雨音
その日は、夕方から雨が降っていた。
ピーンポーン、とチャイムが鳴った。
誰も居なかったから仕方なく玄関に向かった。
扉を開けて、驚いた。
「…ハル」
ずぶ濡れの少年が、立っていた。
「はい。これで拭いて」
タオルを渡すと、大人しくハルは髪を拭き始めた。
突然の訪問で驚いたが、そんなことよりハルがずぶ濡れでその場に立っていたことの方が、私は数倍驚いた。
慌てて中に入るように言ったが、ハルは首を振っていい、と言う。
仕方ないので奥からタオルを取ってきて、今に至った。
ガシガシと乱暴に髪を拭くハル。
しかし、不意にその手は止まって、タオルはズルズルと頭を滑り落ち、下に落ちた。
「…何か、あったの?」
明らかに様子がおかしいハルに、私は戸惑いながら聞いた。
返答は、無い。
「何かあったのなら、話聞くけど…」
やはり、返答は無い。
「ハル!」
痺れを切らして私が声を荒げると、唐突にハルは私の手をグイッと引いた。
「なっ…」
突然の行動に驚いていると、私はいつの間にかハルに抱きしめられていた。
「…は、はははハル!?」
おそらく真っ赤になっているであろう自分の顔。
上ずった声でハルの名を呼ぶと、ハルの腕の力は少し強くなった。
「……ごめん」
そう呟くハル。
何にたいして謝っているのか。
その声は、雨音に混じって、私の鼓膜を震わせた。
暫くそのままでいると、再びチャイムが鳴った。
しかも一回じゃなく、立て続けに鳴らされる。
(こ、これはまさか…!)
バンッ!
勢いよく開け放たれた扉の向こう。
そこには、サングラスをかけた二人の男女。
二人とも口を半開きにしたまま固まっている。
その視線の先には、ハルに抱きしめられたまま硬直する私。
「え、えーっと…」
女の人が、戸惑い気味に口を開く。
「心利ちゃん、その子彼――」
「わぁぁぁあっっっ!」
その人が次の言葉を発する直前に、私は勢いよくハルを突き飛ばした。
ガンッ!
ハルは何が起こったか分からぬまま、後頭部を玄関の床に打ちつけ、そのまま気を失った。
そんなハルを見て、男女二人は言う。
「心利ちゃんダメじゃないか。いくら恥ずかしくても彼氏を突き飛ばしちゃ」
その言葉に心利は更に顔を赤らめ、叫んだ。
「違ーうっ!」
心利の叫びが、その日音子家に響き渡った。
謎の男女襲来^^おおよそ予測はつくかと。