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AA  作者: 碧乃苑
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琳と涙



コト…という音とともに、前のテーブルにティーカップが置かれる。


紅茶のいい香りがしたが、飲む気は起きなかった。


それとは正反対に、琳と涙はミルクを入れ、美味しそうに紅茶を飲んだ。


そのカップが置かれた時、今までニコニコと笑っていた二人の顔は豹変する。


「さて、と。どこから話をしようか」


「とりあえず、心利とどうやってまた会ったのか聞かせてほしいわね」


口は笑っていても目は笑っていない。

ハルはゴクリと喉を鳴らした。



この間の事件。


話しながら思い返していると、つい昨日のことのように思える。


「…なるほど」


話し終えると、琳さんはそう呟き、二人とも口を閉ざしてしまった。

眉間に皺を寄せ、テーブルを睨みつけている。


しかし、不意に顔を上げたかと思うと、眉間に皺を寄せたまま、言った。


「それにしても、何で心玖君は僕に会いに来てくれなかったのかな?」


「……は?」


思わず呆けてしまう。

今の話で食いつくところがそこか?


「琳君知らなかったの?心玖君、琳君がいつも周りにいて鬱陶しいって言ってたわよ」


「えっ」


「嘘よ」


「ちょっと、涙!」


お互いがじゃれ始め、一人放置されるハル。


なんだか馬鹿らしくなり、淹れてもらった紅茶を飲む。

雨で冷えていた体が温まり、俺はほぅ…と息をついた。


「フフフ」


「…うわっ!」


気を緩めていたため、気づかなかった。


俺が紅茶を飲んでいるうちにじゃれ合いは終わり、二人がニコニコしながらジッとこちらを見ていた。

思わず仰け反りそうになる。


驚かされたせいで心臓もバクバクとうるさく鳴っている。


「やっと元の表情に戻ったわね」


「…ぇ?」


「あなた、力が入りすぎなのよ。顔も怖かったし…それじゃ心利ちゃんに嫌われるわ」


「え、あ…」


「私達、あの時(・・・)の事は気にしてないの。あの後も心利ちゃんと仲良くしていってほしい、って思ってたのよ。

 それなのに、ハル君家に来なくなっちゃって…

 心配したわ。琳君なんかチャイムが鳴るたびに勢いよく飛び出していってたしね」


ふふふ、と笑いながら、涙さんは言った。


「俺…俺は……取り返しのつかないことを、したんです」


「私達にも責任はあったわ。あの本(・・・)をしっかり管理していなかった私達にもね」


「でも…」


「これ以上言うのなら、その口にガムテープを張るわよ?」


ニコッと笑ってそう言う涙さん。


背筋に冷たいものが走ったのは気のせいだろうか。


「ハル君のせいじゃない。

 本当の話(・・・・)を聞いて心利がもしもあなたのせいにしたら、それは心利じゃない。

 あの子は、そんな子じゃない」


ぽた…とテーブルに雫が落ちた。


「あなたまだ14歳なのよ?

 そんな大人ぶらないで。一人で全部、抱え込まないで」


ぽた…ぽた…と、更に雫は落ち続ける。


「困ったらみんなで助け合わなくちゃ。

 ね?」


静かに紅茶がティーカップに注がれる。


俺は右手で涙を拭い、再び紅茶を飲んだ。


「言いたいこと、全部(ルイ)に取られちゃったよ」


「…そうですね」


控えめに俺が笑うと、琳さんはニ、と笑ってティーカップに再び口をつけた。


肩の重荷が、無くなった気がした。








音子家の序列は絶対「琳<心利=心玖<涙」だと思う。

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