繋がる-心利Side-
私の家族は、古本屋を営むお父さんとお母さん、当時小学5年生だったお兄ちゃんに私という、どこにでも居そうな普通の家族だった。
「お兄ちゃん…お兄ちゃんっ」
今まで溜め込んでいたものが、一気に堰を切って溢れ出した。
そんな私をあやすように、お兄ちゃんは頭を撫でる。
昔と変わらず、同じ感覚で。
そう思った瞬間、私は現実に引き戻される。
あの時から変わらない…
「……はは…そう、だよね」
お兄ちゃんの服を掴んでいた手を離す。
そうだ。
分かってる。
お兄ちゃんは、あの時もう――
『心利?』
突然黙りこくった私を心配したのか、お兄ちゃんが首を傾げて顔を覗きこんでくる。
その顔に私は笑って、お兄ちゃんから一歩離れる。
『心利、どうかしたのか?』
触れようとして伸ばした手から、私はまた一歩、距離をとる。
そして、歪んだ視界でお兄ちゃんの顔を見て、言う。
「お兄ちゃん…私お兄ちゃんのこと、大好きだよ」
『心――』
「でもね、行かなくちゃ。戻らなきゃ、行けないの」
そう言うと、お兄ちゃんは少し寂しそうに笑いながら、口を開いた。
『心利が笑ってくれるなら、僕はそれでいいよ』
ス、と再び伸ばされたお兄ちゃんの手が、私の髪を絡め取る。
そしてお兄ちゃんはもう一度笑って、光る四角い物の方を見た。
『この光の中を通れば戻ることが出来る』
「本当!?」
私は急いでその中を通ろうとしたが、お兄ちゃんに止められる。
『心利。行く前に、一つ言っておきたいことがある』
「…何?」
尋ねると、お兄ちゃんは顔を顰めて言った。
『思い出すんだ』
「……え?」
すると、突然光が私を包み込んだ。
お兄ちゃんは口早に言う。
『思い出すんだ!あの子のことを!』
「お兄ちゃ、何言って…ウワッ!」
その瞬間、グイッと何かに引っ張られて私は光の中に突っ込む。
一人光る物の前に取り残された心利の兄――音子心玖は、心利が消えた所を見て、呟いた。
『思い出すんだ…天照君のことを』
そう呟くと、心玖はその空間から消えた。