信じる
「これで全て終わった」
赤い液体を飲ませて暫くすると、ハルが目を覚ました。
驚いたことに、血は止まってその傷口すらも塞がっていた。
そして目覚めてからは物凄い勢いで部屋中を駆け回り、いつの間にか右手にピンク色の液体が入ったビンを持って、左手にはなぜか広辞苑を持っていた。
いろいろ聞きたいことはあったが、事態が事態だけに、私と京さんは口を閉じてハルの様子を見ていた。
すると、ハルはピンクの液体を広辞苑にかけ始めた。
「え、な、ハル!?」
さすがにこれには驚いて、私はハルの所に行って本を見た。
「何、これ…」
その本には、何も書かれていなかった。
否、少しずつだか、ピンク色の液体に塗れた所から文字が浮き出てきていた。
ここまでくると何が何だか分からなくなり、私はそこに座りこんだ。
頭は混乱を通り越してフリーズしている。
「俺の家は…」
その時、急にハルが話しだした。
「俺の家は、母親の父―つまり俺のじいさんなんだが…そいつはイギリス人で、昔から錬金術をしていたんだ」
「…錬金、術?」
突拍子もない話に、ハルの言葉を復唱するぐらいしか出来ない。
「まぁ、いつの世代からか錬金術だけじゃなく魔法も取り入れてたらしいけどな」
「ま、魔法?」
もう無理だ…ついていけない…
「いきなりこんな話して信じてもらえるとは思ってない。
俺もお前の立場だったら信じてないだろうし」
ピンク色に染まった広辞苑を取り上げ、ハルは言う。
信じられない。
確かに、前の私だったら信じようともしないだろう。
でも、実際にあんな体験をしたら、信じるほかない。
それに、今回の事を通して分かった。
ハルは、嘘をつかない。
だから、これも嘘じゃない。
「――信じるよ」
「…ぇ?」
こちらを見て、ハルは目を見開く。
「ハルがそう言うなら、信じるよ」
笑って言うと、ハルは顔を真っ赤にして背を向けた。
そんなハルに小さく笑う。
そして、ずっと言おうと思っていたことを、多分こっちを向こうとはしないだろうから背中越しに言う。
「助けてくれてありがとう、ハル」
「…あぁ」
…ところで、何でハルの顔は赤いんだろう?
もう君達つきあえばいい。