両親
「あの子は大丈夫?」
「うん、気絶してるだけ」
私が突き飛ばしたせいで気絶したハル。
戸口に立っていた男女――私のお母さんとお父さんは、呆れ顔で「部屋に運びなさい」と言った。
まぁ、一人で運ぶのは無理だからお父さんに手伝ってもらったんだけど。
「それにしても、心利ちゃんに彼氏が出来るなんてね」
お母さんは旅行のお土産を棚に片付けながら言う。
「ち、違うって!ただの友達だから!!」
誤解されてから何回言ったか分からないことを繰り返す。
しかし、お母さんはそんな言葉は聞こえていないかのように「かっこいい子だったわね」なんて言っている。
だから、違うんだってぇ…。
私はガクッと肩の力を落とし、ソファーにもたれた。
ちょうどよくお父さんもリビングに入ってきて、私の向かいのソファーに腰を下ろす。
「暫くしたら目を覚ますだろう。そしたらちゃんとお父さんに紹介するんだぞ」
「だから違う…っ!」
お父さんもそう思っていたのかと、私は慌てて否定の言葉を言ったが、お父さんは最後まで聞かずにお母さんと旅行の片付けを始めてしまった。
旅行の感想を話しながら、楽しそうに片付けをする二人。
そんな二人を見ているともう否定するのも面倒くさくなって、私はソファーに寝転んだ。
天井を見上げてぼーっとしていると、電気の光が視界の中でグルグルグルグル回る。
その動きに自然と視線もつられて動き、そのうちだんだんと瞼が重たくなってきた。
「……ねむ」
ポツリと一言呟き、私は完全に瞼を閉じた。
心利が目を閉じ眠りについたのを確認すると、父――音子琳は小さく息を吐いた。
「はぁ…自分の娘にこんなことをする羽目になるなんて……」
その右手の平の上には、青白い小さな光の玉が浮いている。
「しょうがないじゃない。琳君」
母――音子涙は、一つに束ねていた黒茶の髪を解き、チラ…とリビングの扉に目をやる。
それに合わせるように、琳も視線をそちらに向ける。
「入ってきなよ、ハル君」
その言葉が言われて数秒後、躊躇いがちに扉は開く。
「お久し、ぶりです…琳さん、涙さん」
扉の向こうには、俯き、暗い顔をしたハルが立っていた。
どこまでも秘密だらけ… 掘り返せば掘り返すほど多くなってる気がします。