」
その言葉にムッとしたものの、門を開けて待っていてくれるハルはやっぱり紳士だった。
「頼まれても、もう来ないからどうぞご安心を」
嫌味も含めてそう言い返すと、一瞬。
ほんの一瞬だけ、ハルが哀しそうに笑った気がした。
「俺がお前に来てください、なんて頼むかよ」
前言撤回。
こいつに哀しいなんて感情あるわけない。
これ以上つき合ってられるか。
カバンを一回だけブンッ、と振り回すが、簡単に避けられてしまう。
「後30分で遅刻だぞ?さっさと行けよ」
「言われなくても行くわよ!」
あぁ、もう本当に頭にくるっ!
いつか絶対ギャフンと言わせてやる!
肩を怒らせながら遠ざかる芯利を見送ると、ハルは門を閉めた。
戻ろうと振り返ると、黒い軍服を着た男が立っていた。
男は無言で軍服の内ポケットから丸い鉄の塊を取り出すと、一番上に付いていた丸い輪を引き抜き、ハルに向かって放り投げた。
「……チッ」
カッ
辺り一面を光が包み込んだと思うと、次いで爆風と衝撃がハルを襲った。
小さな舌打ちは爆音にかき消され、辺り一面に砂煙や木の枝が舞った。
――…キーンコーン
間一髪で教室に滑り込んだ心利は、担任の先生が来る前に慌てて自分の席に着いた。
「珍しいね。心利が遅刻なんて」
声をかけてきたのは見かけない女の子で、こんな子クラスにいたかなぁ…と記憶を探ってみても、思い当たる人物はいなかった。
しかし、向こうが知っているならこちらも知らないふりをするわけにもいかず、適当に話を合わせることにした。
「あー、うん。昨日ちょっと夜更かししちゃってさ」
「ふぅん。何してたの?」
「本、読んでて…」
おかしい。
何かが、おかしい。
こんな子このクラスにはいなかった。
昨日ずっとこのクラスの名簿を見ていたし、これでも記憶力はけっこういい方だと思う。
それに、この子には――
「あ…そ、そろそろ先生来るよ?早く席に……」
「来ないわよ」
…ぇ?
「先生なんて、こナいワヨ?」
あぁ…今日一日家で安静にしてればよかったな。
ボキッ、バキッ、という音をたてて変形していく目の前のこれは人間なのでしょうか…?
グロイの好きd((殴