帰宅
「じゃあ、行くね」
あの後、学校に置きっぱなしにしていた鞄を取ってきて、ハルの家に一泊した。
京さんとの間に何があったのか聞きたかったけど、お互いその後は何事も無かったように振舞っていたから、私もそんなことはどうでもよくなっていた。
一泊して朝食をとった後、時計を見たらいつも私が登校する時間になっていた。
私が家や学校に二日居なかったことは、ハルがどうにかすると言ったので、信じることにした。
そして私は、不思議な世界から離れていくことになる。
見送りに来てくれたハルと京さん。
京さんはもう暫くここに残るらしい。
あぁ、そうだ。
ハルの家に泊まっている間に知った事だけど、京さんはジャーナリストをしているらしい。
学校には取材で来ていたらしいんだけど、どうやってこの世界に入り込んだんだろう?
「心利ちゃん、また会おうね」
疑問に首を傾げていたとき、京さんがニコッと笑って言った。
「はい、また」
私も笑い返してそれに答える。
また、なんてあるか分からないけれど。
「それじゃ」
踵を返して門を開く。
ハルは、何も言わない。
分かってる。
今回のことは口外禁止っていう約束もさせられて、この門を出たらもう知らない人。
学校にも来ないし、来たとしても私はただの図書委員で、ハルは皆の人気者。
所詮、世界が違うのだ。
それでも――
開いた門の前で歩を止め、振り向きざまに笑って言う。
「さよなら、ハル」
それでも、引き止めてくれるかなって、期待したんだ。
走り去っていく心利の姿が見えなくなると、ハルは屋敷の方に向かって歩いて行った。
その後を、京も歩いていく。
「いいのぉ?ハル君」
挑発するように言っても、ハルは反応しない。
(素直じゃないなぁ…)
内心でそう思いながらも、京はそれ以上何も言わなかった。
当面の目的はそれではないし、人の色恋に首を突っ込む趣味もない。
それより今は、他にやることが山積になっている。
(ま、それにはあの子も必要になってくるし…)
少し思案気に腕を組んだ京は、思うが早いか、ニ、と笑ってハルの肩を叩いた。