笑み
音がない。
体が、動かない。
考えてみれば、どうやって事を収めようかなんてまるで頭になかった。
ただ、敵の統率のとれた動きを見て、誰かがこいつ等を指揮していることは分かっていた。
しかし、そいつを倒せばどうにかなる、という漠然とした考えしか持っていなかったのも事実。
相手が自分を上回っているなんて、考えたこともなかったし、考えたくもなかった。
そんな変なプライドが、今のこの状況を作り出している。
自業自得。
そんなことは分かっている。
それでも、アイツを巻き込んだとき、助けたいと思った。
忘れていてもかまわない。
思い出してくれなんて、自分勝手なことは願わない。
ただ、また話して、文句を言われて、昔みたいに――
「心利…」
『心利…』
「え…?」
誰かに呼ばれた気がして、振り返る。
でも相変わらず暗闇しか広がっていなくて、首を傾げながら光の見える方へと進んだ。
次第に足早になる。
息が上がってくる。
髪が、さら…と首筋をなでたとき、光の正体が明らかになった。
四角い、扉のような物が、眼前に立ちはだかっていた。
「はぁ…何、これ…?」
自分の身長の倍はありそうな四角い発行物体を見上げ、立ち尽くす。
どうすれば、いいのだろう。
これを潜り抜ければ元の世界に返れるのだろうか?
それとも、また訳の分からない所に出てしまうのだろうか?
ウロウロと不安げに四角い物の前を行ったりきたりしていた時、ふと後ろに視線を感じた。
振り向いてみた。
やはり誰もいない。
「…誰?」
呼びかけても返事はなく、気のせいかと四角い発行物体に再び視線を移したとき、その景色は変わっていた。
四角い扉のような物の中に、人影が一つ。
それは徐々にこちらに近づいてきて、ついには私のすぐ目の前まで歩いてきた。
ピクリとも動かない体。
違う。
動けない体。
まるで蝋人形のように、表情さえも作ることはできない。
(いったい…誰?)
恐怖が精神を支配していく中、光は突然フッ…と消えた。
人影の姿をはっきり確認することができたとき、心利は驚愕に目を見開いた。
「…お、にぃ…ちゃん…?」
肯定するかのように、目の前の少年は笑った。
お久しぶりの投稿です。碧乃苑です。
あけましてはじめての更新。といっても、もう二月ですが…
受験生だった私ですが、やっとその受験も一段落つきました。後は地獄の結果通知だけ…フフフ←
今年も苑の気分とノリと勢いで小説を書いていきたいと思いますので、よろしくお願いします!