鳴る
トゥルルルル
トゥルルルル…
コール音が鳴る。
暫くすると、ピッという音と共に、関西弁が鼓膜を奮わせた。
『なんやお前。今更何の用や?』
声に怒気を含ませて話す相手に苦笑しながら、男――吉川京は小さく笑う。
「その言い草は酷いなぁ。
ま、今日は口喧嘩する目的で電話したわけじゃないから」
そう言うと、相手は嘲笑する。
『フンッ。いつもうちをこき使うとる奴が何言ってるんや』
「まぁまぁ、落ち着いて。
それにこの話は君も興味あると思うよ」
『しょーもない事やったら…』
「大丈夫大丈夫」
京は笑いながら言い、ニィ…と口角を吊り上げた。
「音子心利について、って言ったら、君も興味を持つでしょ?」
『…話してみ』
それからニ、三言葉を交わし、話が終わるとさっさと通話を切ろうとする相手に、京は慌てて言った。
「くれぐれも、僕が言ったなんて口外しないでよ」
『あんた嫌われとるからなぁ。甥っ子に』
「ま、本当の甥じゃないからいいけどね」
『…うち、あんたのことほんま嫌いや』
呆れともつかぬ声で、相手は言う。
「僕はけっこう君のこと好きだけどなぁ」
『切る』
「え、ちょ、あっ!」
返答する前に通話は切れ、ツーツーと携帯から虚しく音が鳴る。
京は「はぁ…」と溜息をつき、終了ボタンを押して携帯をポケットに滑りこませる。
瞬間、後ろで「ギャァァァアッッッ!」という奇声が起こった。
その叫び声の方を向き、京はやれやれと肩を竦める。
「そういう事は地下でやってくれよ。兄さん」
兄さんと呼ばれた人物は、原型がつかなくなった物体を一瞥すると、縁側から中に入っていってしまった。
「相変わらずだなぁ」と呆れていると、珍しく向こうから声がかかった。
「準備は整ったか?」
「大体はね。後は流れに身を任せるしかないでしょ」
京は言いながら屋根から飛び降り、兄さんの顔を見る。
黒茶のその髪は、素直じゃない甥っ子を思い出させた。
それを見ながらニヤニヤしていると、兄さんは眉間に皺を寄せて俺を睨む。
「…アイツは動くか?」
しかし、来た質問はさっきの電話相手について。
「動く…いや、動かざるおえないでしょ。
あの子の心はまだあの頃のままなんだから」
そう言ってから、俺は入り口の方へと歩く。
「どこへ行く?」
兄さんのその言葉に、少し驚く。
いつもは人を気にかけようともしない人なのに。
「迎えにだよ。約束させられてね」
ヒラッと手を振り、その後は引き止められることもなく門を出る。
それを見計らったかのように、携帯が勢いよく鳴った。
着信は――
確認して、笑う。
ディスプレイに表示された名前は、天照ハル。
通話ボタンを押して、京は小さく呟いた。
「さぁ、いよいよだよ。
夜河一松ちゃん」
その声が通話相手に聞こえることは無かったが。
いよいよ第2シリーズ始動! 似非京都弁が飛び交う予感…←