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1話

「頼む、ルリ。この世界で、俺の最上の花嫁になってくれ」


銀糸のような長い髪が影を落とす。

目の前にかしずく男は、ハリウッド俳優にも引けを取らない美貌の持ち主。

年上で、お金持ちで、イケメン。まさに私の好みドンピシャ。


ただ…


「いや、あなた、魔王じゃないですかーーー!!?! 」




======================




「おつかれさまでーす」

「あ、チーフ。この資料なんですけどーーー」

「ごめん!今日用事あるから、あとでメールしておいてー!」


そう部下に言い残して、私ーーー瑠璃は足早にオフィスを後にした。

時刻は18時。19時からは都心のホテルで婚活パーティーがある。

それまでに化粧を直して、髪をほどいてセットして、靴ももっと華奢なのに履き替えてーーー

思わず男の人が守りたくなるようなふわふわ系女子に、擬態しなくちゃ!


大井瑠璃、27歳。いて座のA型。

WEB系の会社に就職して早5年、もともとはちょっとミーハーな普通の女子だったのに、、、

仕事が楽しくて頑張るうちに、史上最速チーフに就任してしまい、いつの間にか「バリキャリ」と言われるようになってしまった。


そのおかげか、男性が多い職場なのに女として意識されることはなく。

学生のころ付き合っていた彼氏には「俺と仕事どっちが大事なの?」とフラれーー


でも私だって恋したい!守られたい!ていうか結婚したい!


そう思って連絡した婚活アドバイザーのすすめに従い、今夜はハイスペな男性が多いという婚活パーティーなのだ。


一体どんな出会いがあるんだろう?


私は胸を躍らせてイルミネーションで彩られた街を急いだ。



======================


「仕事バリバリじゃない女性に癒されたくて~」

うっ。ナシ…。


「結婚するならうちのママと同居が条件」

ナシ。


「27歳?見た目より年いってますねー」

超ナシ!!!!!


…。


釣果、ゼロ。


飲み終わったチューハイの缶をつぶす。

本当なら今頃は二次会の予定だったのに、私はひとりさみしく帰宅して晩酌中だ。

泣ける………。


パーティー参加者男性たちは、医者や企業家など、確かに一般的に言えばハイスペだった気はする。

でもことごとく価値観が合わずーーーあと、どうしても引っかかることが一つ。


「見た目が好みの人は…いなかったのよねぇ~~~…」


ローテーブルの上につっぷつして長い溜息を吐く。

そう、私は面食い。好みのタイプは年上の高身長イケメン。

この年になって、理想ばかり追っててもしょうがないけれど、今日の参加者たちとは恋がはじまる予感が感じられなかった。


「ときめきは、あきらめるしかないんかなぁ…」


ひとりごちているとその瞬間、スマホが震える。

見覚えのないアドレスからのメールに、ふと目をおとした。


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差出人:final_marigge_ring@xxx.com

件名:マッチ率100%!理想の異性をご紹介!魔法の結婚案内所通信♪vol.888

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「マッチ率100%!?」


思わず声に出して驚く。

マッチ率100%なんて、ありえない数字だ。それこそどんな魔法を使えばそんなチート級の大成功が起こるんだろうか。

怪しい…と疑いながらもメールの本文を読み進める。


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本文:

【このメールを受け取った方はラッキー!スキルの高い方限定でメールをお送りしています★】


肌寒い季節になりましたね!もうすぐ12月、年末のご予定はお決まりですか?

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「余計なお世話だよ!」

予定がないから婚活パーティー行ったんだろが。


しかし、スキルが高いってどういうことだろう?

仕事ができるってことなのかな。語学スキルとか?

少しだけ戸惑いながらも、このメールが届いてラッキーらしいというのがなんだか嬉しくて読み進めた。


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当結婚案内所「FMR(Final Marrige Ring)では今月もスタッフイチオシの男性会員様をご紹介!

プロフィールを見て気になった方はぜひ担当スタッフまでお問合せください★

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どうやらこのメール、婚活中の女性会員に届くメルマガのようだ。

案内所はいくつか登録しているけど、こんな所あったっけ?


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PickUp! →Aさん(男性)

 身長/180センチ以上 体系/筋肉質 年収/1000万以上 年齢/?

 結婚への意思/今すぐにしたい 子ども/ほしい 子育て/参加する

担当コメント→高貴な家にお生まれですが、それを感じさせない気さくな性格の会員様。

条件・結婚への意向ともにこれ以上ないほどのスペック!ぜひ早めのお申込みを!

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「おお…」


たしかにこれ以上ないほどのスペックだ。

年齢が「?」というのはちょっと怖いが、子どもが欲しいということはそういう年齢ではあるんだよね?

しかも高貴なお家柄ときた。なんでこんな人が結婚相談所に登録したのかな。

むしろそういう固い家に生まれたから出会いがなかったとか…?


いろいろ想像してみたけれど、酔った頭ではたいして思考が回らない。

ちょっと怪しさはあるけど…人気の人ってすぐ埋まっちゃうだろうし。

一応、予約だけでもお願いしてみよう。


担当者のものだというアドレスにメールを送り終わると、急激に眠気に襲われる。


お酒飲みすぎたかなぁ…?


そして私は、深い、深い眠りの世界へと落ちていった。

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