助け
「ハァ…ハァ…
間に合ったみたいだね」
そう言ったのは、心利を運ばせたヘタレだった。
かなりの全速力で来たのか、汗で髪が額に張り付いている。
そして、その後ろから現れたのは――
「ハルッ!」
今にも泣きそうな顔をした心利だった。
「ハル、ハル、ハル…」
目に涙を溜めて戸惑いながら俺に駆け寄る心利。
「…心、利」
「何?私、どうしたら…」
違う。
逃げろ。
「に、げ…ろ」
「え?」
心利が振り向いたと同時に、京が叫ぶ。
「心利ちゃん!」
ザンッ、と音がした。
倒れたのは、黒服だった。
「ふぅ…ハル様。一人で戦おうとしないでくださいよ」
ジャンヌがそこに、立っていた。
「ジャン…っ!」
再び痛み出した右肩を押さえて、俺は壁にもたれる。
「ハル殿、ご無事ですか?」
福沢諭吉が、眉間に皺を寄せて聞いてきた。
これがご無事に見えるなら眼科に行ってこい。
負傷した俺、戦える女が一人と一般人の女がもう一人。
頭がいいだけの男は、こういう場面では役に立たない。
今のところ頼りになるのはヘタレだけだが、こいつも信用していいか分からない。
しかし、選択する暇を与えず黒服は再び立ち上がる。
こいつ等は普通の方法では倒せはしない。
迷っている時間は、無かった。
「…おい、お前等」
無理やり体に力を入れて立ち上がり、俺は言う。
「地下に…行く。そこに、本が……っく」
「ハル!」
心利がバランスを崩した俺を慌てて支える。
視界はどんどん狭まって、このままじゃ出血多量で死ぬな、といやに冷静な頭の隅で思う。
「鍵が、ある…ズボンのポケット…右の…」
声もどこか遠くから聞こえるようで、何を話しているのか分からなくなる。
「――ハル―め―けて」
「薬、を…棚…二段目…一番右の…赤い…飲まなきゃ…」
フ、と視界が暗くなった。
完全に目を閉じたハルを見て、心利は更にパニックに陥った。
「どう、どうしよ…ハル、目開けない…し、死んじゃわない、よね?死なないよね!?」
ジャンヌや福沢さんを問い詰めても、二人は視線を逸らすだけだった。
「な、何で…訳分かんない…何が、どうなって…」
パニックに陥った心利を助けたのは、京だった。
「ハル君、地下に行けって言ってたよね。地下の薬を飲まなきゃって。
もしかして、それでハル君は助かるかもしれない」
「…助かる?ハル、助かるの?」
「多分ね」
そう分かった途端、心利はグッと唇を噛んで、涙を堪えた。
「行きましょう。ハルを助けに」
今ハルを助けられるのが、私達だけなら。
そう決意する心利を見ながら、京はほくそ笑んだ。
まさかのブラック・ボックス発見^^