消える
下駄箱の影に隠れていたハルは、一松に呼ばれて姿を現した。
「…こいつがあの」
ハルの姿を見、生江は小さく呟く。
一松はというと、ハルに挑発的な笑みを向け、言った。
「さっきは冷たい態度とってくれたなぁ。久しぶりに再開した友達ゆうのに」
「誰が友達だ。俺は今のお前を友達なんて思ってない」
それを聞くと、一松はやれやれと首を竦めた。
「それはあんたのせいやろ。うちに言わんといてほしいわ」
「…うるさい」
「あの様子だと、心利ちゃんまだ思い出してないみたいやねぇ」
「………」
「大好きなお兄ちゃんの仇がすぐ側におるのになぁ」
「うるさいっ!」
瞬間、ガンッという音がして一松が勢いよく床に押さえつけられた。
ハルは一松の首をグッと掴み、離そうとしない。
「一ま――」
「生江!」
咄嗟に助け出そうとした生江。
しかし、一松に名を呼ばれ、生江はその場に踏み止まった。
生江が手を出さないこと確認し、一松はハルの方を向き直る。
「お前に…お前に何が……」
ハルはブツブツと何事かを呟いていたが、一松はそれを遮って、話した。
「ほんとのことやろ。お前があの日、あの場所に来なければ、心玖兄ちゃんは生きとった。
そして、私も生きることができた!」
そう言った瞬間、ハルは弾かれたように一松から離れる。
そして、驚愕に見開かれた瞳で呟いた。
「…やっぱり」
「なんや。確証なかったんか」
フンッとバカにしたように鼻を鳴らし、一松は立ち上がる。
そこにタタタッと生江も駆け寄り、二人はハルに冷たい視線を向けた。
「お前達、いったい…」
戸惑いの表情を露にし、ハルは問う。
「天照…これはまだ始まりやで。お前がうかうかしてるうちに、お前の大切な人間はみんな消える。
それが嫌やったら、死ぬ気で守ることや」
「…まだ、始まり……」
ハッとした。
まだ、始まり。
これは、あいつが言っていたことと同じだ。
『序章にすぎない』
あいつ――音子心玖も言っていた。
今回の事件は、序章に過ぎないと。
もっと大きな事件が、待ち受けていると。
「どうやら、心当たりがあるようやな」
一松の声に、現実に引き戻される。
「うちはお前の味方やない。
ほんとはこういうこと言うのアイツに止められとったんやけど…心利ちゃんが危険なめに遭うのは嫌やから、あんたに言う。
もしも心利ちゃんを守りきれんかったら、うちはお前を殺す。
覚悟しとくことや」
それだけ言うと、一松はさっさとその場を立ち去った。
生江とか呼ばれていた奴は、こちらに「ベー!」と舌を出して一松の後を着いていく。
残された俺は廊下の壁にもたれながら、ずるずるとその場に座り込んだ。
もうそんなにタイムリミットは残されていないのかもしれない、と思いながら。
ちょっと更新遅れました…すいませんι なかなか事件始まりませんねぇ。