思い 想い
ガンッ、ゴンッ、という音がして物があちこちに飛び散る。
ハルはその真っ只中、ほうき一本で飛んでくるものを弾き返していた。
「ちょ、ハル君!怖い!めちゃくちゃ怖いです!」
その後ろには心利の体を背負った男が、身を縮こまらせて座りこんでいる。
「さっさと立て!ヘタレ!」
飛んできた大鍋を蹴り返し、男に叫ぶハル。
所々にある擦り傷や切り傷は戦闘の中ついたものだった。
「なっ、俺はヘタレじゃない!ちゃんと京っていう名前がっ…ヒャァッ!」
とっさに飛んできた出刃包丁を避けた京。
それを見て、ハルは京に言う。
「おい、ヘタレ」
「だから京だって」
「何でもいい。お前、俺が一瞬隙を作るから、その間に校門まで全速力で走れ」
「ぇ…い、嫌だよ嫌だよ!殺されるよ!」
「知る、かっ!」
グンッと力を込めて机を弾き返す。
しかし、やはりバケツや鍋のようにはいかず、バキッという音をたててほうきが真っ二つに割れた。
「チッ…」
舌打をしながら京を見、ハルは溜息をついた。
この様子では、死んでもこの場を動こうとしなさそうな京。
それならば、自分がやるしかない。
「おい、京」
「へ?」
ヒョイッと上を見上げた京の襟首を掴み、立ち上がらせ、前に蹴り飛ばす。
バランスを崩した京が前に倒れこむ前に心利の体を抱き上げ、近くに転がっていたバケツをリフティングで蹴り上げ、窓めがけて思いっきり蹴る。
――ガシャァァァアンッッ!
窓ガラスを割って外に飛び出したバケツを追って、自身も外に飛び出す。
と…とその場に着地し、目の前にある校門を目指してぐっ…と足に力を込め走り出す。
後ろから「ひょ、ひょっほ~…はるふぅん」なんて間抜けな声が聞こえるが、さっき見た反射神経なら死にはしないだろう。
それよりも…と視線を心利に移す。
体温は徐々に下がり、肌も雪のように白くなっていく。
死が、近い。
眉間に皺を寄せ、走るスピードを更に速める。
死者を生き返らせることが罪だとしても、死なせたくない。
初めてそう思える相手ができた。