地下
しかし、いざ地下に行くと決めても、初めてこの屋敷に入った私達は、地下室への入り口など知る由も無かった。
黒服をジャンヌと、少し心配だけど福沢さんに押さえてもらって、その隙に私達は地下室への入り口を探す。
疲れている京さんには申し訳ないけど、ハルを背負ってもらって屋敷内を全速力で探し回る。
「ハァハァ…何でここ、こんなに広いんだ?」
そう苦し紛れに言う京さんに同意しつつ、手当たり次第に部屋の扉を開ける。
地下、地下、地下…
探しても探しても、入り口は見つからない。
「心利ちゃん、早くしないとハル君が…」
言われて見てみれば、ハルの顔からは血の気が引き、青さを通り越して白くなっていく。
早くしないと。
そう思えば思うほど、頭の中はグチャグチャになっていく。
京さんから、ハルが私を助けるために命がけで頑張ってくれたと聞いた。
それなのに、私は何も出来ない。
いつも私は助けられてばっかりで…
私のせいでまた誰かが…
「…お兄ちゃん」
ぽた…と床に零れ落ちた涙。
その瞬間、手をついていた壁の感触が急に変化した。
顔を上げてそこを見ると、少し古ぼけた木作りの扉が目の前に現れた。
「いきなり…何これ…?」
涙も引っ込んで、驚きに目を見開く。
でもなんとなく、これが地下への入り口なのだと、直感的にそう思った。
開けようとしてノブを回すと、ガチャッと音がしてノブは回らない。
「心利ちゃん。確か鍵がいるんだよ」
京さんがそう言いながら、ハルのズボンのポケットから銀色の鍵を取り出す。
それを受け取って、鍵穴に入れ、回す。
――ガチャン
鍵を引き抜くと、その扉は勝手に開いた。
地下室への入り口は階段などなく、ただ真っ直ぐ伸びる通路が暗闇に伸びていた。
その暗闇にしり込みしながらも、ハルを助けるためなら、と覚悟を決める。
「京さん、いいですか?」
「あぁ」
その声と同時に、暗闇に向かって私は走り出した。
後をついて来る京さん。
パタン、と後ろで扉が閉まり、暗くなる、と思ったが、私の少し先の通路はなぜか見えていた。
場所が変わってもそれは同じで、進んでも一向に暗くはならず、変わらずに私の少し先の通路までは見えた。
不思議な現象に合いながらも通路を突き進んでいると、急に目の前に扉が現れた。
先ほどとは違い、真新しい明るい色をした、やはり木の扉だ。
そのノブに触れてみると、回さないうちに扉が勝手に開き、中に引きずり込まれた。
「うっ、くっ、うわっ!」
悲鳴を上げる暇もなく、前のめりに部屋に入り込む。
それは京さんも同じだったらしく、「ムギュ」という変な声を上げて私の横に倒れこんだ。
くらくらする頭を振り、視界がはっきりした時、私は驚きに口をポカーンと広げた。
その部屋には、一面本が敷き詰められていた。